内定取り消しは違法?企業が内定を取り消す際の理由6つと正しい手順

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

内定取り消しは違法?企業が内定を取り消す際の理由6つと正しい手順

悩み

一度出してしまった内定を取り消したいと悩んでいませんか

内定後の状況の変化により、入社してもらうことが難しくなってしまうこともありますよね。

内定取り消しとは、企業が応募者に対して出した内定を取り消し、入社を認めないことをいいます

内定取り消しは、解雇に準じて考えられているため濫用として無効となることがあり、入社日から解決日までの賃金の支払いを命じられたり、応募者が従業員であることが認められたりするリスクがあります

内定取り消しの理由は、採用内定当時に知ることができなかった事情であり、取り消しが客観的に合理的と認められ社会通念上相当であることが必要となります。

内定取り消しを行う際には、内定取り消し通知書を出したうえで、必要に応じて取り消し理由の説明や補償等の交渉を行うことになります。それでも解決できない場合には裁判となります。

企業は、繰り返し内定取り消しをしたり、大規模な内定取り消しをしたりすると、企業名を公表されるリスクがありますので留意を要します。

実は、入社前だからと甘く考えて安易に内定を取り消してしまう事例が後を絶ちません

この記事をとおして、企業の経営者や人事担当者の方に内定を取り消す際の考え方について知っていただければ幸いです。

今回は、内定取り消しは違法化を説明したうえで、企業が内定を取り消す際の理由6つと正しい手順を解説していきます。

具体的には、以下の流れで解説します。
この記事でわかること

この記事を読めば、内定を取り消すにはどうすればいいのかがよくわかるはずです。

目次

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1章 内定取り消しとは

内定取り消しとは

内定取り消しとは、企業が応募者に対して出した内定を取り消し、入社を認めないことをいいます

内定を出した後に入社を認めない点で、不採用とは区別されることになります。

また、企業側が入社を認めないことから、労働者側が入社を拒む内定辞退とも区別されることになります

労働者は、内定が出された時点で、前職に退職届を出したり、他の会社からの内定に拒絶の連絡をしたりすることになります。

そのような状況で内定を取り消された労働者は、無職になってしまい、生活を維持できなくなるとともに、キャリア上のブランクも空いてしまうことになります。

そのため、企業が内定を取り消す場合には、法的な紛争となりがちなのです


2章 内定取り消しは違法?内定を取り消す際のリスク

内定取り消しは、違法となることがあります

法律上は、内定を出した時点で、入社日を始期とした雇用契約が成立することになります。

そのため、入社日前であっても、内定を取り消すことは、一方的に雇用契約を解除するものとなり、解雇に準じて考えられているのです

具体的には、内定取り消しが不当である場合には、濫用として無効となることになります。

その結果、企業には以下の2つのリスクが生じることになります。

リスク1:入社日から解決日までの賃金を支払うことになるリスク
リスク2:応募者が従業員であることが認められるリスク

内定を取り消す際のリスク2つ

2-1 リスク1:入社日から解決日までの賃金を支払うことになるリスク

内定取り消しが濫用とされる場合には、入社日から解決日までの賃金を支払うことになるリスクがあります

いわゆるバックペイと呼ばれるものです。

内定取り消しが濫用とされた場合には、入社日以降に内定者が出勤することができなかったのは、企業側に原因があったことになります。

そのため、遡って、入社日以降の賃金を支払うようにと命じられることになるのです

例えば、入社日が2024年7月1日としていた場合において、解決したのが2025年6月30日であったとすると、1年分の賃金を後から支払わなければならなくなります。

働いていない労働者に対して長期間分の賃金を支払わなければならなくなるため、企業側としても大きな痛手となるのです。

2-2 リスク2:応募者が従業員であることが認められるリスク

内定取り消しが濫用とされる場合には、応募者が従業員であることが認められるリスクがあります

内定取り消しが濫用とされると、内定者は入社日をもって入社していたことになり、現在も、従業員であることになります。

そのため、遡って入社日までの賃金を支払うだけではなく、紛争が終わった後も賃金を支払わなければならなくなるのです

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3章 内定取り消しの理由(具体例)6つ

内定取り消しの理由は、採用内定当時に知ることができなかった事情であり、取り消しが客観的に合理的と認められ社会通念上相当であることが必要となります

内定時点で始期付の雇用契約が成立しており、解雇に準じて考えられているためです。

例えば、よくある内定取り消しの理由の具体例を6つ挙げると以下のとおりです。

理由1:経歴を詐称していた
理由2:経営難に陥った
理由3:新卒採用した者が卒業できなかった
理由4:健康診断で病気が発覚した
理由5:刑事事件を起こした
理由6:粗暴な言動や入社手続への非協力があった

