反社条項の書き方がわからないと悩みを抱えていませんか?
契約後に、反社条項を実際に使うことになった事例も多くはないでしょうから、必要性を感じていないという会社もあるのではないでしょうか。
結論としては、会社間で契約を締結する場合、反社条項を入れることをおすすめします。
反社条項とは、反社会的勢力を取引から排除するための規定をいいます。
最近では反社条項の導入が進んでおり、各都道府県において暴力団排除条例が制定されています。
このような情勢に鑑みれば、コンプライアンス上も反社条項を入れておくことは重要となります。
また、契約締結後に相手方が反社会的勢力であることが判明した場合でも、反社条項があれば契約を解除することができます。
反社条項があることによって一方的に契約関係を解消でき、トラブルを予防することができるのです。
具体的には以下のように反社条項を定めることが考えられます。
1 甲および乙は、次の各号の事項に違反した場合、何らの催告を要さずに本契約を解除することができる。
(1) 暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと
(2) 役員(取締役、執行役、執行役員、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと
(3) 反社会的勢力と社会的に非難される関係を有していないこと
(4) 不当な要求行為をしないこと
(5) その他、業務内容が公序良俗に違反すると認められるときる行為
2 前項の解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償を妨げない。ただし、解除された者は、相手方に対し一切の請求を行わない。
今回は、反社条項のひな形を紹介したうえで、契約書におけるレビューポイントについて解説していきます。
具体的には以下の流れで解説していきます。
この記事を読めば、反社条項についてよくわかるはずです。
目次
1章 反社条項のひな形【シンプルな例文形式・英語対応】を紹介!|ダウンロード可能
反社条項のひな形は以下のとおりです。
反社条項(通常の条項)のダウンロードはこちら |
このひな形は最低限の事項を定めたものなので、個別の事案に対応したものでないことには注意が必要となります。
より詳細に定めたい場合は、以下のように定めることがあります。
反社条項ひな形(詳細な条項)のダウンロードはこちら |
また、反社条項は契約書内の一般条項として設けられることが多く、反社条項をより明確にしたい場合、契約書とは別に覚書を作成することがあります。
覚書のひな形は以下のとおりです。
反社条項ひな形(覚書)のダウンロードはこちら
|
海外の会社と取引をする場合、英文契約書を作成することがあります。
英語に対応した反社条項は以下のとおりです。
反社条項(英語)のダウンロードはこちら |
警察庁が出しているひな形のダウンロードはこちら
|
※出典:警察庁‐ひな形
2章 反社条項(暴排条項)とは?
反社条項とは、反社会的勢力を取引から排除するための規定をいいます。
反社会的勢力の典型例としては以下のものが挙げられます。
・暴力団構成員
・暴力団準構成員
・暴力団関係企業
・総会屋
反社条項は、反社条項が暴力団排除条例を受けて設けられることから、暴排条項と表現されることもあります。
最近では、反社会的勢力の活動が活発となり、企業で働く従業員への不当要求や企業の乗っ取りなど取引上の危険が高まっています。
このような反社会的勢力の活動に対して、法務省は反社会的勢力との関係を断つべく反社条項の導入を推進しています(※出典:法務省‐企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について)。
契約書に反社条項を入れた場合、反社会的勢力との取引関係から直ちに離脱できるようになります。
他方で、反社条項がない場合に直ちに解除すると、契約上の責任を問われるおそれがあります。
そのため、反社会的勢力との取引リスクを低減させるためにも、契約書に反社条項を入れておくことが望ましいです。
2007年に、政府から反社会的勢力による被害を防止する指針が出されました。
これ受けて各都道府県において2011年10月に暴力団排除条例を施行され、反社条項を導入する動きが活発になっています。
全国暴力追放運動推進センターが2021年に実施した企業を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケートは以下のようになっています。
