取引基本契約書のテンプレートと26個の条項チェックリスト【無料ひな型付き】

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日


売買契約を締結したいものの、取引基本契約書の作り方がわからないと悩みを抱えていませんか

発注書や見積書はあるものの、契約書は作成していないという会社もあるのではないでしょうか。

企業間で継続的な取引を行う場合には、取引基本契約書を作成することが非常に重要となります

なぜなら、発注書や見積書は、一方的に作成される文書ですし、細かい内容まで記載されていないのでトラブルとなりがちです。

実際、企業間の取引でトラブルとなることが多い事案には、そもそも取引基本契約書が締結されていないというケースが圧倒的に多いのです。

また、取引基本契約書については、ただ作成すれば良いというものではなく、その内容についても自社に不利にならないように精査する必要があります。

通常、取引先の企業から送られてくる第1案の契約書については、相手方に有利な条項となっています

会社における取引のリスクを低減するためには、どのように加筆・削除・修正するべきなのか、また各条項の重要度はどの程度なのかということを理解する必要があります。

もっとも、このようなノウハウというのは、各企業や法律事務所も門外不出としていることが多く、体系的に学ぶ機会も多くありません。

そのため、弁護士として多くの取引基本契約書をレビューしてきた経験をもとに、企業の法務部の方や社長、役員の方々向けにこの記事を執筆しました

今回は、取引基本契約書のテンプレートをもとに作成方法や加筆・削除・修正の方法を解説していきます。

具体的には以下の流れで説明していきます。


この記事を読めば取引基本契約書の作成・レビュー方法がよくわかるはずです。

目次

顧問契約ご検討用資料のダウンロードはこちらPC

1章 取引基本契約書とは?無料使えるテンプレート(ひな型)付き

取引基本契約書とは、同じ相手と反復して売買契約を締結する場合に、あらかじめ共通した内容を定めておくものをいいます

継続的な売買契約では、その都度契約書を作成していたのでは煩雑となってしまいます。

最初に大枠を作ることで、後は発注書と請書のやり取りだけといったように、繰り返し契約書を作らなくてもよくなるのです。

他にも、取引基本契約書の作成は、取引コストの削減や迅速な取引などのメリットをもたらすでしょう。

取引基本契約書のテンプレは以下のとおりです。

取引基本契約書【ひな型】テンプレート

テンプレートのダウンロードはこちら

※適切な取引基本契約書については事案により異なりますので、適宜ご修正下さい。ひな形の利用に伴い損害等が生じた場合でも、当サイトでは一切責任を負いかねますので、自己責任でお願いいたします。

経済産業省の雛形
経済産業省が紹介している取引基本契約書の雛形は以下のようになっています。
経済産業省の契約書フォーマットは、以下のURLからダウンロードすることができます。

2章 条項別!取引基本契約書のレビュー(加筆・削除・修正)方法【チェックリスト付き】

取引基本契約書の内容は、各当事者を拘束することから慎重に内容を吟味する必要があります。

以下では、各条項の解説と修正方法について詳しく解説していきます。

条項1:基本合意
条項2:適用範囲
条項3:個別契約の成立
条項4:納品
条項5:受入検査
条項6:代金の支払
条項7:所有権の移転
条項8:危険負担
条項9:品質管理
条項10:立入検査
条項11:契約不適合の責任
条項12:製造物責任
条項13:支給材の取扱い
条項14:第三者の権利侵害
条項15:再委託
条項16:権利義務の譲渡禁止
条項17:不可抗力に基づく変更解約
条項18:秘密保持
条項19:有効期間
条項20:契約の解除
条項21:期限の利益の喪失
条項22:契約終了後の措置
条項23:損害賠償の範囲
条項24:反社会的勢力の排除
条項25:合意管轄
条項26:協議条項

それでは順番に説明していきます。

2-1 条項1:基本合意

取引基本契約書の条項1つ目は、基本合意です。

第1条(基本合意)
 本契約に基づき、甲乙は共同の利益の増進と円滑な取引の維持を図る目的の下、乙は注文品を甲に継続的に売却し、甲は注文品を乙から継続的に購入することを約する。

基本合意は、契約を締結する目的を明らかにするための条項です。

基本合意は直接的に権利義務を定めるものではないことから、十分に検討されないこともあります。

しかし、契約解除の場面等で契約の目的が判断要素となることもあるので、検討しておく必要があるでしょう。

そのため、基本合意では取引の経緯や動機などを示しておくことが望ましいとされています。

ただし、基本契約を複数の製品に適用する場合、目的条項を詳細に定めてしまうと個別の契約に対応できなくなってしまいます

目的条項は、あくまでも必要な範囲で明確に示すことが重要といえるでしょう。

2-2 条項2:適用範囲

取引基本契約書の条項2つ目は、適用範囲です。

第2条(適用範囲)
1 売買契約(以下「個別契約」という)については、本契約の各条項を適用する。但し、個別契約において本契約と異なる定めをしたときは、個別契約の定めが優先して適用される。
2 注文品の範囲については、甲乙の協議のうえ定める。

取引基本契約は、個別契約に共通する条件を予め定めているものなので、個々の契約がどのように成立するかを明確にする必要があります

また、取引基本契約締結後に具体的な商品について売買契約を締結した場合、その契約は個別契約として効力を生じます。

この場合、後の争いを避けるため、取引基本契約と個別契約とで矛盾が生じないよう、いずれの規定が適用されるかを明らかにしておくことが重要となります

1項を修正する内容としては以下のとおりです。

【買主側、売主側修正例】

・売買契約(以下「個別契約」という)については、本契約の各条項を適用する。但し、個別契約において本契約と異なる定めをしたときでも、本契約が個別契約に優先する
・売買契約(以下「個別契約」という)については、本契約の各条項を適用する。但し、個別契約において本契約と異なる定めをしたときでも、第○条については本契約が個別契約に優先して適用され、それ以外は個別契約が優先して適用される

2-3 条項3:個別契約の成立

取引基本契約書の条項3つ目は、個別契約の成立です。

第3条(個別契約の成立)
 個別契約は、甲が指定した事項を明示した所定の文書(Emailを含む。以下同様)によって乙に発注し、乙がこれに対して承諾する旨の文書を甲に送付し、文書が甲に到達した時に成立する。

