秘密保持契約書の作り方がわからないと悩みを抱えていませんか?
実際に秘密が漏れてしまうことは少ないでしょうから、あまり必要性を感じていないという会社もあるのではないでしょうか。
以下のような場合には、秘密保持契約を締結し、秘密保持契約書を作成しておくことをおすすめします。
・他社と業務提携する場合
・他社に製造委託する場合
・第三者と共同事業を行う場合
これらの場合、会社の秘密を開示することが多く秘密漏洩によるリスクが高いためです。
秘密の漏洩によって、他社からの信頼や会社の競争力が低下するおそれがあります。
例えば、秘密保持契約が締結されていない場合、会社の秘密が漏洩された場合に秘密情報の利用停止や損害賠償請求することが難しくなってしまいます。
他方で、秘密保持契約を締結している場合、不正競争防止法の営業秘密に該当すれば法的措置を執りやすくなるのです。
そのため、会社の利益保護のためにも、秘密保持契約を締結し秘密の内容を明らかにしておくことが重要となります。
今回は、秘密保持契約書の雛形を紹介したうえで、各条項のチェックポイントについて解説していきます。
具体的には以下の流れで解説していきます。
この記事を読めば、秘密保持契約書の作り方がよくわかるはずです。
目次
1章 秘密保持契約書の雛形【無料・テンプレート・WORDファイル付き】を紹介!
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2章 秘密保持契約書(NDA)とは?
秘密保持契約書とは、相手方に開示する秘密情報について、管理方法や禁止事項を定めることで秘密の流出や悪用を防止するための合意を書面にしたものをいいます。
秘密保持契約を英語にすると、Non-Disclosure Agreementになることから、NDAと呼ばれることもあります。
顧客の情報や商品の製造方法などは、秘密情報にあたるので開示されないのが通常です。
しかし、会社が事業活動を行うには、従業員や第三者と関係をもつことが不可欠であり、秘密を開示する必要があります。
この場合、開示された者が秘密情報を無制限に広めると、会社に悪影響をもたらしてしまいます。
例えば、顧客の個人情報流出により会社の信用が落ちてしまったり、競合他社へのリークにより競争力が低下することが悪影響として挙げられます。
会社の利益を損なわないためにも、秘密保持契約を締結して開示された者の行動を制限する必要があるのです。
そのため、会社の事業活動を円滑に進めるうえで、秘密保持契約を締結することは重要といえます。
3章 条項別!秘密保持契約書における条項の加筆・修正・削除方法を解説
秘密保持契約書の雛形は、最低限必要な事項を記載したにすぎず、個別の事案に則して修正する必要があります。
ここでは、条項別に秘密保持契約書における条項の修正方法を解説していきます。
条項2:秘密情報の定義
条項3:秘密情報の管理
条項4:秘密情報の取扱い
条項5:秘密保持義務の例外
条項6:秘密情報の帰属
条項7:秘密情報の返還
条項8:損害賠償義務
条項9:有効期間
条項10:協議事項
条項11:合意管轄
それでは順番に説明していきます。
3-1 条項1:契約の目的
秘密保持契約書の条項1つ目は、契約の目的です。
【通常の条項】
甲及び乙は、○○を目的として、それぞれ必要と認められる範囲において、相手方に対して秘密情報を開示する。
【開示者側‐修正】【受領者側‐修正】
修正なし。
秘密保持契約は、雇用契約や業務提携など様々な場面で締結されます。
契約の適用基準は場面によって異なりますが、秘密保持契約の適用について契約の目的が基準になることがあります。
また、雛形の第3条2項では目的外使用の禁止を定めており、秘密保持義務の内容を明らかにするためにも定める必要性が高いです。
そのため、秘密保持契約では、契約の目的を明らかにしておくことが重要となります。
3-2 条項2:秘密情報の定義
秘密保持契約書の条項2つ目は、秘密情報の定義です。
【通常の条項】
第2条(秘密情報の定義)
1 本契約において、「秘密情報」とは、方法を問わず、相手方により開示された業務上の一切の情報をいう。
2 第1項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当するものは秘密情報に該当しない。
(1)開示される以前から公知であった情報
(2)開示された後に、自己の責めに帰すべき事由によらずに公知となった情報
