請負契約書のひな形を見本形式で紹介!請負契約書に入れるべき条項14個を解説【無料テンプレート付き】

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日


請負契約書をどのように作成すればいいか知りたいと悩んでいませんか

請負契約書の作成方法は門外不出とされていることが多く、どの条項を入れるべきか判断に迷うという会社もあるのではないでしょうか。

請負契約書の種類としては、大きく分けて以下の4つに分類されています。

・建築工事の請負契約
・保守契約
・製品供給契約
・運送契約

これらは、いずれも仕事の完成を目的として契約が締結されているので、民法上の請負契約という点では共通しています。

しかし、作成する請負契約書の種類によって、定めるべき条項は異なってきます

例えば、建物の建築工事を請負う場合、建築工事の請負契約書には仕様変更に備えた規定を置くことがあります。

というのも、実際の建築工事では不可抗力や注文者の要望によって工程が変わることもあり、実情に応じで契約の内容を変更していく必要があるためです。

特に、追加工事中の仕様変更による報酬を明確にしていなかったことによるトラブルが非常に多くなっています

今回は、請負契約書のひな形と種類を説明したうえで、請負契約書に入れるべき各条項とそのレビューポイントについて解説していきます。

具体的には以下の流れで解説していきます。


この記事を読めば、請負契約書の作成方法についてよくわかるはずです。

目次

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1章 請負契約書のひな形を見本形式で紹介!【無料テンプレート付き】

請負契約書のひな形は以下のとおりです。

建築工事に関する請負契約書のひな形(無料テンプレート)

建築工事に関する請負契約書のダウンロードはこちら

法務省が公開している請負契約書のひな形は以下のとおりです。

法務省のひな形(工事請負契約書)

法務省が出しているひな形は以下のページからダウンロードできます

(※出典:法務省:入札・契約関係書式)


2章 どの請負契約書を作成すべき?請負契約の種類4つ

請負契約は、仕事の完成を目的として契約が締結されるので、契約金額が高額になることもあり、請負契約書を作成する重要度は高いものとなっています。

しかし、請負契約には種類があり、種類によって規定すべき条項が異なるので、契約内容に適した種類の請負契約書を作成しなければなりません。

具体的には請負契約の種類は以下のとおりとなります。

種類1:建築関係の請負契約
種類2:保守契約
種類3:製作物供給契約
種類4:運送契約

それでは、請負契約の種類について解説していきます。

2-1 種類1:建築関係の請負契約

請負契約の種類1つ目は、建築関係の請負契約です。

建築関係の請負契約とは、注文者が請負人に対して建築に関する工事の発注を行い、請負人がこれを受注することによって成立するものをいいます。

建築関係の請負契約では不動産を取扱うことから、経済的観点からも重点が置かれており、契約の適正を図るために民法に様々な規定が存在します。

しかし、大規模な建築工事を注文されることもあり、法律の規定だけでは細かい部分に対応することが難しい場面も存在します

この場合、請負契約書の他に約款によって補充するなど、実務的な運用がなされています。

建築に関する請負契約の具体例としては、以下のものが挙げられます。

・建築工事請負契約
・ビルディング建築工事請負契約
・民間建設工事請負契約
・公共工事請負契約
・宅地造成工事請負契約
・内装工事契約
・建築下請契約
・建設工事下請契約
・工事下請基本契約

