不可抗力条項について知りたいと悩んでいませんか?
天災など起きないと高を括って、あまり重要性を感じていないという会社もあるのではないでしょうか。
不可抗力条項とは、当事者が左右できない事情によって債務が履行不能になった場合に、債務不履行責任を免れることを明確にした規定をいいます。
実際の契約書には、以下のように規定されることがあります。
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
不可抗力条項を契約書に定める目的は、当事者が予期していない事態について規定しておくことで、紛争を防止することにあります。
また、仮に紛争が生じた場合でも、処理の方針が定まっているので迅速に紛争を解決することができます。
実は、昨今の社会情勢から不可抗力条項の重要性が高まっています。
しかし、不可抗力条項の内容が不適切だと、目的を十分に達成できないおそれがあります。
例えば、不可抗力事由に「不可抗力」とだけ規定しても、具体的に何が不可抗力にあたるのかわからず、紛争防止機能を果たせないおそれがあります。
そのため、不可抗力条項を契約書に定める場合、注意すべき点を抑えておくことが紛争防止の観点から重要となります。
今回は、不可抗力条項の意義や目的について説明したうえで、不可抗力条項を契約書に定める場合のレビューポイントについて解説していきます。
具体的な流れは以下のとおりです。
この記事を読めば、不可抗力条項についてよくわかるはずです。
目次
1章 不可抗力条項とは?
不可抗力条項とは、当事者が左右できない事情によって債務不履行が生じた場合に、債務不履行責任を免れることを明確にした規定をいいます。
実際の取引においては、当事者とは無関係な事情によって履行不能となることがあります。
例えば、当初は低価格で提供していた材料が、円安と材料不足を理由に著しく高騰したとします。
この場合、材料の提供は履行不能となり、材料提供者は相手方から責任を追及されるおそれがあります。
しかし、不可抗力条項に円安や材料不足を理由とした著しい高騰を明記しておけば、自社が責任を負わないことを説明することが容易になります。
他方で、不可抗力条項がない場合には、民法の規定が適用されることになります。
具体的には以下の規定が適用されます。
1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 略
※出典:民法 | e-Gov法令検索
1 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 略
※出典:民法 | e-Gov法令検索
これらは、債務者に帰責性のない債務不履行について免責することを規定しています。
しかし、いずれも「債務者の責めに帰することができない事由」と規定しており、具体的にどのような場合に不可抗力となるのかが不明確となっています。
不可抗力の内容が不明確だと、債務不履行が生じた場合に不可抗力に該当するか争いとなる蓋然性が高く、取引を行ううえでリスクとなるおそれがあります。
そのため、紛争を未然に防止するためにも、当事者双方は不可抗力条項を定め、不可抗力事由を明確にすることが望ましいです。
ただし、不可抗力には例外があり、金銭債務の場合には代替性があることから、不可抗力を理由に債務不履行責任を免れることはできないので注意が必要です。
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 略
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
※出典:民法 | e-Gov法令検索
2章 不可抗力条項の例文【サンプル付き・英語対応】
不可抗力条項の例文は以下のとおりです。
【不可抗力条項(通常の条項)】
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
【不可抗力条項(英語対応)】
Neither party shall not be held responsible for the inability to perform all or part of their obligations under this Agreement contracts due to natural disasters, wars, civil strife, and epidemics other force majeure. In the event of the Force Majeure cause, Either party may change or cancel all or part of this Agreement contract after consultation with the other party.