内定取り消しの理由6つ

それでは、これらの理由について順番に説明していきます。

3-1 理由1:経歴を詐称していた

内定取り消しの理由の1つ目は、経歴を詐称していた場合です。

学歴や職歴、犯罪歴に詐称があるような場合には、内定取り消しの理由となり得ます。

例えば、高卒であるのに大卒であると偽った場合、履歴書に記載された職場に勤務していた事実がなかった場合などです。

3-2 理由2:経営難に陥った

内定取り消しの理由の2つ目は、経営難に陥った場合です。

内定を出した後に、何らかの理由で急激に経営が悪化し、人員を削減しなければいけなくなることがあります。

この場合には、既存の従業員を解雇する前に、内定者へ内定の取り消しを伝えることの方が穏当であることがあります

ただし、可能な限り雇用できるよう努力をする必要がありますので、内定取り消しを伝える前に、採用ポジションの変更を打診したり、待遇の変更を交渉したりするべきです。

このように努力をしても内定者の理解を得られなかったという場合には、内定取り消しもやむを得ないと判断してもらいやすくなります

3-3 理由3:新卒採用した者が卒業できなかった

内定取り消しの理由の3つ目は、新卒採用した者が卒業できなかった場合です。

新卒採用については、あくまでも在籍している学校を卒業できることを前提に採用しているのが通常です。

そのため、内定者が学校を卒業できずリュウしたような場合には、内定取り消しの理由となり得ます。

3-4 理由4:健康診断で病気が発覚した

内定取り消しの理由の4つ目は、健康診断で病気が発覚した場合です。

内定者の病気が重大で業務に従事できないような場合には、内定を取り消すことができる可能性があります。

ただし、健康診断の結果が少し悪い程度であれば、勤務開始日を調整したり、就業内容を変更したりすることなく、内定を取り消すことは濫用とされる可能性があります

例えば、病院が、HIV感染が発覚した者に対して内定取り消しを行った事案について、内定取り消しは不当とされています。

以下の裁判所のページから全文を確認することができます。
札幌地判令和元年9月17日 | 裁判所 – Courts in Japan

3-5 理由5:刑事事件を起こした

内定取り消しの理由の5つ目は、刑事事件を起こした場合です。

内定者の職種や事件の内容等によっては、刑事事件を起こしたことが内定取り消し理由となり得ます。

とくに指導的な立場として採用されたような従業員については、刑事事件を起こしたことにより、適格性を欠くものとの判断がされやすい傾向にあります

例えば、大阪市公安条例違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予とされた者に対する内定取り消しが有効とされた事例があります。