そのため、これらの請負契約を締結する場合、建築関係の請負契約書を作成することになります。

2-2 種類2:保守契約

請負契約の種類2つ目は、保守契約です。

保守契約とは、設備や機械などの障害対応を行い、その耐久性を維持させるために締結される契約をいいます。

例えば、エレベーターの点検やシステムのメンテナンスを依頼されてこれを受注した場合、当該契約は保守契約に該当します。

保守契約の具体例としては、以下のものが挙げられます。

・エレベーター保守契約
・空調装置保守契約
・機械保守契約
・システム保守契約

実際には、保守契約を一定期間締結することで、故障を防止し管理費用を減らすといった目的で利用されることが多い傾向にあります。

しかし、保守契約は契約の目的によって性質が変化するということもあり、どの規定が適用されるか当事者間の認識にズレが生じることも考えられます。

そのため、保守契約におけるトラブルを防止するためには、契約の目的を明確にすることが重要となります。

保守契約と請負契約と準委任の関係

保守契約の性質は、契約の目的によって区別されます

請負契約は、仕事の完成を目的としてされる当事者間の合意をいいます(民法632条)。

他方で、準委任は、法律行為でない事務処理行為を目的としてされる当事者間の合意をいいます(656条)。

例えば、保守契約の例として挙げたシステムのメンテナンスでは、その目的によっては請負契約と準委任のどちらでも理解することができます。

というのも、システムのメンテナンスは事務処理行為なので、仕事の完成を目的としているか否かで契約の性質が変化するためです。

そのため、システムのメンテナンスが、成果物の納品など仕事の完成を想定している場合には請負契約、成果物の納品などを想定していない場合には準委任となります

2-3 種類3:製作物供給契約

請負契約の種類3つ目は、製作物供給契約です。

製作物供給契約とは、注文者が物の製作を発注して請負人がこれを受注し、物の製作・引渡しにより報酬の獲得を目的とする契約をいいます。

製作物供給契約の具体例としては、以下のものが挙げられます。

・物品製造委託契約
・製品製作契約
・機械製造契約
・書籍製作契約
・下請専属契約

製作物供給契約は、物の製作という請負契約の側面と、物の引渡しという売買契約の側面を併せもつ混合的な契約にあたります

このような性質から、民法における請負契約と売買契約のいずれが適用されるかは、履行の段階によって異なるとされています。

具体的には、製作の段階では請負契約が適用され、引渡しの段階では売買契約を適用することが一般的とされています。

しかし、段階によって適用される規定が異なるので、当事者間における認識のズレによってトラブルが生じやすくなっています

そのため、製作物供給契約では段階ごとに適用される規定を整理し、契約のルールを明確にすることが重要となります。

2-4 種類4:運送契約

請負契約の種類4つ目は、運送契約です。

運送契約とは、運送人が物品や旅客の場所的移動を約束し、相手方がこれに対して運賃を支払うことを目的とする契約をいいます。

例えば、ある駅までの移動に運賃を支払ってバスを利用した場合、その移動は運送契約によるものといえます。

運送契約の具体例としては、以下のものが挙げられます。

・物品運送
・旅客運送
・通信運送

そのため、これらの契約を締結する場合、運送契約書を作成すべきことになります。

ただし、運送契約の種類によっては、約款の作成が義務付けられていることもあるので、事前に確認しておくことが重要となります。

第10条(運送約款)
一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

(※出典:貨物自動車運送事業法 | e-Gov法令検索

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3章 種類別!請負契約書に入れるべき条項

請負契約書では、その種類毎に契約の内容や性質が異なるので、入れるべき条項にも違いが生じてきます。

ここでは、請負契約書に入れるべき条項を種類別に解説していきます。

3-1 種類1:建築工事の請負契約書
3―2 種類2:保守契約書
3-3 種類3:製作物供給契約書
3-4 種類4:運送契約書

それでは、各請負契約書に入れるべき条項について説明していきます。

3-1 請負契約書に入れるべき条項1:建築工事の請負契約書

建築工事の請負契約書に入れるべき条項は以下のとおりです。

条項1:契約の目的
条項2:請負代金
条項3:工期
条項4:資材の提供
条項5:仕様変更
条項6:履行の通知等
条項7:契約不適合
条項8:違約金
条項9:契約解除
条項10:発注者の任意解除権
条項11:危険負担
条項12:一括下請負の禁止
条項13:紛争の解決
条項14:補則

建築工事の請負契約では、不動産という社会的に経済的価値の高いものを扱うという性質上、トラブルになった場合のリスクも大きくなります。

そのため、建築工事の請負契約では、トラブルを防止するために契約に則した条項を定める必要があります。

それでは、各条項について順番に説明していきます。

3-1-1 条項1:契約の目的

建築工事の請負契約書に入れるべき条項1個目は、契約の目的です。

【通常の条項】

 本契約は、甲が乙に対して次の工事(以下、「本件工事」という)を注文し、乙がこれを請負い完成させることを目的とする。
(1) 別紙仕様書記載の●●工事
(2) 前号の工事に付随する工事

【受注者‐修正】【発注者‐修正】

 修正なし。

請負契約は、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって」成立します(民法632条)。

しかし、契約の性質が不明確な場合、異なる解釈が生じることもあり、予期していなかった規定の適用によって解決が図られてしまうことがあります

特に、仕事の完成を目的としない場合、準委任契約との区別が問題となることもあり、契約の性質を明らかにしておくことが重要となります。

そのため、第1条の柱書では、請負契約の重要な要素である仕事の完成という文言を用いて、契約の性質を明らかにしています

また、一口に建築工事といってもその内容は様々であり、発注者によって工事の内容は異なってきます。

建築工事における仕様は、仕事が完成したかを判断する基準になるので、契約締結時点で明確にしておくことがトラブルの防止にも繋がります

そのため、受注者としては、仕事の完成基準を明らかにするため、契約締結時に合意した仕様などを別紙において定めておくことが望ましいです。

発注者としても、発注内容通りに仕事を完成してほしいと考えるのが通常なので、契約締結時に合意した仕様を明確にしておくことが望ましいです。

3-1-2 条項2:請負代金

建築工事の請負契約書に入れるべき条項2個目は、請負代金です。

【通常の条項】

1 本契約の請負代金は、●●万円(消費税を除く)とする。
2 甲は、乙が甲に成果物を納品した翌月の末日までに、乙の指定する口座に支払を行うものとする。振込送金に関する費用は、甲の負担とする。
3 甲が代金の支払を怠ったときは、支払期日の翌日から完済に至るまで年○○%の割合による遅延損害金を乙に支払う。

【受注者側‐修正】

1 本契約の請負代金は、別紙において定めた工事単価表に従って算出された、●●万円(消費税を除く)とする。
2 (略)
3 甲が代金の支払を怠ったときは、支払期日の翌日から完済に至るまで年14.6%の割合による遅延損害金を乙に支払う。

【発注者側‐修正】

1 本契約の請負代金は、別紙において定めた工事単価表に従って算出された、●●万円(消費税を除く)とする。
2 (略)
3 甲が代金の支払を怠ったときは、支払期日の翌日から完済に至るまで年3%の割合による遅延損害金を乙に支払う。

