配偶者が財産を隠しているのではないかと悩んでいませんか?
離婚の際に財産分与を受けるためには、双方がどの程度の財産をもっていたのかを立証しなければいけませんので、財産を隠されてしまうと困りますよね。
財産隠しについては、犯罪として罰することはできず、民事上の問題となります。
そのため、適正な財産分与を受けるためには、自分で財産を調査する方法を知っておく必要があります。
実際、離婚事件の相談を受けていると、多くの事案で財産隠しの問題に直面します。
財産の調査は、別居から時間が経てばたつほど難しくなります。私自身、これまで多くの離婚事件を担当している中で、既に財産の調査が困難となってしまっている事案を担当することもあり、悔しい思いをした経験があります。
しかし、財産の調査については、別居前に行うことができれば難易度は大きく下がりますし、適切な調査方法を知ることで格段に財産を見つけやすくなります。
そのため、この記事をとおして、皆さんにどのように財産を調査しておいた方が良いかを是非知っておいていただければと思います。
また、万が一、財産分与の合意をした後に財産隠しが明らかになった場合であっても、対処ができる場合があります。
今回は、離婚に伴う財産隠しについて説明したうえで、調査の知識やノウハウについて誰でもわかるように簡単に解説していきます。
具体的には以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、離婚の際にどのように財産を調査すればいいのかがよくわかるはずです。
目次
1章 離婚の際によくある財産隠しとは?
離婚の際によくある財産隠しとは、財産分与の対象となることを免れる目的で、自分名義の財産を配偶者に分からないようにすることです。
離婚の際の財産分与は、別居時の財産を基準として、多くの財産をもっている方がお互いの財産が2分の1になるように分け与えるものです。
しかし、実際に別居時の財産として分与の対象となるのは、原則として、立証することができた財産のみです。
例えば、夫名義の財産が別居時に5000万円、妻名義の財産が別居時に0円だった場合には、夫が妻に2500万円分与する必要があります。
しかし、実際に立証できた夫名義の財産が3000万円だけだった場合には、夫が妻に分与するのは1500万円となります。
このように財産隠しをされると大きな不利益を被ることになってしまいます。
そのため、離婚の財産分与においては、財産隠しをどのように防止するかが重要な問題となるのです。
2章 離婚の際の財産隠しは犯罪として罰せない
離婚の財産隠しは、犯罪として罰されません。
離婚の財産隠しにおいて、該当する可能性のある犯罪は詐欺罪(刑法246条)や窃盗罪(刑法235条)です。
刑法246条(詐欺)
1 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。刑法235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
しかし、これらの犯罪については、配偶者間においては、その刑が免除されています。
刑法244条(親族間の犯罪に関する特例)
1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。刑法251条(準用)
第二百四十二条、第二百四十四条及び第二百四十五条の規定は、この章の罪について準用する。
そのため、財産隠しについては犯罪として罰することができず、民事上の問題となるにすぎないのです。
したがって、財産隠しをされた場合にも、自分自身で対処していくために、財産を調査する適切な知識やノウハウを身に着けておきましょう。
3章 財産隠しをされた場合の一般的な調査方法8つ
財産隠しへの対処の基本は、財産の調査となります。
基準となるのは別居した時点の財産ですので、各財産につき別居した日の金額を確認していきます。
財産分与の対象となる財産としては、例えば以下のようなものがあります。
②現金
③不動産
④自動車
⑤積立式の保険
⑥株式等の有価証券
⑦退職金
⑧ゴルフクラブ等の会員権
もっとも、財産隠しをされた場合には、やみくもに探しても中々財産の全容を把握することはできません。
