「財産分与の割合はどのくらいが原則?」
「専業主婦の財産分与の割合はどうなるの?」
「財産分与の割合を増やす方法はある?」
離婚の話をした際に、夫から「家にある財産は俺が稼いだものだ!」などと言われていませんか?
これまで妻として献身的に支えてきたのに、このような発言をされてしまうと悲しいですよね。
実は「財産は働いてきた人のもの」という考え方は、法律では全く的外れなんです。
法律では、夫婦の財産は2分の1ずつの割合で分けることが原則です。
当然、これは専業主婦であっても変わりません。
なぜなら、夫婦の財産は、働いた人の努力だけではなく、パートナーの支えが加わって、築かれたものであるためです。
しかし、この財産分与割合の考え方や貢献度についての価値観については、全ての家庭に浸透しきっているわけではありません。
私自身専業主婦の方から財産分与の相談を受けることが多いですが、「夫が法律の考え方を理解しておらず自分の価値観に押し付けてくる」ということをよくお聞きします。
この記事をとおして、財産分与の割合の交渉において弱い立場にある方々に対して、適正な割合で財産分与を受けるために必要な知識と方法を知っていただければと思います。
今回は、離婚の際の財産分与割合の法的な考え方や交渉手順について、誰でもわかりやすく解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めばきっと適正な割合で財産分与を受けることができるはずです。
目次
1章 離婚の財産分与の割合とは
財産分与の割合とは、夫婦が離婚の際、婚姻中に築き上げた財産を度夫婦でどのような割合で分けるのかということです。
財産分与には、以下の3つの性質があります。
清算的財産分与:夫婦が婚姻中に築き上げた財産を財産形成に対する寄与度を考慮した上で分配するもの
扶養的財産分与:離婚後の生活を扶助する観点から行うもの
慰謝料的財産分与:慰謝料の支払いに関連するもの
清算的財産分与は、夫婦がこれまで婚姻中に築き上げた財産をどちらにどのくらい分けるかという問題です。
例えば、夫が婚姻中に1200万円、妻が600万円の財産を築き上げた場合に、夫婦の財産分与の割合が
①妻1:夫1の割合で分けた場合
②妻1:夫2の割合で分けた場合
を比較してみましょう。
①の場合には、妻と夫が同じ価値を有するように分与することになります。
そのため、夫から妻に対して300万円を支払い、双方が900万円ずつ有する形になるよう分与します。
②の場合には、妻と夫が1:2の割合の価値を有するように分与することになります。
そのため、夫から妻に対して財産を分与する形にはなりません。
このように、離婚の財産分与の割合は、獲得できる財産の金額にも直結しますので、財産分与をするに当たり重要な論点の1つとなるのです。
2章 離婚の財産分与の割合は2分の1ずつが原則
財産分与の割合は、実務上、婚姻期間に築き上げた財産を2分の1(5割)ずつ分けることが原則です。
なぜなら、夫と妻はそれぞれが夫婦共有財産の構築に貢献していることが一般的であるためです。
かつては、夫のみが働いていて、妻が専業主婦の場合には、裁判実務上、妻へ分与する割合を減らす内容の判断がされることもありました。
しかし、現在では、男女平等の考えが浸透していることや、夫のみが働いていて、妻が専業主婦の場合であっても、妻が家事労働を担うことで夫が労働に専念できるという風に考えられるようになりました。
そのため、財産分与の割合は、婚姻期間に築き上げた財産を2分の1(5割)ずつ分けることが原則です。
例えば、婚姻中に築き上げられた夫名義の財産が300万円・妻名義の財産が100万円であった場合には、夫から妻に対して100万円を支払い、双方が200万円ずつ有するような形に分配します。
他の例として、婚姻中に築き上げられた夫名義の財産が600万円・妻名義の財産が200万円であった場合には、夫から妻に対して200万円を支払い、双方が400万円ずつ有するような形に分配します。
また、婚姻中に築き上げられた夫名義の財産が600万円・妻名義の財産が200万円であった場合には、夫から妻に対して200万円を支払い、双方が400万円ずつ有するような形に分配します。
このように、金銭を支払う形で、夫婦双方の有する財産の価値が同等になるように分与することになります。
そのため、現在では、離婚手続きにおいては、当然財産分与の割合は、2分の1という考え方が出発点となっており、これを超える割合を獲得することができる場合は限られているのです。
ただし、実際には、夫と離婚に関する話し合いをした時に、夫の方が収入が多いことや、夫のみに収入が存在することを理由に、妻に対して分与する財産はないと言われ、困って弁護士に相談にくる方がとても多いです。