請負契約は、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって」成立します(民法632条)。

報酬の金額や支払方法などは、当事者が自由に定めることができるとされており、合意した内容によることになります。

第1項は報酬の金額について定めています。

報酬の金額については、工事単価の合計を基準に請負代金を定めることが一般的とされています。

そのため、受注者としては、工事単価表を作成し、これに従って算出された金額を請負代金とすることが考えられます。

発注者としても、工事単価表があれば金額を算定する過程が明らかとなるので、工事単価表に従った算出方法とすることが望ましいでしょう。

第2項は、請負契約では請負代金が高額になることが多い傾向にあるので、現金のやり取りではなく銀行振り込みによる方法を取っています。

振込送金に関する費用は債務者の負担とすることが原則とされているので(民法485条)、その旨を明らかにしています。

第485条(弁済の費用)
 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

(出典:民法 | e-Gov法令検索

第3項は、発注者が請負代金の支払を怠った場合における遅延損害金の利息について定めています。

受注者は支払の遅延防止のために高利率の遅延損害金を課し、発注者は低利率の遅延損害金を定めることが望ましいでしょう。

3-1-3 条項3:工期

建築工事の請負契約書に入れるべき条項3個目は、工期です。

【通常の条項】

 本件工事の工期は、令和●年●月●日から、令和●年●月●日とする。

【受注者側‐修正】

1 本件工事の工期は、以下のとおりとする。
(1)着手:令和●年●月●日
(2)完成:令和●年●月●日
2 乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力又は乙の責めに帰すことができない事由によって、工事の追加変更を行う必要が生じた場合、正当な理由がある場合に限り、甲に対して工期の延長を請求することができる。

【発注者側‐修正】

 本件工事の工期は、以下のとおりとする。
(1)着手:令和●年●月●日
(2)完成:令和●年●月●日
(3)引渡し:令和●年●月●日

工期とは、一般的に受注者が発注を受けて工事を行う期間のことを意味します。

工期は、仕事の経過の目安となる期間なので、可能な限り詳細に定めた方がいい場合があります

例えば、工期の始期と終期しか定めがない場合、発注者からすると受注者がいつ工事に着手するのか判断することができません。

受注者が着手時期を決めていたとしても、発注者との認識のズレからトラブルになるリスクがあるのです。

そのため、受注者はトラブルを避けるために、着手時期と完成時期を工期として定めることが望ましいです。

発注者については、目的物の引渡しを受ける前に検査をする必要があるので、着手時期と完成時期の他に目的物の引渡し時期についても定めておくことが考えられます。

第2項について、建築工事は不可抗力などによって遅延することもあるので、受注者は一定の場合に工期の延長ができる旨を定めておくことが望ましいでしょう。

3-1-4 条項4:資材の提供

建築工事の請負契約書に入れるべき条項4個目は、資材の提供です。

【通常の条項】

 乙は、本件工事に必要な工事用の資材について、自らの責任と費用負担の下で調達し提供するものとする。

【受注者‐修正】【発注者‐修正】

1 乙は、本件工事に必要な工事用の資材について、自らの責任と費用負担の下で調達し提供するものとする。
2 甲は、必要がある場合、本件工事に必要な工事用の資材を自ら調達し、乙に対して提供することができる。

請負契約においては、受注者側が材料を調達することが原則とされています。

請負契約が仕事の完成を目的としているので、材料の調達も仕事の完成に向けられた契約上の義務と考えられるためです。

しかし、中には注文者から資材の提供を受ける必要がある場合もあります。

そのため、発注者側による資材の提供が予定されている場合には、当事者双方はその内容と方法を明らかにしておくことが望ましいです。

3-1-5 条項5:仕様変更

建築工事の請負契約書に入れるべき条項5個目は、仕様変更です。

【通常の条項】

1 甲は、必要があるときは、本件工事の仕様を変更することができる。
2 乙は、必要があるときは、甲に対して本件工事の仕様変更を提案することができる。
3 乙は、前2項の仕様変更によって、工期を変更する必要が生じたときは、工期の延長を請求することができる。
4 甲及び乙は、第1項及び第2項の仕様変更によって、本件工事に係る請負代金に増額又は減額が生じた場合、協議の上、別途請負代金を定めるものとする。
5 乙は、前各項による仕様・工期・請負代金の変更があった場合、書面を作成して変更の内容を明らかにした上、甲に対して同書面を交付するものとする。

【受注者‐修正】【発注者‐修正】

 修正なし。

請負契約では、工事の途中で発注者の完成イメージが当初のものとは違うものになることがあります

そこで、発注者としては途中で仕様変更が行えるように、その旨を明記しておくことが望ましいです。

また、受注者は実際に工事を進めていると、より適切な方法による工事が可能だと気づく場合があります。

この場合、受注者としては、効率的な工事を行うために、発注者に対して仕様変更の提案ができる旨を定めておくことが望ましいです。

仕様変更を行った場合、仕様変更の証拠がないと後から仕様変更の有無について争いとなることがあります。

そのため、後日の紛争を防止するために、仕様変更があった場合にはその内容を書面において明らかにして相手方に交付しておくことが考えられます。

3-1-6 条項6:履行の通知等(所有権の移転)