(3)開示される以前から保有していた情報
(4)正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに取得した情報
(5)相手方から書面により秘密保持義務を旨の承諾を得た情報
【開示者側‐修正】
1 本契約において、「秘密情報」とは、相手方により開示された業務上の情報のうち、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
(1)●●●●
(2)●●●●
(3)その他、本契約を遂行する際に知り得た業務に関する一切の情報
【受領者側‐修正】
1 本契約において、「秘密情報」とは、方法を問わず、相手方により開示された業務上の情報であり、かつ、相手方が開示の際に書面によって秘密である旨を指定した情報をいう。
【別紙に規定する場合】
本契約において「秘密情報」とは、別紙のとおり規定する。
第1項について、秘密保持契約を締結する場合、秘密保持義務の範囲を明確にするために秘密情報の定義を規定する必要があります。
情報を開示する側は、対象となる秘密に漏れが生じないようにするため、包括的に規定することが望ましいです。
ただし、包括的な規定は当事者間における認識のズレから、トラブルが生じるおそれがあるので注意が必要です。
また、ノウハウ等を開示する場合には、秘密の範囲を具体的に特定するために、例示列挙することもあります。
他方で、受領者側は、対象となる秘密の範囲に限定を加えて負担を軽減することが考えられます。
秘密の範囲を限定する場合、秘密を指定する方法が不明確だとトラブルになるおそれがあります。
例えば、口頭で説明した内容について後から秘密にあたるとして争われた場合、義務の範囲が拡大して予期しない不利益を被るおそれがあります。
そのため、秘密を特定する場合、秘密の範囲と限定する方法を明らかにしておくことが望ましいです。
他にも、秘密について詳細に定めるために別紙に規定することがあり、その場合には別紙に規定する旨を明らかにすることになります。
第2項については、秘密情報の範囲を定める場合、秘密情報の除外事由を定めておくことが一般的とされています。
第2項各号の事由は、実務においてよく用いられているものを列挙しています。
3-3 条項3:秘密情報の管理
秘密保持契約書の条項3つ目は、秘密情報の管理です。
【通常の条項】
1 甲及び乙は、相手方により開示された秘密情報を、善良なる管理者の注意をもって厳重に保管、管理する。
2 甲及び乙は、相手方により開示された秘密情報を、第1条に規定する目的以外に使用してはならない。
3 甲及び乙は、事前に相手方の承諾を得た場合を除き、秘密情報の全部又は一部を複製又は複写してはならない。
【開示者側‐修正】
1 略(変更なし)
2 甲及び乙は、相手方により開示された秘密情報を、第1条に規定する目的以外に使用してはならない。ただし、受領者が、開示者と別途契約を締結し、又は書面による承諾を得た場合はこの限りでない。
3 甲及び乙は、事前に相手方の承諾を得た場合を除き、秘密情報の全部又は一部を複製又は複写してはならない。秘密情報を複製する場合、相手方は複製物についても、秘密情報と同様の義務を負う。
秘密の範囲を定めた場合、その秘密保持義務の程度や管理方法についても定めておく必要があります。
第1項について、情報漏洩を防止する観点から相手方に善管注意義務を負わせることが考えられます。
第2項について、義務の範囲を明確にするという秘密情報の趣旨からすると、開示者は受領者による第1条で定めた目的以外の使用を禁止しておくことが一般的です。
もっとも、契約の有効期間中に事情が変更することもあり、受領者が一定の場合に目的外使用できる旨を定めることもあります。
第3項について、秘密情報の受領者が秘密情報を複製又は複写することは、原則として自由とされています。
しかし、開示者は、情報の秘匿性が高い場合、情報管理を徹底させるために秘密情報の複製・複写について制限を設けておくことが望ましいです。
また、秘密情報を複製する場合に備えて、複製物に関する義務を定めておくことも考えられます。
3-4 条項4:秘密情報の取扱い
秘密保持契約書の条項4つ目は、秘密情報の取扱いです。
【通常の条項】
甲及び乙は、事前に相手方から承諾を得た場合を除き、秘密情報を第三者に開示してはならない。この場合、第1条に規定する目的を遂行するために必要な範囲で開示するものとする。