※出典:令和3年度反社アンケート結果‐全国暴力追放運動推進センター
アンケートでは、政府の指針を知らない企業が約55%と過半数を占めています。
しかし、コンプライアンスを徹底しているかどうかは、企業の信頼にも影響してくる事項です。
そのため、2011年10月以降に契約書を作成する場合、企業の信頼を確保するために契約書に反社条項を入れておくことが望ましいです。
3章 反社条項は義務?反社条項の必要性
暴力団排除条例では、反社条項を定めることは努力義務とされています。
例えば、東京都の反社条項についての規定は以下のとおりです。
第18条(事業者の契約時における措置)
1 略
2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
(1) 略
(2) 略
(3) 略
※引用:東京都暴力団排除条例
そのため、反社条項を定めていなくても罰則を受けることはありません。
しかし、政府が反社条項の導入を推奨しているため、反社条項を入れることはコンプライアンスを徹底する観点から重要といえます。
また、以下のような理由からも反社条項を設ける必要性は高いと考えられます。
反社条項がない場合、相手方が反社会的勢力であることが分かっても、契約関係からの離脱しようとするとトラブルとなったり、言いがかりをつけられてしまう可能性があります。
例えば、一方的に契約を反故にしたなどとして、相手方から債務不履行として損害賠償を請求されかねません(民法415条)。
取引関係から安全に離脱するためには、反社条項を定めてあらかじめ備えておくことが重要なのです。
そのため、契約書には反社条項を入れておくことをおすすめします。
反社条項を入れ忘れてしまった場合、契約に反社条項を追加するために覚書を取り交わすことが考えられます。
しかし、相手方が反社会的勢力だと判明した場合、相手方と覚書を取り交わすことが難しいこともあります。
この場合、契約書に規定されている他の解除条項によって解除することが考えられます。
例えば、相手方が反社会的勢力と認められる場合、「契約を継続することが困難な事情」などの包括的な規定によって解除できる場合があります(※参考:東京高判平14.7.16)。
他にも、契約後に相手方暴力団であることが判明した事案において、錯誤取消(民法95条)を認めた判例があります(※参考:東京高判平24.12.21)。
もっとも、反社会的勢力との交渉は、無理難題の吹っ掛けなどリスクを伴うこともあり、慎重に行う必要があります(※参考:暴力団の脅しの手口‐警視庁)。
そのため、交渉に不安のある方は警察や弁護士に相談することをおすすめします。
4章 契約書における反社条項のレビューポイント5つ
反社条項のひな形は最低限必要な事項を記載したものにすぎず、個別の契約に則して修正する必要があります。
ここでは、第1章でご紹介した反社条項のひな形における通常の条項と詳細な条項を基に、レビューする際のポイントを解説していきます。
ポイント2:密接な関係性を有しないこと
ポイント3:相手方に不当な要求等をしないこと
ポイント4:契約解除
ポイント5:損害賠償
それでは順番に説明していきます。
4-1 ポイント1:定義
契約書における反社条項のレビューポイント1つ目は、定義です。
【通常の条項】
(1) 次に掲げる事項に該当しないこと
イ 暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと
ロ 役員(取締役、執行役、執行役員、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと
【詳細な条項】
(1) 次に掲げる事項に該当しないこと
イ 暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと
ロ 役員(取締役、執行役、執行役員、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと
ハ 従業員(要職に就いている者をいう)が反社会的勢力ではないこと
反社条項を規定する場合、まず定義を明確にする必要があります。
定義が不明確なままだと、どのような団体が反社会的勢力にあたるかわからないためです。
反社会的勢力の定義について、警察庁が掲げている組織犯罪対策要綱が参考になります。
組織犯罪対策要綱では、暴力団等として以下の団体が挙げられています。
・暴力団員
・暴力団準構成員
・暴力団関係企業
・総会屋等
・社会運動等標ぼうゴロ
・特殊知能暴力集団
※出典:警察庁‐組織犯罪対策要綱
反社条項の定義はこれに倣って規定することになるでしょう。
