合意管轄条項とは?契約書上の記載例3つと上手な決め方を詳しく解説

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日


合意管轄条項を契約書にどう書けばいいか知りたいと悩んでいませんか

契約書の作成において、合意管轄条項を読み飛ばしてしまっていた企業もあるのではないでしょうか。

しかし、合意管轄条項は、後に紛争が生じた場合において非常に重要な意味をもちます

合意管轄とは、トラブルの発生に備えて予め訴訟を提起する裁判所を合意で決めておくことをいいます。

合意管轄を読み飛ばしてしまうと、労力や費用を必要以上に負担するおそれがあるのです。

例えば、自社が東京で相手方が京都の場合に、専属的合意管轄を京都とする旨の記載があったとしましょう。

この場合、自社が訴訟を提起しようとすると、京都地方裁判所に訴訟を提起しなければなりません。

裁判に出頭するためには、東京から京都に行かなければならず過大な負担となるでしょう。

このような、予期しない事態を避けるためにも、契約書に合意管轄条項を確認しておくことが重要といえます。

具体的には、以下のような記載をすることが考えられます。

「本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」

今回は、合意管轄条項について詳しく解説していきます。

具体的には、以下の流れで解説していきます。


この記事を読めば、合意管轄条項についてよくわかるはずです。

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1章 合意管轄条項は契約書に欠かせない!合意管轄とは?

合意管轄とは、当事者が法定管轄とは異なる管轄の定めをする旨の合意をいいます

つまり、トラブルが生じた場合に備えて、予め訴訟を提起する裁判所を決めておくためのものです。

取引では、物理的な距離が近い会社だけでなく、遠く離れた会社と契約をすることもあります。

この場合に合意管轄条項がないと、トラブルになった際に過大な労力や費用となるおそれがあるのです。


そのため、合意管轄条項は契約書作成の段階で定めておく必要性が高いといえます。

民事訴訟法における合意管轄の規定は以下のとおりです。

第11条(管轄の合意)
1 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

※参考:民事訴訟法 | e-Gov法令検索

 

合意管轄条項の効果は、合意した内容によって異なってくるので、以下では合意の種類ごとに説明していきます。

合意の種類としては以下のものがあります。

種類1:専属的合意管轄
種類2:付加的合意管轄

それでは順番に説明していきます。

1-1 種類1: 専属的合意管轄

管轄合意の種類1つ目は、専属的合意管轄です。

専属的合意管轄とは、合意管轄条項で定めた裁判所以外への提訴を認めない旨の当事者間の合意をいいます。

専属的合意管轄の効果として、民事訴訟に定められている管轄の裁判所には提訴できなくなり、合意した裁判所にしか提訴できません

しかし、専属的合意管轄も絶対的なものではなく、以下の場合には合意した裁判所以外にも訴訟の提起が許されます。

・専属的合意管轄を解除した場合
・他の裁判所への提訴を被告が異議なく応訴した場合
・裁量移送がされる場合

1-2 種類2:付加的合意管轄

管轄合意の種類2つ目は、付加的合意管轄です。

付加的合意管轄とは、法定管轄のない裁判所に管轄を認める旨の当事者間の合意をいいます。

付加的合意管轄の効果として、本来の裁判所だけでなく他の裁判所への提訴が可能となります。

例えば、法定管轄のあるA裁判所に加えて、合意したB裁判所にも提訴できることになります。

しかし、複数の裁判所に管轄があることから、管轄内における遠方の裁判所に訴訟が係属した場合に問題が生じます。

この場合、負担の軽減という管轄条項の目的を果たせない事態に陥ってしまうのです。

そのため、負担の程度などを考慮していずれの合意にするかは慎重に判断する必要があります。


2章 合意管轄条項の文言記載例2つ

合意管轄の効果は、書面において定めなければなりません。

しかし、書面において定めた場合でも、表現が曖昧だと予想外の事態になるおそれがあります。

文言から趣旨が明らかでない場合、専属的・付加的合意管轄のいずれであるかは解釈問題となってしまうためです。

そのため、合意内容を明らかにするために、「専属的」「付加的」という文言を入れることが重要となります。

また、合意管轄は第一審に限定されているので、この点も明記するといいでしょう。

以下では、合意管轄の種類ごとに合意管轄条項の記載例を見ていきます。

記載例1:専属的管轄合意
記載例2:付加的合意管轄
記載例3:専属的合意管轄を英語で書く場合

それでは順番に説明していきます。

2-1 記載例1:専属的合意管轄

合意管轄条項の記載例1つ目は、専属的合意管轄です。

「専属的」という文言を入れることで、専属的合意管轄であることを明らかにする必要があります。

そこで、専属的合意管轄の場合、以下のように記載することが考えられます。

専属的合意管轄-記載例
「本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」

2-2 記載例2:付加的合意管轄

合意管轄条項の記載例2つ目は、付加的合意管轄です。

「付加的」という文言を入れることで、付加的合意管轄であることを明らかにする必要があります。

そこで、付加的合意管轄の場合、以下のように記載することが考えられます。

付加的合意管轄-記載例
「本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の付加的合意管轄裁判所とする。」