以下の裁判所のページから全文を確認することができます。
最判昭和55年5月30日| 裁判所 – Courts in Japan

3-6 理由6:粗暴な言動や入社手続への非協力があった

内定取り消しの理由の6つ目は、粗暴な変動や入手続きへの非協力があったような場合です。

内定が出た後、人事に対して威圧するような発言や脅すような発言をしたり、大声で叫ぶ、暴力を振るうなどの問題行動をしたりする方がいます。

また、入社手続きについても、必要書類を提出せず、メールにも返信しない等の問題行動をとる方がいます。

このような場合には、内定取り消しが認められる可能性があります。


4章 内定を取り消す手順

内定を取り消すには、然るべき手続きを行う必要があります

一度、内定を出してしまっている以上、雇用契約が成立してしまっているためです

具体的には、内定を取り消すには以下の手順を踏む必要があります。

手順1:内定取り消し通知を出す
手順2:内定取り消しの理由を説明して理解を得る
手順3:必要に応じて補償等の交渉をする
手順4:裁判による解決を目指す

内定を取り消す手順

それでは、各手順について順番に説明していきます。

4-1 手順1:内定取り消し通知を出す

内定を取り消す際の具体的な手順の1つ目は、内定取り消し通知を出すことです。

内定を取り消すためには、雇用契約を解約する意思を表示する必要があるためです。

例えば、内定者に対して、以下のような書面を送付することになります。

テキストを選択して上
内定取り消し通知
採用内定取り消しのご通知

4-2 手順2:内定取り消しの理由を説明して理解を得る

内定を取り消す際の具体的な手順の2つ目は、内定取り消しの理由を説明して理解を得ることです。

内定者が取り消しに不満がある場合には、内定取り消しの理由を明らかにするように求められます。

企業としては、労働者の理解を得られるように、真摯に内定取り消しの理由を説明するべきでしょう。

ただし、一度説明した理由は後から覆すことが難しいので、弁護士に相談したうえで事実関係を整理して説明することをおすすめします

4-3 手順3:必要に応じて補償等の交渉をする

内定を取り消す際の具体的な手順の3つ目は、必要に応じて補償等の交渉をすることです。

労働者は内定の取り消しにより、キャリアや生活にも支障が生じることになります。

内定取り消しの経緯や理由を踏まえ、企業側にも落ち度があるような場合には、一定の補償を行うことも検討しましょう。

実際に紛争になった場合にはより大きな補償が必要となるリスクがあるためです

4-4 手順4:裁判による解決を目指す

内定を取り消す際の具体的な手順の4つ目は、裁判による解決を目指すことです。

補償等の交渉をしても決裂するような場合には、内定者から労働審判や訴訟等の手続きを申し立てられることになります。

その場合には適宜、必要な主張を行い適正な判断をしてもらえるよう主張立証を尽くしていくことになります。

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5章 内定取り消しの企業名公表

企業は、繰り返し内定取り消しをしたり、大規模な内定取り消しをしたりすると、企業名を公表されるリスクがありますので留意を要します

企業は、新規学卒者の内定を取り消す際には、あらかじめ、公共職業安定所に通知をする必要があります(職業安定法施行規則35条2項)。

そして、厚生労働大臣は、上記の通知の内容が、次に掲げるいずれかに該当する場合には、通知内容を公表できます(職業安定法施行規則17条の4)。

(1) 2年度以上連続して行われたもの
(2) 同一年度内に10名以上の者に対して行われたもの
(3) 事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないとき
(4) 内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由
について十分な説明を行わなかったとき
(5) 内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき

公表するとされているのは、学生生徒等の適切な職業選択に役立つようにするためです。

公表をされてしまうと、企業の信頼を大きく下がることになります

内定を出す際には慎重に検討するようにしたうえで、取り消しについては可能な限り避けるべきでしょう。


6章 内定取り消しでよくある疑問

内定取り消しでよくある疑問としては、以下の3つがあります。

Q1:賃金交渉をされた場合には内定を取り消せる?
Q2:内定を取り消す際に解雇予告手当は必要?
Q3:内定取り消しによる示談金の相場は?

それでは、これらの疑問について順番に解消していきます。

6-1 Q1:賃金交渉をされた場合には内定を取り消せる?

内定の受諾後に、増額が可能かの確認をされただけの場合には、内定を取り消すのは難しいでしょう

一方で、内定を出したところ、この年収では内定を受諾できないとの返答がされた場合には、雇用契約が未だ成立していないものとして、内定を取り消せる可能性があります。

ただし、内定を発した時点で、既に雇用契約が成立していたと解される可能性もありますので、事案に応じて判断を行う必要があります。

6-2 Q2:内定を取り消す際に解雇予告手当は必要?

内定を取り消す際には、解雇の予告をする必要があります

入社日まで30日ない場合には、解雇予告手当の支払いが必要となります。

労働省発職134号においても解雇予告の規定に抵触しないように留意をするように通達されています。

ただし、試用期間中の場合に解雇予告に関する適用が除外されていることとの関係で、内定取り消しの場合には解雇予告の規定を適用しないとの見解もあります

6-3 Q3:内定取り消しによる示談金の相場は?

内定取り消しによる示談金の相場は、賃金の3か月分~6か月分程度です。

内定取り消しに合理的な理由があるか、労働者が現在他の企業に再就職しているか、前職に退職届を出しているか等により金額が左右されることになります。

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7章 内定取り消しの相談はリバティ・ベル法律事務所へ!

内定取り消しの相談は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください

内定取り消しの問題は専門性の高い分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。

内定取り消しを争われた場合の見通しを分析したうえで、事前に準備を行い、極力リスクを減らしたうえで、紛争が顕在化した場合には適切に対処していく必要があります

リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨をはじめとした人事労務に力を入れており、圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。

リバティ・ベル法律事務所は、全国対応・オンライン相談可能で、最短即日でこの分野に注力している弁護士と相談することが可能です。

相談料は1時間まで1万円(消費税別)となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください。


8章 まとめ

以上のとおり、今回は、内定取り消しは違法化を説明したうえで、企業が内定を取り消す際の理由6つと正しい手順を解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

・内定取り消しとは、企業が応募者に対して出した内定を取り消し、入社を認めないことをいいます。

・企業が内定を取り消す際には、以下の2つのリスクが生じることになります。
リスク1:入社日から解決日までの賃金を支払うことになるリスク
リスク2:応募者が従業員であることが認められるリスク

・よくある内定取り消しの理由の具体例を6つ挙げると以下のとおりです。
理由1:経歴を詐称していた
理由2:経営難に陥った
理由3:新卒採用した者が卒業できなかった
理由4:健康診断で病気が発覚した
理由5:刑事事件を起こした
理由6:粗暴な言動や入社手続への非協力があった

・内定を取り消すには以下の手順を踏む必要があります。
手順1:内定取り消し通知を出す
手順2:内定取り消しの理由を説明して理解を得る
手順3:必要に応じて補償等の交渉をする
手順4:裁判による解決を目指す

・企業は、繰り返し内定取り消しをしたり、大規模な内定取り消しをしたりすると、企業名を公表されるリスクがありますので留意を要します。

この記事が内定の取り消しに悩んでいる経営者や人事担当者の方の助けになれば幸いです。

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