誠実協議条項について知りたいと悩みを抱えていませんか?
誠実協議条項は契約書の最後に記載されるので、見落としてしまっている会社もあるのではないでしょうか。
誠実協議条項とは、当事者が予期していない事項について抽象的に紛争解決方法を規定するものです。
例えば、契約書の最後に以下のように規定されていることがあります。
本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項については、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、円満に解決するものとする。
誠実協議条項はこのように抽象的に規定しているにすぎず、条項自体に具体的な法的効力はありません。
誠実協議条項を規定しても紛争解決機能を果たせないので、契約書に規定する意味は薄いとされています。
しかし、日本では誠実協議条項を契約書に入れてきたという事実があり、実際の取引において目にする機会が多いです。
そのため、誠実協議条項を入れることは慣習に倣うという意味合いがあり、交渉を円滑に進められる可能性があるのです。
今回は、誠実協議条項の法的意味を説明したうえで注意点について解説していきます。
具体的には以下の流れで解説していきます。
この記事を読めば、誠実協議条項についてよくわかるはずです。
目次
1章 誠実協議条項とは?法的な意味と効力
誠実協議条項とは、当事者が予期していない事項について抽象的に紛争解決方法を規定するものです。
例えば、契約書に定めていない事項や文言の解釈に疑義が生じる場合に備えて、誠実協議条項を規定することがあります。
もっとも、抽象的な規定にすぎないことから、契約書に定めたとしても具体的な法的拘束力をもちません。
トラブルが発生した場合に、誠実協議条項を解決の指針として機能させることが難しいのです。
このような側面から、契約書に誠実協議条項を定める意味がないと捉えられることもあります。
しかし、場合によっては誠実協議条項を契約書に盛り込むことが重要になる場合もあります。
なぜなら、日本の取引実務においては誠実協議条項が盛り込まれてきたという事実があるためです。
取引慣習によって会社間の信頼関係が構築され、慣習に倣うことで交渉を円滑に進められる場合もあるのです。
ただし、誠実協議条項を入れる場合には、他の条項をより明確にしておくなど注意点があるので気を付ける必要があります。
誠実協議条項は、一般条項として契約書の最後に規定されることが一般的です。
しかし、独立した条項ではなく個別の条項に付け足す形で規定されることもあります。
この規定方法は、主に交渉段階で内容が詰められていない場合や、民法に従うと規定しにくい場合に用いられる傾向にあります。
実際の取引では、時間的な制限に加え当事者間の交渉力に差がある場合もあり、詳細な条項を定めることが難しい場合もあるためです。
そのため、誠実協議条項の規定方法は場面ごとに使い分けて用いることが望ましいです。
2章 誠実協議条項は入れる意味がない?契約書に記載する理由2つ
誠実協議条項には法的効力がないことから、契約書に入れる意味がないとされるケースもあります。
法的効力のない誠実協議条項を契約書に記載する理由としては、以下のものが考えられます。
理由2:前例に倣うため
それでは順番に説明していきます。
2-1 理由1:交渉を円滑にするため
誠実協議条項を契約書に記載する理由1つ目は、交渉を円滑にするためです。
日本においては、取引慣習から誠実協議条項を契約書に定めることが多い傾向にあります。
これは、当事者間の信頼関係を前提に、条項を詳細に規定せず有事の際は信頼関係に従って解決することが慣習とされていたためです。
蓄積されてきた慣習は取引秩序を構築し、規定の有無が契約の迅速性などにも影響してきます。
例えば、従来は誠実協議条項を定めていたにもかかわらず、急に誠実協議条項を削除した場合、相手方は他の条項に変更がないか慎重に確認を行うはずです。
契約書の条項は法的効力を有することから、変更がある場合には不利益を被らないように各条項をチェックする必要があるためです。
各条項のチェックは即座にできるものではなく、万全を期すためには会社の法務担当者や弁護士に依頼しなければなりません。
誠実協議条項を削除したことで契約書をチェックする時間がさらに伸びてしまい、契約の迅速性を欠くおそれがあるのです。
そのため、従来から誠実協議条項を規定していた場合などには、交渉を円滑に進めるために誠実協議条項を設けることがあります。
2-2 理由2:前例に倣うため
誠実協議条項を契約書に記載する理由2つ目は、前例に倣うためです。
前例に倣うことには、様々なメリットがあります。
契約書内における条項の変更は、関係者によるチェックが必要となり手続的なコストがかかりますが、従来通りであればチェックは最小限で済みます。
他にも、相手会社と継続的な取引関係にある場合、契約の内容に変更がなければ取引を迅速に進めることができます。
これは、誠実協議条項のような一般条項の場合も同様であり、コストを最小限に抑えるためには前例に倣い手続を短縮することが望ましいでしょう。
ただし、前例を踏襲するかは相手会社との関係を踏まえて個別具体的に判断しなければならないことには注意が必要です。
誠実協議条項として定められる一般的な内容は、具体的な法的効力を有しません。
しかし、法的効力がないのは内容が抽象的にとどまっているからであり、具体的に条項を規定すれば法的効力をもたせることも可能です。
例えば以下のように規定することが考えられます。
第○条(誠実協議条項)
1 本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項については、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、円満に解決するものとする。この場合、協議の申込方法は書面による。
2 甲及び乙は、相手方の書面を受け取った場合、〇日以内に回答しなければならない。
3 前項の回答がない場合、協議の申込者は、調停を申立てることができる。この場合、調停の費用は相手方の負担とする。
調停は、当事者間における話し合いによって紛争解決を図るための手段であり、法的紛争が発生した場合に用いられます。
調停の申立てに関する手続の費用は、訴訟と比較すると低額ではあるものの、申し立てる側が負担しなければなりません。
しかし、先にみたような条項がある場合には、相手方の負担の下で調停の手続を進めることができます。
そのため、誠実協議条項に法的効力をもたせたい場合は、条項の内容を具体的に規定することが望ましいといえます。
3章 誠実協議条項のひな形【無料・英語対応】
誠実協議条項のひな形は以下のとおりです。
【誠実協議条項(通常の条項)】
本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項については、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、円満に解決するものとする。
【誠実協議条項(個別条項に付け加える場合)】
1 ●●●●
2 ●●●●
3 甲及び乙は、本条に定めのない●●について、信義誠実の精神に基づく協議の上、別途定めるものとする。
【誠実協議条項(英語)】
Any matters not addressed in this Agreement and difference in interpretation herein shall be settled upon consultation in good faith between the parties.
