存続条項(残存条項)について知りたいと悩んでいませんか?
条項毎に内容が異なるので、存続条項の定め方について判断に迷うといった会社もあるのではないのでしょうか。
存続条項とは、指定した条項について、契約終了後も効力がある旨を規定する条項をいいます。
例えば、契約書には以下のように定められることがあります。
本契約が終了した場合でも、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)、第○条(知的財産権)、第○条(損害賠償)、第○条(契約不適合責任)、第○条(合意管轄)の規定は、引き続きその効力を有する。ただし、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)については、終了日から○年に限る。
存続条項を定める目的は、契約の目的を十分に達成することにあります。
というのも、契約が終了した場合、契約書に定められた各条項は効力を失います。
しかし、契約終了後においても重要な条項が存在し、これが失効することで契約の目的を達成できなくなるおそれがあるのです。
例えば、システム開発や保守の契約では職務上知り得た秘密について、契約終了後に秘密保持義務を負わないとすれば、秘密が漏洩してしまう危険が高まります。
そのため、契約の安定性を維持するためには、存続条項を適切な形で契約書に定めておくことが重要となります。
実は、近年、情報化社会の進行に伴い業務上の秘密や知的財産権などの徹底した管理が求められており、私が相談を受ける中でも存続条項を目にする機会が増えています。
この記事を読んで存続条項とは何かを理解し、契約書にどのように定めるべきか知っていただければと思います。
今回は、存続条項とは何かを説明したうえで、存続条項のレビューポイントについて解説してきます。
具体的には以下の流れで解説していきます。
この記事を読めば、存続条項をどのように契約書に定めるべきかよくわかるはずです。
目次
1章 存続条項(残存条項)とは
存続条項とは、指定した条項について、契約終了後も効力がある旨を規定する条項をいいます。
契約が終了すれば、それに伴い各条項の効力も失われることが原則となります。
しかし、存続条項があれば契約が終了したとしても、その効力は失われないのです。
2章 存続条項がないとどうなる?存続条項の目的
存続条項は、取引上のリスクを軽減することを目的として定められることがあります。
というのも、契約の終了によって条項が失効した場合、取引上のリスクを生じるおそれがあるためです。
例えば、取引相手が契約終了後に競業避止義務を負わないとすれば、公開した情報によって営業上の損害を被るおそれがあるのです。
そのため、こうした損害の発生を防ぐためにも存続条項を設けるべき場合があります。
ただし、存続条項がないからといって、必ず条項が失効するというわけではなく、合理的に解釈されて存続するものと判断されることもあります。
例えば、管轄に関する条項が存続すると解釈された裁判例(大阪地判平成17年12月8日裁判所ウェブサイト掲載判例)、損害賠償に関する条項が存続すると解釈された裁判例(東京高判平成25年9月26日金融・商事判例1428号16頁)があります。
存続条項を入れて起き紛争にならないようにするのが何よりですが、もしも存続条項を入れ忘れてしまった場合も、弁護士に相談してみましょう。
存続条項の期限は無期限にすることもできます。
これは契約自由の原則によって、当事者が契約の内容を自由に定めることができるためです。
しかし、一方に過度な負担をさせるものは公序良俗(民法90条)に反し無効とされるおそれがあります。
例えば、秘密保持義務や競業避止義務などは、相手方の自由を不当に害するものであるときは無効になることもあるのです。
そのため、一律に無期限とするのは現実的ではなく、契約の内容に照らして合理的な期間を設定することが望ましいです。
3章 存続条項の例文(英語対応)
存続条項の例文は以下のとおりです。
本契約が終了した場合でも、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)、第○条(知的財産権)、第○条(損害賠償)、第○条(契約不適合責任)、第○条(合意管轄)の規定は、引き続きその効力を有する。ただし、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)については、終了日から○年に限る。
Even after the termination of this Agreement, the provisions of Article ○ (Confidentiality Obligation), Article ○ (Non-Competition Obligation), Article ○ (Intellectual Property Rights), Article ○ (Damages), Article ○ (Warranty of Non-Infringement), and Article ○ (Agreed Jurisdiction) will continue to be in effect. However, for Article ○ (Confidentiality Obligation) and Article ○ (Non-Competition Obligation), this will be limited to ○ years from the termination date.