個別契約では、原則として買主が注文書を発注し、売主が送付した承諾する旨の文書が買主に到達した時点で契約が成立します。

改正民法においては到達主義が採用されており(民法97条1項)、発信主義が規定されていた民法526条は削除されています。

そのため、当事者間で特に契約の成立時期を定めなければ、個別契約の成立は原則として承諾する旨の文書が到達した時期となるのです。

しかし、到達主義は任意規定であることから、当事者の合意によって発信主義にすることや任意の時点で契約を成立させることもできます

企業間での取引の場合には、商法508条以下の規定が適用されることになるので注意が必要です。

商法508条
1 商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
2 民法第524条の規定は、前項の場合について準用する。

※出典:商法 | e-Gov法令検索

売主は契約の責任を負う時期を遅らせるために到達主義とした方が望ましいですが、買主は契約を迅速に締結するために発信主義とした方が望ましいでしょう。

ただし、発信主義は売主にとって不利益となりやすいので、回答期間を設けることで売主側に配慮することが考えられます。

具体的な修正例は以下のとおりです。

【買主側修正例】

〈1項〉
個別契約は、甲が指定した事項を明示した所定の文書(Emailを含む。以下同様)によって乙に発注した時点で成立する
〈2項〉
乙が前項の注文を受けてから○営業日以内に諾否の回答をしないときは、乙は、甲の発注を承諾したものとみなす

2-4 条項4:納品

取引基本契約書の条項4つ目は、納品です。

第4条(納品)
乙は、個別契約の定めに従って、注文品を納品する。

納品の時期・場所・費用は重要な要素であることから、具体的に特定する必要があります

しかし、取引基本契約書は個別契約に共通する基本事項を定めるものです。

そのため、取引基本契約書では具体的に特定せず、包括的な規定となることが多いのです。

納品場所に関する具体的な内容については、以下のとおりです(民法484条1項)。

・特定物:債権発生時にその物が存在した場所
・その他の物:債権者の現在の住所

また、納品の費用は原則として売主の負担となるので(民法485条)、買主はその旨を明らかにしておきたいところです。

具体的な修正例としては、以下の規定を盛り込むことが考えられます。

【買主側修正例】

〈2項〉
納品に要する費用は乙の負担とする

2-5 条項5:受入検査

取引基本契約書の条項5つ目は、受入検査です。

第5条(受入検査)
1 甲は、個別契約・関係法規および乙の定める検査基準に基づき、注文品受領後○営業日以内に受入検査を行い、乙に対してその結果を通知する。
2 第1項の受入検査の結果、注文品が不合格となったときは、甲はその旨を第1項の期間内に乙に通知するものとする。
3 第2項の通知を受けたときは、乙は、甲に対して乙の費用で直ちに代品の納品、注文品の修理又は部品の交換を行う。
4 甲が、第1項の期間内に、第1項の通知を行わなかったときは、当該注文品は検査に合格したものとみなす。

受入検査は、注文品が契約の基準を満たしているのかを確認するものであり、所有権の移転時期や債務不履行等に影響することから、設ける必要性が高いです。

企業間での取引では、検査義務があることに注意が必要となります。

商法第526条
1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

※出典:商法 | e-Gov法令検索

買主は、不完全履行の場合は注文品の受取りを拒否し、完全な履行を求めることができます。

そのため、注文品が検査に不合格となった場合に、完全な履行を求めることができる旨を定めた方がいいでしょう。

検査期間に関しては、売主であれば引き渡し時期を早めるために短く、買主であれば注文品の品質を精査するために長くすることが望ましいです。

4項は、検査結果を通知しなかった場合に法律関係が不安定となるので、通知がない場合には合格する旨を明らかにしたものです。

2-6 条項6:代金の支払

取引基本契約書の条項6つ目は、代金の支払です。

第6条(代金の支払)
1 甲は、乙に対し、毎月末日(以下「締め日」という)にて翌月○○日までに、乙の指定する口座に支払を行う。振込送金に関する費用は、甲の負担とする。
2 乙は、相手方に対して有する債権と、相手方に対して負担している債務とを、弁済期にあるか否かを問わず、いつでもこれを対等額で相殺することができる。
3 甲が代金の支払を怠ったときは、支払期日の翌日から完済に至るまで年○○%の割合による遅延損害金を甲に支払う。

代金等ついては、以下の事項を具体的に特定する必要があります。

・代金額
・支払方法
・支払期限
・支払場所

しかし、取引基本契約は大綱を定めるものなので、取引する注文品が単一でない場合には具体的な事項を個別契約で定めることも考えられるでしょう。

また、買主としては法律関係を簡明化するためにも、検査に合格したものについてのみ代金を支払うとした方が有利となりやすいです。

さらに、支払期限は、売主は迅速な支払を受けるために短めに、買主は期限の利益を得るために長めに設定した方がいいでしょう。

【買主側修正例】

〈1項〉
・甲は、乙に対し、前条の検査に合格した注文品の代金については、毎月末日(以下「締め日」という)にて翌月○○日までに、乙の指定する口座に支払を行う。振込送金に関する費用は、甲の負担とする。