(訳)
いずれの当事者も、自然災害、戦争、内乱、感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく義務の全部または一部を履行できないことについて、責任を負わないものとします。 不可抗力事由が発生した場合、いずれの当事者も、相手方と協議の上、本契約の全部または一部を変更または解除することができる。
ウィーン売買条約には、以下のような不可抗力条項を規定したものがあります。
(1) 当事者は、自己の義務の不履行が自己の支配を超える障害によって生じたこと及び契約の締結時に当該障害を考慮することも、当該障害又はその結果を回避し、又は克服することも自己に合理的に期待することができなかったことを証明する場合には、その不履行について責任を負わない。
(2) 略
(3) この条に規定する免責は、(1)に規定する障害が存在する間、その効力を有する
(4) 履行をすることができない当事者は、相手方に対し、に規定する障害及びそれが自己の履行をする能力に及ぼす影響について通知しなければならない。当該当事者は、自己がその障害を知り、又は知るべきであった時から合理的な期間内に相手方がその通知を受けなかった場合には、それを受けなかったことによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(5) 略
※出典:外務省‐国際物品売買契約に関する国際連合条約‐和文テキスト
ウィーン売買条約は、国際的な取引をする場合に適用されることがあります。
具体的には、以下のような条件を満たすと適用されることになります。
・加盟していない場合でも、国際私法により加盟国の法律を適用する場合
・ウィーン売買条約の適用を明示的に排除していないこと
ウィーン売買条約が適用される場合と、一般的な不可抗力条項が適用される場合とで、債務者による主張立証の負担に違いが生じます。
ウィーン売買条約が適用される場合、不可抗力事由と債務不履行の因果関係に加え、予見可能性または回避可能性について主張立証する必要があります。
他方で、一般的な不可抗力条項の場合は、前者だけの主張立証となるため、ウィーン売買条約が適用される場合よりも立証負担が軽くなっています。
そのため、国際的な取引においていずれの条項を利用するかは、条項による救済をどの程度重要視するかによって決めることが望ましいです。
3章 不可抗力事由として列挙すべきもの7つ
民法上の不可抗力事由は不明確なので、不可抗力条項を定める場合は実効性をもたせるために具体的に例示することが望ましいです。
ここでは、不可抗力事由として列挙すべきものについて解説していきます。
事由2:戦争・テロ・内乱・暴動等
事由3:争議行為
事由4:法令の制定改廃
事由5:火災
事由6:原価や仕入値の著しい高騰
事由7:その他の不可抗力
それでは順番に説明していきます。
3-1 事由1:天災地変
不可抗力事由として列挙すべきもの1つ目は、天災地変です。
天災地変は、当事者が左右できない事情にあたることから、不可抗力事由として規定することが一般的とされています。
天災地変の具体例としては以下のものが挙げられます。
・津波
・洪水
・台風
・ハリケーン
・噴火
・感染症
・疾病
また、昨今において猛威を振るっている新型コロナウイルス(COVID‐19)についても、感染症として規定することが多い傾向にあります。
しかし、日本においては政府がロックダウンをするなど、強制力の強い規制がされていないことから、新型コロナウイルスが不可抗力にあたらない場合も存在します。
そのため、天災地変の範囲をどの程度にするかは、契約の内容や具体的な状況に照らして慎重に判断する必要があります。
3-2 事由2:戦争・テロ・内乱・暴動等
不可抗力事由として列挙すべきもの2つ目は、戦争・内乱・暴動・テロ等です。
戦争等の社会的事変は、当事者が左右できない事情にあたるので、不可抗力事由にあたることが多い傾向にあります。
そのため、不可抗力条項には戦争等の社会的事変を列挙しておくことが考えられます。
2022年にロシアがウクライナへと軍事侵攻したことにより、主要各国がロシアに経済制裁を行ったことで、世界経済に大きな影響を与えています。
日本も例外ではなく、ウクライナ情勢を受けて経済的な打撃を受けています。
例えば、製品輸送ついてロシアからの物流が停止した製品について、日本国内でその製品を供給することは難しい状況にあります。
しかし、ロシアによる軍事侵攻は、不可抗力事由としての戦争にあたります。
そのため、ロシアの軍事侵攻を理由とする債務不履行について、当事者は不可抗力にあたることを主張立証することでその責任から免れることができる場合があります。
3-3 事由3:争議行為
不可抗力事由として列挙すべきもの3つ目は、争議行為です。
争議行為とは、労働組合が労働条件の維持・改善を目的として行う集団行動のことをいいます。
争議行為の具体例としては以下のものが挙げられます。
・ボイコット
・ピケッティング
・サボタージュ
・ロックアウト