建築工事の請負契約書に入れるべき条項6個目は、履行の通知等です。

【通常の条項】

1 乙は、本契約所定の工事を完了したときは、書面をもって甲に通知し、甲による検査を受けるものとする。
2 乙は、本契約所定の工事を完了してから●日以内に、成果物を甲に引き渡すものとする。
3 完成した成果物の所有権は、資材となった材料の主要部分を提供した者に帰属するものとする。成果物の所有権が乙に帰属した場合、前項の引き渡しにより、甲に成果物の所有権が移転する。

【注文者‐修正】

1 (略)
2 (略)
3 乙は、本契約所定の工事を完了してから●日以内に、成果物を甲に引き渡すものとする。

第1項について、工事が完了した後は、注文者による検査を受けるために受注者は履行の通知をすることが望ましいです。

第2項は、成果物の所有権は、材料の主要部分を提供した者に帰属すると理解するのが判例の立場であり、ひな形はこれを踏襲したものとなっています(請負人帰属説)。

もっとも、当事者の合意によって、成果物の所有権が注文者・受注者のいずれかに帰属すると定めることも可能なので、実情に応じて判断することが望ましいでしょう。

第3項は、第3条の工期で引渡し時期を定めなかった場合に、注文者が円滑に引渡しを受けるために引渡期限を定めておくことが望ましいです。

3-1-7 条項7:契約不適合

建築工事の請負契約書に入れるべき条項7個目は、契約不適合です。

【通常の条項】

1 甲は、目的物の引き渡しを受けた後、目的物に種類、品質又は数量に関しての本契約の内容への不適合(以下、「契約不適合」という)が発見された場合、乙に対して履行の追完を請求することができる。ただし、履行の追完に過分の費用を要するときは、甲は、履行の追完を請求することができない。
2 甲は、前項の場合において、甲が乙に対して履行の追完を催告したにもかかわらず、相当の期間内に履行の追完がないときは、乙に対して代金の減額を請求することができる。ただし、次に掲げる各号の一に該当するときは、催告をせずとも直ちに代金の減額を請求することができる。
(1) 履行の追完が不能であるとき
(2) 乙が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき
(3) 本件工事の性質から、特定期日までに履行の追完をしなければ本契約の目的を達することができない場合に、乙が履行の追完をしないままその特定の期間を経過したとき。
(4) 前各号に掲げる場合の他、乙による履行の追完を受ける見込みがないことが明らかなとき
3 甲が、契約不適合を知った時から1年経過したときは、契約不適合責任を追及することができない。

【受注者‐修正】

1(略)
2(略)
3 甲が、成果物の引渡しを受けてから1年経過したときは、契約不適合責任を追及することができない。

契約不適合責任とは、目的物種類・品質に関して契約内容に適合しない場合に、受注者が負担すべき責任をいいます。

民法には請負契約における契約不適合責任が規定されていますが、民法改正の影響から適用される条文に変化が生じています(民法559条、562条以下)。

そのため、当事者双方は混乱を避けるために、民法における契約不適合責任を確認的に定めておくことが望ましいです。

もっとも、受注者としては担保責任の負担を軽減するために、担保責任を引渡し時点から数年に限定することも考えられます。

3-1-8 条項8:違約金

建築工事の請負契約書に入れるべき条項8個目は、違約金です。

【通常の条項】

 甲は、乙の責めに帰すべき事由によって、本件工事を完成することができない場合、乙に対して、●●万円を請求することができる。

【受注者‐修正】

 削除。

【注文者‐修正】

1 甲は、乙の責めに帰すべき事由によって、本件工事を完成することができない場合、乙に対して、●●万円を請求することができる。
2 前項の違約金は、損害賠償額の予定ではなく、違約罰を定めたものとする。

違約金とは、契約違反の場合における賠償金額を具体的に定めておくものをいいます。

建築工事の請負契約では、契約による経済的価値が大きくなりやすいことから、契約の拘束力を強めるために違約金を定めることがあります。

例えば、完成時期を遅らせることができない重要な工事の場合には、完成時期を守らせるために注文者が違約金を定めることが考えられます。

また、違約金の定めは損害賠償額の予定だと推定されます(民法420条3項)。

推定によって、実際に発生した損害などを問わず、違約金として定めた金額を支払うことになるでしょう。

ただし、違約金の他に損害賠償請求したい場合、損害賠償額の予定にあたらないと立証しなければならず、追加で損害賠償請求する者がその立証責任を負うことになります。

そのため、注文者としては、債務不履行によって生じる損害の程度を考慮したうえで、違約金の金額及び性質を定めることが望ましいです。

他方で、受注者としては債務の負担を軽減するため、可能であるなら違約金条項を削除することが望ましいです。

ただし、違約金条項の内容によっては受注者に有利となることもあるので、削除するかは慎重に検討すべきといえます。

例えば、以下のような規定は受注者に有利な違約金条項になります。

発注者は、自らの責めに帰すべき事由によって契約が解除された場合、既に発生した費用に加えて、工事費用の●%の違約金を支払う義務を負う。

3-1-9 条項9:契約解除

建築工事の請負契約書に入れるべき条項9個目は、契約解除です。

【通常の条項】

1 甲は、次の各号の一に該当する場合、契約を解除することができる。
(1) 乙が正当な理由なく、工事に着手しないとき
(2) 乙の責めに帰すべき事由によって本件工事が工期内に完成しないとき
(3) 本契約違反によって、契約の目的を達することができないとき
2 乙は、次の各号の一に該当する場合、契約を解除することができる。
(1) 不可抗力によって本件工事を中止した期間が、工期の半分を超えたとき
(2) 仕様変更によって請負代金額が3分の2以上減少したとき
(3) 甲の本契約違反によって、契約の履行が不可能となったとき
3 甲及び乙は、前各項によって解除した場合に、損害があるときは、相手方に対して損害賠償を請求することができる。

