新たに従業員を採用したものの試用期間で解雇をしたいと悩んでいませんか?
実際に働きぶりを見ていく中で、期待値に達していないことが分かる場合もありますよね。
試用期間解雇とは、試用期間中又は試用期間満了日をもって本採用をしないことを言い渡すことです。
法律上、試用期間であっても、解雇に準じて考えられますので、無条件に解雇が許されるわけではありません。
試用期間解雇としてよくある理由は、能力不足、病気等による欠勤、経歴詐称、勤務態度などがあります。
試用期間解雇をする際には、紛争化によるリスクを可能な限り抑えるため、問題行動等の記録をしておき、業務指導をしたうえで、退職勧奨を行ったうえで、最終手段として解雇の予告又は通知するべきです。
実は、試用期間という限られた期間で解雇を正当化する証拠を揃えて、退職勧奨まで行うというのは簡単なことではありません。
この記事をとおして、企業の経営者や人事担当者の方に従業員を試用期間で解雇しなければならない場合に必要な知識を知っていただければと思います。
今回は、試用期間解雇とは何かを説明した上で、不当解雇となる基準や試用期間における解雇理由、試用期間解雇の手順を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、試用期間解雇をしなければならない際にどのように対応をすればいいのかがよくわかるはずです。
目次
1章 試用期間解雇とは
試用期間解雇とは、試用期間中又は試用期間満了日をもって本採用をしないことを言い渡すことです。
試用期間というのは、採用時にはわからなかった労働者の適格性などを判断するための期間のことです。
試用期間は、通常、3か月~6か月の期間が設けられており、企業はその期間内に本採用をするかどうかを判断する必要があります。
ただし、本採用をしないと言っても、既に雇用契約を締結した後に雇用を一方的に終了するものになりますので、「解雇」との扱いになります。
2章 試用期間解雇と不当解雇の基準
試用期間解雇は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められるとされています。
採用の際に、後日における調査や観察に基づく最終決定が留保されているためです。
具体的には、試用期間解雇は、以下の場合に許容されます。
企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、
条件2
そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、客観的に相当であると認められる場合
ただし、実際の裁判では、試用期間解雇と言っても、通常の解雇権濫用法律同様にその正当性が厳しく判断されているとの見方もあり、企業としては、試用期間だからと言って油断は禁物です。
3章 試用期間解雇の理由4つ
試用期間解雇の際によくある理由としては、以下のようなものがあります。
理由2:病気等による欠勤
理由3:経歴詐称
理由4:勤務態度
それでは、各理由について順番に説明していきます。
3-1 理由1:能力不足
試用期間解雇の理由の1つ目は、能力不足です。
即戦力として採用したにもかかわらず、期待した能力に達しなかったような場合には、解雇理由となります。
例えば、業務上の単純なミスが多発した場合、設定した目標を下回っていて今後これを達成できる見通しもない場合などです。
3-2 理由2:病気等による欠勤
試用期間解雇の理由の2つ目は、病気等による欠勤です。
仕事を休みがちで、出勤率が悪いような場合には、解雇理由となります。
例えば、採用してから数日や1か月程度まで出勤したものの、それ以降は体調不良などを理由に欠勤を続けているような場合などです。
3-3 理由3:経歴詐称
試用期間解雇の理由の3つ目は、経歴詐称です。
履歴書に書いた経歴や職歴に虚偽があったような場合には、解雇理由となります。
例えば、前職として記載した職場に本当は勤務していなかったような場合です。
3-4 理由4:勤務態度
試用期間解雇の理由の4つ目は、勤務態度です。
業務命令に背く、業務命令を無視するなど、勤務態度に問題がある場合には、解雇理由になります。
例えば、上司が業務を指示しても、それに対して文句を言い、指示に従わないような場合です。
4章 厳選!企業がおさえておくべき試用期間解雇の判例5つ
試用期間解雇については、判例が蓄積されており、これを分析することで実務上の相場観が見えてきます。
おさえるべき重要な判例を5つ厳選すると以下のとおりです。
それでは、これらの判例を順番に解説していきます。
4-1 三菱樹脂事件|最判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁
企業がおさえておくべき試用期間解雇の判例の1つ目は、三菱樹脂事件です。
これは、大学卒業と同時に三か月の試用期間を設けて採用された者が、試用期間の満了直前に、期間の満了とともに本採用を拒否された事案です。
裁判所は、以下のような判示をしました。
⑵留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき。