2項は、買主の支払能力について不安が生じた場合に、売主が優先的に債権を回収できることを定めたものです。

予め弁済期にあるか否か問わないことで、債権者の地位を強化しています。

しかし、買主も売主に対して他の債権を有している場合、債権回収への期待を保護すべき必要性は売主と同じです。

そのため、買主側からも相殺を可能とするよう変更することが考えられます。

また、実務上は支払能力に不安が生じた場合、通知をしている余裕がないこともあるので、通知を要しないと合意することも考えられるでしょう。

【買主側修正例】

〈2項〉
甲または乙は、相手方に対して有する債権と、相手方に対して負担している債務とを、弁済期にあるか否かを問わず、いつでもこれを対等額で相殺することができる。

【買主側、売主側修正例】

〈2項〉
・甲または乙は、相手方に対して有する債権と、相手方に対して負担している債務とを、弁済期にあるか否かを問わず、通知を要することなく相殺されたものとする

買主は、支払期限を徒過すると利息支払義務を負います(民法575条2項)。

売主は支払の遅延防止のために高利率の遅延損害金を課し、買主は低利率の遅延損害金を定めることが望ましいでしょう。

【買主側修正例】

〈3項〉
・甲が代金の支払を怠ったときは、支払期日の翌日から完済に至るまで年3%の割合による遅延損害金を乙に支払う。

【売主側修正例】

〈3項〉
・甲が代金の支払を怠ったときは、支払期日の翌日から完済に至るまで年14.6%の割合による遅延損害金を乙に支払う。

2-7 条項7:所有権の移転

取引基本契約書の条項7つ目は、所有権の移転です。

第7条(所有権の移転)
1 本件注文品の所有権は、第5条の受入検査に合格した時に乙から甲に移転する。ただし、乙が引き取った不合格品については、乙が引き取る旨の意思表示をした時に、甲から乙に移転する。
2 代金の支払が完了するまで商品の所有権が移転しない旨の特約がある場合には、その特約による。

所有権の移転時期は、民法上は以下のとおりとなっています。
・特定物:契約が成立した時
・不特定物:注文品が特定した時

しかし、これらは任意規定なので、当事者の合意によって任意の時点とすることができます

買主としては、所有権は目的物を処分できる強い権利であることから、目的物の納入を受けた時点などのように、できる限り早い時点にしたいものです。

他方で、売主としては所有権を失うことになるので、買主から代金を完済した時点などのように、所有権の移転時期を遅らせるのが望ましいでしょう。

【買主側修正例】

〈1項〉
・本件注文品の所有権は、乙が甲にその注文品を納入した時に乙から甲に移転する。ただし、乙が引き取った不合格品については、乙が引き取る旨の意思表示をした時に、甲から乙に移転する。

【売主側修正例】

〈1項〉
・本件注文品の所有権は、第5条の受入検査に合格した時に乙から甲に移転する。ただし、乙が引き取った不合格品については、乙が引き取る旨の意思表示をした時に、甲から乙に移転する。
・本件注文品の所有権は、甲が乙に対し代金を完済した時に、乙から甲に移転する。ただし、乙が引き取った不合格品については、乙が引き取る旨の意思表示をした時に、甲から乙に移転する。

2-8 条項8:危険負担

取引基本契約書の条項8つ目は、危険負担です。

第8条(危険負担)
 甲乙双方の責めに帰すべき事由以外の事由による注文品の滅失、損傷、変質その他の損害は、第4条の納品以前までは乙の負担とし、納品以後については甲の負担とする。

注文品が双方の責めに帰さない事由によって滅失した場合、危険が移転している場合は買主が危険を負担することになります。

買主は、注文品がないにもかかわらず代金を支払わなければならないという事態が発生してしまうのです。

そのため、買主としては受入検査前後で区分し危険の移転時期を遅くし、売主は納品前後で区分し危険の移転時期を早めることが望ましいでしょう。

【買主側修正例】

 第5条の受入検査前に生じた注文品の滅失、損傷、変質その他の損害は、甲の責めに帰すべきものを除き乙が負担し、受入検査後に生じた商品の滅失、損傷、変質、その他の損害は、乙の責めに帰すべきものを除き甲が負担する

2-9 条項9:品質管理

取引基本契約書の条項9つ目は、品質管理です。

第9条(品質管理)
1 乙は、注文品の生産工程において品質保証体制を整備、確率しなければならない。
2 注文品の品質に影響を与える原材料や工程等について変更が必要となった場合、乙は変更について甲の同意を得なければならない。

売主は、債務の本旨に従った債務の履行をしなければなりません(民法493条)。

債務の本旨に従った履行かどうかは契約の内容によって判断されることから、品質に関する規定を盛り込む必要があります。

そのため、買主は注文品の品質を一定に保つために、品質管理について定めることが望ましいでしょう。

また、注文品の性質上、品質が重要視される場合には以下のように修正することも考えられます。

【買主側修正例】

〈1項〉
乙は、甲に納入する注文品の品質が本件取引における最も重要な事項であることを鑑み、注文品の製造には万全の注意を払うとともに、その品質が個別契約で定めた仕様に適合することに責任を負うものとする

2-10 条項10:立入検査

取引基本契約書の条項10個目は、立入検査です。

第10条(立入検査)
1 甲が必要と認めるときは、甲は、乙の施設において注文品の製造工程その他の製造販売工程における品質管理状況を調査することができる。
2 甲は、前項の立ち入りを行う場合には、乙に対して、立入予定日の1週間以上前に書面により通知して、人数、日時、方法等を協議する。
3 甲が改善点を指摘したときは、乙は速やかに必要な改善を行い、甲にその結果を報告する。

立入検査は、品質管理の規定を受けて、注文品の品質を維持するために買主の権利を強化するものです。

しかし、買主が一方的に立入検査できる旨を定めたとしても、売主に負担を強いることになります。

そのため、立入検査を規定する場合、事前の通知等によって売主に配慮する必要があるでしょう。

2-11 条項11:契約不適合の責任

取引基本契約書の条項11個目は、契約不適合の責任です。

第11条(契約不適合の責任)
1 甲への引き渡し完了後、注文品に種類、品質又は数量に関しての本契約又は個別契約の内容への不適合が発見された場合、甲は直ちにこれを乙に通知する。
2 前項の発見時期が第3項に定める保証期間内の場合、甲は乙に対し注文品の代金の減額、乙の負担による目的物の修理、代品の納入を求めることができる。但し、当該契約不適合が甲の責に帰すべき事由によることが明らかである場合はこの限りでない。
3 保証期間とは、次の各号に明示した期間をいう。
(1)乙が仕様書等で定めた保証期間
(2)仕様書等に保証期間の定めのない場合は、目的物の引き渡し完了の時から1年
4 第2項による修理、代品納入を実施した場合は、前項に定める期間を再設定するものとし、当該代品の乙から甲への引き渡しが完了した日をもって再設定の開始日とする。
5 第1項の発見時期が第3項に定める期間を経過した場合、乙は甲の指示に従って当該目的物を有償で修理するものとする。

