分離可能性条項(分離条項)について知りたいと悩んでいませんか?
分離可能性条項は、一般条項なのであまり重要性を感じないといった会社もあるのではないでしょうか。
分離可能性条項とは、契約内容の一部が無効となった場合、無効となった部分だけを切り離し、契約自体は有効とする旨の規定をいいます。
契約書では以下のように定められることがあります。
管轄権を有する裁判所が違法又は無効と判断したことによって、本契約の一部が無効になったとしても、他の条項は有効なものとして存続する。
分離可能性条項は海外取引の場合に規定されることが多い傾向にあります。
というのも、海外取引においては準拠法のすべてを把握することは難しく、予期していなかった法の適用によって、条項の一部が無効となってしまうことがあるためです。
こうした不測の事態を避けるために、分離可能性条項を入れることで契約の安定性を高めることができるのです。
しかし、分離可能性条項にはデメリットも存在し、存続した他の条項だけでは法的権利や責任が不明確になるといったことが考えられます。
例えば、違約金条項が無効となった場合、具体的な請求金額などは日本における民法の規定からは明らかでなく、当事者の権利関係が不明確になるおそれがあります。
また、分離可能性条項を定める場合には、無効による影響の程度を定めるなど、その内容を適切なものにすることが紛争の予防や早期解決の観点から重要となります。
実は、近年、外国法の適用によって条項が無効になってしまうケースが増加しており、私が契約書作成の相談を受ける中でも目にする機会が増えています。
各条項は相互に関連した一体のものなので、一部が無効となった場合でも企業に重大な影響を及ぼすこともあります。
この記事をとおして、分離可能性条項の適切な定め方を知っていただければと思います。
今回は、分離可能性条項について解説したうえで、契約書に定める際のレビューポイントを解説していきます。
具体的には、以下の流れで解説していきます。
この記事を読めば、分離可能性条項をどのように契約書に定めるべきかよくわかるはずです。
目次
1章 分離可能性条項とは?
分離可能性条項とは、契約内容の一部が無効となった場合、無効となった部分だけを切り離し、契約自体は有効とする旨の規定をいいます。
つまり、条項が無効になったとしても、当事者の合意によって分離可能性条項の効力として契約自体は存続させることができるのです。
そのため、条項が無効となった場合における不測の損害を避けることができ、契約の安定性を高めることができます。
例えば、法律の明文があるものとしては仲裁法13条6項が挙げられます。
1~5 (略)
6 仲裁合意を含む一の契約において、仲裁合意以外の契約条項が無効、取消しその他の事由により効力を有しないものとされる場合においても、仲裁合意は、当然には、その効力を妨げられない。
また、条項の一部が無効となる場合に、分離可能性条項のような規定がなければ当事者間で契約の扱いについて争いとなるおそれがあります。
そういった紛争を防止することを目的として、分離可能性条項を定めることも考えられます。
2章 分離可能性条項のメリット3つ/デメリット2つ
分離可能性条項を定めることにはメリットがある反面で、デメリットも存在します。
そのため、分離可能性条項を定めるべきかはデメリットも考慮して判断することが重要となります。
2-1 分離可能性条項のメリット3つ
分離可能性条項のメリット3つは以下のとおりです。
メリット2:紛争リスクの低減
メリット3:条項の修正が容易になる
それでは各メリットについて順番に解説していきます。
2-1-1 メリット1:契約の安定性
分離可能性条項のメリット1個目は、契約の安定性です。
分離可能性条項がある場合、条項が無効となってしまった場合でも契約自体は存続します。
そのため、条項の有効無効にかかわらず契約が存続することになるので、契約を安定させることができます。
ただし、契約の本質的部分が無効となった場合には、たとえ分離可能性条項があっても契約の効力が認められないおそれがあるので注意が必要です。
例えば、売買契約の本質的要素は目的物と代金であり、代金の定めが無効となった場合には契約を存続することが難しくなるといったことが挙げられます。
2-1-2 メリット2:紛争リスクの低減
分離可能性条項のメリット2個目は、紛争リスクの低減です。
一部の条項が無効な場合に分離可能性条項がないと、他の条項の効力について争いとなることがあります。
他方で、分離可能性条項がある場合には、他の条項はなお有効なものとして存続します。
そうすると、別途問題が生じる余地があっても、一部の条項が無効とされた場合に直ちに争いとなるおそれは高くはないといえます。
そのため、分離可能性条項があることで、争いとなるリスクを低減させることができるのです。
2-1-3 メリット3:条項の修正が容易になる
分離可能性条項のメリット3個目は、条項の修正が容易になることです。
一部の条項が無効となった場合、それと関連する他の条項も修正する必要が生じることがあります。
この場合に分離可能性条項がないと、どこまで修正すればよいのかが不明確であり、修正する必要のない部分にまで手を加えてしまうおそれがあります。
他方で、分離可能性条項があれば、他の条項が有効であることは明らかであり、修正もその範囲で行うことが求められます。
そのため、分離可能性条項は修正の範囲を明確化することにも繋がり、条項の修正が容易になるといえます。
2-2 デメリット2つ
分離可能性条項のデメリット2つは以下のとおりです。
デメリット2:交渉力の格差による影響が残存するおそれ
それでは各デメリットについて順番に解説していきます。
2-2-1 デメリット1:法的責任や権利が曖昧になるおそれ
分離可能性条項のデメリット1個目は、法的責任や権利が曖昧になるおそれがあることです。
無効となった条項が他の条項と関連していた場合、一部の条項の無効は他の条項にも影響してきます。
