従業員から人事異動を拒否されて困っていませんか?
従業員側の気持ちもわかりますが、特定の従業員だけ特別扱いをするわけにはいかず、人事担当者としても頭が痛いですよね。
日本の法律では、人事異動については、企業の裁量が大きく従業員側の拒否権は認められにくい傾向にあります。
企業は、一部の従業員の「わがまま」のみを聞いてしまうと、他の従業員からは「ずるい」との声が上がってしまい、規律が乱れてしまいますので、毅然とした対応をするべきです。
ただし、従業員が異動を拒否する際には、正当な理由による場合もありますので、まずは拒否理由を確認するようにしましょう。
異動の拒否については判例が蓄積されていますので、これらを理解することで、企業としてもどのように対応すればいいのかが見えてきます。
従業員が不当な理由により異動を拒否し続ける場合には、説得を試みて、難しければ、最終的に退職勧奨や解雇・懲戒解雇を検討することになります。
異動拒否を理由とする退職は、離職票上、原則として自己都合退職となりますが、一定の場合には例外的に会社都合となることがあり注意を要します。
実は、私が人事労務に関する多くの相談を受ける中でも、転勤や職種変更等の異動に関して、どの程度従業員に配慮すべきなのかという問題は増えています。
この記事をとおして、経営者や人事担当者の方に、異動の拒否についての正しい考え方を知っていただければと思います。
今回は、人事異動(配置転換・転勤)を拒否されたらどうすればいいかについて、拒否の正当な理由と4つの対応を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、人事異動を拒否されたらどうすればいいのかがよくわかるはずです。
目次
- 1 1章 人事異動(配置転換・転勤)の拒否権は認められにくい|企業の裁量が広い理由
- 2 2章 人事異動(配置転換・転勤)拒否には毅然と対応すべき|「わがまま」や「ずるい」を防止
- 3 3章 人事異動(配置転換・転勤)拒否の正当な理由になる?よくある拒否理由9つ
- 4 4章 人事異動拒否の重要判例!厳選13個
- 4.1 4-1 最二小判昭61年7月14日集民148号281頁[東亜ペイント事件]
- 4.2 4-2 大阪高判平18年4月14日労判915号60頁[ネスレ日本事件]
- 4.3 4-3 札幌地決平成15年2月4日労経速1831号19頁[東日本電信電話事件]
- 4.4 4-4 大阪高判平成17年1月25日労判890号27頁[日本レストランシステム事件]
- 4.5 4-5 最二小判平11年9月17日労判768号16頁[帝国臓器製薬事件]
- 4.6 4-6 最三小判平成12年1月28日集民196号285頁[ケンウッド事件]
- 4.7 4-7 東京地決平成14年12月27日労判861号69頁[明治図書出版事件]
- 4.8 4-8 東京地判平成22年2月8日労経速2067号21頁[エルメスジャポン事件]
- 4.9 4-9 東京地判平成27年7月15日D1-Law.com判例体系
- 4.10 4-10 東京地判平成25年3月6日労働経済判例速報2186号11頁[ヒタチ事件]
- 4.11 4-11 仙台地決平成14年11月14日労働判例842号56頁[日本ガイダント仙台営業所事件]
- 4.12 4-12 東京高判平成12年11月29日労働判例799号17頁[メレスグリオ事件]
- 4.13 4-13 札幌地判平成24年2月20日労働経済判例速報2139号21頁[トムス事件]
- 5 5章 人事異動(配置転換・転勤)を拒否されたら|会社がとるべき対応4つ
- 6 6章 人事異動拒否による退職は原則として自己都合
- 7 7章 人事異動(配置転換・転勤)の拒否を予防するための工夫
- 8 8章 異動を拒否された場合の相談はリバティ・ベル法律事務所へ!