【受注者‐修正】【発注者‐修正】

 修正なし。

契約の解除については、民法にも規定があります。

第541条(催告による解除)
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
第542条(催告によらない解除)
1 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 (略)

(出典:民法 | e-Gov法令検索

しかし、民法の規定は「債務の履行をしない場合」とするだけで、具体的にどの場合に解除できるのかが判然としません

というのも、実際に解除しようとする場合、解除事由にあたらないとして争いになることもあるのです。

例えば、建築請負契約において以下のような規定があったとします。

第○条(解除)
 次に掲げる場合には、注文者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 (略)

この規定によると、請負人の債務が履行不能となった場合に、注文者は解除することができます。

しかし、履行不能かどうかは社会通念に従って判断されますが、当事者の認識によっては結論が異なることもありうるのです。

解除したい場合に、解除事由に該当するか争いとなっていたのでは、取引関係からの離脱という解除条項の目的を達成できなくなるおそれがあります。

そのため、当事者双方は、解除できる場合を具体的に定めておくことが重要となります。

第1項と第2項は、建築工事の請負契約における請負契約を維持することが困難な場合の典型例を列挙したものです。

第3項は、当事者による解除権の行使が、損害賠償請求を妨げないことを確認的に規定するものです。

3-1-10 条項10:発注者の任意解除権

建築工事の請負契約書に入れるべき条項10個目は、発注者の任意解除権です。

【通常の条項】

 甲は、乙が本件工事を完成するまでの間、解除によって生じる乙の損害を賠償して、いつでも契約を解除することができる。

【受注者‐修正】【注文者‐修正】

 修正なし。

発注者の任意解除権は、民法に規定されている注文者の解除権を確認するものです。

第641条(注文者による契約の解除)
 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

(出典:民法 | e-Gov法令検索

請負契約書に定めなくても民法の規定によって解除できますが、確認的に請負契約書に定めておくことが望ましいでしょう。

3-1-11 条項11:危険負担

建築工事の請負契約書に入れるべき条項11個目は、危険負担です。

【通常の条項】

 成果物の引渡し前に、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、目的物が滅失又は毀損した場合、その危険は乙が負担するものとする。

【受注者‐修正1】

 成果物の引渡し前に、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、目的物が滅失又は毀損した場合、その危険は甲乙で折半するものとする

【受注者‐修正2】

 成果物の引渡し前に、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、目的物が滅失又は毀損した場合、甲乙協議の上、その危険の負担を定めるものとする

請負契約も双務契約なので、民法上の危険負担が適用されることになります。

第526条(債務者の危険負担等)
1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 (略)

(出典:民法 | e-Gov法令検索

仕事が完成して発注者に引渡した後は、危険が移転して目的物の滅失毀損について発注者が負担することになります。

他方で、引渡し前に目的物が滅失毀損した場合、請負人は依然として仕事の完成義務を負っているので、引渡し前における滅失毀損は受注者の負担となります。

そのため、発注者としては、引渡し前における危険の負担が受注者にあることを確認的に規定しておくことが考えられます。

他方で、受注者としては、引渡し前における危険の負担を軽減するために、当事者による折半又は協議による解決を図ることが望ましいでしょう。

3-1-12 条項12:一括下請負の禁止

建築工事の請負契約書に入れるべき条項12個目は、一括下請負の禁止です。

【通常の条項】

 乙は、本件工事の全部若しくは重要な一部について、第三者に対して一括して請け負わせ、又は委任してはならない。

【受注者‐修正】

 乙は、本件工事の全部若しくは重要な一部について、第三者に対して一括して請け負わせ、又は委任してはならない。ただし、甲の書面による承諾を得た場合は、この限りでない。

一括下請負の禁止とは、受注者が請け負った工事を一括して第三者に請け負わせることを禁止するものです。

これは、発注者が契約締結に際して受注者の実績などを信頼したことから、受注者による工事を期待して設けることが多い傾向にあります。

しかし、下請負には中小企業のコスト削減という実際上の必要性があり、下請負をすべて禁止することは現実的ではありません

そのため、受注者としては、承諾のない下請負に限定して禁止することが望ましいです。

3-1-13 条項13:反社会的勢力の排除

建築工事の請負契約書に入れるべき条項13個目は、反社会的勢力の排除です。

【通常の条項】

1 甲および乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を表明し確約する。
(1) 次に掲げる事項に該当しないこと
イ 暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと
ロ 役員(取締役、執行役、執行役員、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと
(2) 反社会的勢力と社会的に非難される関係を有していないこと
(3) 不当な要求行為をしないこと
(4) その他、業務内容が公序良俗に違反すると認められるとき
2 甲及び乙は、相手方が前項に掲げる事項に違反した場合、何らの催告を要さずに本契約を解除することができる。
3 前項の解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償を妨げない。ただし、解除された者は、相手方に対し一切の請求を行わない。