配偶者もあなたに財産が見つからないようにしているためです。
そのため、財産を調査するためには適切な方法で行う必要があります。
例えば、一般的な財産調査の方法として実践しやすいものは以下の8つです。
方法2:郵便物を確認する
方法3:不動産の登記を取得し抵当権者を確認する
方法4:LINEのトーク履歴を洗い出す
方法5:インターネットの検索履歴の把握する
方法6:配偶者が勤務している会社の求人情報を確認する
方法7:年金分割のための情報通知書を取得する
方法8:探偵や興信所に頼む
以下では、各方法について順番に説明していきます。
なお、財産の調査は別居前にしておくのがおすすめです。
財産分与の対象となる財産は別居時が基準となり、別居後には財産調査の方法も限られてしまうためです。
3-1 方法1:通帳の取引履歴から財産を把握する
財産隠しをされた場合の調査方法の1つ目は、通帳の取引履歴から財産を把握することです。
通帳については、別居日の残高から預金額がわかることは勿論、取引の履歴により他にどのような財産があるのかを把握することもできます。
そのため、最初に通帳を調べることで財産の全容がわかり効率的に調査を行うことができます。
通帳については、以下の手順でチェックしていきましょう。
☑ 別居日の残高を確認する
☑ 婚姻日の残高を確認する
☑ 他に口座がないかを確認する
☑ 保険に入ってないかを確認する
☑ 使途不明の高額取引がないかを確認する
3-1-1 銀行名・支店名・口座種類・口座番号・口座名義を確認する
まずは、通帳の表紙や表紙の裏などに記載してある銀行名、支店名、口座種類、口座名義を確認しておきます。
財産分与の主張する際に、どの口座に財産が入っているかを主張するためです。
3-1-2 別居日の残高を確認する
次に、別居日の残高を確認しましょう。
離婚の財産分与においては、別居日時点の残高が基準となるためです。
別居日の残高を確認することにより、いくらの財産があったのかを明らかにすることができます。
3-1-3 婚姻日の残高を確認する
次に、婚姻日の残高を確認しましょう。
離婚の財産分与においては、各自が婚姻日の時点から有していた財産は、特有財産として財産分与の対象から除外されるためです。
婚姻日の残高を確認することにより、婚姻時点においてどの程度の財産を有していたかを知ることができます。
3-1-4 保険に入ってないかを確認する
次に、保険に入っていないかを確認しましょう。
積立方式の保険については、婚姻日から別居日までの積み立てに対する解約返戻金が財産分与の対象となります。
3-1-5 使途不明の高額取引がないかを確認する
次に、使途不明の高額取引がないかを確認しましょう。
特に別居日の直前に合理的な理由なく高額の財産が持ち出されている場合には、その金額も財産分与の対象に加算される可能性があります。
3-1-6 他に銀行口座がないかを確認する
最後に、他に銀行口座がないかを確認しましょう。
具体的には、以下の手順で調べていくのがおすすめです。
手順2:振込元又は振込先に配偶者自身の名前がないかを確認する
手順3:振替がないかを確認する
3-1-6-1 手順1:振込元と振込先にあるべき名称が記載されているかを確認する
手順1について、振込元や振込先の欄にあるべき名称が記載されていない場合には、他にも口座がある可能性があります。
例えば、給与の支払いが口座振込の方法により行われているのに振込元に勤務先の名称がないような場合には、他にも給与の振込口座がある可能性があります。
具体的には、以下のような口座が別にあるのではないかを調査していきます。
②住宅ローンの引落口座:振込先に住宅機構、ローン会社名の記載
③家賃の引落口座:振込先に賃貸人又は代行業者の名称
④光熱費の引落口座:振込先に電気会社や水道会社の名称
⑤携帯電話料金の引落口座:振込先に携帯会社の名称
⑥クレジットカードの引落口座:振込先にクレジット会社の名前
⑦奨学金の引落口座:振込先に日本学生支援機構の名称
⑧学習塾や習い事の月謝の引落口座:振込先に学習塾の名称
⑨インターネット回線やケーブルテレビの使用料の引落口座:振込先に契約会社の名称
3-1-6-2 手順2:振込元又は振込先に配偶者自身の名前がないかを確認する