- 9 9章 まとめ
1章 人事異動(配置転換・転勤)の拒否権は認められにくい|企業の裁量が広い理由
人事異動(配置転換・転勤)については、従業員側の拒否権が認められにくい傾向にあります。
人員配置については、企業の裁量が広いためです。
より詳しく説明すると、日本では、解雇について厳格に規制されており、異動を行うこと等により解雇を回避することが求められています。
つまり、解雇を厳格に規制する代わりに、人員配置に関しては一定の裁量を与えられています。
また、日本の法律では終身雇用制のもと、職種や勤務場所等のポジションに着目するのではなく、その人自体に着目して採用を行う傾向にあります。
例えば、マーケティング部門に配属された従業員Xが十分なパフォーマンスを発揮できていない場合においては、いきなり解雇するのではなく、営業職等への異動を検討しなければなりません。
このように日本においては、人事異動(配置転換・転勤)については、企業の裁量が広く、従業員側の拒否権は認められにくいのです。
2章 人事異動(配置転換・転勤)拒否には毅然と対応すべき|「わがまま」や「ずるい」を防止
人事異動(配置転換・転勤)拒否には、配慮はしつつも、毅然と対応すべきです。
なぜなら、一部の従業員の「わがまま」を認めてしまうと、他の従業員から「ずるい」との声が上がってしまうためです。
従業員のうち多くの方は少なからず、現在の生活環境を変えたくないと考えている傾向にあります。
そのような中で、異動が嫌であれば拒否できてしまうという前例を作ってしまうと、他の従業員は自分も「拒否したい」「拒否したかった」と考えるようになってしまうのです。
そうすると、企業の人員配置が立ち行かなくなってしまい、規律を維持することができなくなってしまいます。
例えば、異動の拒否に成功した従業員が、同僚に対して拒否する方法等を言って回るかもしれません。
そのため、企業は、一度、人事異動(配置転換・転勤)を命じた場合には、従業員からの拒否に対して、配慮はしつつも、毅然と対応する必要があるのです。
3章 人事異動(配置転換・転勤)拒否の正当な理由になる?よくある拒否理由9つ
従業員が異動を拒否する際には、正当な理由による場合もあります。
企業の人員配置の裁量は広いとはいえ無制限ではなく、法的な根拠が必要となりますし、従業員の不利益が著しいと濫用となることもあるためです。
例えば、よくある人事異動(配置転換・転勤)の拒否理由としては、以下の9つがあります。
理由2:通院
理由3:共働きで育児
理由4:持ち家
理由5:うつ病
理由6:勤務地や職種を限定する合意
理由7:パートタイマー
理由8:嫌がらせ目的
理由9:減給や降格
それでは、これらの拒否理由が正当となり得るのかについて順番に説明していきます。
3-1 理由1:介護
介護を理由とする転勤の拒否については、正当な理由によるものとされることがあります。
育児介護休業法は、転勤につき子の養育や家族の介護に配慮しなければならないとしています。
事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。
例えば、重度の障害がある家族を養育、介護しているような従業員に対して、転勤を命じる場合には、拒否が正当とされることもあります。
ただし、他の家族も養育や介護を行う方がいるのか、ホームヘルパーへのお願いはしているか、会社に介護休暇制度がないか等も考慮されます。
そのため、介護をしていることが転勤を拒否できる理由に当たるかは、個別的に判断されます。
3-2 理由2:通院
通院を理由とする転勤の拒否については、正当な理由によるものとされることがあります。
転勤先において通院できる病院が見つからない場合には、従業員やその家族の健康に関わってくるためです。
もっとも、「取り扱っている病院が少ない特殊な病気」や「病院を変更することにより悪影響が生じる具体的なおそれがある」場合でなければ、通院先の変更により対処できる可能性があります。
そのため、通院していることが転勤を拒否できる理由に当たるかは、個別的に判断されます。
3-3 理由3:共働きで育児
共働きで育児をしていることを理由とする異動の拒否については、それだけでは正当な理由にはならないとされる傾向にあります。
ただし、介護や通院等の他の事情もあわさることにより不利益が大きいものとして、拒否の正当な理由になることもあります。
3-4 理由4:持ち家
持ち家を持っていることを理由とする転勤の拒否については、それだけでは正当な理由にはならないとされる可能性が高いです。
「単身赴任」や「賃貸に出す」、「売却する」といった方策も有り得る一方で、転勤の可能性があることについては購入時から想定できるためです。
3-5 理由5:うつ病
うつ病を理由とする異動の拒否については、正当な理由とされることがあります。
「転院が困難である場合」や「家族と離れることにより病状が悪化するような場合」には、安全配慮義務に基づき、異動をしない選択をすべき場合もあります。