⑶試用期間解雇は、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、客観的に相当であると認められる場合に許容される。
4-2 EC駐日代表部事件|東京地判昭和57年5月31日労民集33巻3号472頁
企業がおさえておくべき試用期間解雇の判例の2つ目は、EC駐日代表部事件です。
これは、EC駐日代表部報道室職員として雇用された女子労働者を試用期間満了直前に本採用拒否した事案です。
裁判所は、英語の能力が期待したほどのものではなかったこと、指示された原稿に誤った記載や不完全な記載があったこと、割付や校正を指示されたのに十数か所の不備があったこと、積極性判断力に欠けるところがあったこと、素直に指導に従わないこと等から、中途採用者であることなども考慮し、試用期間解雇を有効としました。
4-3 ブレーンベース事件|東京地判平成13年12月25日労経速1789号22頁
企業がおさえておくべき試用期間解雇の判例の3つ目は、ブレーンベース事件です。
これは、業務全般の補助、ファックス送信業務等を業務内容として、試用期間3か月として採用された者が、試用期間中に解雇された事案です。
裁判所は、緊急の業務指示に速やかに応じない態度をとったこと、採用面接時にはパソコン使用に精通している旨述べたにもかかわらず、満足に使用できなかったこと、代表取締役の業務上の指示に応じなかったこと等を考慮し、会社の期待に沿う業務を実行する可能性を見出し難いとして、試用期間解雇を有効としました。
4-4 三井倉庫事件|東京地判平成13年7月2日労経速1784号3頁
企業がおさえておくべき試用期間解雇の判例の4つ目は、三井倉庫事件です。
これは、新卒として採用した者が、作業上のミスが多いため試用期間を延長したが、その後もミスが多発したことから試用期間満了時に解雇された事案です。
裁判所は、以下の点等を考慮し、試用期間解雇を有効としました。
②当該ミスの中には、重大な損害を発生させるおそれがあるものなど態様の重いものが相当数含まれていたこと
4-5 ダイヤモンドコミュニティ事件|事件東京地判平成11年3月12日労経速1712号9頁
企業がおさえておくべき試用期間解雇の判例の5つ目は、ダイヤモンドコミュニティ事件です。
これは、マンションの管理等を目的とする会社に採用された者が、業務上のミスの多発を理由に試用期間中に解雇された事案です。
裁判所は、電話の相手方の名前や業者名を忘れたり、間違えてたりして取り次ぐことが多かったこと、コンピューターの入力ミスを繰り返し行ったこと、引継ぎの説明を理解せず、誤った処理をしたこと等を考慮したうえで、試用期間解雇は有効としました。
5章 人事が知るべき!試用期間解雇の正しい手順
試用期間解雇を行うには手順があります。
紛争化によるリスクを可能な限り抑えるためには、これらの手順をしっかりと守ることが大切です。
具体的には、試用期間解雇の手順は以下のとおりです。
手順2:業務指導
手順3:退職勧奨
手順4:本採用拒否の通知|文例付き
それでは、各手順について順番に解説していきます。
5-1 手順1:問題行動等の記録
試用期間解雇の手順の1つ目は、問題行動等の記録をすることです。
解雇をする際には、企業側が解雇理由を主張立証する必要があります。
解雇理由は客観的に合理的である必要があるため、いつ、どこで、どのような業務をしている際の、どのような行動を問題としているか具体的に指摘しなければなりません。
例えば、ノートやWORDファイル、エクセルファイル等に、日付と時刻、問題行動の内容、指導内容、記録者の氏名等をつけましょう。
問題行動等の記録は1つや2つ記載すればいいというわけではなく、数か月にわたり継続的に行います、気が付いた問題点を細かく記載していきます。
5-2 手順2:業務指導
試用期間解雇の手順の2つ目は、業務指導をすることです。
1週間ごとに1対1のミーティングを行い、目標の設定や達成状況の確認、フィードバックを行っていきましょう。
ミーティングの内容は議事録につけておくといいでしょう。必要に応じて、目標や評価をシートに記載しながら、対象の従業員と認識を共有していきます。
5-3 手順3:退職勧奨
試用期間解雇の手順の3つ目は、退職勧奨をすることです。
試用期間解雇を行う前に本採用をできない判断となった旨を伝えたうえで、退職勧奨を行うといいでしょう。
一方的に解雇する場合と異なり、従業員に承諾のうえで退職してもらうことで、紛争を回避することができるためです。
退職勧奨の言い方については、以下の記事で詳しく解説しています。
試用期間解雇を伝える際には、「試用期間満了をもって、本採用できないとの判断になりました。」と明確に伝えるようにしましょう。
面談などで試用期間解雇の理由を伝える際には、「試用期間中の働き方が当社の期待に沿うものではなかった。」と端的に示すことになります。
これに対して、従業員に気を使って、「あなたに落ち度はない」、「この会社に合わないだけ」などの発言はNGです。
面談の内容を録音されていて、従業員側に有利な証拠として使われてしまうことがあるためです。
5-4 手順4:本採用拒否の通知|文例付き
試用期間解雇の手順の4つ目は、試用期間解雇予告又は通知です。
退職勧奨にも応じてもらえない場合には、やむを得ないので、最終手段として試用期間解雇をすることになります。
