不倫に対する制裁は許される?不当な制裁にしないための方法3つを解説

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弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属
取扱分野は、浮気・不倫問題、離婚問題、労働問題等。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

不倫に対して制裁をしたいと考えていませんか

しかし、ちょっと待ってください。

不倫の事実を言いふらすなどの社会的制裁は、逆にあなたが損害賠償を請求されるおそれがあります。

例えば、あなたが不倫された場合に不倫相手が勤めている会社で不倫の事実を言いふらしたとしましょう。

この場合、不倫の事実を会社で言いふらすことは、不倫相手の社会的評価を低下させるおそれがあるので名誉棄損にあたります

他方で、刑事的制裁としての姦通罪は廃止されています

そのため、不倫に対して法的な対処をしていく場合には、慰謝料請求をするのが通常です

なぜなら、不倫により被った精神的な苦痛が、不法行為でいうところの損害にあたるからです。

不当な制裁になることを避けるためにも、適切な制裁の方法を把握しておくことが重要となります。

今回は、不倫に対する制裁の方法について解説していきます。

この記事を読めば、不倫に対する制裁の方法についてよくわかるはずです。

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1章 不倫に対する制裁の方法3つとその可否

不倫に対する制裁の方法としてよく挙げられるのは以下の3つです。

方法1:民事的制裁【通常この方法】
方法2:刑事的制裁【廃止されている】
方法3:社会的制裁【やめた方がいい】

しかし、不倫に対処していくためには民事的制裁によるべきで、刑事的制裁をとることはできませんし、社会的な制裁はやめた方がいいでしょう。

以下では、各制裁方法について解説していきます。

1-1 方法1:民事的制裁【通常はこの方法】

不倫に対する制裁の1つ目は、民事的な制裁です。

民事的な制裁としては、不倫によって精神的苦痛を受けたことを理由とする慰謝料の請求が考えられます。

不倫に対する慰謝料請求の相場は、10~300万円程度となります。

詳しくは以下の早見表をご参照ください。

慰謝料請求の他にも、不貞行為があったとして離婚を請求することもできます

1-2 方法2:刑事的制裁【廃止されている】

不倫に対する制裁の2つ目は、刑事的制裁です。

かつての刑法には姦通罪という犯罪があって、夫をもつ妻が不倫をした場合にのみ成立するとされていました。

しかし、姦通罪は夫側が不倫をしても成立しないことや、告訴権を夫側に限定するものであったことから、平等に反するとして廃止されることになりました。

そのため、現在では不倫に対する刑事的制裁は定められていません

不倫が犯罪になるのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。

1-3 方法3:社会的制裁【やめた方がいい】

不倫に対する制裁の3つ目は、社会的制裁です。

社会的制裁は、法を根拠とせずに心理的・物理的な圧力をかける制裁行為をいいます。

例えば、あなたが不倫されたことから、不倫相手の顔もみたくないので遠方に引っ越してほしいと伝えることは社会的制裁の一つの方法といえます。

ただし、社会的制裁は行き過ぎてしまうとあなたが損害賠償請求を受けることもあるのでおすすめしません。


2章 やってはいけない危険な制裁5つ

不倫に対しての制裁は、やり方を間違えてしまうと自分の立場が危険に晒されてしまいます

そのため、どんな制裁が危険なものかを理解する必要があります。

やってはいけない制裁は以下の5つです。

危険な制裁1:会社に事実を告げる
危険な制裁2:不倫の事実を親族に伝える
危険な制裁3:SNSでの晒し行為
危険な制裁4:何度も連絡を送る
危険な制裁5:物理的な制裁