ただし、転勤の内示が出た後にはじめて心療内科に行き診断書を出してもらおうとする従業員もいます。
通院開始時期に注意するとともに、不審な場合にはカルテの提出に協力するように求めたり、産業医への受診も命じたりすることも検討しましょう。
また、異動を命じないこととした場合も、安全配慮の観点から休職を命じて、治療に専念してもらうべき場合もあります。
3-6 理由6:勤務地や職種を限定する合意
勤務地や職種を限定する合意があることを理由とする転勤拒否については、正当な理由となります。
もっとも、正社員については、簡単には勤務地や職種を限定する合意があったとは認定されない傾向にあります。
例えば、労働条件通知書に業務の内容や勤務地が記載されていても、通常は、採用直後の当面の業務内容として記載されているものと解されます(平11年1月29日基発45号参照)。
そのため、労働条件通知書の業務内容や勤務地の記載のみでは、職種限定の合意があったとまではいえません。
3-7 理由7:パートタイマー
パートタイマーであることを理由とする転勤拒否については、正当な理由とされることがあります。
労働者に固定された生活の本拠があることが前提とされていることから、勤務場所限定の合意があったと認定されやすいためです。
3-8 理由8:嫌がらせ目的
嫌がらせ目的であることを理由とする異動拒否については、正当な理由とされます。
権利の濫用となるためです。
例えば、退職勧奨を拒否されたことを理由として、従前の職種に見合わない閑職に追いやったり、誰も行いたくないような業務を命じたりするような場合です。
3-9 理由9:減給や降格
減給や降格を伴う異動の拒否については、正当な理由とされることがあります。
賃金の減額を伴う異動については、異動とは別に賃金が減少する法的な根拠が必要となるためです。
例えば、給与テーブル等で明確に賃金額の変動の理由を説明できない場合や大幅賃金減少を伴う場合には、異動の拒否が正当とされることがあります。
4章 人事異動拒否の重要判例!厳選13個
異動の拒否については判例が蓄積されていますので、これらを理解することで、企業としてもどのように対応すればいいのかが見えてきます。
以下では人事異動拒否の重要判例を13個厳選して整理しました。
それでは、これらの判例について、一つずつ順番に説明していきます。
4-1 最二小判昭61年7月14日集民148号281頁[東亜ペイント事件]
東亜ペイント事件は、配置転換命令がどのような場合に濫用となるのかの判断基準を示したリーディングケースです。
配置転換が権利の濫用となるのは、以下のいずれかに該当するような特段の事情がある場合としました。
②配置転換命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき
③配置転換命令が労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
また、①の「業務上の必要性」については、「当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべき」として、広く認めています。
4-2 大阪高判平18年4月14日労判915号60頁[ネスレ日本事件]
要介護者である母と同居している労働者に対する姫路工場から霞ヶ浦工場への配転命令が、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとして無効とされました。
また、非定型精神病に罹患した妻の病状改善のために努力すべき義務を負っている労働者に対する姫路工場から霞ヶ浦工場への配転命令が、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとして無効とされました。
4-3 札幌地決平成15年2月4日労経速1831号19頁[東日本電信電話事件]
老齢で障害を持つ父親の介護をしている北海道苫小牧市に勤務してきた労働者に対して、東京都の事業所への配転命令が出されました。
これに対して、従業員側から、転勤命令に従う義務のないことを仮に定める旨の仮処分が申し立てられたのがこの事案です。
裁判所は、保全の必要性がないとして、仮処分申請を却下しました。
理由は、会社の介護休職や看護休暇、あるいは帰省費用の援助などの制度を利用すれば、東京に勤務しながらでも同人が従来行ってきた程度の介護は可能であり、また、同人が東京勤務となることによって父親の病状に悪影響が及ぶ切迫した危険があるともいえないためです。
4-4 大阪高判平成17年1月25日労判890号27頁[日本レストランシステム事件]
関西地区における管理職候補として現地採用された者について、以下の事情から、採用時点において勤務地を限定する合意があったとされました。
・入社後も、関西地区外に転勤する可能性について説明を受けたり、打診されたこともなく、会社全体としても、マネージャー職を地域外に広域異動させられることは稀であったこと、