契約不適合責任は、注文品が契約の本旨に従った物でない場合に、契約内容に沿うよう修理等を求められるものです。

この責任は明文で定められていますが(民法562条以下)、売主が負う具体的な責任については定めがありません。

そのため、買主は予め不適合があった場合における売主の責任について明文化しておくことが望ましいでしょう。

他方で、売主は受入検査を実施した後の注文品の状態については負わないとすることが考えられます。

具体的には、不適合について受入検査との関連性を示し、責任の範囲を限定することになるでしょう。

【売主側修正例】

〈1項〉
 甲への引き渡し完了後、注文品に、第5条の受入検査でも発見できない種類、品質又は数量に関しての本契約又は個別契約の内容への不適合が発見された場合、甲は直ちにこれを乙に通知する。

2-12 条項12:製造物責任

取引基本契約書の条項12個目は、製造物責任です。

第12条(製造物責任)
1 乙が納入した目的物の欠陥により、第三者に損害が生じた場合、乙は当該損害を賠償するものとする。
2 前項の場合、乙が賠償すべき損害の範囲については、乙の納入した目的物の寄与の割合によるものとし、甲乙協議の上対応するものとする。
3 乙が納入した注文品により第三者が損害を被った場合、お互いに当該損害が発生した原因調査を協力して行う。

製造物責任は、注文品の欠陥に起因して第三者に損害が生じた場合に、売主が買主に代わって賠償するものです。

「欠陥」とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、安全性に関係のない不適合は欠陥にあたりません。

また、欠陥に起因して第三者に損害が生じた場合、買主に損害の賠償が求められることもあります。

この場合、買主は売主に対して支払った金額を損害として、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることもできるのです。

しかし、債務不履行では、通常損害か特別損害かで請求できる範囲が異なり、損害の範囲について争いとなることが考えられます

そのため、買主としては第三者に賠償した分の損害を売主から回収するための規定を入れることになります。

他方で、売主は製造物責任の範囲を限定するような規定をすることになるでしょう。

【買主側修正例】

〈1項〉
・乙が納入した注文品の欠陥により、甲または第三者に損害(甲が第三者に支払った賠償額、注文品を市場から回収するために生じた費用等)が生じた場合、乙は当該損害を賠償するものとする。

【売主側修正例】

〈1項〉
・乙が納入した注文品の欠陥により、第三者に欠陥を原因とする直接の損害が生じた場合、乙は当該損害を賠償するものとする。

2-13 条項13:支給材の取扱い

取引基本契約書の条項13個目は、支給材の取扱いです。

第13条(支給材の取扱い)
1 乙は、注文品の製造に必要な材料を調達しなければならない。但し、甲は、特に必要がある場合、支給材を有償又は無償で乙に支給することができる。
2 乙は、支給材の引渡しを受けた後、支給材に不適合がないか検査し、不適合がある場合は甲に通知しなければならない。
3 無償支給材の所有権は、全て甲に帰属する。無償支給材の危険負担は、甲に帰属する。
4 有償支給材の所有権及び危険負担は、いずれも乙への引渡しの時に甲から乙に移転する。
5 乙は、支給材について、善良なる管理者の注意をもって管理、使用しなければならない。

商品を大量に注文する場合、注文品を安い価格で購入するために、買主が売主に対して支給材を提供することがあります

民法と商法には支給材に関する規定はないことから、本規定は支給材の提供に備えて予め法律関係を整理しておくためのものです。

また、支給材は、有償と無償を分けて所有権の移転時期や危険負担について定めるのが一般的とされています。

支給材の管理については善管注意義務を課すことが一般的ですが、有償支給材については注意義務を軽減することが考えられます。

【売主側修正例】

〈5項〉
乙は、支給材について、善良なる管理者の注意をもって管理、使用しなければならない。但し、有償の支給材については自己の財産におけるのと同一の注意義務を負う

他にも、売主としては支給材を起因として損害が発生した場合や、注文品に不適合が生じた場合について定めておくことが望ましいでしょう。

【売主側修正例】

〈新設〉
6 支給材に起因して注文品に不適合が生じた場合、乙は当該不適合について責任を負わない。
7 支給材に起因して乙に損害が生じた場合、甲は当該損害について賠償しなければならない。

2-14 条項14:第三者の権利侵害

取引基本契約書の条項14個目は、第三者の権利侵害です。

第14条(第三者の権利侵害)
1 乙は、注文品が第三者の特許権、実用新案権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関する権利(出願中のものを含む)(以下「知的財産権」という)を侵害しないことを保証する。
2 甲および乙は、注文品及び注文品の製造方法に関して第三者により知的財産権の侵害を理由に何らかの請求を受けたときは、遅滞なく相手方に通知する。
3 乙は、甲又は第三者に損害が発生した場合には、当該損害を賠償する。

売主が権利者の許諾を得ないまま注文品を買主が購入した場合、売主だけでなく買主も法的責任を負うおそれがあります

買主側としては、訴訟上の請求であれば売主に訴訟告知をすることで足りますが、訴訟外の請求では売主を手続に関与させるための規定が存在しません。

他方で、売主側も手続に関与して不利益な判決の出現を防止するために、関与するための規定を置いた方がいいでしょう。

そのため、訴訟外での請求に備えて、予め売主を関与させるための規定を置く必要性が高いのです。

また、売主は、買主と第三者からの責任追及に備えて、損害の範囲を制限する規定を置きたいところです。

【売主側修正例】

〈3項〉
乙は、甲又は第三者に損害が発生した場合には、合理的に必要な範囲において当該損害を賠償する。

2-15 条項15:再委託

取引基本契約書の条項15個目は、再委託です。

第15条(再委託)
1 乙は、注文品の製造又は加工の全部または一部を第三者に委託し又は請け負わせる場合には、甲の事前の承諾を得なければならない。
2 前項の場合、乙は本契約又は個別契約に基づき乙が負担する義務と同一の義務を当該第三者に負担させるものとする。