手順2について、振込元又は振込先に配偶者自身の名前がある場合には、他にも口座がある可能性があります。
3-1-6-3 手順3:振替がないかを確認する
手順3について、振替がある場合には、他にも口座がある可能性があります。
総合口座通帳の場合には、普通預金の金額がマイナスになっていることがあります。
総合口座通帳では、普通預金の残高を超える引き落としがあった場合には、定期預金を担保として、銀行が自動的に融資をしてくれる仕組みがあるためです。
つまり、総合口座内に定期預金をもっている場合には、普通預金にマイナス表記がされる可能性があるのです。
そのため、普通預金がマイナスになっている場合には、定期預金をもっている可能性が高いので、普通預金の残高のみならず、定期預金についても確認するようにしましょう。
3-2 方法2:郵便物を確認する
財産隠しをされた場合の調査方法の2つ目は、郵便物を確認することです。
郵便物の送り主や内容によりどこにどのような財産をもっているのかを把握することができます。
それでは、順番に説明していきます。
3-2-1 固定資産税の課税証明書
固定資産税の課税証明書により、どのような不動産を所有しているのかを把握することができます。
固定資産税の課税証明書については、通常、納税通知書とともに送られてきます。
例えば、課税証明書には以下のような記載がされていますが、「資産区分」「資産の所在・地番」を見ることでどのような不動産を持っているかがわかり、「価格(評価額)」を見ることでその不動産の価値がわかります。
ただし、不動産の価値については、固定資産税の課税証明書の金額は実際の評価額よりも少し低い金額となっていますので、正確な金額を知りたい場合には不動産会社などの査定を行います。
(出典:川崎市 登記申請時の固定資産税・都市計画税課税明細書の利用について)
3-2-2 金融機関からの郵便物
金融機関からの郵便物により、どの金融機関に預金を持っているのかを把握することができます。
3-2-3 保険会社からの郵便物
保険会社からの郵便物により、どの保険会社に保険を持っているのかを把握することができます。
3-2-4 決算関係書類・株主優待・株主総会招集通知
決算関係書類・株主優待・株主総会招集通知により、どこの会社の株式を持っているかを把握することができます。
3-2-5 クレジットカード会社からの郵便物
クレジットカード会社からの郵便物により、どこの会社のクレジットカードを持っているかを把握することができます。
3-2-6 ゴルフクラブからの郵便物
ゴルフクラブからの郵便物により、どこの会社のゴルフクラブ会員権を持っているかを把握することができます。
3-3 方法3:不動産の登記を取得し抵当権者を確認する
財産隠しをされた場合の調査方法の3つ目は、不動産の登記を取得し抵当権者を確認することです。
所有している不動産の登記を見ると融資を受けている銀行の名称が抵当権者として記載されていることがあります。
融資を受けている銀行については、預金口座を持っている可能性が高いです。
そのため、抵当権者を見ることで、どの銀行に預金口座を持っているのかを把握することができます。
3-4 方法4:LINEのトーク履歴を洗い出す
財産隠しをされた場合の調査方法の4つ目は、LINEのトーク履歴を洗い出すことです。
LINEのトーク履歴を見ることにより、会話の中に財産のてがかりがでてくることがあります。
例えば、「●●銀行でお金をおろしてから帰る」、「●●銀行にお金を振り込んで欲しい」、「●●保険会社から郵便は届いているか」等のやり取りです。
LINE履歴が長期間に及ぶ場合には、テキストデータにすることにより効率的に確認することができます。
LINEのやり取りをテキストデータにして保存する方法は以下のとおりです。
手順1:「トーク」タブを押して、保存したい「友達」とのトークを選択する
手順2:画面の右上の「V」マークをクリックして、「トーク設定」を選択する
手順3:「トーク履歴を送信」を選択する
手順4:「メールで送信」を選択して、テキストデータを送付したメールアドレスに送信する
3-5 方法5:インターネットの検索履歴の把握する
財産隠しをされた場合の調査方法の5つ目は、インターネットの検索履歴の把握です。