争議行為は労働組合が行うものなので、使用者である債務者が左右できる性質のものではありません。
しかし、争議行為は不可抗力にあたらないという考え方も存在し、当事者間で認識の相違が生じやすくなっています。
不可抗力条項の目的は、予測可能性を担保して紛争を防止することにあるので、紛争になるおそれがある場合にはあらかじめ明確にしておくことが重要となります。
そのため、争議行為を不可抗力事由として定めるかは、当事者の認識や状況に照らして適切に検討していく必要があります。
3-4 事由4:法令の制定改廃
不可抗力事由として列挙すべきもの4つ目は、法令の制定改廃です。
法令の制定改廃は、取引に影響を与えることがあります。
例えば、契約締結後に感染症に関する特措法が制定され、条件を満たさない施設の強制的停止がされた場合などが挙げられます。
このような法令の制定改廃は、当事者が左右できる性質のものではなく、不可抗力にあたる場合があります。
そのため、法令の制定改廃は、不可抗力事由としてあらかじめ定めておくことが考えられます。
3-5 事由5:火災
不可抗力事由として列挙すべきもの5つ目は、火災です。
火災は、天災や債務者以外の第三者が関与した場合には、契約当事者が左右できないものとして不可抗力にあたることがあります。
しかし、債務者の管理に問題があった場合など、火災の原因が債務者にある場合には不可抗力にあたらないことがあります。
そのため、火災を不可抗力事由として定める場合、債務者の責めに帰することができない火災として限定しておくことが望ましいです。
3-6 事由6:原価や仕入値の著しい高騰
不可抗力事由として列挙すべきもの6つ目は、原価や仕入値の著しい高騰です。
円安やコロナ等の影響を受け、物品の原価や仕入値が上昇するといった事態が発生しています。
企業努力で補える範囲であれば契約に影響しませんが、著しい高騰の場合には物品の提供が困難となり、材料提供者は責任を追及されるおそれがあります。
しかし、高騰の原因が円安やコロナ等の、当事者が左右することができない性質のものであれば、不可抗力として責任を免れることができる場合があります。
そのため、原価や仕入値の著しい高騰は、不可抗力事由として定めることを検討しておくことが望ましいです。
3-7 事由7:その他の不可抗力
不可抗力事由として列挙すべきもの7つ目は、その他の不可抗力です。
上で見てきたような不可抗力事由を列挙しただけでは、不可抗力条項の目的を達成できない場合があります。
例えば、不可抗力事由として定めていない事由が生じた場合、列挙事由にあたらないから不可抗力にあたらないとして当事者間で争いになるおそれがあります。
そのため、列挙していない事由が不可抗力事由に含まれるとする余地を残すために、包括的な条項を置くことが一般的とされています。
倉庫管理業者や輸送管理業者の事故が不可抗力に含まれるかは、当事者の認識によって異なります。
具体的には、管理業者が事故を起こしたとしても、他の手段がある場合や債務者が原因である場合には、不可抗力には含まれないケースがあります。
他方で、管理業者の事故が、契約当事者が直接に左右できるものではない場合もあり、不可抗力に含まれるケースも存在します。
そのため、管理業者の事故を不可抗力に含めるかは、契約の内容を考慮して慎重に判断する必要があります。
4章 不可抗力条項の契約書における目的2つ
ここでは、不可抗力条項の契約書における目的を解説していきます。
目的2:迅速な紛争解決が可能
それでは順番に説明していきます。
4-1 目的1:予測できない事態におけるトラブル防止
不可抗力条項の契約書における目的1つ目は、予測できない事態におけるトラブル防止です。
天災等による債務不履行について、民法が予定している規定があります。
しかし、民法の規定は不可抗力事由や具体的な処理に不明確な部分があり、当事者間でトラブルとなるおそれがあります。
不可抗力条項は、当事者が予測できない事態についてあらかじめ規定しておくことで、当事者に予測可能性を与えトラブルを防止することができます。
そのため、トラブル防止の観点から、取引実務において不可抗力条項が契約書に定められることがあります。
4-2 目的2:迅速な紛争解決が可能
不可抗力条項の契約書における目的2つ目は、迅速な紛争解決を可能にすることです。
トラブルが生じた場合、契約書に対応する条項がなければ、解決方法について当事者間で協議しなければなりません。
しかし、条項がない場合の協議は水掛け論になりやすいうえ、適切な解決を図るには相応の時間を要します。
不可抗力条項を定められてる場合、トラブルの解決方針が明らかとなり、迅速な紛争解決を図ることができます。
そのため、紛争の迅速な解決を図りたい場合には、不可抗力条項を定めておくことが望ましいです。
5章 不可抗力条項を定める場合のレビューポイント3つ
不可抗力条項を契約書に定める場合、その実効性を高めるためには内容に注意して定める必要があります。
ここでは、不可抗力条項を定める場合のレビューポイントを解説していきます。
