寄託契約書とは?入れるべき条項8つと契約書作成の注意点2つを解説

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
WEBサイト制作等を行うリバティ・ベル株式会社の代表取締役も務める。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日

寄託契約書とは?入れるべき条項8つと契約書作成の注意点2つを解説

悩み

寄託契約書について知りたいと悩んでいませんか

状況に適した寄託契約書を作るにはどうすればいいのか迷っている方もいるかと思います。

寄託契約書とは、当事者の物の保管に関する合意を書面にしたものをいいます

寄託契約は長期間にも及ぶことがあるため、トラブルを避けるためにも、最初に合意内容を明確にしておくことが重要になります。

一般的に、寄託契約では以下の8つの条項が定められやすいです。

条項1:寄託の合意
条項2:寄託物の保管
条項3:寄託料
条項4:受寄者の義務
条項5:寄託物の返還
条項6:契約解除
条項7:反社会的勢力の排除
条項8:合意管轄

しかし、寄託契約では細かな違いによって規律が変わることもあり、この場合には契約書に定めるべき内容も変わってきます

例えば、有償寄託であれば受寄者は善管注意義務を負うのに対し、無償寄託では受寄者の注意義務は自己の財産に対するのと同一のもので足りるとされています。

実は、こうした細かな違いが意識されていない寄託契約書では、実際のトラブルに対応することが難しくなってしまうこともあるのです

この記事をとおして、寄託契約書の適切な条項の定め方を知っていただければと思います。

今回は、寄託契約書とは何かを説明した上で、契約書の作成における注意点を解説していきます。

具体的には以下の流れで解説していきます。
この記事でわかること

この記事を読めば、寄託契約書についてよくわかるはずです。

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1章 寄託契約書のひな形2つ

1-1 ひな形1:寄託契約書(有償)

寄託契約書のテンプレート
寄託契約書のテンプレートの
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1-2 ひな形2:消費寄託契約書

消費寄託契約書のテンプレート
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~倉庫寄託約款には何を定めるべき?~

寄託契約の中には、寄託物を倉庫に保管するものもあり、これを倉庫寄託契約といいます。

倉庫業を営む場合には、倉庫寄託約款を作成して国土交通大臣に届出る必要があります

倉庫寄託約款に定めるべき事項は倉庫業法施行規則6条が定めており、これを踏まえた内容にしていくことになります。

倉庫業法施行規則第6条
法第八条第一項の倉庫寄託約款に定める事項は、次の通りとする。
(1)業務内容に関する事項
(2)寄託の引受に関する事項
(3)受寄物の入庫、保管及び出庫に関する事項
(4)受寄物の損害保険に関する事項
(5)受寄物に対する責任及び免責に関する事項
(6)受寄物の損害賠償に関する事項
(7)料金の収受に関する事項
(8)発券倉庫業者にあっては、倉荷証券に関する事項
(9)その他倉庫寄託約款の内容として必要な事項

国土交通省が定めている標準倉庫寄託約款は、以下のページで公開されています。
国土交通省‐標準倉庫寄託約款 (mlit.go.jp)


2章 寄託契約書とは?

寄託契約書とは、当事者の物の保管に関する合意を書面にしたものをいいます

例えば、宝石やアクセサリーなどの貴重品のほか、遺言書など法的文書の保管を委託する場合には寄託契約にあたります。

寄託契約書の具体例

寄託契約は長期間にも及ぶことがあるため、契約内容を明確に残すためにも、契約書を作成しておく必要性が高いです

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3章 寄託契約書に入れるべき条項8つ

寄託契約書を有効に機能させるために、入れておくべき条項があります

寄託契約書に入れるべき条項は以下の8つです。

条項1:寄託の合意
条項2:寄託物の保管
条項3:寄託料
条項4:受寄者の義務
条項5:寄託物の返還
条項6:契約解除
条項7:反社会的勢力の排除
条項8:合意管轄

それでは、各条項について順番に解説していきます。

3-1 条項1:寄託の合意

寄託契約書に入れるべき条項1つ目は、寄託の合意です

第1条(寄託の合意)
 甲は乙に対し、下記の物品(以下、「本物件」とする。)を寄託し、乙はこれを保管することを約して受け取った。

   物品名:
   数 量:
【修正例‐寄託物が多い場合】
甲は乙に対し、別紙物件目録記載の物件(以下、「本物件」とする。)を寄託し、乙はこれを保管することを約して受け取った。

寄託契約が成立するには、「当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾すること」(民法657条)が必要になります