また、企業間取引の場合、役員にまで反社会的勢力の定義を拡大させることが一般的です。
反社会的勢力による被害を防止するとの趣旨から、業務執行とそれを監査する役員にまで拡大することで反社条項の実効性を上げるためです。
また、従業員についても反社会的勢力でないことの表明保証を求められることがあります。
しかし、従業員数が多い場合に全従業員について表明保証することは難しい場合もあります。
そのため、従業員については、重要な地位に就いている者に限るなどある程度限定することが考えられます。
例えば、反社条項だと第1項において、「甲および乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を表明し確約する。」と規定します。
4-2 ポイント2:密接な関係性を有しないこと
契約書における反社条項のレビューポイント2つ目は、密接な関係性を有しないことです。
【通常の条項】
(2) 反社会的勢力と社会的に非難される関係を有していないこと
【詳細な条項】
(2) 反社会的勢力と密接な関係を有する者として、次に掲げる者に該当しないこと
イ 反社会的勢力を雇用している者
ロ 反社会的勢力を不当に利用していると認められる者
ハ 反社会的勢力の維持、運営に協力し、又は関与していると認められる者
ニ 反社会的勢力と社会的に非難される関係を有している者として、次に掲げる事項に該当しないこと
(ⅰ) 相手方が反社会的勢力に該当すると分かっていながら、ゴルフ、コンペに参加し、又は飲食を共にしている者
(ⅱ) 誕生会、結婚式、還暦祝いなどの名目で多数の反社会的勢力が集まる行事に出席している者
(ⅲ) 反社会的勢力が関与する賭博等に参加している者
警視庁が掲載している東京都暴力団排除条例Q&Aでは、反社会的勢力と密接な関係を有する者は以下のように回答されています。
・反社会的勢力が実質的に経営を支配している法人に所属する者 |
これらの者に該当する場合、反社会的勢力と密接な関係を有する者として反社会的勢力の関係者にあたります。
また、警視庁は、反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有している場合は以下のとおりとしています。
・相手方が反社会的勢力であると分かっていながら、ゴルフ・コンペに参加している |
そのため、内容を明確にするとの観点から、詳細に定める場合は上記事項を全て列挙することも考えられます。
4-3 ポイント3:相手方に不当な要求等をしないこと
契約書における反社条項のレビューポイント3つ目は、相手方に不当な要求等をしないことです。
【通常の条項】
(3) 不当な要求行為をしないこと
【詳細な条項】
(3) 不当な要求行為として次に掲げる行為をしないこと
イ 暴力的な要求行為
ロ 法的責任を超えた不当な要求行為
ハ 取引に関して、脅迫的な言動、又は暴力を用いる行為
ニ 風説を流布し、偽計又は威力を用いて相手方の信用を棄損し、又は業務を妨害する行為
当事者間における禁止行為を明らかにするために、相手方の属性だけでなく具体的な行為に着目して規定しておくことが望ましいです。
例えば、会社の安全確保のために、犯罪にあたるような危険な行為を限定的に列挙することが考えられます。
4-4 ポイント4:契約解除
契約書における反社条項のレビューポイント4つ目は、契約解除です。
【通常の条項】
2 甲及び乙は、相手方が前項に掲げる事項に違反した場合、何らの催告を要さずに本契約を解除することができる。
【詳細な条項】
修正なし
相手方が反社会的勢力に該当することが明らかとなった場合、速やかに取引関係から離脱することが重要となります。
取引関係を継続してしまうと、コンプライアンスの観点から問題があるうえ、自社が反社条項に抵触するおそれがあるためです。
そのため、解除を組み込む場合、速やかな離脱を可能とするために、無催告解除できる旨を明らかにしておくことが望ましいです。
4-5 ポイント5:損害賠償
契約書における反社条項のレビューポイント5つ目は、損害賠償です。
【通常の条項】
3 前項の解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償を妨げない。ただし、解除された者は、相手方に対し一切の請求を行わない。
【詳細な条項】
3 前項の解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償を妨げない。ただし、解除された者は、相手方に対し一切の請求を行わない。