再委託は売主の自由とされているものの、買主は自らが選んだ売主に製造してもらいたいと考えることが通常です。

他方で、再委託はコスト削減や効率化といった実際的な必要性があることから、再委託を認めた方が良い場合も存在します。

そのため、買主が再委託を制限したい場合には、買主の承諾を必要とする旨の規定を設けることになるでしょう。

しかし、すべての再委託に承諾を必要とすると、迅速性を欠いてしまうこともあります。

買主としては、承諾が必要な部分を注文品の重要部分に限定することが考えられるでしょう。

【買主側修正例】

〈1項〉
乙は、個別契約で定めた注文品の重要な部分を第三者に委託し又は請け負わせる場合には、甲の書面による事前の承諾を得なければならない。

また、委託先が多岐にわたる場合、委託の負担を軽減するために2項を削除することもあります。

2-16 条項16:権利義務の譲渡禁止

取引基本契約書の条項16個目は、権利義務の譲渡です。

第16条(権利義務の譲渡禁止)
甲および乙は、相手方の事前の同意を得ずに、本契約及び個別契約により生じた契約上の地位を移転し又は第三者に譲渡し、継承させ又は担保に供することはできない。

債権は自由に譲渡することができます

しかし、当事者が譲渡に反対の意思を表示した場合、善意の第三者への譲渡を除いて、譲渡しても効力を対抗できなくなります。

そのため、知らないところで債権が譲渡されるのを防ぎたい場合には、債権の譲渡に承諾が必要な旨を規定することになるでしょう。

2-17 条項17:不可抗力に基づく変更解約

取引基本契約書の条項17個目は、不可抗力に基づく変更解約です。

第17条(不可抗力に基づく変更解約)
 甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約又は個別契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、相手方との協議の上、本契約又は個別契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる。

不可効力とは、外部的要因によって発生した事象で、社会通念上普通に要求される一切の注意や予防を講じても損害を防止できないものといわれています。

しかし、不可抗力の定義について明文の規定はなく、どの事象が不可抗力となるかが定かではありません

そのため、不可抗力条項は、どのような事象が不可抗力にあたるのか例示する形で置かれるのが一般的です。

また、不可抗力が発生した場合、当事者に重大な変化をもたらすこともあり、契約関係をそのまま存続することが難しい場面も存在します。

予期していなかった事態に迅速に対応するためにも、不可抗力発生後の効果を明らかにしておくことが重要です。

その際、迅速性を重視して、不可抗力と判断される前にも契約関係を解消できる条項を入れることがあります

【買主側、売主側修正例】

 甲および乙は、天災地変・戦争・内乱・感染症その他の不可抗力により、本契約又は個別契約に基づく全部または一部の義務の履行が不能になった場合には、その責任を負わない。この場合、甲および乙は、契約の目的を達成することが困難と認めるに足りる合理的な理由がある場合には、相手方との協議の上、本契約又は個別契約の全部または一部の変更もしくは解約をすることができる

2-18 条項18:秘密保持

取引基本契約書の条項18個目は、秘密保持です。

第18条(秘密保持)
1 甲および乙は、注文品の価格および取引を通じて知り得た相手方の機密情報を秘密として保持する。保持している秘密は、相手方の事前の同意なく、第三者に開示又は漏洩してはならない。
2 第1項に定める義務は、本契約終了後○年間は継続するものとする。

秘密保持は、秘密として管理している情報を相手方に開示する場合に、情報の開示による競争力や信用力の低下を防止する目的で定められます。

秘密の範囲は、開示する側によって包括的な形で規定されることが多いようです。

秘密の範囲を指定されないこともあり、この場合には開示情報すべてを秘密として管理することとなります。

しかし、開示される側は、負担を軽減するために以下のような制限を加えることがあります。

【買主側、売主側修正例】

〈1項〉
甲および乙は、注文品の価格および取引を通じて知り得た相手方の機密情報について、相手方から秘密として指定された情報を秘密として保持する。保持している秘密は、相手方の事前の同意なく、第三者に開示又は漏洩してはならない。

また、秘密の保持については、「契約終了後○年間」「情報受領後○年間」といったように有効期間を設けることが多くあります

具体的にどの程度の期間にするかは、情報の性質や重要性などから判断することになるでしょう。

2-19 条項19:有効期間

取引基本契約書の条項19個目は、有効期間です。

第19条(有効期間)
 本契約は、令和○○年○月○日より○年間有効とする。

継続的な契約をする場合、契約義務の存否に関して予測可能性を担保するために、契約の有効期間を定めることが一般的です。

期間の算定は、日を最小単位として暦に従って定めることになります。

契約有効期間内であれば契約の効力が存続するので、途中で解約したい場合には中途解約条項を別に規定することになります

また、契約期間終了後も相手方と契約関係を継続したい場合には、自動更新条項を入れることになるでしょう。

自動更新条項は、余裕をもった期間にした方が望ましく、実務上は「1ヶ月前までに」とされることが多いです。

【買主側、売主側修正例】

 本契約は、令和○○年○月○日より○年間有効とする。ただし、期間満了の○か月前までに契約の変更又は終了の申入れがない場合には、本契約は同一の条件で自動的に○年間延長され、以降も同様とする

2-20 条項20:契約の解除

取引基本契約書の条項20個目は、契約の解除です。

第20条(契約の解除)
1 甲および乙は、書面による6ヶ月前の通知をもって、本契約を解除することができる。なお、この解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。
2 乙は、甲が次の各号のいずれか一つに該当する場合には、第1項の通知を要せず、直ちに本契約を解除することができる。なお、この解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。
(1) 本契約に違反したとき
(2) 監督官庁より営業の許可の取消し等の処分を受けたとき
(3) 支払停止もしくは支払不能の状態に陥ったとき
(4) 差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立てを受けたとき
(5) 破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき
(6) 事業の全部または重要な一部を譲渡、会社合併、分割または解散の決議をしたとき
(7) その他、前各号に準じる事由が生じたとき

契約の解除は、契約の拘束力から当事者を解放するための制度をいいます。

解除自体は、契約書に定められていなくても民法の規定に従ってすることができます。

しかし、法令の規定のみでは保護が不十分な場面もあり、契約を継続させることが困難な状態となった場合に備えて任意解除を規定することが一般的とされています。

また、二度手間を防止する観点から、解除事由に該当する場合には無催告解除を定めることもあるようです。

注意が必要なのは、解除権を行使できる主体についてです。

条項の主語に注目し、一方のみが解除できるとなっている場合、各号の事由が生じてもこちらから解除することができません。

そのため、一方のみが解除できるとされている場合には、もう一方が解除できるように修正することが考えられます

【買主側修正例】

〈2項〉
甲および乙は、次の各号のいずれか一つに該当する場合には、第1項の通知を要せず、直ちに本契約を解除することができる。なお、この解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。