例えば、以下のような書面を従業員に交付します。
本採用拒否通知書のダウンロードはこちら |
本採用拒否通知書のPDFファイルのダウンロードはこちら |
解雇通知については、以下の記事で詳しく解説しています。
試用期間解雇は、試用期間中又は試用期間満了時に行う必要があります。
あえて試用期間満了前に解雇する必要性がない場合には、試用期間満了時に解雇することを検討します。
就業規則等に試用期間満了前にいつでも解雇できるとの規定が置かれていない事案ですが、裁判例は、「試用期間の経過を待たずして控訴人が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである。」と判示しています(東京高判平成21年9月15日労判991号153頁[ニュース証券事件])。
6章 試用期間解雇によくある疑問4つ
試用期間解雇によくある疑問として、以下の4つがあります。
疑問2:試用期間解雇の失業保険(雇用保険)上の処理は?
疑問3:試用期間解雇をした場合の企業のリスクは?
疑問4:試用期間解雇で裁判になる場合どうなる?
以下では、これらの疑問について順番に解消していきます。
6-1 疑問1:14日以内なら試用期間解雇は不当ではない?
試用期間解雇は、14日以内であっても、不当となることがあります。
14日以内の試用期間解雇でも、解雇の正当な理由は必要となります。
試用期間中の者に対して、14日以内の場合には解雇予告は不要とされています。
しかし、理由なく解雇してもよいとはされていません。
6-2 疑問2:試用期間解雇の失業保険(雇用保険)上の処理は?
試用期間解雇の失業保険(雇用保険)上の処理は、原則として会社都合となります。
通常、離職票上の「解雇(重責解雇を除く)」にチェックすることになるためです。
ただし、例外的に、刑法の規定違反、故意又は重過失による設備や器具の破壊又は事業所の信用失墜、重大な就業規則違反等により解雇された場合には、自己都合となります。
離職票上の「重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)」にチェックすることになるためです。
重責解雇については、以下の記事で分かりやすく解説されています。
6-3 疑問3:試用期間解雇をした場合の企業のリスクは?
試用期間解雇で訴えられた場合のリスクには、以下のようなものがあります。
リスク2:遡って賃金を支払うことになる(バックペイ)
リスク3:慰謝料を支払うことになる
リスク4:残業代等の付随的な問題が顕在化する
解雇のリスクについては、以下の記事で詳しく解説しています。
6-4 疑問4:試用期間解雇で裁判になる場合どうなる?
試用期間解雇で裁判になる場合には、以下のような流れを辿ることになります。
流れ2:回答書を出す
流れ3:交渉
流れ4:労働審判
流れ5:訴訟
不当解雇で訴えられる流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
7章 試用期間解雇はリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
試用期間の解雇は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
解雇問題は専門性の高い分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
解雇を争われた場合の見通しを分析したうえで、事前に準備を行い、極力リスクを減らしたうえで、紛争が顕在化した場合には適切に対処していく必要があります。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨をはじめとした人事労務に力を入れており、圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
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8章 まとめ
以上のとおり、今回は、試用期間解雇とは何かを説明した上で、不当解雇となる基準や試用期間における解雇理由、試用期間解雇の手順を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・試用期間解雇とは、試用期間中又は試用期間満了日をもって本採用をしないことを言い渡すことです。
・試用期間解雇は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められるとされています。
・試用期間解雇の際によくある理由としては、以下のようなものがあります。
理由1:能力不足
理由2:病気等による欠勤
理由3:経歴詐称
理由4:勤務態度
・試用期間解雇の手順は以下のとおりです。
手順1:問題行動等の記録
手順2:業務指導
手順3:退職勧奨
手順4:本採用拒否の通知
この記事が試用期間解雇をしたいと悩んでいる経営者や人事担当者の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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