こういった場合には、裁判実務上、夫婦の間に収入の差がある場合であっても財産を2分の1ずつ分けることを伝え、説得するようにしましょう。
説得が難しい場合には、弁護士に相談したり、夫婦関係調整調停(離婚調停)をしたりすることを考えましょう。
3章 2分の1ずつにならない3つの例外|注意すべき裁判例を整理
財産分与は、財産を2分の1ずつ分けることが原則です。
しかし、下記のように例外も存在します。
例外1:特殊な才能による場合
例外2:特有財産がある場合
例外3:夫婦の一方に浪費癖がある場合
例外を把握することで、例外に該当すると主張された場合に、どう反論すべきか分かるようになります。
以下で順番に確認していきましょう。
3-1 例外1:特殊な才能による場合
夫婦の一方の特殊な才能が夫婦の財産形成に大きく貢献していたような場合には、財産分与の割合が修正されます。
裁判例年月日 |
事案 |
割合 |
平成26年3月13日大阪高判 |
医師である夫が婚姻後、医師として高額の収入を得ていた事案 |
妻4:夫6 |
平成26年10月東京高判 |
夫が婚姻後、勤務先で代表取締役社長となり、高額の収入を得ていた事案 |
妻4:夫6 |
平成12年3月8日大阪高判 |
夫が1級航海士の資格を有し、1年の半分以上海上勤務していた事案 |
妻3:夫7 |
3-1-1 夫が医師の資格により高額の収入を得ている場合
医師である夫が婚姻後、医師として高額の収入を得ていた場合では以下の事情が考慮され、財産分与の割合が修正されました。
事情1:夫の高額な収入の基礎となる特殊な技能(医師の資格)が、婚姻届出前の本人の努力によって得られていたという事情
事情2:婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたという事情
そして、財産分与の分与割合が妻4割、夫6割に修正されました(平成26年3月13日大阪高判)。
3-1-2 夫が役員になり高額の収入を得ている場合
夫が婚姻後、勤務先で代表取締役社長となり、高額の収入を得ていた場合では、以下の事情が考慮され、財産分与の割合が修正されました。
事情1:夫が婚姻中に少なくとも1億8500万円稼いでいたのみならず、退職金等も得ていたため、夫婦財産形成に大きく貢献していたという事情
事情2:妻が婚姻中に掃除等の家事を疎かにし、家庭内別居に近い状況になっていたという事情
そして、財産分与の割合が妻4割・夫6割に修正されました(平成26年10月東京高判)。
3-1-3 夫が1級航海士の資格により高額の収入を得ている場合
夫が1級航海士の資格を有し、1年の半分以上海上勤務していた場合では、以下の事情が考慮され、財産分与の割合が修正されました。
事情1:夫が高額の収入を得ていたこと
事情2:妻が夫の留守中に1人で家事・育児をしていたこと
そして、財産分与の割合が妻3割・夫7割に修正されました(平成12年3月8日大阪高判)。
3-2 例外2:特有財産がある場合
夫婦の一方の特有財産が夫婦共有財産を築き上げる際に大きく貢献しているような場合には、財産分与の割合が修正されます。
裁判例年月日 |
事案 |
割合 |
平成7年4月27日東京高判 |
夫の特有財産が夫婦共有財産を築き上げる際に大きく貢献していた事案 |
妻3割6分・夫6割4分 |
夫の特有財産が夫婦共有財産を築き上げる際に大きく貢献していた場合では、財産分与の割合が妻3割6分、夫6割4分に修正されました(平成7年4月27日東京高判)。
なお、この事例の中では、妻がゴルフ等の遊興に浪費し、夫婦共有財産の構築に貢献している度合いが少なかったことや、夫が婚姻中に存在していた別居期間の生活費や子の養育費を負担していたこと等の事情も考慮されています。
どのような財産が特有財産にあたるのかについては以下の記事で詳しく解説しています。
3-3 例外3:夫婦の一方に浪費癖がある場合
夫婦の一方が婚姻中に大きく浪費をしていた場合には、財産分与の割合が修正されます。
裁判例年月日 |
事案 |
割合 |
平成28年3月水戸家裁判 |
夫婦が共働きの状況の中、夫の方が高額の収入を得ていたにも関わらず、夫と妻名義の財産の額に大きな差が生じていた事例 |
妻7割・夫3割 |
夫婦が共働きの状況の中、夫の方が高額の収入を得ていたにも関わらず、夫と妻名義の財産の額に大きな差が生じていた(夫の財産が200万円程度で負債があったことに対し、妻の財産が1億5000万円程度存在していました。)場合において、裁判所は財産分与の割合を妻7割、夫3割に修正しました。
その理由として、夫に浪費傾向があり、その一方で妻は倹約に努め、それによって夫と妻名義の財産に大きな差が生じていたことが挙げられています(平成28年3月水戸家裁判)。
4章 ケース別!離婚の財産分与割合のポイント
一言に財産分与といっても、様々なケースが存在します。