例えば、売買契約において品質保証に関する規定が無効になったとします。
この場合、品質保証の規定がなくなったことで、目的物が契約に適合しているのかの判別が困難となるのです。
その結果、契約不適合責任を負うのかも曖昧となり、法的な紛争へと発展してしまうおそれがあります。
2-2-2 デメリット2:交渉力の格差による影響が残存するおそれ
分離可能性条項のデメリット2個目は、交渉力の格差による影響が残存するおそれがあることです。
条項の内容は、当事者間の交渉によって決定されます。
しかし、交渉力に格差があると、一方にとって不利な内容となる場合もあります。
この場合、一方にとって過度に不利な条項は無効とされることがあります。
例えば、日本の法律でいえば民法90条の公序良俗違反などが挙げられます。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
秘密保持義務や競業避止義務の期間を不相当に長い期間設定した場合には、公序良俗に反し無効となることがあるのです。
このように過度に不利な条項は無効とされることがありますが、単に交渉力の差があることで生じた不利益にすぎないには無効にはなりません。
そうすると、無効にならなかった条項は、分離可能性条項によって有効とされるのでその後も他の条項が存続することになります。
そのため、分離可能性条項があることで、自社に不利な内容の条項が残存してしまうおそれがあるのです。
3章 分離可能性条項の例【無料例文付き・英語対応】
分離可能性条項を契約書に定める場合の例は以下のとおりです。
管轄権を有する裁判所が違法又は無効と判断したことによって、本契約の一部が無効になったとしても、他の条項は有効なものとして存続する。
Even if a part of this Agreement is rendered void due to it is subsequently judged illegal or invalid by a court of competent jurisdiction, the other provisions shall remain in effect.
(訳)
本契約の一部が管轄裁判所により違法または無効と判断され、無効となった場合でも、その他の規定は引続き有効なものとする。
4章 分離可能性条項の定めるべき事項とレビューポイント2つ
分離可能性条項をより実効的なものとするには、その内容を適切なものにする必要があります。
分離可能性条項に定めるべき事項とレビューポイントは以下の2つです。
レビューポイント2:協議に関する事項
それでは各レビューポイントについて解説していきます。
4-1 レビューポイント1:他の条項の効力
分離可能性条項のレビューポイント1個目は、他の条項の効力です。
管轄権を有する裁判所が違法又は無効と判断したことによって、本契約の一部が無効になったとしても、他の条項は有効なものとして存続する。
分離可能性条項は、一部の条項が無効となった場合に、他の条項が有効であることを内容とするものです。
そのため、他の条項が有効であることを明らかにしておくことが重要となります。
4-2 レビューポイント2:協議に関する事項
分離可能性条項のレビューポイント2個目は、協議に関する事項です。
管轄権を有する裁判所が違法又は無効と判断したことによって、本契約の一部が無効になったとしても、他の条項は有効なものとして存続する。
1 管轄権を有する裁判所が違法又は無効と判断したことによって、本契約の一部が無効になったとしても、他の条項は有効なものとして存続する。
2 本契約の一部が違法又は無効と判断された場合、当事者は契約を締結した趣旨に照らし、条項の修正をするための協議をしなければならない。
一部の条項が無効となった場合、条項の内容次第では契約関係に大きな影響を与えます。
そのため、不測の事態を避けるために、当事者間で協議をして無効となった部分を補う必要があります。
しかし、契約書に誠実協議条項が定められている場合には、分離可能性条項内で協議事項を定める重要性は低くなります。
というのも、誠実協議条項は抽象的に紛争解決方法を規定しているので、契約の一部が無効となった場合も予定されているためです。
誠実協議条項については以下の記事で詳しく解説しています。
そのため、協議に関する事項を定めるかは、無効となった条項が与える影響や他の条項との関係を踏まえることが重要です。
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6章 まとめ
以上のとおり、今回は、分離可能性条項とは何かを説明したうえで、分離可能性条項のレビューポイントについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・分離可能性条項とは、契約内容の一部が無効となった場合、無効となった部分だけを切り離し、契約自体は有効とする旨の規定をいいます。
・分離可能性条項のメリットは以下の3つです。
メリット1:契約の安定性が高まる
メリット2:紛争リスクの低減する
メリット3:条項の修正が容易になる
・分離可能性条項のデメリットは以下の2つです。
デメリット1:法的責任や権利が曖昧になるおそれがある
デメリット2:交渉力の格差による影響が残存するおそれがある
・分離可能性条項の例は以下のとおりです。
第○条(分離可能性条項)
管轄権を有する裁判所が違法又は無効と判断したことによって、本契約の一部が無効になったとしても、他の条項は有効なものとして存続する。
・分離可能性条項のレビューポイントは以下の2つです。
レビューポイント1:他の条項の効力
レビューポイント2:協議に関する事項
この記事が分離可能性条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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