【開示者側‐修正】
1 甲及び乙は、事前に相手方から承諾を得た場合を除き、秘密情報を第三者に開示してはならない。この場合、第1条に規定する目的を遂行するために必要な範囲で開示するものとする。
2 甲及び乙は、自己の役員及び従業員に開示する場合も第1項と同様とする。
3 第2項の規定により、自己の役員又は従業員に秘密情報を開示する場合、甲及び乙は、当該役員又は従業員に対して本契約と同等の義務を負わせるものとし、かつ、当該役員又は従業員の行為について責任を負うものとする。
秘密情報の取扱いは、秘密情報を第三者に開示する場合に備えた規定です。
秘密情報の取扱いについて、開示する側は、秘密情報をみだりに公開されると秘密保持契約の目的を達成できないため、開示の範囲を制限することが望ましいです。
また、秘密情報を会社の従業員にも開示する場合があり、その場合には開示する従業員の範囲を明らかにしておくことが重要となります。
しかし、目的とは無関係の役員と従業員に開示することは適切でないため、開示の範囲を関係者に限定することが考えられます。
そのため、役員や従業員に開示する場合、情報の管理を徹底させるために役員と従業員に同様の義務を負わせたうえで、受領者の義務を加重することがあります。
3-5 条項5:秘密保持義務の例外
秘密保持契約書の条項5つ目は、秘密保持義務の例外です。
【通常の条項】
甲及び乙は、裁判所による命令、その他の法令に基づいて開示が義務付けられる場合、必要な範囲において秘密情報を開示することができる。この場合、甲及び乙は、開示する前に相手方に通知するものとする。
【詳細な条項】
1 甲及び乙は、裁判所による命令、その他の法令に基づいて開示が義務付けられる場合、必要な範囲において秘密情報を開示することができる。この場合、甲及び乙は、開示する前に相手方に通知するものとする。
2 甲及び乙は、弁護士、税理士、公認会計士その他これに準ずる法律上の守秘義務を負う者に対して、本契約に関して相談、依頼するために、秘密情報を開示することができる。
法律の規定上、一定の場合には開示が義務付けられる場合もあるので、開示についての例外規定を設けることが一般的です。
その際、開示の範囲は、情報漏洩防止の観点から必要な範囲に限定しておくことがポイントです。
また、会社の事業活動では、契約書のチェックなどを行うため専門家に契約書を開示することがあります。
法律上の守秘義務を負っている弁護士等に開示する場合、情報漏洩のリスクは低いと考えられます。
そのため、開示者と受領者は、確認的に法律上の守秘義務を負う者への開示を認めておくこともあります。
3-6 条項6:秘密情報の帰属
秘密保持契約書の条項6つ目は、秘密情報の帰属です。
【通常の条項】
1 本契約によって開示された秘密情報は、各開示者に帰属するものとする。
2 甲及び乙は、秘密情報の開示により、特許権、商標権、実用新案権、著作権その他のいかなる知的財産権も譲渡されるものではなく、使用許諾その他いかなる権限も与えられるものではないことを確認する。
【受領者側‐修正】
本契約によって開示された秘密情報の帰属は、別途締結した取引契約の定めに従うものとする。
秘密情報を開示した場合、トラブルを避けるためにも、開示による法的効果を明らかにしておく必要があります。
開示は、その言葉の通り情報を公開するものにすぎず、受領者に何らかの権限を与えるものではありません。
そのため、秘密情報を開示したとしても、秘密情報の帰属先と、秘密情報に関連する権利を与えていないことについて確認的に明らかにしておくことが望ましいです。
他方で、受領者は秘密保持契約を締結する段階では、権利帰属先の判断ができないこともあり得ます。
この場合、予期しない権利移転を避けるために、秘密保持契約に続く取引契約の中で定めるとすることが考えられます。
3-7 条項7:秘密情報の返還
秘密保持契約書の条項7つ目は、秘密情報の返還です。
【通常の条項】
甲及び乙は、本契約が終了した場合、又は相手方から要求があった場合は、相手方の指示に従い、秘密情報を返還・廃棄・消去するものとする。
【開示者側‐修正】
甲及び乙は、本契約が終了した場合、又は相手方から要求があった場合は、相手方の指示に従い、秘密情報(第3条3項に基づき複製されたものがある場合はその複製物を含む。)を返還又は廃棄するものとする。この場合、返還又は廃棄した者は、相手方にその旨を通知するものとする。