(訳)
本契約終了後も、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業禁止義務)、第○条(知的財産権)、第○条(損害賠償)、第○条(非侵害保証)、第○条(合意管轄区)の規定は引き続き有効とします。 ただし、第○条(秘密保持義務)及び第○条(競業避止義務)については、終了日から○年間に限ります。
4章 存続条項を定めるべき条項6つ
条項の中には契約中だけでなく、契約終了後も重要となるものがあります。
存続条項を定めるべき条項は以下のとおりです。
条項2:競業避止義務
条項3:知的財産権
条項4:損害賠償
条項5:契約不適合責任
条項6:合意管轄
それでは各条項について順番に説明していきます。
4-1 条項1:秘密保持義務
存続条項を定めるべき条項の1個目は、秘密保持義務です。
秘密保持義務とは、情報の受領者がその情報を秘密として保持し、無許可で第三者に開示することを禁止することいいます。
秘密保持義務は契約終了後もその効力を存続させるべき場合があります。
というのも、受領者が契約終了後に秘密保持義務を負わないとすれば、秘密の漏洩によって提供者が損害を被るおそれがあるためです。
そのため、情報の提供者は秘密の漏洩による損害を防ぐため、秘密保持義務に存続条項を定めるべき場合があります。
4-2 条項2:競業避止義務
存続条項を定めるべき条項の2個目は、競業避止義務です。
競業避止義務とは、一方当事者の他方当事者の事業と競合する活動を制限または禁止することをいいます。
一般的には以下のような契約において用いられる傾向にあります。
・M&A契約(事業譲渡、合併等)
・事業提携契約等
・ライセンス契約
・フランチャイズ契約
しかし、これらについて契約終了によって競業避止義務の効力が消滅すると、会社の事業に大きな損害を受けるおそれがあります。
例えば、M&A契約によって事業の全部を譲渡した場合、譲渡人が譲渡した事業を引き続き行えるとすると、譲受人は取引上の目的を達成できない場合があるのです。
そのため、競業避止義務については存続条項を定めるべき場合があります。
4-3 条項3:知的財産権
存続条項を定めるべき条項の3個目は、知的財産権です。
知的財産権とは、創造したアイデアや発明に対する法的な権利をいいます。
具体的には以下のものが知的財産権の対象になることがあります。
・特許権
・実用新案権
・商標権
・意匠権など…
これらの権利は創作をした者や商標を使用している者に帰属しますが、取引においては知的財産権の使用を相手方に許可するといったこともあります。
使用を許諾した場合に、契約期間が終了すれば許諾を受けた側はその知的財産権を使用する権利を失います。
しかし、知的財産権には秘密保持義務などを設けるのが一般的とされており、契約終了と共に効力が失われるとすれば権利者が損害を被るおそれがあります。
例えば、ライセンス契約では特許等の技術に関する情報がライセンシーへと開示されることがあります。
この場合に契約終了後にライセンシーが知的財産権を自由に扱えるとすると、ライセンサーが重大な損害を受けることがあります。
そのため、知的財産権については存続条項を定めるべき場合があります。
4-4 条項4:損害賠償
存続条項を定めるべき条項の4個目は、損害賠償です。
損害賠償条項とは、契約違反に備えて損害賠償の内容や方法を定めておくものをいいます。
民法の規定は具体的な契約に沿っていないので、これを補充するために定められることが多い傾向にあります。
しかし、契約終了によって失効すると、条項を定めた目的を達成することができなくなります。
そのため、損害賠償条項には存続条項を定めるべき場合があります。
損害賠償条項については以下の記事で詳しく解説しています。
4-5 条項5:契約不適合責任
存続条項を定めるべき条項の5個目は、契約不適合責任です。
契約不適合とは、引き渡された目的物の品質や数量が契約内容に適していない場合に、売主が買主に対して負う責任をいいます。
契約不適合責任は民法にも同様の規定がありますが任意規定とされており、その内容は当事者の合意によって変更することができます。
実際の取引では確認的に定められる場合のほか、責任の内容や担保責任の期間が変更されることもあります。
しかし、合意によって変更しても契約終了後に残存していなければ、条項を定めた目的が達成できません。
そのため、契約不適合責任については存続条項を定めるべき場合があります。
4-6 条項6:合意管轄
存続条項を定めるべき条項の6個目は、合意管轄です。
合意管轄とは、当事者が法定管轄とは異なる管轄の定めをする旨の合意をいいます。
合意管轄は当事者の紛争解決方法の1つとして規定されるものであり、契約終了後においても重要な意味をもちます。
例えば、相手方が遠方に居住する場合、合意管轄として東京地方裁判所を定めても、条項が失効すれば遠方の裁判所に訴訟を提起しなければならない場合があるのです。
そのため、費用の負担を抑えるため、合意管轄に存続条項を定めるべき場合があります。
合意管轄条項については以下の記事で詳しく解説しています。
取引基本契約とは、同じ相手と反復継続して取引を行う場合に、共通した内容をあらかじめ定めておくものをいいます。
取引基本契約の中には存続条項も定められることがあり、これと個別契約で定めた存続条項との関係について以下の点が問題となります。
・取引基本契約が終了した場合における個別契約の効力
優先関係については取引基本契約に定められることが多く、いずれを優先するかは当事者が自由に設定することができます。
そのため、優先関係は具体的な契約内容に照らして判断することが重要となります。
例えば以下のように規定されることがあります。
個別契約については、本契約の各条項を適用する。但し、個別契約において本契約と異なる定めをしたときは、個別契約の定めが優先して適用される。
取引基本契約終了時における個別契約の効力についても、当事者が自由に定めることができるので、実情に応じて定める必要があります。
例えば以下のように規定されることがあります。
本契約が終了した場合に、個別契約の履行が完了していないときは、個別契約の効力は、履行が完了するまでの間、有効なものとして存続する。
取引基本契約については以下の記事で詳しく解説しています。
