会社が従業員を懲戒解雇した場合のデメリット(リスク)を知りたいと悩んでいませんか?
毅然とした態度で対応したいと考えるものの懲戒解雇をしたことによって、会社に大きな不利益が生じてしまうことがないか不安ですよね。
懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)は以下の4つがあります。
デメリット2:高額のバックペイ
デメリット3:解雇した従業員の復職
デメリット4:労力・時間・弁護士費用
これに対して、懲戒解雇を行う会社側のメリット(目的)は、規律の維持となります。
会社としては、上記のリスクを軽減するため、可能な限りの方法を講じるべきです。
何らの対処を講じることなく、懲戒解雇を強行してしまうと、会社に甚大な損害が生じてしまいます。
実は、懲戒の解雇リスクを十分に理解することなく、安易に行ってしまい、弁護士から通知書が届いた段階で、焦ってしまう会社も数多く存在しているのです。
この記事をとおして、懲戒解雇により会社側にどのようなデメリットが生じてしまうのかを知っていただければと思います。
今回は、懲戒解雇の会社側のデメリット4つを説明したうえで、リスクを軽減するための方法3つを解説していきます。
具体的には以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、懲戒解雇により会社側にどのようなデメリットが生じるのかがよくわかるはずです。
目次
1章 懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)4つ
懲戒解雇を行う場合には、会社側には大きなデメリット(リスク)があります。
なぜなら、懲戒解雇というのはいわば極刑であり、労働者に対する死刑宣告に等しいものとなりますので、法律上とても厳格な条件が定められているためです。
法律上、懲戒解雇が有効とされるのは非常に限られたケースに減退されています。
例えば、懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)としては、以下の4つがあります。
デメリット2:高額のバックペイ
デメリット3:解雇した従業員の復職
デメリット4:労力・時間・弁護士費用
それでは、各デメリットについて順番に説明していきます。
1-1 デメリット1:紛争リスクの上昇
懲戒解雇の会社側のデメリットの1つ目は、紛争リスクの上昇です。
懲戒解雇を行われると従業員にも大きなデメリットが生じることになります。
というのも、従業員は転職活動を行う際に面接において、前職の退職理由を聞かれることになるためです。
例えば、懲戒解雇されたことによって退職したと答えると、多くの企業はリスクを回避するため不採用とします。他方で、事実と異なる退職理由を述べれば、経歴詐称として再度懲戒解雇されるリスクが生じることになります。
これに対して、懲戒解雇の法律上のハードルはかなり高いので、法的にこれを争うことにより、懲戒解雇の経歴をなかったことにできる可能性があります。
そのため、懲戒解雇をされた従業員は、普通解雇に比べてより一層、これを争う可能性が高く、紛争リスクが高まることになるのです。
1-2 デメリット2:高額のバックペイ
懲戒解雇の会社側のデメリットの2つ目は、高額のバックペイです。
バックペイとは、解雇が無効になった場合に会社が支払うことになる解雇日から判決確定日までの賃金のことです。
解雇が無効になった場合には、従業員が解雇日以降に業務を行うことができなかったのは、会社の責めに帰すべき事由によるものであるとして、遡って賃金の支払いを命じられるリスクがあります。
例えば、令和5年8月31日をもって、月給30万円の従業員を懲戒解雇した場合において、当該懲戒解雇が無効であることが令和6年8月31日をもって確定した場合には、12か月分の賃金である360万円を後から遡って支払うことになります。
労務を提供していない従業員に後からまとめて賃金を支払わなければいけなくなるため、企業の規模によっては、事業の継続が危ぶまれてしまうこともあります。
1-3 デメリット3:解雇した従業員の復職
懲戒解雇の会社側のデメリットの3つ目は、解雇した従業員の復職です。
懲戒解雇が無効となれば、従業員は退職していなかったことになりますので、復職することになります。
問題社員が戻ってくることにより働きやすい職場環境が害されたり、一度解雇されたはずの従業員が戻ってくることにより企業秩序が乱れたりすることになります。
1-4 デメリット4:労力・時間・弁護士費用
懲戒解雇の会社側のデメリットの4つ目は、労力・時間・弁護士費用です。
懲戒解雇をするには客観的に合理的な理由が必要であり、裁判所にも説明できるように事実関係と証拠を整理する必要があります。
また、訴訟になった場合には解決までに1年以上はかかりますし、高額な弁護士費用もかかります。
労働紛争における弁護士費用の相場は、以下の記事で詳しく解説しています。
2章 懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)を具体的な事例形式で紹介
懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)といっても、まだあまりイメージが湧いていない方も多いですよね。
以下では、懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)を具体的な事例形式で紹介します。
【事例】
X従業員は、Y社の従業員ですが、入社以来、遅刻を繰り返していました。
Y社としても、何度か口頭で注意してきましたが、ある日、Xが重要な取引先とのミーティングに5分遅れてきた際に、我慢の限界となり、即日で懲戒解雇を言い渡しました。
その一週間後にXの代理人弁護士からY社に内容証明郵便が届きました。内容証明郵便には、懲戒解雇は濫用であるため撤回するようにとの記載があります。
社長、Xの代理人弁護士から内容証明郵便が届きましたがどうしましょうか。
この弁護士は、これまでXがどのようなことをしてきたのか知っているのだろうか。一応、顧問弁護士に相談してみよう。
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ご事情を説明いただきありがとうございます。お聞きした事情ですと、確かに懲戒解雇は少し難しそうですね。
しかし、Xという従業員は、これまで何度も遅刻を繰り返しているんです。こんな従業員がいたら仕事になりません。
仰ることはわかります。一度、Xの代理人に話し合いの打診をしてはいかがでしょうか。
話し合いというのは、Xの主張を認めるということですか?そのようなことは断じてできません。
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東京地方裁判所から労働審判申立書が届きました。
労働審判?なんだそれは。顧問弁護士に相談してみるか…
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労働審判というのは解雇などの個別的な労働紛争を迅速に解決するための手続きです。全3回までの期日で調停を目指していきます。
結局は、当社はどうすればいいんですか?