家族共有のパソコンなどがある場合には、その検索履歴から財産を隠す方法を探したり、どこが見つかりにくいか探したりしている形跡が残っていることがあります。
例えば、離婚の財産隠しに関するキーワードでは、以下のような検索が毎月一定数行われています。
「離婚 財産隠し 貸金庫」
「離婚 財産隠し 現金」
「離婚 財産隠し ネット銀行」
このことから、離婚で財産隠しをしようとする場合には、その方法につきインターネットで検索する方が多いことがうかがえます。
3-6 方法6:配偶者が勤務している会社の求人情報を確認する
財産隠しをされた場合の調査方法の6つ目は、配偶者が勤務している会社の求人情報を確認することです。
求人情報では、退職金の有無を確認することができます。
退職金についても、これが支給される蓋然性が高いような場合には分与の対象となります。
退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
3-7 方法7:年金分割のための情報通知書を取得する
財産隠しをされた場合の調査方法の7つ目は、年金分割の為の情報通知書を取得することです。
財産分与とは少し異なりますが、将来もらえる年金の金額についても分割の対象となります。
(出典:日本年金機構 離婚時の年金分割について)
3-8 方法8:探偵や興信所に頼む
財産隠しをされた場合の調査方法の8つ目は、探偵や興信所を使うことです。
探偵や興信所に頼む場合には費用が必要となりますが、より信頼性の高い情報を獲得できる可能性があります。
そのため、想定される財産の金額が大きい場合には、探偵や興信所を利用することも選択肢です。
探偵を用いた調査の費用を安く抑えるポイントについては以下の記事で詳しく解説しています。
4章 財産を調べるための法的手続3つ
おおよその財産の情報を掴めても、その具体的な金額まではわからないことがあります。
そのような場合には、財産を調べるための法的手続きをとっていくことが考えられます。
例えば、財産を調べるための手続きとしては、以下の3つがあります。
手続2:弁護士会照会(23条照会)
手続3:調査嘱託
それでは各手続きについて順番に説明していきます。
4-1 手続1:求釈明(任意の提出を求める)
財産を調べるための手続きの1つ目は、求釈明です。
求釈明とは、当事者が他方当事者に対して、質問への回答や証拠の提出を要請するものです。
求釈明は、相手方はこれに回答する法的義務はないので、無視されることもあります。しかし、無視した場合には裁判所からの印象が悪くなる場合もありますので、提出に応じてもらえることもあります。
例えば、相手方に対して、「●●銀行●●支店の婚姻日から現在までの預金通帳を提出されたい。」などと要請します。
4-2 手続2:弁護士会照会(23条照会)
財産を調べるための手続きの2つ目は、弁護士会照会です。
弁護士会照会制度は、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会が、官公庁や企業などの団体に対して必要事項を調査・照会する制度です。
照会を受けた者は、原則として回答義務があります。財産分与を利用するためには、弁護士会に納付する手数料や郵送費として、8000円から1万円がかかります。
例えば、以下のような財産を調査することができます。
弁護士会照会は、裁判所をとおさずに行うことができるため、照会の結果については相手方に知られません。
4-3 手続3:調査嘱託
財産を調べるための手続きの3つ目は、調査嘱託です。
調査嘱託とは、裁判所が会社や銀行などの団体に対して調査を行うものです。
例えば、銀行に対して、口座の有無や取引履歴の情報の回答を求めることなどができます。
調査嘱託については、通常、調停や訴訟の申し立て後に裁判所をとおして行いますので、その結果は相手方にも知られることになります。
5章 要注意!よくある財産隠しの手口5つ
離婚の話題がで始めると、財産をとられないように隠そうとする方が多くいます。
財産を隠そうとする際の手口としては、例えば以下の5つがあります。
手口2:親族や子ども名義の口座への預金
手口3:貸金庫
手口4:タンス預金
手口5:浪費や借入金の返済
それでは、各手口について順番に説明していきます。
5-1 手口1:ネット銀行や地方銀行への預金