・その後の昇格の際にも、この合意が変更されるには至らなかったものと認定されること
なお、仮に、勤務地限定の合意が認定できないとしても、少なくとも会社は当該従業員に対し、勤務地を関西地区に限定するようできる限り配慮する信義則上の義務を負っていたとされています。
4-5 最二小判平11年9月17日労判768号16頁[帝国臓器製薬事件]
同じ会社に勤務する妻と一緒に共働きで3人の子供を保育していた製薬会社の医療情報担当者に対する東京営業所から名古屋営業所への転勤命令が、業務上の必要性に基づくものであり、不利益は社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものとはいえず、違法ではないとされました。
4-6 最三小判平成12年1月28日集民196号285頁[ケンウッド事件]
満3才の幼児を保育中の共働き夫婦の妻に対する都内の転勤命令が、長男の保育園への送迎等に支障を生じさせるとしても、その不利益は通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえず、権利濫用ではないとされました。
退職予定の従業員の補充のために、本社地区の製造現場経験があり40歳未満の者という人選基準を設けて行われたこと等も考慮されています。
4-7 東京地決平成14年12月27日労判861号69頁[明治図書出版事件]
共働きにより重症のアトピー性皮膚炎の子らの育児を行う従業員(総合職)に対して、10年以上勤務していた東京本社から大阪支社に転勤を命じることは、通常甘受すべき程度を著しく超え権利の濫用となるとしました。
4-8 東京地判平成22年2月8日労経速2067号21頁[エルメスジャポン事件]
情報システム部に勤務していた従業員に対する倉庫係への配転命令が、情報システム専門職としてキャリアを形成していくことができるとする従業員の期待への配慮を欠いたものとして、権利濫用にあたるとしました。
以下のような事情があります。
・情報技術に関する経歴と能力が見込まれ中途採用された者であること
・採用面接の際にも前記会社側から将来的には情報システム部の部長になってもらいたいとの話があったこと
4-9 東京地判平成27年7月15日D1-Law.com判例体系
精神疾患に罹患していた従業員に対する配置転換命令につき、業務上の必要性が認められないか、あったとしても非常に弱いものであり、環境変化や通勤時間の大幅な長時間化等が従業員の心身や疾患に悪影響を与えるおそれも否定できないものであって、その負担、不利益も大きいといえるとして、濫用に当たるとしました。
4-10 東京地判平成25年3月6日労働経済判例速報2186号11頁[ヒタチ事件]
うつ病に罹患して精神科に継続的に通院している従業員に対する配転命令について、有効としました。
この裁判例は、「うつ病患者が信頼関係を醸成している精神科に継続的に通院する必要性はそれなりに尊重されるべきといえる。」、「生活状況が変わることによって、うつ病を患っている原告に社会生活上の支障が生じうる可能性も認められる。」としつつも、
「大宮営業所への配転(さいたま県大宮市所在)であり、他の医療機関への転院は避けられないとしても、医療機関への通院自体が困難な地域とは言い難い。」、「原告の雇用を確保するためには本件配転命令は避けることができないところ、かかる業務上の必要性に比べれば、原告に生じる社会生活上の不利益は、受認すべき限度内にある」としています。
4-11 仙台地決平成14年11月14日労働判例842号56頁[日本ガイダント仙台営業所事件]
職務内容の変更に伴って給与の等級も下がることになる降格としての性質も併せ持つ配置転換につき、従前の賃金の減額を相当とする客観的合理的理由がなければ降格は無効であり、この場合配転自体も無効となるとしました。
客観的に合理的な理由があるかは、労働者の帰責性の有無・程度、降格の動機・目的、使用者側の業務上の必要性の有無・程度、降格の運用状況等を総合考慮するとされました。
4-12 東京高判平成12年11月29日労働判例799号17頁[メレスグリオ事件]
片道2時間以上(約2倍)となる事業所への転勤命令が権利濫用にあたらないとされました。
もっとも、配転後の通勤所要時間・経路・方法など、配転に関して合理的な決断をするのに必要な情報を会社が提供していなかったことに照らせば、命令を拒否した女性労働者に対する懲戒解雇は権利の濫用に当たり無効であるとされました。
4-13 札幌地判平成24年2月20日労働経済判例速報2139号21頁[トムス事件]
就業場所を前記会社の札幌支店、業務内容を営業事務職に限定して採用された従業員が札幌支店の営業事務職廃止に伴い東京本社への配転命令を承諾をしなかった事案について、解雇を有効としました。
裁判例には、以下のように判示したものがあります。
「共稼ぎ夫婦である債権者夫婦が別居するか、その一人が退職するかは共稼ぎ夫婦の一方の転勤によつて通常生ずる事態であり、通常予測されないような異常なものとはいえない」