2-3 記載例3:専属的合意管轄を英語で書く場合

合意管轄条項の記載例3つ目は、専属的合意管轄を英語で書く場合です。

海外の企業と取引をする場合、英文契約書を作成することがあります。

この場合、合意管轄条項を定めておかなければ、相手方の国で訴訟を提起されることもあり相当な負担になるおそれがあります。

そのため、海外企業との取引では、合意管轄条項を定めておく必要性が高くなるのです。

専属的合意管轄-英文記載例
The parties hereto agree that all the lawsuit hereunder shall be exclusively brought in the ○○ District Court of Japan.
(日本語訳)
両当事者は、本契約に基づくすべての訴訟は、日本の○○地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることに同意する。
簡易裁判所を合意管轄にできる?

合意管轄は、地方裁判所だけでなく簡易裁判所にも設定することができます

合意管轄は、土地管轄だけでなく事物管轄についてもすることができるためです。

土地管轄とは各所の裁判所のうちどこの裁判所に訴えを提起するかというものをいいます。土地管轄は、原則として被告の普通裁判籍の所在地を管轄している裁判所に認められます。

他方で、事物管轄とは、第一審の訴訟手続を簡易裁判所か地方裁判所のいずれに担当させるかというものをいいます。事物管轄は、140万円未満であれば簡易裁判所、140万以上であれば地方裁判所に管轄が認められることになります。

例えば、140万円以上の事件についても、合意があれば被告の普通裁判籍以外の簡易裁判所に管轄を認めることができます。

ただし、簡易裁判所で合意した場合でも、地方裁判所への訴え提起が認められることもあるので注意が必要です(※参考:最判平20.7.18)。

合意管轄内であればどの支部に提訴してもいいの?

合意管轄を定めても、提訴する支部を指定することはできません

地方裁判所には、本庁や支部といった一定の地域を分掌する区別が存在します。

この区別は、裁判所内部における事務の分配をするための基準にすぎず、当事者がいずれの支部に提訴するかを決定することはできないのです。

そのため、合意管轄内であったとしても支部を指定することはできず、どの支部で審理するかは裁判所の決定に従うことになるでしょう。

ただし、実務上は本庁で審理してもらいたい場合は、支部に回付されないよう上申書を添付するなどの工夫をします

双方その裁判所において審理を行うことに異議がない場合には、回付されずにすむことも多いのです。

仲裁合意がある場合は裁判所に申し立てられる?

仲裁合意がある場合、裁判所に申立てすることはできません

仲裁合意とは、紛争解決を第三者に委ねて訴訟を提起しない旨の契約をいいます。

仲裁合意がある場合に提起された訴訟は、被告が申し立てることで訴えが却下されるためです(仲裁法14条1項)。

しかし、以下の場合には訴えは却下されません。
・仲裁合意が効力を有しないとき
・仲裁手続を行うことができないとき
・被告が本案について弁論をし又は弁論準備手続において申述したとき

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3章 合意管轄条項がない場合

合意管轄条項がない場合、原則として被告の所在地を管轄する裁判所に管轄が認められます

しかし、一定の場合には、被告の本店所在地以外であっても、特別管轄が認められる場合もあります(民事訴訟法5条各号)。例えば、その一部を抜粋すると以下のような場合です。