2-21 条項21:期限の利益の喪失

取引基本契約書の条項21個目は、期限の利益の喪失です。

第21条(期限の利益の喪失)
 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

期限の利益は、期限が到来するまで支払わなくてもよいという債務者の利益のことをいいます。

しかし、期限到来までに債務者の資産状態が著しく悪化した場合に、期限の到来を待っていたのでは債権者が弁済を受けられないことがあります。

そのため、債権者の債権回収への期待を保護するために、条項の中に期限の利益喪失を設けることがあるのです。

また、債務者に発生した事由が重大な場合には、弁済を受けるには一刻の猶予を争うこともあります

この場合には、債権者による通知なくして期限の利益喪失を、2項に定めるといったことも考えられます

【買主側、売主側修正例】

〈新設〉
2 当事者の一方が、前条第2項各号に定める事由に該当する場合、相手方の書面による通知なくして、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

2-22 条項22:契約終了後の措置

取引基本契約書の条項22個目は、契約終了後の措置です。

第22条(契約終了後の措置)
1 乙は、本契約が期間満了又は解除により終了した場合、甲から提供を受けた無償支給材等を遅滞なく返還しなければならない。
2 前項の返還に要する費用は、乙の負担とする。

契約終了後は、契約書に記載のある事項は効力を有しません

しかし、契約終了後も効果が存続する旨の規定については、契約終了後も効力を有します

そのため、契約締結の際に、契約終了後の権利義務関係の処理について定めておくことがあるのです。

支給材等の返還の他にも、以下のような事項について存続する旨を定めておくことがあります。
・秘密保持
・知的財産の取扱い
・契約不適合責任
・競業避止義務
・損害賠償
・合意管轄

2-23 条項23:損害賠償の範囲

取引基本契約書の条項23個目は、損害賠償の範囲です。

第23条(損害賠償の範囲)
 甲または乙は、本契約又は個別契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、賠償を求めることができる。

契約の相手方に損害を与えた場合、相手方から損害賠償請求されることがあります

この場合、損害として請求できるのは、通常損害と予見可能性がある特別損害です。

しかし、負担軽減の観点から、損害賠償の範囲を制限するよう修正することが考えられます。

【買主側、売主側修正例】

 甲または乙は、本契約又は個別契約に違反して相手方に直接の損害を与えたときは、相手方に対し、合理的な範囲において賠償を求めることができる。

また、損害について具体的な例示を置くことで、弁護士費用等を損害に含めることもあるようです。

【買主側、売主側修正例】

 甲または乙は、本契約又は個別契約に違反して相手方に損害(弁護士費用等を含む)を与えたときは、相手方に対し、賠償を求めることができる。

2-24 条項24:反社会的勢力の排除

取引基本契約書の条項24個目は、反社会的勢力の排除です。

第24条(反社会的勢力の排除)
1 甲および乙は、次の各号の事項を確約し、これに違反した場合、何らの催告を要さずに本契約を解除することができる。
(1) 暴力団、暴力団構成員、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと
(2) 役員(取締役、執行役、執行役員、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと
(3) 反社会的勢力に対して資金を提供し、又は便宜を供与しないこと
(4) 反社会的勢力と社会的に非難される関係を有していないこと
(5) その他、業務内容が公序良俗に違反すると認められるときる行為
2 前項の解除は、解除した当事者による相手方に対する損害賠償を妨げない。ただし、解除された者は、相手方に対し一切の請求を行わない。

反社会的勢力排除条項は、政府によって反社会的勢力の排除が推進されており、コンプライアンス徹底の観点から必要な条項となります。

反社会的勢力に該当する者の定義を明らかにするため、まずは具体的に列挙する必要があります。

また、当該条項では、以下のような事項を定めなければなりません。
・反社会的勢力に該当しないことの表明と確約
・反社会的勢力と密接な関連性を有していないこと
・暴力的な行為等をしないことの確約

最も重要なのは、1項柱書の無催告解除です。

相手方が反社会的勢力であることが判明した場合、迅速に契約を解除して関係を断つ必要があるためです。

さらに、解除後に違反した側からの請求を禁止しながら、解除した側の請求を可能とすることも重要となります。

2-25 条項25:合意管轄

取引基本契約書の条項25個目は、合意管轄です。

第25条(合意管轄)
 本契約に関連する訴訟については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

合意管轄は、訴訟になった場合に、どこの裁判所に訴訟を係属させるかを当事者の合意によって定めることをいいます。

合意管轄を定める場合、当事者と裁判所の所在地を考慮して慎重に決定しなければなりません

裁判所の所在地が遠くなってしまうと、思わぬ負担となってしまうためです。

そのため、合意管轄はできる限り負担の少ない最寄りの裁判所にするといいでしょう

2-26 条項26:協議条項

取引基本契約書の条項26個目は、協議条項です。

第26条(協議条項)
 本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項については、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、円満に解決するものとする。

協議条項は、紛争の解決方法について当事者が予期していない事項について、抽象的に解決方法を規定するものです。

そのため、協議条項自体は具体的な拘束力を有さず、実際の場面では意味を為さないこともあるようです。

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3章 取引基本契約書を締結する流れ

取引基本契約書を締結に決まった流れはありませんが、実際には大まかな流れがあります。

ここでは、取引基本契約書締結の流れを解説していきます。

流れ1:取引内容につき協議する
流れ2:一方が取引基本契約書の草案を送付する
流れ3:他方が草案をレビューし要望を出す
流れ4:調印手続(契印手続)を行う


それでは順番に説明していきます。

3-1 流れ1:取引内容につき協議する

取引基本契約書を締結する流れの1つ目は、取引内容につき協議することです。

売買契約を締結する場合、取引基本契約書を作成する前にまず取引内容について協議する必要があります。

取引内容が定まらなければ、契約が成立しないこともあるためです。

また、協議せずに契約書を作成してしまうと、相手方との認識にズレがあった場合、1から作り直しとなるおそれもあるでしょう。

迅速に契約を締結するためには、慎重に認識を擦り合わせていく必要があるといえます。

そのため、取引基本契約書を締結する場合、まずは取引内容について協議する必要があるのです。

3-2 流れ2:一方が取引基本契約書の草案を送付する(買主側が多い)