5章 存続条項のレビューポイント2つ
存続条項はその内容を適切に定めることは、取引上のリスクを軽減するために重要なものといえます。
存続条項のレビューポイントは以下のとおりです。
レビューポイント2:存続させる期間
それでは各レビューポイントについて順番に解説していきます。
5-1 レビューポイント1:引用する条項
存続条項のレビューポイント1個目は、引用する条項を示すことです。
本契約が終了した場合でも、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)、第○条(知的財産権)、第○条(損害賠償)、第○条(契約不適合責任)、第○条(合意管轄)の規定は、引き続きその効力を有する。ただし、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)については、終了日から○年に限る。
1 甲および乙は、注文品の価格および取引を通じて知り得た相手方の機密情報を秘密として保持する。保持している秘密は、相手方の事前の同意なく、第三者に開示又は漏洩してはならない。
2 第1項に定める義務は、本契約終了後も○年間は引き続き効力を有するものとする。
存続条項がある場合、指定した条項が契約終了後も有効なものとして存続されることになります。
存続させる条項が不明確な場合、存続させる条項が曖昧となり当事者間で争いとなるおそれがあります。
そのため、引用する条項を明らかにして当事者の認識を一致させることが重要となります。
しかし、契約書の作成は交渉によって行われるため、交渉が進むにつれて条項に増減が生じることもあります。
この場合、かえって引用されている条項にズレが生じるおそれがあるのです。
そのため、引用するのではなく、存続させたい条項に存続期間を付け足すといった方法を採ることも考えられます。
5-2 レビューポイント2:存続させる期間
存続条項のレビューポイント2個目は、存続させる期間を示すことです。
本契約が終了した場合でも、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)、第○条(知的財産権)、第○条(損害賠償)、第○条(契約不適合責任)、第○条(合意管轄)の規定は、引き続きその効力を有する。ただし、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)については、終了日から5年に限る。
存続条項の期間は任意に設定することができますが、無期限とすることは相手方の負担が大き過ぎてしまい現実的ではありません。
また、秘密保持義務や競業避止義務についてはその期間が長すぎると無効になるおそれがあり、適切な期間を設定する必要があります。
そのため、存続期間は契約内容に照らして個別的に判断することが重要となります。
一般的には、2年~5年程度として設定されることが多い傾向にあります。
なお、秘密保持義務については対象となる秘密の性質に照らし、1年程度とされることもあります。
例えば、情報としての価値が劣化する速度が早く、長期間の秘密保持義務を負わせることが妥当でない場合等が挙げられます。
6章 存続条項に関する判例
開発委託契約が合意解除された後に、共同出願の有効性が存続条項と関連して問題となった事案について、以下の条項がありました。
1 本契約の有効期間は、本契約締結の日から第2条の委託業務の終了日までとする。
2 前項の定めに関わらず、第5条(秘密保持)に関する定めは、この契約終了後5ヵ年間有効とし、第6条(工業所有権)に関する定めは、当該工業所有権の存続期間中有効とする。」
この事案について裁判所は、契約の終了には合意解約も含まれることから、存続条項によって契約終了後においても共同出願条項は効力を有するとしています。
判例は以下のように説明しています。
「8条1項の「第2条の委託業務の終了」には、契約目的を達成した場合のみならず、委託業務(事実行為)が合意解除(法律行為)を原因として途中で終了する場合も含むと解するのが文言上自然であり、前記のとおり、合意解除の場合にも8条1項が適用され、8条2項の本件効力存続条項により本件共同出願条項がその効力を有すると解するのが、当事者の合理的な意思に合致するというべきであること、…その効力を特約により存続させて互いの営業秘密を保護しようとするのが契約当事者の合理的意思に合致すると考えられること等、諸般の事情を総合考慮するならば…合意解除の場合においても、その効力を特約により存続させるのが契約当事者間の合理的意思に合致するといえる。」
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8章 まとめ
以上のとおり、今回は、存続条項とは何かを説明したうえで、存続条項のレビューポイントについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・存続条項(残存条項)とは、指定した条項について、契約終了後も効力がある旨を規定する条項をいいます。
・存続条項は、取引上のリスクを軽減することを目的として定められることがある。
・存続条項の例文は以下のとおりです。
第○条(存続条項)
本契約が終了した場合でも、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)、第○条(知的財産権)、第○条(損害賠償)、第○条(契約不適合責任)、第○条(合意管轄)の規定は、引き続きその効力を有する。ただし、第○条(秘密保持義務)、第○条(競業避止義務)については、終了日から○年に限る。
・存続条項を定めるべき条項は以下の6つです。
条項1:秘密保持義務
条項2:競業避止義務
条項3:知的財産権
条項4:損害賠償
条項5:契約不適合責任
条項6:合意管轄
・存続条項のレビューポイントは以下の2つです。
レビューポイント1:引用する条項を明らかにする
レビューポイント2:存続させる期間を明らかにする
この記事が存続条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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