例えば、東京都に本社を置く売主Aと京都に本社を置く買主Bとが取引をし、代金の支払場所をA社の本店所在地にしたものの、B社が代金の支払を怠ったとしましょう。

この場合、AがBを訴える場合の管轄は、原則に従うと、Bの本店所在地である京都地方裁判所にあります。

しかし、代金請求は財産権上の訴えであり特別管轄が認められるので、Bの義務履行地である東京都にも管轄が認められることになります。

そのため、合意管轄条項がない場合には、被告の本店所在地以外にも、管轄が認められないか特別管轄を確認してみるといいでしょう


4章 合意管轄条項の決め方2つ

合意管轄は有事に備えて締結される当事者間の契約ですから、一方的に決定することはできません。

円滑に合意管轄を定めるためにも、合意管轄条項の決め方を一緒に確認していきましょう。

決め方1:出頭にかかる距離や費用
決め方2:記載内容が公平か


それでは順番に説明していきます。

4-1 決め方1:出頭にかかる距離や費用

合意管轄条項の決め方1つ目は、出頭に係る距離や費用です。

訴訟を提起する場合、裁判手続に関与するために出頭する必要があります。

出頭するためには現地に出向かなければならず、旅費などを負担することになります。

また、雇っている弁護士が遠方の事務所の場合、日当も負担しなければなりません。

例えば、自社が東京都で相手方が沖縄の場合、場合によっては那覇地方裁判所に訴訟を提起することになるでしょう。

この場合、東京都から沖縄に出頭しなければならず、東京地方裁判所に合意管轄を定めていた場合よりも旅費や日当などの費用が嵩んでしまいます。

最終的に訴訟提起へのハードルが高くなり、少額訴訟の場合には泣き寝入りとなるおそれもあります。

そのため、できる限り費用が抑えられる距離に合意管轄を定めておくことが望ましいです。

4-2 決め方2:記載内容が公平か

合意管轄条項の決め方2つ目は、記載内容が公平であることです。

合意管轄が有効となるには相手方の同意を得る必要がありますが、いずれの当事者も自社に近い裁判所を記載したいと考えるでしょうから、議論が平行線となる場合があります。

その場合には、双方が納得できるよう公平な内容を検討する必要があります

例えば、東京や大阪のような大規模庁や、条文通りに被告の所在地を管轄する裁判所にすることが考えられるでしょう。

そのため、自社に近い管轄で合意できない場合でも、その記載内容が公平になるよう工夫しましょう。

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5章 合意管轄条項を定める際の注意点3つ

合意管轄条項は、決め方の他にも注意すべき点があります。

具体的には以下のものが挙げられます。

注意点1:専属的合意管轄条項の効果は第1審のみ
注意点2:2つ以上の専属的合意管轄を定めることはできない
注意点3:合意管轄条項を定めても移送されることがある


それでは順番に説明していきます。

5-1 注意点1:専属的合意管轄条項の効果は第1審のみ

合意管轄条項を定める際の注意点1つ目は、専属的合意管轄条項の効果は第1審のみであることです。

合意管轄についての規定が、合意管轄は「第1審に限り」定めることができるとしているためです。

そのため、第2審や第3審について合意管轄を定めることはできないのです。

合意管轄条項を記載する場合は、第1審についての合意であることを明らかにしておきましょう。

5-2 注意点2:2つ以上の合意管轄を定めると専属的合意管轄にならないことがある

合意管轄条項を定める際の注意点2つ目は、2つ以上の合意管轄を定めると専属的合意管轄にならないことがあることです。

専属的合意管轄とは、合意管轄条項で定めた裁判所以外への提訴を認めない旨の当事者間の合意をいいます。

専属的という言葉のとおり、ここで指定することができる裁判所は1つだけであり、2つ以上指定することはできないのです。

例えば、以下のような文言だと専属合意管轄にはならないことがあります

・「本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所又は○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
・「本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所及び○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」

この場合、当事者の意思を解釈して管轄裁判所を決定することになります。

そのため、不測の事態を避けるためにも、専属的合意管轄を定めたい場合は定める裁判所は1つだけにしましょう。

5-3 注意点3:合意管轄条項を定めても移送されることがある

合意管轄条項を定める際の注意点3つ目は、合意管轄条項を定めても移送されることがあることです。

専属的合意管轄が有効な場合でも、一定の条件を満たすことで他の裁判所に移送されることがあります(民事訴訟法17条、20条1項括弧書き)。

第17条 (遅滞を避ける等のための移送)
 第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。

※参考:民事訴訟法 | e-Gov法令検索

専属的合意管轄が一方にとって過度な負担となっている場合や訴訟の円滑な進行が困難となると判断された場合には、移送されてしまうおそれがあるのです。

具体的には、以下のような事情が考慮されます。

・事務所の所在地
・当事者の身体的事情
・訴訟代理人の有無
・経済力など…

そのため、専属的合意管轄を定めた場合でも、他の裁判所で審理がされる可能性が全くないわけではないことに留意しましょう。


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7章 まとめ

今回は、合意管轄条項の重要性について解説したうえで文言記載例などについて解説しました。

具体的な内容は以下のとおりです。

まとめ

・合意管轄とは、トラブルの発生に備えて予め訴訟を提起する裁判所を合意で決めておくことをいいます。

・合意管轄条項の文言記載例は以下の2つです。
記載例1:専属的管轄合意
「本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」

記載例2:付加的管轄合意
「本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の付加的合意管轄裁判所とする。」

・合意管轄条項がない場合、原則として管轄は被告の所在地を管轄する裁判所となり、例外的な場合として特別管轄となります。

・合意管轄条項の決め方は以下の2つです。
決め方1:出頭にかかる距離や費用
決め方2:記載内容が公平か

・合意管轄条項を定める際の注意点は以下の3つです。
注意点1:専属的合意管轄条項の効果は第1審のみ
注意点2:2つ以上の合意管轄を定めると専属的合意管轄にならないことがある
注意点3:合意管轄条項を定めても移送されることがある

この記事が、合意管轄条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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