取引基本契約書を締結する流れの2つ目は、一方が取引基本契約書の草案を送付することです。

取引内容を協議した後は、たたき台となる草案を相手方に送付することになるでしょう。

草案の送付は買主・売主のいずれがしても良いとされています。

しかし、実際は買主側から草案が送付されることが多いようです。

契約は申込みと承諾の意思が合致することにより成立するため、申込みをする買主側から先に送られることが多いのです。

3-3 流れ3:他方が草案をレビューし要望を出す

取引基本契約書を締結する流れの3つ目は、他方が草案をレビューし要望を出すことです。

一方から草案が送付されてきたら、他方は草案の内容を精査し要望を出すことになります。

相手方からの草案は、相手方の利益を追求した内容となっていることが多く、偏った規定にならないよう修正する必要があるのです。

3-4 流れ4:調印手続(契印手続)を行う

取引基本契約書を締結する流れの4つ目は、調印手続を行うことです。

草案に双方の要望を出し合った後は、完成した取引基本契約書に調印手続をすることになるでしょう。

調印をすることによって売買契約が有効に成立し、当事者はその内容に拘束されることになります。

調印手続の方法は、通常、契約当事者の双方が調印する方法によって行います。

しかし、契約書が複数に及ぶ場合や別紙を添付する場合には、方法が異なってくることに注意が必要です。


4章 取引基本契約書の作成でよくある質問6つ

ここでは、取引基本契約書の作成でよくある質問をご紹介していきます。

質問1:取引基本契約書には種類がある?
質問2:取引基本契約書はどちらが作成するべき?
質問3:取引基本契約書の作成日はいつ?
質問4:取引基本契約書は、念書・覚書・誓約書と何が違うの?
質問5:取引基本契約書を作成する際の注意点はある?
質問6:取引基本契約書に貼付する印紙はいくら?


それでは順番に説明していきます。

4-1 質問1:取引基本契約書には種類がある?

取引基本契約は、個別契約に共通する条件を定めるために締結される複合的な契約です。

契約の内容によって条項に変化はあるものの、取引基本契約という性質に変化はないのです。

しかし、実際の取引では、製造物供給に関する取引基本契約書や業務委託契約書などが存在します

これらは、取引基本契約に関する条項を基礎に、秘密保持に関する規定や業務委託に関する規定が盛り込まれたものとなっています。

そのため、これらを指して、取引基本契約書の種類と呼称されることもあるのです。

4-2 質問2:取引基本契約書はどちらが作成するべき?

取引基本契約書は、当事者のいずれが作成しても良いとされています

契約自由の原則があることから、契約をどのようなものにするかは当事者の判断に委ねられているためです。

しかし、実際上は、取引基本契約書の草案は自ら作成した方がいい場面は多くあります

上で見たように、取引基本契約書は草案の内容を修正したものが、最終的な契約の内容となります。

取引基本契約書の草案は作成者側の利益を追求した内容になりやすく、後から修正する必要が生じるのです。

また、取引において主導権を握るという意味においても、取引基本契約書の草案を作成する意味は十分にあるでしょう。

4-3 質問3:取引基本契約書の作成日はいつ?

取引基本契約書の作成日は、契約の効力に関連して重要な事項となります。

具体的には、契約の効力に関連する疑問点は以下のとおりです。

疑問点1:作成日について
疑問点2:効力の遡及について
疑問点3:バックデートについて

それでは順番に説明していきます。

4-3-1 疑問点1:作成日について

取引基本契約書の作成日は、法的な決まりはありませんが、一般的には署名・記名捺印した日とされることが多く、契約締結日もこれと同じ日付になりがちです。

4-3-2 疑問点2:効力の遡及効について

しかし、契約は当事者の意思が合致した時点で成立することから、必ずしも作成日と契約締結日が一致するわけではありません。

また、契約の内容によっては、契約書の作成日前後で効力を発生させたいということもあるでしょう。

例えば、口約束だけで業務を開始していた場合や、契約書のないまま作業をしたものの細かい取決めをしていなかった場合には、遡及的に効力を生じさせる方向になるでしょう。


実際に遡及的に効力を生じさせるには、契約の効力に関する条項を入れることになります。

具体的には、以下のような条項を入れることになるでしょう。

「本契約は、契約締結日に関わらず、令和○年○月○日に遡って適用する。」

4-3-3 疑問点3:バックデートについて

注意が必要なのは、作成日を遡らせる場合、いわゆるバックデートをする場合です。

例えば、実際の契約締結日は11月中旬だったにもかかわらず、月初めに作成日を合わせるために作成日を11月1日とする場合がこれにあたります。


バックデートは、実際の作成日とのズレが生じることや契約日に関する記載が不正確となってしまいます

また、契約の効力を遡らせるには条項を入れることで対応することができるので、バックデートを用いる必要性はないでしょう。

4-4 質問4:取引基本契約書は、念書・覚書・誓約書と何が違うの?

取引基本契約書は、念書・覚書・誓約書(以下「念書等」という)とは、内容が網羅的かつ対等な立場での合意をする場合に用いられやすいという点で、念書等とは異なります

契約書という表題は、契約が成立したこととその内容を証する場合に用いられがちです。

他方で、念書等という表題は、部分的な契約に関する簡易な合意の場合につけられる傾向があります。

実際には、念書等は取引基本契約書との間に内容的には大きな違いがない場合にも、念書等という表題が用いられることもあるようです。

注意が必要なのは、表題に関わらず文書の内容が契約書である場合には、契約書としての効力が認められることです。

例えば、契約当事者の合意と一定の契約条項に関する記載があれば、契約書としての効力が発生するでしょう。

そのため、法的な契約書かどうかは、表題に囚われることなく実質的に判断する必要があるといえます。

4-5 質問5:取引基本契約書を作成する際の注意点はある?