5つを列挙しましたが、これらは例示的なものにすぎないので、何らかの制裁を加えたいと考えた際には弁護士に相談することが望ましいでしょう。

それでは各制裁について順番に説明していきます。

2-1 危険な制裁1:会社に事実を告げる

やってはいけない制裁の1つ目は、会社に事実を告げることです。

会社に事実を告げてしまうと、その方が会社内で築いてきた社会的な評価を低下させるおそれがあります。

そして、このように社会的評価を低下させるおそれのある行為は、名誉棄損にあたる可能性があるので、制裁をする側がかえって危険な立場に立ってしまいます。

つまり、名誉棄損罪として刑事上罰されてしまうリスク、不法行為として民事上の損害賠償を請求されてしまうリスクがあります。

そのため、会社に不倫の事実を告げるのはやめた方がいいでしょう。

2-2 危険な制裁2:不倫の事実を親族に告げる

やってはいけない制裁の2つ目は、不倫の事実を親族に伝えることです。

確かに、親族に事実を伝えたとしても、少人数にしか伝えていないので公然性はないようにも思われます。

しかし、少人数であっても、その情報を知った人から他の人に伝わる可能性があることを理由に名誉棄損の成立を認めている判例があります。

そのため、名誉棄損が成立しないようにするためにも、親族に伝えることは控えた方がいいでしょう。

2-3 危険な制裁3:SNSでの晒し行為

やってはいけない制裁の3つ目は、SNSで晒す行為です。

最近では、SNSでの誹謗中傷などが名誉棄損として取り上げられる事例が増えてきています。

不倫の事実をSNSで晒す行為も例外ではなく、社会的評価を低下させるおそれがあるとして同様に名誉棄損となるおそれがあります

そのため、晒してしまう前に一度冷静になって、よく内容を吟味した方がいいでしょう。

2-4 危険な制裁4:何度も連絡を送る

やってはいけない制裁の4つ目は、何度も連絡を送ることです。

ストーカー規制法には、つきまとい行為を規制する規定があります。

一回であれば警告や禁止命令で済みますが、繰り返し行うとストーカー行為として罰則を受けることになります。

そして、膨大な量の連絡を送ることは、つきまとい行為を繰り返し行っているので罰則を受ける可能性があります

そのため、相手方から無視をされた場合や交渉が平行線になった場合には、何度も連絡するのではなく裁判所や弁護士を使った解決を検討しましょう。

2-5 危険な制裁5:物理的な制裁を加える

やってはいけない制裁の5つ目は、物理的な制裁を加えることです。

物理的な制裁は、暴行罪や傷害罪などの犯罪にあたるので絶対にやめましょう

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3章 不倫に対する制裁についての判例

不倫に対する制裁が違法として、不倫被害者に対して不倫加害者に対する損害賠償義務を認めた判例があります。

例えば、以下の2つの判例です。

判例1:往来で不倫の事実を摘示した事案【慰謝料5万円と認定】
判例2:不倫相手の家族と知人に不倫の事実を摘示した事案【慰謝料30万円と認定】
それでは各判例をについて一緒に見ていきましょう。

3-1 判例1:不倫の事実を申立書に記載した事案

被告が、原告が名誉棄損にあたる行為をしたことを、申立書に記載した行為が名誉棄損にあたるとして慰謝料150万円を請求された事案について、

裁判所は、申立書への記載は原告が犯罪行為を行ったとの印象を与えるものだから名誉棄損にあたるとしたうえで、慰謝料の額は5万円を限度に認められるとしています。

判例は以下のように説明しています。

東京地判令和3年2月24日D1-Law.com判例体系〔29062751〕
「本件各摘示事実は、刑法上の具体的な罪名を挙げ、これに該当すべき原告の行為を具体的に摘示するものであって…本件行為は、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害するものであるというべきである。」
「他方において、本件行為は、…付随的な手続に関するものであって、実際上閲覧される機会がそれほど多いわけではないと解されること、本件行為に対して、原告は、反論する機会があり、実際にも「意見書」等を提出していたことは、慰謝料の額を算定する上で、被告に有利に斟酌すべきである。」
「以上のほか、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては5万円が相当である。」

3-2 判例2:不倫相手の家族と知人に不倫行為の事実を摘示した事案

原告は、配偶者に不倫されたことから不倫相手を被告として慰謝料440万円の請求をした。

しかし、原告は、被告の父親に不倫行為に関する旨の記載があるはがきを送付し、配偶者の父親にも同様に手紙を送付し、さらに被告の知人にまで不倫に関するメッセージを送っていた。

そこで、被告は原告に対して不法行為を根拠に、慰謝料110万円の請求をする反訴を提起した事案について

裁判所は、不倫による損害は80万円としたものの、各媒体における事実の摘示は被告の社会的評価を低下させるものとして、各行為のいずれもが名誉棄損にあたると判断しています。

そのため、被告による反訴請求について、慰謝料の額は30万円を限度に認められるとしています。

判例は以下のように説明しています。

東京地判令和2年2月10日D1-Law.com判例体系〔29059314〕
・原告の請求について
「被告の不法行為により原告が被った精神的損害を慰謝すべき金額は80万円が相当と認められ、その弁護士費用に当たる損害としては8万円が相当と認める。」

・被告の反訴請求について
「本件はがきの記載内容は、被告が原告とAの夫婦関係を破壊しかけている旨を摘示しており、これは本件はがきを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件はがきの送付は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。」
「本件手紙及び本件資料の記載内容は、被告がAと不貞関係にある旨を摘示しており、これは本件手紙及び本件資料を読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件手紙及び本件資料の送付は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。」
「本件メッセージの記載内容は、被告がAと不貞関係にある旨を摘示しており、これは本件メッセージを読む者に被告が不貞に及んでいると認識させるものである。本件メッセージの送信は、被告の社会的評価を低下させるもので、名誉毀損に当たる。」
「原告による本件はがき、本件手紙及び本件資料並びに本件メッセージの送付・送信により被告が被った精神的損害を慰謝すべき金額は30万円(各10万円ずつ)が相当と認められ、その弁護士費用に当たる損害としては3万円(各1万円ずつ)が相当と認める。」