【受注者‐修正】【注文者‐修正】

 修正なし。

反社条項とは、反社会的勢力を取引から排除するための規定をいいます。

反社条項の導入は努力義務とされていて、導入すべき法的義務はありません。

しかし、コンプライアンスを徹底しているかどうかは、企業の信用にも影響してくる事項といえます。

また、反社会的勢力と契約した場合に、反社条項がないにもかかわらず契約を解除すると、相手方から契約上の責任を問われるリスクがあります

契約を解除しても、反社会的勢力との関係を完全に断ち切ることができないのです。

この場合、関係が継続してしまうことによって企業で働く従業員への不当な要求や企業の乗っ取りなどが行われ、企業にとって脅威となるおそれがあるので、反社条項の重要性は高いものといえます。

そのため、建築工事の請負契約書を作成する場合、反社会的勢力との取引関係から直ちに離脱するために、反社条項を入れておくことが望ましいです。

反社条項については以下の記事で詳しく解説しています。

3-1-14 条項14:紛争の解決

建築工事の請負契約書に入れるべき条項14個目は、紛争の解決です。

【通常の条項】

 本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

【受注者‐修正】【注文者‐修正】

 修正なし。

紛争の解決は、当事者間に紛争が生じた場合に、どこの裁判所に訴訟提起するかをあらかじめ当事者間で決めておくものをいいます。

紛争の解決は、いわゆる合意管轄を定めるものとして、当事者は合意した内容に拘束されます。

義務違反などによる損害賠償請求をする場合、被告の本店所在地か、義務履行地を管轄する裁判所に訴訟を提起することになります(民事訴訟法4条1項、5条1号)。

しかし、請負契約書に異なる合意管轄が定められていた場合、その裁判所に訴訟を提起しなければなりません

請負契約書をチェックする段階で見逃してしまうと、予期せぬ負担となるおそれがあるのです。

そのため、訴訟提起の負担を軽減するためにも、合意管轄として定める裁判所は慎重に確認することが望ましいです。

契約書においては、専属的合意管轄を定めることが一般的とされています。

専属的合意管轄とは、合意管轄条項で定めた裁判所以外への提訴を認めない旨の当事者間の合意をいいます。

合意管轄を定める場合、以下の事項に注意する必要があります。

・「専属的」又は「付加的」という文言を入れる
・第一審しか合意管轄を定められない(民事訴訟法11条1項)
・書面で合意する(民事訴訟法11条2項)

合意管轄については以下の記事で詳しく解説しています。

3-1-15 条項15:補則

建築工事の請負契約書に入れるべき条項15個目は、補則です。

【通常の条項】

 甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項について、必要に応じて協議により定めるものとする。

【受注者‐修正】【注文者‐修正】

 修正なし。

補則は、当事者が予期していなかった事項について、当事者の協議によって定めることを明らかにしています。

これによって、契約に定めのなかった事項については、当事者の協議による解決を期待することができます。

他方で、契約の解釈に相違がある場合については、双方が水掛け論に終始してしまうなど、当事者間で協議をすることが難しい場合もあります

こういった側面から、補則は紛争解決の実効性として乏しい側面があるといえます。

そのため、協議の前段階で解決できるように、他の条項を網羅的に定めておくことが重要となります。

土地工作物責任と建築工事の請負契約書

完成建物の不備によって第三者が損害を被ることがあります。

例えば、2階に建て付けられたベランダが十分な安全性を備えておらず、ベランダが崩れ落ちたことによって通行人が怪我をした場合が挙げられます。

この場合、民法は占有者又は所有者に損害賠償責任を負わせる旨を規定しています。

第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 (略)
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

(出典:民法 | e-Gov法令検索

第三者の損害を賠償した占有者又は所有者は、瑕疵の原因が受注者にある場合には、第三項によって受注者に対して求償権を行使することができます

そうすると、請負契約の当事者との関係では、土地工作物責任は建築工事完了後における発注者の権利ということになります。

そのため、土地工作物責任を請負契約書に規定するかは、専ら発注者側が検討すべき事項といえるでしょう

土地工作物責任が規定されている場合、受注者は求償権の範囲が適切かなどを確認しておくことが望ましいです。

3―2 請負契約書に入れるべき条項2:保守契約書

保守契約書に入れるべき条項は以下のとおりです。

条項1:契約の目的
条項2:保守料金
条項3:保守の方法・時間等
条項4:権利義務の譲渡禁止
条項5:違約金等
条項6:契約解除及び損害賠償
条項7:秘密保持義務
条項8:反社会的勢力の排除
条項9:合意管轄
条項10:補則

保守契約の作業内容は契約によって様々なので、保守を行う方法や時間等を具体的に定める必要があります。

また、保守対象によっては企業の秘密を目にすることもあるので、秘密保持義務を定めることが望ましい場面も存在します

例えば、システムを保守対象とする場合、システム保守によって知り得た秘密が漏洩すると企業の競争力が低下してしまうなどのリスクがあるのです。

そのため、システム関係の保守では秘密保持義務を設けることが多い傾向にあります

3-3 請負契約書に入れるべき条項3:製作物供給契約書

製作物供給契約書に入れるべき条項は以下のとおりです。

条項1:契約の目的
条項2:代金
条項3:製品の仕様
条項4:納入
条項5:検収
条項6:所有権の移転
条項7:危険負担
条項8:再委託の禁止
条項9:品質管理
条項10:契約不適合
条項11:債務不履行による損害賠償及び解除
条項12:秘密保持義務
条項13:有効期間
条項14:合意管轄
条項15:補則