取引基本契約書を作成する際の注意点はあります。

一度取引基本契約書を作成してしまうと、後から変更することは難しいので、慎重に作成する必要があるのです。

具体的には、以下のような注意点があります。

注意点1:テンプレートをそのまま流用しない
注意点2:表現はわかりやすく明確に
注意点3:契約書が複数あるときは割印をする

それでは順番に詳しく説明していきます。

4-5-1 注意点1:テンプレートをそのまま流用しない

取引基本契約書作成の注意点1つ目は、テンプレートをそのまま流用しないことです。

取引基本契約書のテンプレートは、基本契約に最低限必要な条項しか記載されていません。

テンプレートが実際の取引の内容に適しているとは限らないのです。

そのため、テンプレートをそのまま流用することは避け、事案に応じて条項を修正するようにしましょう

4―5―2 注意点2:表現はわかりやすく明確に

取引基本契約書作成の注意点2つ目は、表現はわかりやすく明確にすることです。

基本契約書を作成する実益として、予め疑義の生じやすい部分についてルールを設けることで、後の紛争を防止することが挙げられます。

しかし、本契約書の内容が抽象的だと、契約書作成後に内容について争いが生じることもあるのです。

例えば、目的物に関して継続的な売買契約を締結することになったものの、具体的な数量が定められていなければ、納品すべき数量が分かりません。

そのため、後の紛争を避けるためにも、基本契約書の表現は明確にしましょう

4-5-3 注意点3:契約書が2部以上あるときは割印をする

取引基本契約書作成の注意点3つ目は、契約書が2部以上あるときは割印をすることです。

実際の取引では、契約書が2部以上に及ぶことも珍しくなく、そのすべてが一体のものであると証明する必要があります。

契約書が2部以上ある場合に、表紙にだけ押印したのではどれが本物か見分けがつかなくなってしまうのです。

そのため、契約書が2部以上あるときは、契約書の関連性を示すために割印を押します

具体的には、見開きで2枚の綴じ目の部分に2頁に跨って割印することになるでしょう。

4-6 質問6:取引基本契約書に貼付する印紙はいくら?

4-6-1 印紙1:7号文書について

取引基本契約書に貼付する印紙税は4000円となることが多いです。

7号文書は、「継続的取引の基本となる契約書」についての印紙代を4000円と定めています。

取引基本契約書は、継続的取引の基本となる契約書として、7号文書に該当するのです。

7号文書の例としては以下のとおりです。

・売買取引基本契約書
・業務委託契約書
・代理店契約書
・特約店契約書
・銀行取引約定書など…

※参考:国税庁ー印紙税額の一覧

ただし、契約期間が3ヶ月以内で、かつ、更新の定めのないものは7号文書にはあたりません

4-6-2 印紙2:2号文書と7号文書にあたる場合について

注意が必要なのは、2号文書と7号文書の両方にあたる場合です

2号文書は請負に関する契約書について定めた規定とされています。

2号文書にあたる場合、印紙税は以下のとおりとなります。

※参考:国税庁ー印紙税額の一覧

業務委託契約書の場合、取引基本契約書の内容に加えて、請負に関する報酬等の規定が盛り込まれることになるでしょう。

そのため、業務委託契約書の場合、2号文書と7号文書の両方に該当するのです。

この場合、印紙税法内の課税物件票の適用に関する通則に、原則として2号文書として扱う旨の規定がされています。

しかし、以下の場合には例外として7号文書として扱われます

・2号文書のうち契約金額の記載がないもの
・営業者間において継続する複数の取引の基本的な取引条件を定めたもの

※参考:請負に関する契約書|国税庁


そのため、適切な印紙税を収めるためにも、どの文書に該当するのかをよく理解しておく必要があるでしょう。

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6章 まとめ

今回は、取引基本契約書の作り方について解説しました。

具体的な内容は以下のとおりです。

まとめ

・取引基本契約書とは?無料で使えるテンプレート(ひな型)付き

・条項別!取引基本契約書のレビュー(加筆・削除・修正)方法
条項1:基本合意
条項2:適用範囲
条項3:個別契約の成立
条項4:納品
条項5:受入検査
条項6:代金の支払
条項7:所有権の移転
条項8:危険負担
条項9:品質管理
条項10:立入検査
条項11:契約不適合の責任
条項12:製造物責任
条項13:支給材の取扱い
条項14:第三者の権利侵害
条項15:再委託
条項16:権利義務の譲渡禁止
条項17:不可抗力に基づく変更解約
条項18:秘密保持
条項19:有効期間
条項20:契約の解除
条項21:期限の利益の喪失
条項22:契約終了後の措置
条項23:損害賠償の範囲
条項24:反社会的勢力の排除
条項25:合意管轄
条項26:協議条項

・取引基本契約書を締結する流れは以下のとおりです。
 流れ1:取引内容につき協議する
 流れ2:一方が取引基本契約書の草案を送付する買主側が多い
 流れ3:他方が草案をレビューし要望を出す
 流れ4:調印手続を行う(契印手続)

・取引基本契約書の作成でよくある質問は以下の6つです。
質問1:取引基本契約書には種類がある
質問2:取引基本契約書はどちらが作成してもよい
質問3:取引基本契約書の作成日に関する疑問は以下のとおりです。
 疑問点1:作成日は、署名・記名捺印した日となることが多い。
 疑問点2:効力を遡及させるには特定の条項を入れる必要がある
 疑問点3:バックデートはしない方がよい
質問4:取引基本契約書は、内容が網羅的かつ対等な立場での合意をする場合に用いられやすいという点で、念書等とは異なる。
質問5:取引基本契約書を作成する際の注意点は以下のとおりです。
 注意点1:テンプレートをそのまま流用しない
 注意点2:表現はわかりやすく明確に
 注意点3:契約書が2部以上あるときは割印をする
質問6:取引基本契約書に貼付する印紙は以下のとおりです。
 印紙1:7号文書は4000円。
 印紙2:2号文書は以下の表のとおりです。

この記事が、取引基本契約書の作り方がわからないと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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