今回は私が答弁書を作成しますので、ヒアリングと資料の収集にご協力ください。また期日の当日は、社長も一緒にご出席をお願いします。
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(労働審判当日)
それではヒアリングを終了させていただきます。あとは評議に入りますので、終わりましたら個別にお呼び致します。それぞれ待合室で待機していてください。
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先生。感触はどうですか。
中々厳しそうですね。労働審判委員会の反応からも、懲戒解雇は無効との心証が言い渡されるでしょう。
でも、Xを会社に戻すなんてとてもできません。どうすればいいでしょうか。
そうなると金銭解決を打診するしかありません。労働審判委員会にも説得してみてもらいましょう。
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労働審判委員会としては、解雇は無効との心象です。Xさんに解決の意向を聞いたところ、復職を希望しており、退職は考えていないとのことです。Y社の意向を聞かせていただけますか。
Y社としては、Xを会社に復職させることは困難であり、退職を前提とした金銭解決を望んでおります。
そうは言っても、Xさんの意思は中々堅そうでしたよ。遅刻が多いというY社の言い分も分かりますが、懲戒解雇はやりすぎでしたね。会社としては、金銭解決の場合には、どの程度の金額を出すことが可能ですか。
賃金の3ヶ月分による解決を提案いたします。
それでは難しいと思いますよ。まあ一応、Xさんには伝えてみますので、待合室でお待ちください。
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Xさんに意向を確認してみましたが、3か月分じゃ全然無理そうでした。Xさんは退職したくないとの意思が強いようで、労働審判委員会としてもなんとか調停を検討いただけないか説得いたしました。一応、Xさん側から出てきた数字が賃金の1年6ヶ月分とのことです。
さすがに、それは支払えないです…
ただ、そうすると審判を出すことになりますが、懲戒解雇は無効との判断になってしまいます。異議を出して、訴訟に移行したとして、そこでXさんの請求が認められれば、1年6か月分程度の金額になってしまいますし、更に、Xさんの復職が認められてしまいますよ。
仰る趣旨は分かりますが。今回の経緯としてはXさんにも落ち度があります。1年6か月分は高すぎるのではないでしょうか。
労働審判委員会からも1年6か月分は、会社側から高すぎるとの意見が出る可能性が高い旨は伝えてあります。Xさんに何とか1年分まで下りてきてもらえないかとのお話をしましたが、無理みたいです。それだったら審判をしてくださいと言われてしまいました。
一度、社長とお話をさせてください。
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先生どうすればいいですか。
私としても1年6ヶ月分というのは相場に照らして高額であると感じます。もっとも、労働審判委員会が言っていることは事実です。仮に今回、こちらが調停に応じなかった場合には、審判が出され、訴訟に移行する可能性があります。その場合には、今よりも高額な支払いが認められたうえで、Xが復職することになるリスクがあります。
(どうしよう………)
3章 懲戒解雇を行う会社側のメリット(目的)は規律の維持
懲戒解雇を行う会社側のメリット(目的)は、規律の維持です。
つまり、重大な企業秩序違反を犯した者に対して制裁を科すことで、秩序を維持することになります。
例えば、「業務上横領」や「長期間の無断欠勤」を行う従業員に対して、会社が何らの対応も行わなければ、同様の行為が繰り返されることになりますし、真面目に働いている従業員のやる気も下がることになります。
そのため、会社としては、従業員が企業秩序に違反した場合には、その程度に応じて、相応の処分を行っていくことになるのです。
これに対して、従業員を退職させるという目的だけであれば、よりハードルの低い普通解雇によっても行うことができますので、あえて懲戒解雇を選択するメリットはありません。
懲戒解雇だから解雇予告が不要となるわけではありません。
労働基準法20条では、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には、解雇の予告ないしは解雇予告手当の支払いが不要とされています。
実務上は、懲戒解雇に該当するようなケースでは、「労働者の責めに帰すべき事由」として、解雇予告手当の支払いを行わないことが多いです。
ただし、実際には、懲戒解雇の場合であれば、必ず「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に該当するというわけではありませんので注意が必要です。
重責解雇か否かというのは、雇用保険上の区分であり、懲戒解雇か否かということと必ずしも連動していません。
雇用保険上の重責解雇(雇用保険法23条2項2号等)となるのは、刑法の規定違反、故意又は重過失による設備や器具の破壊又は事業所の信用失墜、重大な就業規則違反等により解雇された場合です。
重責解雇については自己都合との扱いになりますが、重責解雇以外の解雇は会社都合の扱いとなり助成金の受給要件等に関係してきます。
実務上、懲戒解雇とする場合には、離職票上も重責解雇にチェックすることは多いですが、必ずしも懲戒解雇だから重責解雇と認められるとは限らないことに留意が必要です。