また、後のトラブルを防ぐために、保管を委託する物は具体的に特定する必要があります。

例えば、対象物は以下の事項により特定されることがあります。

・物品名
・製造会社名
・数量

寄託物が多い場合には、別紙目録を作成することもあります。

3-2 条項2:寄託物の保管

寄託契約書に入れるべき条項2つ目は、寄託物の保管です

第2条(寄託物の保管)
1 本物件の保管期間は、令和●年●月●日から令和●年●月●日までとする。
2 乙は、本物件を、●県●市●番●号所在の●●において保管するものとする。
【修正例‐自動更新したい場合】
1 本物件の保管期間は、令和●年●月●日から令和●年●月●日までとする。ただし、期間満了の●ヶ月前までの間に、いずれの当事者からも書面による更新拒絶の意思表示がない場合、同じ条件で●年間更新されるものとし、その後も同様とする
2 (略)

寄託物の保管期間は自由に定められますが、保管期間の定めの有無によって返還に関する規律が異なるため注意が必要です(民法633条参照)。

第663条(寄託物の返還の時期)
1 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる
2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない

また、保管期間の延長が考えられる場合、更新手続の手間を省くため、自動更新が可能な旨を定めておくことがあります

自動更新条項のレビューポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。

保管場所についても自由に定められますが、寄託物の返還は原則として保管をすべき場所ですることになるため、これを踏まえて決定されることもあります(民法664条本文)。

民法664条(寄託物の返還場所)
寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。

3-3 条項3:寄託料

寄託契約書に入れるべき条項3つ目は、寄託料です

第3条(寄託料)
1 本契約に基づく寄託料は、月額●●円とする。
2 前項の寄託料の支払は、乙の指定する口座に支払を行うものとする。なお、振込送金に関する費用は、甲の負担とする。
【修正例‐無償寄託の場合】
削除。

有償寄託の場合には、寄託料を定めることになります

寄託料の支払費用は、原則として債務者である寄託者側が負担することになります(民法485条本文)。

無償寄託の場合には、寄託料の定めはトラブルの元になるため削除しておきましょう

3-4 条項4:受寄者の義務

寄託契約書に入れるべき条項4つ目は、受寄者の義務です

第4条(受寄者の義務)
1 乙は、本物件の保管について、善管注意義務を負うものとする。
2 甲は、いつでも点検の申し出をすることができる。乙は、甲から点検の申し出があったときは、これに応じなければならない。
3 乙は、自らの責めに帰すべき事由により、本物件が滅失又は毀損したときは、その損害を賠償するものとする。
【修正例‐無償寄託の場合】
1 乙は、本物件の保管について、自己の財産に対するのと同一の注意義務を負うものとする
2~3 (略)

受寄者の注意義務は、寄託が有償か無償かで異なるため注意が必要です

具体的には、有償寄託の場合には善管注意義務を負いますが(民法400条)、無償寄託の場合には自己の財産に対するのと同一の注意義務を負います(民法659条)。

また、寄託者は保管が適切にされているかを確認するため、点検できる旨を定めることもあります

寄託物の滅失毀損については、受寄者の責任を確認的に定めておくことがあります。

損害賠償条項のレビューポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。

3-5 条項5:寄託物の返還

寄託契約書に入れるべき条項5つ目は、寄託物の返還です

第5条(寄託物の返還)
1 甲は、乙から本物件の返還を受けようとするときは、返還請求の●日前までに乙に通知しなければならない。なお、本物件の返還場所は、甲が指定するものとする。
2 乙は、前項の返還を遅滞したときは、甲に対して金●●円の遅延損害金を支払うものとする。
3 甲は、保管期間を超えても寄託物の引取りを行わない場合、乙に対して第3条所定の寄託料を支払うものとする。

寄託物の返還は原則として保管場所とされていますが、負担を減らすために寄託者が返還場所を指定することもあります。

また、寄託者は、寄託物の返還が遅れた場合に備えて、損害賠償の予定や違約金を定めることがあります。

他方で、寄託者が寄託物の返還を受けない場合、受寄者は保管費用等が必要になるため、その保管期間に応じて寄託料の支払義務を定めることがあります

3-6 条項6:契約解除

寄託契約書に入れるべき条項6つ目は、契約解除です

第6条(契約解除)
1 甲及び乙は、相手方が次の各号の一に該当する場合、何らの通知又は催告をすることなく、直ちに本契約を解除することができる。
(1)本契約に定める条項に違反があったとき
(2)監督官庁より営業許可の取消し等の行政処分を受けたとき
(3)支払停止もしくは支払不能の状態に陥ったとき
(4)差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立て、公租公課の滞納処分、その他公権力による処分を受けたとき
(5)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算手続開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき
(6)会社の解散、合併、分割、事業の全部若しくは重要な一部の譲渡の決議をしたとき
(7)その他、前各号に準じる事由が生じたとき
2 前項の規定により解除権を行使する者は、相手方の責めに帰すべき事由の有無を問わず、解除権を行使することができるものとする。