「職員である以上転勤は当然予想される事柄であり、したがつて結婚に際しても共稼ぎである限り将来いずれかの転勤によつて別居という事態の起ることも或程度予測していなければならないと考えられること」
「新婚当初から別居を余儀なくされることになるが、この程度の生活上の不利益は、…原告の職種や採用された経緯に照らして予測されないものではないうえ、原告と婚約者の選択の結果であるから、原告において甘受すべきものというべきである」
これらの裁判例からは、裁判所は、共働き夫婦の一方の退職や単身赴任、別居について、受忍限度を超える不利益ではないと判断する傾向にあることがわかります。
ただし、これらの裁判例についてはいずれも30年以上も前のものとなりますので、ワークライフバランスが重視される昨今の価値観とはズレている可能性があります。
5章 人事異動(配置転換・転勤)を拒否されたら|会社がとるべき対応4つ
従業員から人事異動を拒否されたら、配慮はしつつも、企業としての規律を維持しなければなりません。
具体的には、人事異動を拒否されたら以下の手順で対応していくべきです。
対応2:配慮をしたうえで説得する
対応3:自主退職をするか確認する(退職勧奨をする)
対応4:解雇・懲戒解雇を検討する
それでは、各対応について順番に説明していきます。
5-1 対応1:拒否する理由を聞く
人事異動を拒否されたら、まず従業員に拒否する理由を聞くようにしましょう。
拒否の理由によっては正当な理由となり得ることもあるためです。
拒否の理由が正当な理由となり得る場合には、念のため、エビデンスを提出してもらうようにしましょう。
5-2 対応2:配慮をしたうえで説得する
次に、拒否の理由に応じて必要な配慮をしたうえで、説得するようにしましょう。
例えば、休暇制度の利用や通勤経路の確認、生じ得る経済的損失の補てん等、従業員の不安を払しょくする方法を検討します。
そのうえで、異動を行う必要性について説明して納得してもらうようにしましょう。
5-3 対応3:自主退職をするか確認する(退職勧奨をする)
それでも異動を拒否された場合には、自主退職をするかどうかについて確認しましょう。
いきなり異動の拒否を理由として解雇を行うと、従業員としても経歴に傷がついてしまいますし、企業側としても紛争リスクが高まることになります。
そのため、企業としては、異動命令を撤回することはできず拒否される場合には解雇することになる旨を伝えたうえで、自主的に退職するかを確認します。
ただし、退職勧奨という単語を使うと、離職票につき、会社都合とするべきではないかとの疑義が呈される可能性があります。
企業として助成金との関係で離職理由を気にするようであれば、企業側から退職を促すことまではせず、自主的に退職するかを質問するにとどめておいた方がいいでしょう。
なお、企業規模の大きな会社などでは、転勤が想定されていない職種への契約の変更を促す方法などもあります。
従業員が退職に応じない理由については、以下の記事で詳しく解説しています。
5-4 対応4:解雇・懲戒解雇を検討する
最終的に上記の各対応を経ても従業員が異動に応じず、自主的な退職もしないという場合には、解雇又は懲戒解雇を検討します。
解雇通知書の書き方については以下の記事で詳しく解説しています。
規律の維持という観点からは、普通解雇ではなく、懲戒解雇をもって臨むケースもあります。
ただし、判例では、配置転換命令が有効とされても、懲戒解雇までは重すぎて無効であるとされることもあります。
そのため、懲戒解雇をする場合であっても、従業員からその有効性を争われるような場合には、予備的に普通解雇を行うことを検討してもいいでしょう。
懲戒解雇の会社側のデメリットは以下の記事で詳しく解説しています。
6章 人事異動拒否による退職は原則として自己都合
人事異動拒否を理由とする退職については、原則として自己都合となります。
離職証明書の離職理由欄は、「5 労働者の判断によるもの」「(1)職場における事情による離職」、「⑦その他」にチェックします。
カッコ書きには従業員が異動命令により退職することを選択したことについて記載します。
ただし、例えば、以下の場合には例外的に会社都合となり、一部の助成金の支給を受けることができなくなるリスクがあるので注意が必要です。
家族的事情(常時本人の介護を必要とする親族の疾病、負傷等の事情がある場合をいう。)を抱える労働者が遠隔地に転勤を命じられた場合
会社都合となる例外2
勤務場所が特定されていた場合に往復4時間(片道2時間)かかる遠隔地に異動を命じられた場合
会社都合となる例外3
10年以上同じ職種に就いた者を教育訓練なしに別職種に異動を命じられた場合
会社都合となる例外4
採用時に特定の職種のために採用されることを明示して雇用した従業員に対し、1年以上前に通知せずに異動を命じられた場合(ただし、賃金を減額しない場合を除く)