4章 不当な制裁にならないための方法3つ

不倫被害者としては、不当な制裁をするつもりがない場合でも、意図せず不当な制裁と反論されてしまう場合があります

不倫事件については感情が高ぶって発言や態様がエスカレートしてしまいがちですので、一度冷静に不当な制裁として反論される可能性がないかについて検討しましょう

具体的には、不当な制裁との反論を受けないためには以下の3つの方法がおすすめです。

方法1:不倫慰謝料請求書の送り先を吟味する
方法2:親展をつける
方法3:送付方法の検討過程を残しておく

それでは各方法について順番に解説していきます。

4-1 方法1:不倫慰謝料請求書の送り先を吟味する

不当な制裁にならないための方法の1つ目は、不倫慰謝料請求書の送り先を吟味することです。

なぜなら、不倫慰謝料請求書を送付したことにより、不倫の事実を職場や家族に知られてしまったというトラブルが非常に多いためです

具体的には、不倫慰謝料請求書の送り先を吟味する際のポイントは以下のとおりです。

ポイント1:住所に送るのが原則
ポイント2:勤務先に送るのは危険
ポイント3:悩んだら意向を確認

それでは各ポイントについて順番に解説していきます。

4-1-1 ポイント1:住所に送るのが原則

不倫慰謝料請求書を送る場合、相手の住所に送るのが原則とされています。

訴状なども、住所等に送達されるのが原則とされており、住所等が知れない場合や住所等への送達に支障がある場合に例外的に就業場所に送達されているからです。

そのため、不倫慰謝料請求書を送るときは、まず最初に住所地に送るべきかを検討することになります。

4-1-2 ポイント2:勤務先に送るのは危険

不倫慰謝料請求書を送る場合、勤務先に送るのは危険です。

勤務先への送達については、原則的な送達方法と異なりますので、これにより不倫慰謝料通知書が会社関係者の方に見られてしまった場合には、名誉毀損となるリスクも高くなるからです。

例えば、勤務先への送達を検討するのは、①同一住居に配偶者がおり、かつ、配偶者が不倫の事実を知らない場合、②住所がわからない場合等ですが、住所へ送る場合に比べて、より一層慎重に行う必要があります。

4-1-3 ポイント3:悩んだら意向を確認する

不倫慰謝料請求書を送る場合、住所や勤務地に送っていいか悩んだ場合には、相手の意向を確認することが望ましいです。

例えば、局留めや私書箱といった意向が示されることがあります

局留とは、「郵便局留」のことで、被通知人が郵便局の窓口に行き郵便物等を受け取る方法です。

私書箱とは、被通知人が郵便局に設置されている郵便私書箱について無料貸し出しサービスを用いている場合に、その私書箱に郵送する方法です。

ただし、局留の場合には、郵便局から被通知人に連絡がいくわけではないので、事前に通知人が送付した旨を知らせておく必要があります。

また、私書箱についても、被通知人の私書箱の番号が分からないと送ることができません。

そのため、いずれについても、事前に被通知人との意思疎通を行うことが必要となります

4-2 方法2:親展をつける

不当な制裁にならないための方法の2つ目は、慰謝料請求書を送る場合には親展をつけることです。

不貞慰謝料請求書を送る場合には、被通知人の「住所」に送る場合でも、「勤務先」に送る場合でも、いずれについても名誉を毀損してしまうリスクがあります。

住所では配偶者などの家族に知られるリスクが、勤務先では会社関係者に知られるリスクがあるためです。

そこで、親展をつけることで本人以外に内容を知られないようにすることが重要となってきます。

そのため、可能な限り、名誉を毀損したと反撃されることを予防するためにも親展をつけるようにしましょう。

4-3 方法3:送付方法の検討過程を残しておく

不当な制裁にならないための方法の3つ目は、送付方法の検討過程を残しておくことです。

送付方法の検討過程が残っていれば、後の紛争を防ぐことができるからです。

例えば、あなたが送付先に悩んだことから相手に送付先を聞いたところ、住所に送って欲しいといわれたので住所に送ったものの、配偶者は不倫の事実を知らなかったとしましょう。

相手が配偶者に知られたことを理由に不法行為として慰謝料の請求をしてきたとしても、あなたが住所に送ったのは相手の意向に沿ったものという証拠を残しておけば、請求は認められにくいでしょう。

そのため、思わぬ反撃を受けないためにも送付方法の検討過程は残しておきましょう。

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6章 まとめ

今回は、不倫に対する制裁の方法、やってはいけない制裁や不当な制裁にならないための方法について解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

まとめ

・不倫に対する制裁の方法は以下の3つです。
 方法1:民事的制裁を加える
 方法2:刑事的制裁を加える
 方法3:社会的制裁を加える

・やってはいけない制裁は以下の5つです。
 危険な制裁1:会社に事実を告げる
 危険な制裁2:不倫の事実を親族に伝える
 危険な制裁3:SNSでの晒し行為
 危険な制裁4:何度も連絡を送る
 危険な制裁5:物理的な制裁

・不倫に対する制裁についての判例は以下の2つです。
 判例1:不倫の事実を申立書に記載した事案
 判例2:不倫相手の家族と知人に不倫の事実を知らせた事案

・不当な制裁にならないための方法は以下の3つです。
 方法1:不倫慰謝料請求書の送り先を吟味する
  ポイント1:住所に送るのが原則
  ポイント2:勤務先に送るのは危険
  ポイント3:相手方の意向を確認する
 方法2:親展をつける
 方法3: 送付方法の検討過程を残しておく

この記事が、不倫に対する制裁の方法について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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