レビューポイント2:通知義務
レビューポイント3:不可抗力条項の効果
それでは順番に説明していきます。
5-1 レビューポイント1:不可抗力事由の範囲
不可抗力条項を定める場合のレビューポイント1つ目は、不可抗力事由の範囲です。
【不可抗力条項‐通常の条項】
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
【不可抗力条項‐買主側修正例】
1 甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
2 ●●は、第1項の不可抗力に該当しないものとする。
【不可抗力条項‐売主側修正例】
甲および乙は、天災地変(火災、地震、風水害、落雷、公害、塩害等を含むがこれらに限られない)・感染症・疫病・戦争(宣戦布告の有無を問わない)・内乱・暴動・テロ・争議行為・法令の制定改廃・原価や仕入値の著しい高騰・その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
不可抗力条項には、不可抗力が生じた場合に契約の変更や解除などの効果を規定することが一般的とされています。
しかし、不可抗力事由の範囲が広くなると、債務者が免責される範囲が広くなってしまう可能性があります。
そのため、買主としては、不可抗力事由の範囲をある程度限定し、争いになるおそれがあるものについては明示的に排除しておくことが望ましいです。
他方で、売主としては、過大な負担となるのを避けるためにも、不可抗力によって責任を免れることができる範囲を明らかにすることが重要となります。
そこで、売主は不可抗力事由を広く規定し、問題になる可能性が高いような不可抗力事由については括弧書きで具体例として記載しておくなどが望ましいです。
5-2 レビューポイント2:通知義務
不可抗力条項を定める場合のレビューポイント2つ目は、通知義務です。
【不可抗力条項‐通常の条項】
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
【不可抗力条項‐買主側修正例】
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。ただし、不可抗力の影響を受ける当事者は、直ちに不可抗力が発生したことを相手方に通知し、相手方の損害を回復するために最善を尽くすものとする。
【不可抗力条項‐売主側修正例】
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。ただし、不可抗力の影響を受ける当事者は、直ちに不可抗力が発生したことを相手方に通知するものとする。ただし、不可抗力の影響を受ける当事者は、速やかに不可抗力が発生したことを相手方に通知するものとする。
不可抗力条項を定める場合、免責を得るための手続として通知義務が課されることがあります。
通知義務の内容としては様々なものがあり、通知の期限・方法まで具体的に定められることもあります。
買主としては、不可抗力が発生した場合、できる限り損害を抑えて契約関係からの離脱を図りたいので、売主に通知義務を課し損害の回復措置をとらせることが望ましいです。
他方で、売主としては、負担を軽減するために、通知期間を延ばし回復措置については削除することが望ましいです。
5-3 レビューポイント3:不可抗力条項の効果
不可抗力条項を定める場合のレビューポイント3つ目は、不可抗力条項の効果です。
【不可抗力条項‐通常の条項】
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
【不可抗力条項‐解約方法を明確化した条項】
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。不可抗力の原因となる状況が30日以上継続する場合、甲および乙は、相手方に対して、書面により通知することにより、本契約を解約することができる。
不可抗力条項の効果を規定していない場合、迅速な解決を図ることが難しくなるので、効果を明らかにしておく必要があります。
不可抗力が発生した場合、契約当事者に大きな影響を与えることから、当事者は契約関係からの離脱を望むことが多い傾向にあります。
そのような場合に協議しなければ解約できないとすると、迅速性を害しますし、協議が難航した場合に困ることになります。
そのため、契約書の段階で、不可抗力が発生した場合における解約の条件や方法を明確化しておくことが考えられます。
6章 不可抗力の該当性が争いになった判例3つ
ここでは、不可抗力該当性について争いとなった判例について解説していきます。
判例2:新型コロナウイルスの影響を受けてした休業命令が不可抗力にあたらないとした事例
判例3:集中豪雨による土砂災害が不可抗力にあたるとした事例
6-1:判例1:台風による浸水被害が不可抗力にあたらないとした事例
原告が、車を修理するため被告に車を預けていたところ、台風の浸水被害によって車が水没して走行不能となった事案について、