判例も、「控訴人の離職票において被控訴人が重責解雇と記載したからといって直ちにこれが懲戒解雇を意味するものとはいえず」と判示しており、懲戒解雇と重責解雇が異なるものとしています(東京高判令和元年5月8日労働判例1216号52頁[協同組合つばさほか事件])
4章 懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)を軽減する方法
会社としては、上記のリスクを軽減するため、可能な限りの方法を講じるべきです。
何らの対処を講じることなく、懲戒解雇を強行してしまうと、会社に甚大な損害が生じてしまいます。
例えば、懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)を軽減する方法としては、以下の3つがあります。
方法2:予備的に普通解雇を行う
方法3:懲戒解雇前に徹底した準備を行う
それでは各方法について順番に説明していきます。
4-1 方法1:退職勧奨を行う
懲戒解雇の会社側のデメリットを軽減する方法の1つ目は、退職勧奨を行うことです。
そもそも解雇という一方的に退職させるという方法を避けて、労働者に同意のうえで退職してもらうことができれば、紛争のリスクを回避できます。
実際、多くの会社は、解雇を強行する前に、一度、労働者との面談を設定して、任意に退職するように促します。
とくに、懲戒解雇をされるような事情があるのであれば、労働者としても、経歴が傷ついて転職が難しくなってしまうことは避けたいと考えるので、理解を得られることも多いです。
ただし、退職勧奨という方法によった場合には、懲戒処分とは異なりますので、非違行為の程度によっては規律の維持という点から不十分なことがあります。
退職勧奨の言い方については以下記事で詳しく解説しています。
4-2 方法2:予備的に普通解雇を行う
懲戒解雇の会社側のデメリットを軽減する方法の2つ目は、予備的に普通解雇を行うことです。
仮に懲戒解雇が認められない場合には、予備的に普通解雇を行う旨の意思表示を行っておくことによって、懲戒解雇が無効になっても普通解雇としては有効とされることも多いです。
例えば、懲戒解雇を通知して、労働者側の代理人弁護士から懲戒解雇が濫用として無効である旨を指摘され紛争が顕在化した場合には、念のため予備的に普通解雇をする旨を通知して、防御を図ります。
4-3 方法3:懲戒解雇前に徹底した準備を行う
懲戒解雇の会社側のデメリットを軽減する方法の3つ目は、懲戒解雇前に徹底した準備を行うことです。
懲戒解雇が有効となるには、客観的に合理的な理由が必要となります。
客観性が求められることとなりますので、主観のみにとらわれず、根拠となる具体的な事実を時系列に従って整理していく必要があります。
例えば、懲戒解雇を争われた後になってから、記憶に基づいて解雇理由を述べるようでは、立証は困難です。
懲戒解雇を行う前から非違行為の内容等を十分に記録しておくべきです。
また、軽い非違行為が行われた場合には、いきなり懲戒解雇を行うのではなく、戒告や譴責、減給といった懲戒処分から行っていくことになります。
このように懲戒解雇は一朝一夕にできるものではなく、まずは問題社員への対処を顧問弁護士等に相談したうえで、方針を決めて、数か月~1年程度の期間をかけて、徹底した準備をしたうえで行うことになります。
5章 懲戒解雇に関するご相談はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
懲戒解雇に関するご相談は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
解雇問題は専門性の高い分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
解雇を争われた場合の見通しを分析したうえで、事前に準備を行い、極力リスクを減らしたうえで、紛争が顕在化した場合には適切に対処していく必要があります。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨をはじめとした人事労務に力を入れており、圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
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相談料は1時間まで1万円(消費税別)となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
6章 まとめ
以上のとおり、今回は、懲戒解雇の会社側のデメリット4つを説明したうえで、リスクを軽減するための方法3つを解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)としては、以下の4つがあります。
デメリット1:紛争リスクの上昇
デメリット2:高額のバックペイ
デメリット3:解雇した従業員の復職
デメリット4:労力・時間・弁護士費用
・懲戒解雇を行う会社側のメリット(目的)は、規律の維持です。
・懲戒解雇の会社側のデメリット(リスク)を軽減する方法としては、以下の3つがあります。
方法1:退職勧奨を行う
方法2:予備的に普通解雇を行う
方法3:懲戒解雇前に徹底した準備を行う
この記事が懲戒解雇の会社側のデメリットを知りたいと悩んでいる経営者や人事担当者の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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