財産分与を有利に進めるためには、ケースごとの特徴を理解することが大切です。
具体的には、財産分与のケースとしては以下の6つがあります。
ケース1:専業主婦であるケース
ケース2:夫が医師や経営者であるケース
ケース3:夫婦のどちらかに不倫(不貞)・浮気があるケース
ケース4:子どもがいるケース
ケース5:マンションがあるケース
ケース6:住宅ローンがあるケース
以下で順番に確認していきましょう。
4-1 ケース1:専業主婦であるケース
専業主婦であるケースでも、原則として財産分与の割合は2分の1ずつから変わることはありません。
夫にのみ収入が存在し、妻に収入が存在しなかった場合であっても、妻が家事労働を行っていたことで夫が労働に専念できたといえます。
そのため、妻も夫婦共有財産の構築に貢献していたといえます。
裁判所は、過去の事例でも、財産分与の割合は特段の事情がない限り、原則として2分の1ずつであると示しています。
仮に夫が自分にのみ収入があったことを理由に財産分与を拒否した場合や、財産分与の割合を多くすることを主張した場合には、実務上、妻が専業主婦であることのみを理由に財産分与の割合を変えることはないことを主張するようにしましょう。
4-2 ケース2:夫が医師や経営者であるケース
夫が医師や経営者であるケースでは、夫の収入が著しく高額で、夫の技能が夫婦共有財産構築に大きく貢献していたといえるような場合に、財産分与の割合が修正されることがあります。
もっとも、夫の収入が著しく高額であったとしても、必ずしも財産分与の割合が修正されるものではありません。
裁判実務では、財産分与の割合は2分の1ずつであることが原則とされ、夫側が財産分与の割合を変える主張をした場合には、夫側が例外だといえる事情を示さなければなりません。
しかし、夫婦が共同生活をしていた以上、夫婦の一方のみが財産形成に大きく貢献したことを示すことは容易ではありません。
そのため、夫が財産分与の割合に関する主張をした場合には、夫に大きな浪費が存在していたこと・妻が家事労働を十分に行っていたこと・経営の相談に乗っていたこと等を主張し、夫だけでなく妻も夫婦共有財産の構築に貢献していたことを主張するようにしましょう。
4―3 ケース3:夫婦のどちらかに不倫(不貞)・浮気があるケース
夫婦のどちらかに不倫(不貞)・浮気があるケースであっても、不倫(不貞)・浮気があったことのみが原因で財産分与の割合が変わることはありません。
そのため、夫に不貞(不倫)・浮気があったケースで、夫の不倫(不貞)・浮気が原因で財産分与の割合を変えるよう主張しても、認められない可能性が高いでしょう。
また、逆に不倫(不貞)・浮気をしていたケースであっても、財産分与は2分の1ずつの割合でされることが一般的です。
ただし、夫婦のどちらかに不倫(不貞)・浮気があるケースでは、財産分与に関する支払いとは別に、不貞慰謝料の支払いが発生する可能性が高いです。
そのため、夫婦の一方に不倫(不貞)・浮気がある場合には、別途慰謝料に関する主張を行う必要があります。
4-4 ケース4:子どもがいるケース
夫婦の間に子どもがいるケースであっても、財産分与の割合は変わりません。
子どもがいる場合、子どもを養育するために費用が必要になるため、財産分与を多くもらいたいという気持ちになるかもしれません。
しかし、財産分与は夫婦が婚姻生活で築き上げた財産を夫婦の間で分配する手続きであるため、子どもがいた場合であっても、別途子どもの分を分与するということにはなりません。
そのため、子どもの親権者となった方が財産分与の割合が大きくなることも原則としてありません。
子どもを養育するための費用は、養育費を取り決めることで解決します。
4-5 ケース5:マンションがあるケース
夫婦が婚姻中、マンション等の不動産を購入した場合であっても、財産分与の割合は変わりません。
不動産も財産分与の対象になります。
もっとも、1つの不動産を夫婦2人の名義にする形で分けることは少なく、お勧めできません。
なぜなら、1つの不動産を夫婦2人の名義にすると、不動産の管理も2人でしなければなりません。
しかし、不動産をどうしていくかということについて双方の意見が合わずに、トラブルになってしまうことが非常に多いからです。
そのため、1つの不動産を夫婦2人の名義にする形で分けることはしないことが多いです。
不動産を財産分与する時には、不動産の査定価格の金額として計算することが一般的です。
具体的には、夫名義の不動産の査定価格が1000万円で、ローンもない場合には、夫が不動産を取得し、その代わりに妻に500万円を支払う形にします。
このように、夫婦で婚姻中に購入した不動産を分ける場合には、夫婦の一方が不動産を取得し、もう一方に金銭を支払う形で、お互いが有する価値が同程度になるように清算します。
4-6 ケース6:住宅ローンがあるケース