4 第2項の規定により解除された場合、解除された者は、相手方に対し、違約金○○円を支払うものとする。なお、本項による損害賠償額の予定は、解除した当事者による損害賠償請求を妨げない。
契約を解除した場合、反社条項に違反した側からの損害賠償請求を禁止したうえで、こちらの損害賠償請求を可能にしておく必要があります。
民法では、解除された側からも損害賠償請求することができます(545条4項)。
そのため、負担なく契約を解除するためにも、違反した側の損害賠償請求を封じておくことが重要となります。
また、解除の効果として違約金を定めることがあります。
違約金は損害賠償額の予定として扱われ、相場は売買代金額の20%程度とされています。
5章 取引先に不安が?反社チェックの方法3つ
反社会的勢力による被害を防止するためにも、契約締結前に相手方の属性を確認する必要性が高いです。
また、契約締結後であっても、怪しい場合には相手方の属性を確認しておく必要があります。
ここでは、取引先が反社会的勢力に該当するのかを確認する方法を解説していきます。
方法2:調査会社に依頼する
方法3:行政機関に相談する
それでは順番に説明していきます。
5-1 方法1:公知情報を利用する
反社チェックの方法1つ目は、公知情報を利用することです。
簡単に反社チェックをする手段として、インターネットや新聞を利用することが考えられます。
無料で検索できることは魅力ですが、ヒット件数が多いと特定の情報を見つけることが難しい場合もあります。
そこで、他の手段として登記を利用することが考えられます。
登記の確認は、登記情報提供サービスというネット上のサービスにより手軽にすることができます。
登記には、社名や所在地など会社の基本情報が載っており、不審な点がないか確認することができます。
不審な点がある場合、現地調査などをすることができるので、反社チェックに実効性をもたせることができます。
調査の結果、相手方が反社会的勢力に該当しないと判断した場合でも、調査の過程を残しておくことが重要です。
5-2 方法2:調査会社に依頼する
反社チェックの方法2つ目は、調査会社に依頼することです。
公知情報による調査で明らかにならない場合、正確な情報を得るために調査会社に依頼することがあります。
調査会社としては、信用調査会社や興信所などが挙げられます。
調査の方法は会社により様々ですが、官公庁情報の利用だけでなく内偵調査などを行うこともあります。
そのため、調査費用も会社によって異なるので、依頼する際は調査方法と費用を事前に確認しておくことが重要となります。
5-3 方法3:行政機関に相談する
反社チェックの方法3つ目は、行政機関に相談することです。
反社チェックをする場合、行政機関から反社会的勢力に関する情報の提供を受けることができます。
相談できる行政機関としては、警察や暴力団追放運動推進センターが挙げられます。
情報提供を受ける場合、以下のような情報を用いることが多いです。
・暴力団排除の特約を定めた契約関係資料
・契約相手が暴力団関係者の疑いがあると判断した資料
そのため、行政機関に相談する場合には、これらの情報を準備しておくといいでしょう。
なお、警察の情報提供によって反社会的勢力であることが明らかとなった場合、契約解除の理由として警察からの情報提供に基づくことを説明してよいとされています。
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7章 まとめ
今回は、反社条項のひな形を紹介したうえで条項のレビューポイントについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・反社条項とは、反社会的勢力を取引から排除するための規定をいいます。
・反社条項は努力義務に過ぎないが、反社会的勢力による被害を防ぐためにも重要。
・契約書における反社条項のレビューポイントは以下の5つです。
ポイント1:定義を明らかにする
ポイント2:密接な関係性を有しないことを規定する
ポイント3:相手方に不当な要求等をしないことを規定する
ポイント4:契約解除を規定する
ポイント5:損害賠償を規定する
・取引先に不安が?反社チェックの方法は以下の3つです。
方法1:公知情報を利用する
方法2:調査会社に依頼する
方法3:行政機関に相談する
この記事が反社条項の書き方について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
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