契約が終了した場合、開示した秘密情報を放置していると情報漏洩のリスクがあり、秘密情報の扱いについて明らかにしておく必要があります。
他方で、契約期間中であっても、情報漏洩防止の観点から、不要となった秘密情報については開示者側から返還又は廃棄の指示ができるようにしておくことが重要となります。
また、複製物についても、開示された場合のリスクに変化はないことから、同様に複製物について返還又は廃棄できるようにしておくことが望ましいです。
3-8 条項8:損害賠償義務
秘密保持契約書の条項8つ目は、損害賠償義務です。
【通常の条項】
甲及び乙は、本契約に違反したことにより、相手方に損害を与えた場合、相手方に対し損害(相手方の弁護士費用を含む。)を賠償するものとする。
【開示者側‐修正】
1 甲及び乙は、本契約に違反したことにより、相手方に損害を与えた場合、相手方に対し全ての損害(相手方の弁護士費用や逸失利益を含むがこれに限定されない。)を賠償するものとする。
2 甲及び乙は、相手方が本契約に違反し、又は違反するおそれがある場合、秘密情報の使用の差止めを申し立てることができ、受領者はこれに従うものとする。
【受領者側‐修正】
甲及び乙は、本契約に違反したことにより、相手方に直接の損害を与えた場合、相手方に対し合理的な範囲において損害(相手方の弁護士費用を含む。)を賠償するものとする。
秘密保持契約も契約であるため、義務に反して相手方に損害を与えた場合、その損害を賠償しなければなりません。
例えば、秘密情報が漏洩してしまった場合には、これによって生じた損害を賠償することになります。
しかし、秘密保持契約書に損害賠償の規定がない場合でも、民法の規定に従って損害賠償請求することができます。
そのため、損害賠償規定に実行性をもたせるためには、損害賠償義務だけでなく、賠償の範囲まで明らかにしておくことが重要となります。
賠償の範囲を規定している民法416条は、任意規定であることから当事者の意思に従って修正することができます。
開示者は、情報漏洩を防止させその管理を徹底させる観点から、損害賠償の範囲を広くすることで契約の実効性を強めることが考えられます。
また、秘密が漏洩した場合に拡散するのを防ぐためにも、差止めできる旨を定めておくことが望ましいです。
他方で、受領者は直接の損害に限定するなど、賠償責任を軽減することが考えられます。
秘密保持契約においては、契約の解除を定めないことが望ましいです。
契約が解除されると、過去に遡って契約の効力が無効となります。
秘密保持契約が解除されてしまうと、受領者が秘密保持契約の効力から逃れてしまうおそれがあるためです。
そのため、秘密保持契約においては、秘密保持義務を遵守させるためにも契約の解除を規定しないことが望ましいといえます。
3-9 条項9:有効期間
秘密保持契約書の条項9個目は、有効期間です。
【通常の条項】
本契約に基づく権利義務は、甲乙間の取引関係が終了した後も○年間存続するものとする。
【受領者側‐修正】
本契約の有効期間は、本契約締結日から○年間とする。
【詳細な条項】
1 ●●●●
2 前項の規定にかかわらず、本契約終了後であっても、第4条(秘密情報の取扱い)、第8条(損害賠償義務)、第11条(合意管轄)の規定は存続するものとする。
有効期間は、契約の効力が存続する期間を定めるものです。
開示者としては、情報漏洩のリスクを少しでも減らすために、効力を契約の終了後も長期間存続させるか、有効期間を設けず限定しない傾向にあります。
有効期間を設けない場合でも、直ちに公序良俗に反するとされるおそれは小さく、争いが生じた場合には秘密保持義務の必要性などを考慮して効力が判断されるためです。
しかし、契約終了後にいつまでも義務を負うとすれば、保管しなければならない受領者の負担が過度なものになります。
受領者としては、負担を軽減するために契約の有効期間を限定することが考えられます。
また、秘密保持契約の中には受領者に競業避止義務を課すこともあり、長期間義務を負うとすれば受領者の自由な経済活動が制限されてしまいます。
競業避止義務が長期間に及ぶ場合、必要な制限を超えた部分は、公序良俗に反して無効と判断されるおそれもあります(大阪地判平3.10.15)。
そのため、競業避止義務を課す場合には有効期間を無制限とすることは現実的ではなく、ある程度限定しておくことが望ましいです。