裁判所は、台風は事前に予測することができたにもかかわらず、被告が何ら措置を採らなかったことは善管注意義務違反にあたるとし、不可抗力にはあたらないとしています。
判例は以下のように説明しています。
「被告において…顧客から預かり保管中の車両については、本件保管庫への浸水被害を想定して上記車両を退避させること等被害回避の措置を検討するということはなく、通常の営業終了時と同様の本件保管庫に収納し、シャッターを閉めておくに止め、土嚢、防水パネル・シート、浸水防止カバーの取付け等浸水被害に対する措置を全く採らなかった。本件店舗の対応は、本件寄託契約に基づく受寄者としての善管注意義務を尽くしたということはできず、被告は、同義務懈怠により生じた原告の損害を賠償する責任を負うといわざるを得ない。
被告は、本件車両の浸水被害が不可抗力によるものであるなどと主張するが、本件台風の規模からしてその被害が甚大になることを想定し得たこと及び被害回避の可能性がなかったといえない」。
6-2 判例2:新型コロナウイルスの影響を受けてした休業命令が不可抗力にあらないとした事例
原告が、被告が新型コロナウイルスの影響により原告に休業を命じたことから、被告に対して休業期間中の賃金等を請求した事案について、
裁判所は、被告の休業命令は人件費調整の結果であり、裁量判断によってなされたものであるから、休業は不可抗力にあたらないとして、原告の請求を認めています。
判例は以下のように説明しています。
「新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛などにより、令和2年2月頃以降売上の減少という影響を受けはじめ…その後も売上は停滞した。被告は、このような売上減少に対応するため、…従業員全体の出勤時間を抑制することとし、原告には本件休業を命じたものである。…しかしながら、被告は、事業を停止していたものではなく、毎月変動する売上の状況やその予測を踏まえつつ、人件費すなわち従業員の勤務日数や勤務時間数を調整していたのであるから、これはまさに使用者がその裁量をもった判断により従業員に休業を行わせていたものにほかならない。そうだとすれば、本件休業が不可抗力によるものであったとはいえず、…原告の本件休業は、被告側に起因する経営・管理上の障害によるものと評価すべきである。」
6-3 判例3:集中豪雨による土砂災害が不可抗力にあたるとした事例
原告が、国有林で発生した土砂災害が原告らの居宅に流れ込んだことから、被告に対して損害賠償請求した事案について、
裁判所は、集中豪雨は基準値を上回っており、土砂災害を予測することは難しく、施設が備えるべき安全性が備えていたことから、土砂災害が不可抗力にあたるとしています。
判例は以下のように説明しています。
「集中豪雨における日降雨量は…当時林野庁内関係で治山施設の基準とした降雨量ばかりか、右集中豪雨後神戸市が設置した砂防施設の基準とした降雨量をも質的に上廻つており、…本件国有林地域の山腹斜面の崩壊を具体的に予想することは不可能であつたのであり、…財政的制約があることを考え合せると、本件国有林及びそこに設置された治山施設が当然備えるべき防災施設を備えていなかつたとか、本件国有林を管理する公務員が、備えるべき防災施設を備えないで放置したとはいえず、本件災害は、右集中豪雨による不可抗力であつたとみるのが相当であり、右判断を左右するに足りる証拠は何もない。」
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8章 まとめ
今回は、不可抗力条項の意義や目的について説明したうえで、不可抗力条項を契約書に定める場合のレビューポイントについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・不可抗力条項とは、当事者が左右できない事情によって債務不履行が生じた場合に、債務不履行責任を免れるための規定をいいます。
・不可抗力条項の例文は以下のとおりです。
甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。
・不可抗力事由として列挙すべきものは以下の7つです。
事由1:天災地変
事由2:戦争・内乱・暴動・テロ等
事由3:争議行為
事由4:法令の制定改廃
事由5:火災
事由6:原価や仕入値の著しい高騰
事由7:その他の不可抗力
・不可抗力条項の契約書における目的は以下の2つです。
目的1:予測できない事態におけるトラブル防止
目的2:迅速な紛争解決が可能
・不可抗力条項を定める場合のレビューポイントは以下の3つです。
レビューポイント1:不可抗力事由の範囲
レビューポイント2:通知義務
レビューポイント3:不可抗力条項の効果
この記事が不可抗力条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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