夫婦が婚姻中に不動産を購入した場合で、かつ、購入した不動産の住宅ローンがまだ残っている場合でも、財産分与の割合は変わりません。
なぜなら、住宅ローンがあるケースでは、夫婦が築き上げた財産から住宅ローンを差し引く形で財産分与の対象になる金額を計算するためです。
具体的には、夫名義の財産が2000万円、夫名義の住宅ローンが1000万円存在していた場合には、1000万円が財産分与の対象になります。
そのため、住宅ローンがあるケースでも財産分与の割合自体は変わりません。
なお、不動産に住宅ローンが存在する場合、住宅ローンの名義人が離婚後も住宅ローンを支払う義務を負います。
そのため、住宅ローンの名義人でない場合には、財産分与によって住宅ローンの支払い義務まで分与されてしまうということはありません。
5章 離婚の財産分与の割合を増やす3つの手順
財産分与を有利に進めるには、財産分与の割合について十分な知識を有することが大切です。
財産分与の割合を増やすことで、財産分与を有利に進めることができます。
具体的には、以下の3つの手順があります。
手順1:法律の考え方や自分の貢献度を説明する
手順2:調停を申し立てる
手順3:裁判を提起する
以下で順番に確認していきましょう。
5-1 法律の考え方や自分の貢献度を説明する
離婚について話し合いをしている時に、夫から財産分与の割合を少なくする・無くすような発言があった場合には、財産分与は原則として2分の1ずつ行うことが一般的であることを伝えるようにしましょう。
また、夫が自身の稼ぎで夫婦共有財産を構築したことを理由に財産分与の割合を変更しようとするときには、自分も夫婦共有財産の構築に貢献していたことをしっかりと伝えるようにしましょう。
5-2 調停を申し立てる
夫婦間の話し合いで財産分与の割合について合意ができなかった場合には、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚調停)を申し立てるようにしましょう。
調停手続きには、以下のようなメリットがあります。
メリット1:中立な立場である調停員が、夫婦で合意可能な離婚条件の調整に協力してくれます。
メリット2:調停員は、裁判実務上、財産分与が2分の1ずつの割合で行われることを知っています。そのため、夫が実務と異なる財産分与の割合を主張している場合には、調停員から夫を説得することが期待できます。
そのため、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚調停)を申し立てることも考えましょう。
5-3 裁判を提起する
夫婦関係調整調停を申し立てたものの、財産分与の割合について合意できなかった場合には、離婚裁判を提起することになります。
裁判には、以下のようなメリットがあります。
メリット:夫婦の間で合意ができない点も裁判官が判断してくれます。
ただし、以下のような注意点もあります。
注意点:裁判官がこちらにとって有利な判断をしてくれるよう、事情を主張する必要があります。
具体的には、夫が財産分与の割合を変更することを主張してきた場合には、夫が婚姻中に夫婦共有財産の構築に大きく貢献したとまではいえないことや、自身も婚姻中に夫婦共有財産の構築に十分貢献していたことを主張していく必要があります。
そのため、離婚調停で合意ができなかった時には、離婚裁判をすることも考えましょう。
6章 財産分与の相談はリバティ・ベル法律事務所へ
財産分与の割合や、財産分与そのものについて不安があるという方は、ぜひ、リバティ・ベル法律事務所にご相談ください。
財産分与の割合に関する主張をどうするか等について、予め弁護士に相談しておくと安心です。
また、弁護士に依頼することで、離婚調停の中で判例の考えを元にした主張を行うことも可能です。
リバティ・ベル法律事務所では、離婚分野に注力しており、財産分与の進め方や、主張すべき内容について十分なノウハウを有しております。
初回相談は無料なので、お気軽にご相談ください。
7章 まとめ
以上のとおり、今回は、離婚の財産分与割合は2分の1ずつが原則であることや、財産分与に関する重要裁判例3つをご説明しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・財産分与の割合は原則2分の1ずつです。
・財産分与の割合が変わる例外としては以下の3つがあります。
例外1:特殊な才能による場合
例外2:特有財産がある場合
例外3:夫婦の一方に浪費癖がある場合
・専業主婦であるという理由だけで財産分与の割合が減らされることはありません。
この記事が財産分与の割合について悩んでいる方の助けになれば幸いです。
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