よくある財産隠しの手口の1つ目は、ネット銀行や地方銀行への預金です。
ネット銀行は実店舗がないため、その存在を見落としてしまうことがあります。
また、縁もゆかりもない地方の銀行に口座を開設されてしまうこともあります。
しかし、ネット銀行や地方銀行についても、他の銀行と探し方は同じですので、郵便物などを調査することで、その存在を把握します。
どのような銀行があるかについては、以下の金融庁の資料が参考になります。
5-2 手口2:親族や子ども名義の口座への預金
よくある財産隠しの手口の2つ目は、親族や子ども名義の口座への預金です。
親族や子どもが他方配偶者に協力しているような場合には、その口座に一時的に財産が預け入れられることがあります。
しかし、通帳の履歴を辿っていくことにより、親族や子どもに高額の振り込みが行われていることを把握することができます。
合理的な理由なく親族や子どもに高額の振り込みが行われている場合には、実質的には夫婦の財産であるとして、財産分与の対象になるでしょう。
5-3 手口3:貸金庫
よくある財産隠しの手口の3つ目は、貸金庫です。
貸金庫の中に現金や預金通帳が隠されてしまうことがあります。
貸金庫については預金通帳を持っている銀行で借りるのが通常です。
預金通帳を確認していく中で、年に1回程度、「手数料」などの摘要で、振込先の欄に「貸金庫」と記載されていることがあります。
そのため、通帳を確認することで貸金庫の存在を把握できることがあります。
また、貸金庫の鍵やカードキーが家に保管されているような場合にも貸金庫の存在を把握することができます。
5-4 手口4:タンス預金
よくある財産隠しの手口の4つ目は、タンス預金です。
自宅の棚やタンスに現金の状態で隠されることがあります。
通帳に使途不明の高額の引き出しが記載されていることなどにより把握することができます。
5-5 手口5:浪費や借入金の返済
よくある財産隠しの手口の5つ目は、浪費や借入金の返済です。
引き出した現金を保管しておくのではなく、使ってしまう場合です。
また、引き出すのではなく、振り込みにより奨学金やローンの繰り上げ返済など高額の支払いが行われることがあります。
通帳を確認することにより把握することができます。
6章 財産分与後に財産隠しが明らかになった場合にできること
十分に財産を調査したにもかかわらず、財産分与当時には把握することができなかった財産が後から明らかになることがあります。
もっとも、一度、財産分与につき合意をしてしまうと、改めて、分与を請求するのは難しいのではないかとの疑問もありますよね。
そのため、財産分与後に財産隠しが明らかになった場合には、どのように対処したら良いかを説明します。
具体的には、財産分与後に財産隠しが明らかになった場合には、以下のような対処法があります。
対処法2:錯誤無効
対処法3:不法行為
それでは各対処法について順番に説明していきます。
6-1 対処法1:再協議
財産分与後に財産隠しが明らかになった場合の対処法の1つ目は、再協議です。
相手方に対して、新たに明らかになった財産につきどのように分与するべきか協議を申し入れましょう。
ただし、既に財産分与が成立している場合には、清算条項が含まれていることがあり、他に請求権がないことが確認されていることがあります。
例えば、以下のような条項が入っている場合です。
「甲及び乙は、本合意書に記載されている事項を除き、相互に何らの債権債務がないことを確認する。」
そのため、財産隠しが疑われるような事案では、以下のような条項を入れておくことも検討します。
「甲は、本合意書作成後別紙に記載されていない財産が新たに発見された場合には、乙に対して、当該財産の分与を請求することができる。」
ただし、現実的な問題として、相手方がこのような条項を入れるのであれば和解に応じないと主張することがあり、交渉次第ではこのような条項を入れることが困難な場合があります。
6-2 対処法2:錯誤無効
財産分与後に財産隠しが明らかになった場合の対処法の2つ目は、錯誤無効です。
財産分与につき取り決めた合意書に清算条項が入ってしまっている場合であっても、その合意は、他に財産はないと誤解したことにより締結したものであるため、取り消すことができる可能性があります(民法95条)。