ただし、契約終了後にトラブルが発生することもあり、開示者と受領者は、これに備えて一部の重要な規定は存続させておくことも考えられます。
3-10 条項10:協議事項
秘密保持契約書の条項10個目は、協議事項です。
【通常の条項】
本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項については、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、円満に解決するものとする。
【開示者側‐修正】【受領者側‐修正】
修正なし。
協議事項は、当事者が予期していなかった紛争について、抽象的に解決方法を規定するものです。
しかし、あくまでも抽象的な規定にとどまり、当事者に具体的な権利義務を課すものではありません。
そのため、協議事項は紛争解決の実効性に乏しく、紛争解決の指針にすることはできないので注意が必要です。
3-11 条項11:合意管轄
秘密保持契約書の条項11個目は、合意管轄です。
【通常の条項】
本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
【開示者側‐修正】【受領者側‐修正】
修正なし。
合意管轄は、当事者間に紛争が生じた場合に、どこの裁判所に訴訟提起するかをあらかじめ当事者間で決めておくものをいいます。
秘密保持義務違反によって損害賠償請求をする場合、被告の本店所在地か、義務履行地を管轄する裁判所に訴訟を提起することになります(民事訴訟法4条1項、5条1号)。
しかし、契約書に異なる合意管轄が定められていた場合、その裁判所に訴訟を提起しなければなりません。
契約書チェックの段階で見逃してしまうと、予期せぬ負担となるおそれがあります。
訴訟提起の負担を軽減するためにも、合意管轄の内容を慎重に確認することが望ましいです。
契約書においては、専属的合意管轄を定めることが一般的とされています。
専属的合意管轄とは、合意管轄条項で定めた裁判所以外への提訴を認めない旨の当事者間の合意をいいます。
合意管轄を定める場合、以下の事項に注意する必要があります。
・第一審しか合意管轄を定められない(民事訴訟法11条1項)
・書面で合意する(民事訴訟法11条2項)
合意管轄については以下の記事で詳しく解説しています。
4章 秘密保持契約締結の流れ3つ
秘密保持契約書内容は当事者を拘束することから、不利益にならないよう慎重に行う必要があります。
ここでは、秘密保持契約締結の流れについて解説していきます。
流れ2:秘密保持契約書の内容を確認し合意する
流れ3:署名・記名押印をする
それでは順番に説明していきます。
4-1 流れ1:秘密保持契約書の雛形を作成または確認をする
秘密保持契約締結の流れ1つ目は、秘密保持契約書の雛形を作成または確認することです。
秘密保持契約を締結する場合、まずは当事者で契約内容について協議します。
協議が終了したら、その内容を秘密保持契約書に落とし込むことになります。
この際、当事者のいずれかが秘密保持契約書の草案を作成し相手方に提出します。
実務では、情報を開示する側が秘密保持契約書の草案を作成していることが多いです。
草案を受け取った側は、その内容を確認することになります。
4-2 流れ2:秘密保持契約書の内容を確認し合意する
秘密保持契約締結の流れ2つ目は、秘密保持契約書の内容を確認し合意することです。
草案を受け取った場合、法的リスクや事業リスクがないかをチェックする必要があります。
相手方が草案を作成した場合、その内容は相手方の利益を追求したものになっていることが多いです。
自社が不利にならないよう草案の内容を修正する必要があるのです。
草案のチェックには、自社の法務担当者か外部の弁護士に依頼することが一般的です。
自社の法務担当者であれば事業の実情を熟知しているので迅速に内容をチェックでき、外部の弁護士であれば客観的に適確なアドバイスをしてくれるでしょう。
草案のチェックが終わったら、内容を修正したうえで相手方に返送することになります。
相手方が修正した内容に合意すれば、その内容で秘密保持契約を締結することになります。
4-3 流れ3:署名・記名押印をする
秘密保持契約締結の流れ3つ目は、署名・記名押印することです。
秘密保持契約書は、当事者が署名・記名押印したものを各1通ずつ保管することになります。
契約書が複数ページに及ぶ場合は、内容の改竄を防止するためにすべてのページの見開き部分に契印をします。