特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準.pdf (mhlw.go.jp)
なお、会社都合退職とすることにより支給を受けることができなくなる助成金は以下の記事が参考になります。
7章 人事異動(配置転換・転勤)の拒否を予防するための工夫
企業としては、そもそも人事異動(配置転換・転勤)を拒否されないように予防することが肝要です。
従業員の意思を反映するプロセスを入れたり、制度を整えたりすることによって、格段に不満を出にくくなります。
例えば、人事異動の拒否を要望するためには、以下のような工夫してみるといいでしょう。
工夫2:複数の選択肢から選んでもらう
工夫3:異動への補償制度を充実させる
工夫4:異動なしの雇用制度を作る
それでは、順番に説明していきます。
7-1 工夫1:事前にアンケートを取る
多くの企業では行っていますが、異動を命じる前にアンケートを取るようにしましょう。
異動を命じた後に拒否することを許すと、規律の観点から問題が生じます。
そのため、異動を命じる前の時点で従業員の意向を確認しておくことが肝要です。
なるべく人事異動の必要性と従業員の意向を踏まえた人員配置を心がけるようにしましょう。
7-2 工夫2:複数の選択肢から選んでもらう
一定の規模の企業などでは、現実的な可能性のある複数の部署やポジションの中から、従業員自身に選んでもらうという方法も考えられます。
従業員側に選択肢を与えることによって、少なからず意向を汲むことができますので、納得感を得やすいです。
7-3 工夫3:異動への補償制度を充実させる
次に、異動に伴い従業員に生じる不利益に対して、一定の補償を制度として作る方法が考えられます。
経済的な不利益については、金銭の補償を行うことが考えられます。例えば、転居費用や家賃、交通費等です。
単身赴任により生活費がかさむ場合にはこれについても手当を支給することが考えられます。
また、休暇制度を拡充するなどして、子どもの養育や親族の介護などへの配慮を行うことも考えられます。
7-4 工夫4:異動なしの雇用制度を作る
また、雇用形態として、「異動なしの職種」と「異動ありの職種」で分けておくという方法もあります。
「異動あり」の職種については、「異動なし」の職種に比べて、賃金などの条件をよくすることにより調整します。
このような制度にすることによって、従業員は異動となるリスク負うことの対価を得ていることになりますので、異動についても納得しやすくなります。
また、従業員が異動を拒否した際には、「異動なし」の職種への変更を促すこと等により、規律の維持を図ることもできます。
8章 異動を拒否された場合の相談はリバティ・ベル法律事務所へ!
異動を拒否された場合の相談は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
人員労務は専門性の高い分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
異動命令を拒否された場合には、正当な理由の有無を判例に照らして分析したうえで、適切な配慮を講じることになります。
そのうえで、可能な限りリスクを低減しつつ、企業の規律を維持していかなければなりません。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨をはじめとした人事労務に力を入れており、圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
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9章 まとめ
以上のとおり、今回は、人事異動(配置転換・転勤)を拒否されたらどうすればいいかについて、拒否の正当な理由と4つの対応を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・人事異動(配置転換・転勤)については、従業員側の拒否権が認められにくい傾向にあります。
・人事異動(配置転換・転勤)拒否には、毅然と対応すべきです。
・人事異動を拒否されたら以下の手順で対応していくべきです。
対応1:拒否する理由を聞く
対応2:配慮をしたうえで説得する
対応3:自主退職をするか確認する(退職勧奨をする)
対応4:解雇・懲戒解雇を検討する
・人事異動拒否を理由とする退職については、原則として自己都合となります。
・人事異動の拒否を要望するためには、以下のような工夫してみるといいでしょう
工夫1:事前にアンケートを取る
工夫2:複数の選択肢から選んでもらう
工夫3:異動への補償制度を充実させる
工夫4:異動なしの雇用制度を作る
この記事が人事異動を拒否されて困っている経営者や人事担当者の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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