契約解除条項とは、契約違反があった場合に契約関係から速やかに離脱するための条項をいいます

契約書に定めなくても民法の規定により解除できますが、内容が不明確なため契約解除条項を定めることが一般的です。

契約解除条項を定める場合、以下の事項に注意する必要があります。

・解除の主体、手続
・解除事由
・帰責性

契約解除条項の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。

3-7 条項7:反社会的勢力の排除

寄託契約書に入れるべき条項7つ目は、反社会的勢力の排除です

第7条(反社会的勢力の排除)
1 甲および乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を表明し確約する。
(1) 次に掲げる事項に該当しないこと
イ 暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと
ロ 役員(取締役、執行役、執行役員、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと
(2) 反社会的勢力と社会的に非難される関係を有していないこと
(3) 不当な要求行為をしないこと
(4) その他、業務内容が公序良俗に違反すると認められるときる行為
2 甲及び乙は、相手方が前項に掲げる事項に違反した場合、何らの催告を要さずに本契約を解除することができる。
3 前項の解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償を妨げない。ただし、解除された者は、相手方に対し一切の請求を行わない。

反社条項とは、反社会的勢力を取引から排除するための規定をいいます

反社条項の導入は義務ではありませんが、コンプライアンスを徹底するためにも入れておく必要があります。

反社条項を定める場合、以下の事項を適切に定めることが重要になります。

・定義
・密接な関係性を有しないこと
・相手方に不当な要求等をしないこと
・契約解除
・損害賠償

反社条項のレビューポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。

3-8 条項8:合意管轄

寄託契約書に入れるべき条項8つ目は、合意管轄です

第8条(合意管轄)
本契約に関連する訴訟については、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

合意管轄とは、トラブルの発生に備えて予め訴訟を提起する裁判所を合意で決めておくことをいいます

どの裁判所に訴訟が提起されるのかを明確にするため、特定の裁判所のみを合意管轄裁判所とする、専属的合意管轄が定められやすいです。

合意管轄条項を定める場合の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。


4章 寄託契約書作成の注意点2つ

寄託契約書を作成する場合、トラブルを防ぐためにも注意していただきたい点があります

寄託契約書作成の注意点は以下の2つです。

注意点1:受寄者の義務
注意点2:再寄託の可否

それでは、各注意点について順番に解説していきます。

4-1 注意点1:受寄者の義務

寄託契約書作成の注意点1つ目は、受寄者の義務です

  【受寄者の注意義務】
受寄者の注意義務

寄託契約の受寄者は、有償であれば善管注意義務を、無償であれば自己の財産に対するのと同一の注意義務を負うことになります。

注意義務の程度の違いは、トラブルが発生した際に大きく影響してきます

例えば、無償寄託において受寄者の不注意によって寄託物が滅失した場合、受寄者に重大な過失がなければ、受寄者は損害賠償責任を負わないことになります。

そのため、注意義務の違いを意識して明確に使い分けることが重要です

なお、商人が営業の範囲内において寄託を受けた場合、たとえ無償であっても善管注意義務を負うため注意が必要です(商法595条)。

4-2 注意点2:再寄託の可否

寄託契約書作成の注意点2つ目は、再寄託の可否です

再寄託とは、受寄者が第三者に寄託物の保管させることをいいます。再寄託とは

再寄託は、以下の場合にすることができます(民法658条2項)。

・寄託者の承諾を得たとき
・やむを得ない事由があるとき

しかし、寄託契約は信頼関係に基づいて物の保管を委託するため、寄託者はできる限り再寄託はしたくないと考えるのが通常です。

そのため、寄託者は再寄託を禁止する旨定めることがあり、契約書に記載がない場合でも勝手に再寄託をすることは避けた方がいいでしょう

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5章 寄託契約書に必要な印紙税

寄託契約書は、金銭や有価証券を対象とする場合にのみ14号文書に該当し、印紙税が必要となります(出典:国税庁‐印紙税額一覧表)。

そのため、物品を対象とする寄託契約の場合には、印紙税は不要となります


6章 契約書作成の相談はリバティ・ベル法律事務所にお任せ

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7章 まとめ

以上のとおり、今回は、寄託契約書とは何かを説明した上で、契約書の作成における注意点を解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

・寄託契約書とは、当事者の物の保管に関する合意を書面にしたものをいいます。

・寄託契約書に入れるべき条項8つ
条項1:寄託の合意
条項2:寄託物の保管
条項3:寄託料
条項4:受寄者の義務
条項5:寄託物の返還
条項6:契約解除
条項7:反社会的勢力の排除
条項8:合意管轄

・寄託契約書作成の注意点は以下の2つです。
注意点1:受寄者の義務
注意点2:再寄託の可否

・寄託契約書は、金銭や有価証券を対象とする場合にのみ14号文書に該当し、印紙税が必要となりますが、物品を対象とする場合には印紙税は不要とされています。

この記事が、寄託契約書について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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