製作物供給契約は、請負契約と売買契約の性質を有する混合的な契約なので、いずれの規定が適用されるのかを明確にしておくことが重要となります。

一般的に、受注者が不代替物を作成する場合には請負契約としての性質が強く、代替物を作成する場合には売買契約としての性質が強いとされています。

そのため、条項をどのように規定するかは、契約の内容に照らして個別具体的に検討することが望ましいです。

3-4 請負契約書に入れるべき条項4:運送契約書

運送契約書に入れるべき条項は以下のとおりです。

条項1:契約の目的
条項2:運送料
条項3:運送方法
条項4:善管注意義務
条項5:権利義務の譲渡禁止
条項6:製品の受渡場所
条項7:遅延した場合の措置
条項8:受領書の提出
条項9:交通事故
条項10:付保
条項11:債務不履行による損害賠償及び解除
条項12:不可抗力による免責
条項13:秘密保持義務
条項14:有効期間
条項15:準拠法
条項16:合意管轄
条項17:補則

運送契約は、目的物の性質によって契約の内容にも変化が生じることから、契約の性質に応じて具体的に定めることが重要となります。

特に、運送に遅延が生じた場合については、運送料に増減が生じることもあるので、その算定方法を明確にしておく必要があります

また、運送という性質上、交通事故に巻き込まれることもあり、この場合に備えた条項を規定しておくことがトラブルの防止にも繋がります


4章 追加工事中の仕様変更に関する合意書(覚書)

追加工事中の仕様変更に関する合意書(覚書)のひな形は以下のとおりです。

追加工事中の仕様変更に関する合意書(覚書)
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建築工事の請負契約において仕様変更を求められた場合、覚書の作成をおすすめします

建築工事の請負契約では、建築完了までの間に注文者から仕様の変更を求められることがあります。

仕様変更があった場合、内容によっては追加工事が必要となり、代金や工期等に影響を与えることが考えられます。

仕様変更による代金の増加は、請負契約書に記載された算定方法に従うことになります。

しかし、仕様変更の場合における規定があっても、それによって仕様変更の有無を判断するための証拠にはならないので、後から争いになるリスクがあります

実際、代金請求の段階になって初めて仕様変更の有無が争いとなり、受注者が不安定な地位に置かれてしまうといったことがあるのです。

そのため、当事者間の紛争を防止して取引の安全を図るためにも、仕様変更があった場合には覚書を作成しておくことが望ましいです。

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5章 請負契約書作成の流れ

請負契約は、民法上は諾成契約として規定されているので、特別法の規定がある場合を除いて、当事者間の合意のみによって成立します

しかし、請負契約は契約金額が大きくなりやいので、不利益を避けるためには書面を作成して契約内容を明確にしておくことが重要となります。

一般的な請負契約書作成の流れは以下のとおりです。

まず、発注者が受注者に対して依頼書を送付し、これに対して受注者が見積書を出します。

見積書を受け取った発注者は、見積書の内容を確認したうえで正式な発注書を作成してこれを受注者に対して送付します。

発注書の送付によって請負契約が成立し、この時点で契約書を作成することが多い傾向にあります

また、請負契約書に限らず、依頼書や見積書などの各書面も重要な証拠になることがあるので、可能であれば各書面を作成しておくことが望ましいです。


6章 請負契約書作成の注意点3つ

請負契約書は合意内容を明確にすることができる一方で、その内容が正確でなければ十分に効果を発揮することができません。

ここでは、請負契約書を作成する場合の注意点を解説していきます。

注意点1:約款
注意点2:違約金・損害賠償
注意点3:印紙税

それでは、各注意点について順番に説明していきます。

6-1 注意点1:約款

請負契約書作成の注意点1つ目は、約款です。

国土交通省は、建設工事に関する請負契約締結に際して、受注者が約款を作成することを奨励しています(参考:国土交通省‐建設工事標準請負契約約款について)。

約款は、請負契約の内容を明確にして当事者間の平等を図ることが目的とされています。

というのも、請負契約においては発注者が有利な立場にあることから、契約内容が発注者にとって過剰に有利になりやすい傾向にあります

実際、過去にそのような契約が多く存在し、建設業者が不利益を被ってしまったという実態があったためです。

このような要請から、受注者が約款を作成していない場合、中央建設業審議会が建設業者に対して勧告できる旨が定められています

第34条(中央建設業審議会の設置等)
1 (略)
2 中央建設業審議会は、建設工事の標準請負契約約款、入札の参加者の資格に関する基準、予定価格を構成する材料費及び役務費以外の諸経費に関する基準並びに建設工事の工期に関する基準を作成し、並びにその実施を勧告することができる。

(※出典:建設業法 | e-Gov法令検索

そのため、受注者は、請負契約を締結する場合には約款を作成することが望ましいです。

約款は、請負契約書に約款を添付する形で発注者に対して交付することが一般的とされています。

6-2 注意点2:違約金・損害賠償

請負契約書作成の注意点2つ目は、違約金・損害賠償です。

請負契約は、債務不履行などによって履行の途中で終了することがあります。

例えば、工事工程の7割が終了した時点で、代金の半額を支払うという合意があったにもかかわらず、発注者が代金を支払わない場合、受注者は工事を進めることができません。

この場合、代金の支払が期待できなければ、受注者は契約の解除を検討することになります。

しかし、契約を解除した場合、違約金や損害賠償の規定がなければ、債務不履行によるリスクが大きくなってしまいます。

というのも、請負契約書に規定がなければ民法に従うことになりますが、発生した損害が賠償の範囲に含まれるか不明確な部分があり、当事者間で争いになるおそれがあるためです。