(訳)
本契約に定めのない事項および本契約における解釈の相違は、当事者間の誠意ある協議により解決されるものとする。
4章 誠実協議条項を契約書に入れる場合の注意点3つ
誠実協議条項は紛争解決能力に乏しいため、定めたとしても実効性を有しないことがあります。
ここでは、誠実協議条項を契約書に入れる場合の注意点を解説していきます。
注意点2:トラブルが生じた場合に協議するのは難しい
注意点3:英文契約書に入れる場合は慎重に
それでは順番に説明していきます。
4-1 注意点1:契約書全体の条項を具体的に
誠実協議条項を契約書に入れる場合の注意点1つ目は、契約書全体の条項を具体的にすることです。
誠実協議条項には法的効力がないことから、契約書に定めても紛争解決の指針にできないことがあります。
詳細な条項を定めることが難しいからといって、誠実協議条項に丸投げすると不利益を被るおそれがあるのです。
例えば、損害の範囲などを曖昧にしたまま誠実協議条項を定めても、協議においてはどこまでが損害に含まれるか争いとなるおそれがあります。
そのため、誠実協議条項を定める場合、トラブルの拡大防止を図るためにも、実際に適用される他の条項をより具体的に定めておくことが重要となります。
他の条項の修正方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
4-2 注意点2:トラブルが生じた場合に協議するのは難しい
誠実協議条項を契約書に入れる場合の注意点2つ目は、トラブルが生じた場合に協議するのは難しいことです。
取引実務においては、契約書に定めのないトラブルが生じることもあります。
この場合、誠実協議条項に従い当事者間の協議によって円満に解決することになります。
しかし、契約書に定めのない事項を協議する場合、言った言わないの水掛け論になることが多い傾向にあります。
また、トラブルによって当事者の対立関係が深まると、直接の話し合いができないことも考えられます。
そのため、誠実協議条項を定めたとしても、円満な解決を図れないこともあるので注意が必要です。
トラブルの拡大を防止したい場合、誠実協議条項の内容を具体的にするなど、より実効性の高い内容にしておくことが望ましいです。
4-3 注意点3:英文契約書に入れる場合は慎重に
誠実協議条項を契約書に入れる場合の注意点3つ目は、英文契約書に入れる場合は慎重にすることです。
海外の企業と取引をする場合、誠実協議条項を入れるかの判断は慎重に行う必要があります。
日本では誠実協議条項を契約書に入れることが一般的とされています。
しかし、海外では日本と異なり誠実協議条項を入れることが一般的とはいえません。
これは、判例の蓄積による法体系を基礎にしていることから、成文法がない場合に備えて契約書は網羅的に規定する必要があるためです。
そのため、海外企業と取引する場合には、誠実協議条項を入れるかどうかは慎重に判断しなければならないといえます。
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6章 まとめ
今回は、誠実協議条項の法的意味を説明したうえで注意点について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・誠実協議条項とは、当事者が予期していない事項について抽象的に紛争解決方法を規定するものです。
・誠実協議条項を契約書に記載する理由は以下の2つです。
理由1:交渉を円滑にするため
理由2:前例に倣うため
・誠実協議条項のひな形【無料・英語対応】は以下のとおりです。
【誠実協議条項(通常の条項)】
本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項については、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、円満に解決するものとする。
・誠実協議条項を契約書に入れる場合の注意点は以下の3つです。
注意点1:契約書全体の条項を具体的にする
注意点2:トラブルが生じた場合に協議するのは難しい
注意点3:英文契約書に入れる場合は慎重に判断する
この記事が誠実協議条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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