ただし、ページ数が多い場合はすべての見開き部分に契印をすることは難しいため、製本テープを用いることが望ましいです。
製本テープを用いた場合、帯・表表紙・裏表紙にそれぞれ契印をすることになります。
契約書が2部以上にわたる場合は、契約書の同一性を証明するために割印をします。
また、秘密保持契約は取引の前提として締結される傾向にあり、できる限り迅速にしたいと考えるのが通常です。
電子契約サービスでは対面でのやり取りや署名押印が不要なので、企業規模を問わず秘密保持契約の締結においてよく利用されています。
そのため、負担の軽減や迅速性を重視したい場合、電子契約サービスの利用をおすすめします。
5章 秘密保持契約書作成する場合の注意点3つ
秘密保持契約書は、重要な事項を定めていないと実行性に欠けてしまうため慎重に作成する必要があります。
ここでは、秘密保持契約書を作成する場合の注意点を解説していきます。
注意点2:保護対象となる秘密が特定されているか
注意点3:秘密保持期間が定められているか
それでは順番に説明していきます。
5-1 注意点1:秘密保持契約を締結する目的が明らかになっているか
秘密保持契約書を作成する場合の注意点1つ目は、秘密保持契約を締結する目的が明らかになっているかです。
秘密保持契約の目的は、当事者の目標としての機能だけでなく、契約の適用範囲など重要な事項に影響してきます。
例えば、「業務提携のため」「共同研究のため」といった契約の目的により、開示すべき秘密の範囲や性質は異なってきます。
また、目的が不明確だと、受領者による目的外使用の判別が難しくなるおそれもあります。
そのため、秘密保持契約書を作成する場合、まずは契約の目的を明らかにしておくことが重要となります。
5-2 注意点2:保護対象となる秘密が特定されているか
秘密保持契約書を作成する場合の注意点2つ目は、保護対象となる秘密が特定されているかです。
秘密保持契約では、秘密の受領者に秘密保持義務を負わせ、義務違反がある場合にはその責任を問います。
しかし、秘密の受領者としては、秘密が不明確な場合には管理コストが莫大なものとなるおそれがあり、ある程度特定すべき必要性が高いです。
また、義務違反があった場合に秘密が特定されていないと、当事者間で秘密に該当するか争いになるおそれがあります。
そのため、当事者間で認識の擦り合わせ行うためにも、秘密情報を特定しておくことが重要となります。
5-3 注意点3:秘密保持期間が定められているか
秘密保持契約書を作成する場合の注意点3つ目は、秘密保持期間が定められているかです。
秘密保持期間は、相手方に開示した秘密情報をいつまで保管させるかを明らかにするものです。
開示者は秘密情報漏洩のリスクを抑えるため、秘密保持期間を定めない傾向にあります。
しかし、時間の経過によって秘密情報の重要度が低下したり、情報の散逸等により漏洩するリスクが高まります。
また、秘密保持期間が長い場合、それに伴い秘密情報を保持する受領者の負担も大きくなります。
例えば、重要な技術情報を保管する場合には、20年程度に設定されることがありますが、受領者は秘密情報が漏洩しないよう適切に管理しなければなりません。
そのため、双方の利益の観点から、秘密保持期間を定めないことは現実的ではなく、秘密保持契約書に秘密保持期間を定めておくことが重要となります。
秘密保持期間は、対象となる秘密の性質にもよりますが、1~5年程度とされる傾向にあります。
6章 秘密保持契約に関するよくある質問5つ
ここでは、秘密保持契約に関する質問について解説していきます。
質問2:秘密保持契約書に収入印紙はいる?
質問3:秘密保持契約は個人間でも締結できるの?
質問4:秘密保持契約書の作成は誰に依頼すればいいの?
質問5:秘密保持条項と秘密保持契約書の違いは?
それでは順番に説明していきます。
6-1 質問1:秘密保持契約書・機密保持契約書・守秘義務契約書は何が違うの?
これらの契約書につき、内容や法的効力に違いはありません。
秘密保契約書は、相手方に開示する秘密情報について、管理方法や禁止事項を定めることで秘密の流出や悪用を防止するための合意を書面にしたものをいいます。
機密保持契約書と守秘義務契約書も同様であり、専ら秘密情報の流出・悪用防止のために締結作成されます。
そのため、実務上は秘密保持契約書・機密保持契約書・守秘義務契約書のいずれを用いても通用します。
6-2 質問2:秘密保持契約書に収入印紙はいる?