そのため、請負契約におけるリスクを減少させるために、請負契約書には違約金と損害賠償を具体的に規定しておくことが望ましいです。

6-3 注意点3:印紙税

請負契約書作成の注意点3つ目は、印紙税です。

請負契約書を作成する場合、以下の表に従って印紙税を納める必要があります。

(※出典:請負に関する契約書|国税庁

印紙税の納付を怠った場合、過怠税として印紙税額の3倍を支払うことになるので、印紙の貼り忘れには注意が必要です。

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7章 請負契約書に関するよくある質問

ここでは、請負契約書に関するよくある質問を解説していきます。

請負契約書に関するよくある質問は以下のとおりです。

質問1:書面を作成する必要はあるの?
質問2:請負契約と委任契約の違いは?
質問3:契約書はどちらが作成すればいいの?
質問4:契印や割印はどうやって押せばいいの?

それでは、各質問について順番に説明していきます。

7-1 質問1:書面を作成する必要はあるの?

請負契約は諾成契約なので、特別法の規定がある場合を除いて、書面を作成せずとも契約は成立します

例えば、特別法の規定としては以下のものが挙げられます。

第19条(建設工事の請負契約の内容)
1 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
①~⑯ (略)
2 (略)
3 (略)

(※出典:建設業法 | e-Gov法令検索

しかし、特別法の規定がない場合でも、請負契約書は契約の内容を明確にするのでトラブルを防止することができます

そのため、建設工事の請負契約に限らず、請負契約書を作成しておくことが望ましいです。

7-2 質問2:請負契約と準委任契約の違いは?

請負契約と準委任契約の大きな違いは、目的と報酬に関する事項が挙げられます。

目的について、請負契約は仕事の完成を目的としているのに対して、準委任契約は法律行為でない事実行為の委託を目的としています。

報酬について、請負契約は報酬が合意内容に含まれているのに対して、準委任契約は報酬が合意内容に含まれていません。

これは、準委任契約が信頼関係に基づくことから、原則として無償契約とされているためです。

報酬の支払時期について、請負契約は仕事の完成後に請求が可能となるのに対して、準委任契約は委任事務の履行後に請求が可能となります

例えば、建築関係の請負契約では、建物を完成しなければ報酬を請求することができません。

他方で、準委任契約では、その結果を問わず事実行為の終了によって報酬支払請求権が発生します。

そのため、請負契約と準委任契約では法律関係が異なってくるので、いずれが適用されるか問題となったときは、早い段階で確定させておくことが望ましいです。

7-3 質問3:契約書はどちらが作成すればいいの?

請負契約書は当事者のいずれが作成しても良いとされています

しかし、請負契約書の作成主体が特別法によって定められていることがあります。

例えば、作成主体が決まっている請負契約の代表例としては、以下のようなものが挙げられます。

第19条(建設工事の請負契約の内容)
1 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
①~⑯ (略)
2 (略)
3 (略)

(※出典:建設業法 | e-Gov法令検索

第3条(書面の交付等)
1 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
2 (略)

(出典:下請代金支払遅延等防止法 | e-Gov法令検索

建設工事では当事者双方が、下請けでは親事業者が契約書の作成を義務付けられています

そのため、請負契約書の作成は原則として当事者のいずれが作成してもいいですが、特別法の規定がある場合にはその規定に従うことになります。

7-4 質問4:契印や割印はどうやって押せばいいの?

契印は、内容の改竄を防止するためのものなので、すべてのページの見開き部分に押す必要があります。


割印は、契約書の同一性を証明するためのものなので、契約書が2部以上にわたる場合に押す必要があります。


8章 契約書の相談はリバティ・ベル法律事務所にお任せ|サポート内容のご案内

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9章 まとめ

以上のとおり、今回は、請負契約書のひな形と種類を説明したうえで、請負契約書に入れるべき各条項とそのレビューポイントについて解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

まとめ

・どの請負契約書を作成すべき?請負契約の種類は以下の4つです。
種類1:建築関係の請負契約
種類2:保守契約
種類3:製作物供給契約
種類4:運送契約

・仕様変更によって追加工事が発生した場合、紛争を防止するために仕様変更に関する合意書(覚書)を作成することが望ましいです。

・請負契約書は、発注者による依頼書を受けて受注者が見積書を送付し、発注者が見積書を確認して発注書を提出した段階で作成されることが多い傾向にあります。

・請負契約書作成の注意点は以下の3つです。
注意点1:約款
注意点2:違約金・損害賠償
注意点3:印紙税

・請負契約書に関するよくある質問は以下の4つです。
質問1:原則として請負契約書を作成することが望ましいが、特別法の規定がある場合には請負契約書を作成しなければならない。
質問2:請負契約と準委任契約の違いは以下のとおりです。


質問3:契約書はどちらが作成してもいいが、特別法の規定がある場合には作成主体が決まっている。
質問4:契印はすべてのページの見開き部分に、割印は書類を跨いで押すことになります。

この記事が、請負契約書の作成方法について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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