民法95条(錯誤)
1「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 …
判例(最判平成元年9月14日判時1336号93頁)には、譲渡所得税について勘違いをしていた事案ですが、財産分与についても錯誤無効を認める余地がある旨判示したものがあり、その差し戻し控訴審(東京高判平成3年3月14日・判タ790号108頁)は実際に錯誤無効を認めています。
6-3 対処法3:不法行為
財産分与後に財産隠しが明らかになった場合の対処法の3つ目は、不法行為に基づく損害賠償請求です。
財産分与については、除斥期間があり離婚した時点から2年間しか請求することができません。
民法第768条(財産分与)
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
つまり、離婚から2年が過ぎてしまっている場合には、対処法1又は2により解決することができません。
そのため、相手方が財産を隠していたことを不法行為として、本来財産分与として認められた可能性のある金額について損害賠償として請求していくことが考えられます。
裁判例には、妻が国債等の存在を秘したまま財産分与を行い、離婚から2年以上経った後に、これが発覚した事案において、夫が妻に対する共有持分権ないしは財産分与請求権の行使をする機会を失ってしまったことから、妻の行為は夫に対する共有持分権侵害の不法行為となるとしたものがあります(浦和地川越支判平成1年9月13日判例時報1348号124頁)。
7章 財産分与請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
財産分与請求の相談は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
財産分与請求については、財産調査のノウハウ、経験が獲得金額に大きな影響を与える分野です。
リバティ・ベル法律事務所は、離婚問題に注力しており、財産分与請求について圧倒的な知識とノウハウを持っています。
少数精鋭でご依頼を受けた一つ一つの案件について、離婚問題に強い弁護士が丁寧に向き合っているところが弊所の強みです。
財産分与請求については、ご依頼者様の負担を軽減するために初回相談無料にて対応しておりますのでお気軽にお問い合わせください。
8章 まとめ
以上のとおり、今回は、離婚に伴う財産隠しについて説明したうえで、調査の知識やノウハウについて誰でもわかるように簡単に解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・離婚の際によくある財産隠しとは、財産分与の対象となることを免れる目的で、自分名義の財産を配偶者に分からないようにすることです。
・財産隠しについては犯罪として罰することができず、民事上の問題となるにすぎません。
・一般的な財産調査の方法として実践しやすいものは以下の8つです。
方法1:通帳の取引履歴から財産を把握する
方法2:郵便物を確認する
方法3:不動産の登記を取得し抵当権者を確認する
方法4:LINEのトーク履歴を洗い出す
方法5:インターネットの検索履歴の把握
方法6:配偶者が勤務している会社の求人情報を確認
方法7:年金分割のための情報通知書を取得する
方法8:探偵や興信所に頼む
・財産を調べるための手続きとしては、以下の3つがあります。
手続1:求釈明(任意の提出を求める)
手続2:弁護士会照会(23条照会)
手続3:調査嘱託
・財産を隠そうとする際の手口としては、例えば以下の5つがあります。
手口1:ネット銀行や地方銀行への預金
手口2:親族や子ども名義の口座への預金
手口3:貸金庫
手口4:タンス預金
手口5:浪費や借入金の返済
・財産分与後に財産隠しが明らかになった場合には、以下のような対処法があります。
対処法1:再協議
対処法2:錯誤無効
対処法3:不法行為
この記事が財産を隠されてしまい困っている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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