秘密保持契約書に収入印紙は原則として不要です。
秘密保持契約書は、課税文書に含まれないので納税義務がないためです。
しかし、秘密保持契約書の中に異なる契約の内容を含める場合、収入印紙が必要になる場合もあります。
例えば、秘密保持契約書の中に業務請負や継続的取引に関する事項を定めている場合は、課税文書にあたるので収入印紙が必要になります。
そのため、秘密保持契約書に収入印紙は原則として不要ですが、課税対象となる内容が含まれる場合には収入印紙が必要となります。
6-3 質問3:秘密保持契約は個人間でも締結できるの?
秘密保持契約は、個人間でも締結することができます。
秘密保持契約は契約者の規模を問わず、双方が合意すれば締結できるためです。
例えば、個人事業主(フリーランス等)にクライアントが依頼する場合などに、秘密保持契約が締結されることがあります。
そのため、秘密保持契約は、双方の合意さえあえれば個人間でも締結することができます。
6-4 質問4:秘密保持契約書の作成は誰に依頼すればいいの?
秘密保持契約書の作成は、弁護士に相談することをおすすめします。
秘密保持契約書は、秘密保持契約の内容を書面に落とし込むものであり、その内容について原則として第三者に公開することはできません。
しかし、法律上守秘義務を負っている弁護士に、秘密保持契約書作成のために相談したとしても秘密保持義務違反とはならないためです。
また、秘密保持契約書は、取引内容に照らして適切な内容を定めなければ実効性が乏しくなるおそれがあります。
例えば、秘密の定義が不明確な場合には、情報漏洩や情報の不正使用に対応することが難しくなってしまいます。
そのため、不測の事態を避けるためにも、秘密保持契約書の作成は弁護士に相談することが望ましいです。
6-5 質問5:秘密保持条項と秘密保持契約書の違いは?
秘密保持条項と秘密保持契約書は、契約の締結方法に違いがあります。
秘密保持条項は、秘密情報漏洩防止のために、契約書を作成する際にその条項の1つとして定められるものです。
他方で、秘密保持契約書は、秘密情報の漏洩を防止するために、取引に関する契約書の作成とは別に独立したものとして作成されます。
そのため、両者は秘密の漏洩防止のために作成される点において共通していますが、契約の締結方法が異なっています。
いずれを用いるかは当事者の自由とされており、明確なルールは定められていません。
実際には、契約締結の前段階で秘密情報を開示する場合や、ライセンス契約など秘密保持について詳細に定めておくことが重要となる場合に、秘密保持契約書が作成される傾向にあります。
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8章 まとめ
今回は、秘密保持契約書のひな形を紹介したうえで条項別に修正方法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・秘密保持契約書とは、相手方に開示する秘密情報について、管理方法や禁止事項を定めることで秘密の流出や悪用を防止するための合意を書面にしたものをいいます。
・条項別!秘密保持契約書における条項の加筆・修正・削除方法を解説
条項1:契約の目的
条項2:秘密情報の定義
条項3:秘密情報の管理
条項4:秘密情報の取扱い
条項5:秘密保持義務の例外
条項6:秘密情報の帰属
条項7:秘密情報の返還
条項8:損害賠償義務
条項9:有効期間
条項10:協議事項
条項11:合意管轄
・秘密保持契約締結の流れは以下の3つです。
流れ1:秘密保持契約書の雛形を作成または確認をする
流れ2:秘密保持契約書の内容を確認し合意する
流れ3:署名・記名押印をする
・秘密保持契約書作成する場合の注意点は以下の3つです。
注意点1:秘密保持契約を締結する目的が明らかになっているか
注意点2:保護対象となる秘密が特定されているか
注意点3:秘密保持期間が定められているか
・秘密保持契約に関するよくある質問は以下の5つです。
質問1:秘密保持契約書・機密保持契約書・守秘義務契約書の内容や法的効力に違いはありません。
質問2:秘密保持契約書に収入印紙は原則として不要です。
質問3:秘密保持契約は個人間でも締結することができます。
質問4:秘密保持契約書の作成は弁護士に相談することをおすすめします。
質問5:秘密保持条項と秘密保持契約書は契約の締結方法が異なります。
この記事が秘密保持契約書の作り方を知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
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