仲裁条項とは?レビューポイント4つを例文形式で解説【無料モデル付き・英文対応】

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
WEBサイト制作等を行うリバティ・ベル株式会社の代表取締役も務める。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日

仲裁条項とは?レビューポイント4つを例文形式で解説【無料モデル付き・英文対応】

悩み

契約書を作成することになったものの、仲裁条項をどのように定めればいいのか分からないと悩んでいませんか

仲裁条項は当事者のニーズや事情によって一長一短なので、規定すべき内容の判断に迷うといった会社もあるのではないでしょうか。

契約書に仲裁条項を定める場合、以下のように定められることがあります。

第○条(仲裁)
1 本契約または本契約に関連して発生する全ての紛争、論争または意見の相違は、日本商事仲裁協会が行う仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
2 仲裁手続は、●●語で行われるものとする。
3 仲裁判断は、最終的なものであり、かつ、両当事者を拘束するものとする。

仲裁とは、当事者が紛争解決を第三者の判断に委ねてその判断内容に従うことをいい、仲裁条項は仲裁合意の内容を契約書に盛り込んだものをいいます。

一般的には、国際的取引や専門性の高い分野において、妥当な解決を期待した当事者によって定められることが多い傾向にあります。

特に、専門性の高い分野では、国内外を問わず専門知識がなければ適切な解決を図ることは難しくなります

例えば、建設業界では、定められた建設プロジェクトが技術的に複雑なものであることから、設計や施工上のトラブルが生じた場合、解決には専門的な知識が要求されることもあるのです。

また、仲裁条項を契約書に定めることにはメリットだけでなくデメリットも存在します。

当事者間で仲裁地等を設定できる反面、選択した仲裁地によっては手続費用が重くなるといったこともあるのです。

そのため、仲裁条項の内容は、当事者のニーズだけでなく具体的な手続費用などのリスクも考慮することが重要となってきます。

今回は、仲裁条項について解説したうえで、契約書に定める際のレビューポイントを解説していきます。

具体的には、以下の流れで解説していきます。

この記事で分かること

この記事を読めば、仲裁条項をどのように契約書に定めるべきかよくわかるはずです。

目次

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1章 仲裁条項とは?法的な意味

仲裁条項とは、当事者が紛争解決を第三者の判断に委ねてその判断内容に従うことを、条項として規定したものをいいます。

仲裁条項の目的としては、少ない負担で公平かつ迅速な紛争解決を図ることにあると考えられます。

というのも、実務上では国際的取引や専門性の高い取引において、仲裁条項が盛り込まれることが多いためです。

例えば、国際的取引では、国の機関である裁判所ではなく、中立的な第三者に判断してもらうことを期待できます。

また、専門性の高い取引では、裁判官がその分野に精通しているとは限らないので、専門的知識を有する第三者による適切な解決を期待することができます。

仲裁条項を契約書に入れた場合、仲裁の前後を通じて当事者を拘束することになります。

仲裁条項が契約書にある場合、その合意の効力として当事者は訴訟を提起することができなくなります。

さらに、仲裁条項によって紛争が解決した場合、仲裁の判断は確定判決と同様の効力を有するので、判断に不服がある場合でも上訴などの手段がありません

そのため、仲裁条項を契約書に入れるべきかどうかは、具体的な事情に照らして慎重に判断する必要があります。


2章 仲裁条項の契約書に定めるメリット5つ/デメリット3つ

仲裁条項の効力は、当事者のニーズや事情により一長一短です。

そのため、仲裁条項を契約書に定めるべきかどうかは、具体的事情に則して個別的に判断する必要があります。

ここでは、仲裁条項を契約書に定めるべきかを判断するために、仲裁条項のメリットとデメリットを解説していきます。

2-1 メリット5つ

仲裁条項を契約書に定めるメリットとしては、以下の5つが挙げられます。

メリット1:非公開での解決が期待できる
メリット2:裁判所によらない解決が期待できる
メリット3:短期間での紛争解決が期待できる
メリット4:強制執行が認められやすい
メリット5:仲裁者と仲裁地を指定することができる

それでは、各メリットについて解説していきます。

2-1-1 メリット1:非公開での解決が期待できる

仲裁条項のメリット1つ目は、非公開での解決が期待できることです。

通常の裁判では、裁判の対審と判決を公開とすることが原則とされています(憲法82条)。

これに対して、仲裁手続は非公開で行われることが多い傾向にあります。

なぜなら、日本商事仲裁協会の仲裁規則には、仲裁手続は非公開とする旨が規定されており、この仲裁規則が用いられることが多いためです。

仲裁規則42条1項(非公開・守秘義務)
1 仲裁手続及びその記録は、非公開とする。
2 仲裁人、当事者、その代理人及び補佐人、JCAAの役職員その他の仲裁手続に関係する者は、仲裁事件に関する事実又は仲裁手続を通じて知り得た事実を他に漏らしてはならず、これらに関する見解を述べてはならない。ただし、その開示が法律に基づき又は訴訟手続で要求されている場合その他の正当な理由に基づき行われる場合には、この限りでない。

出典:JCAA‐仲裁規則

仮に、仲裁規則を用いない場合でも、当事者が非公開にする旨を合意することで、仲裁手続を非公開にすることができます

仲裁手続を非公開にするメリットは、秘密の保護に繋がることが挙げられます。

仲裁手続内では、会社の秘密を提出しなければならないことがあります。

この場合に、仲裁手続が公開されていた場合、秘密を提出した会社が不利益を被るおそれがあるのです。

また、仲裁規則では、非公開としたことの実効性を担保するために、JCAAの役所員と関係者に守秘義務を課しています。

そのため、会社の秘密を提出することが想定できる場合には、非公開の仲裁手続によることが望ましいです。

2-1-2 メリット2:裁判所によらない解決が期待できる

仲裁条項のメリット2つ目は、裁判所によらない解決が期待できることです。

日本の裁判では、合議制が採用されており、裁判官が中立的な立場から公正な判断を下します。

しかし、中には陪審制を採用している国もあり、陪審制では争点について一般市民が判断することになります

そのため、国際的取引では、陪審制を採用している国の裁判所を利用することになった場合、法的な予測が難しくなることがあります。

しかし、仲裁手続であれば、仲裁者を任意に選定することができます。

当事者が選定した信頼のおける第三者に判断を任せることができ、納得のいく解決に繋がりやすいのです。

したがって、法的な予測可能性を担保したい場合や、陪審制を採用している国が管轄地とされることが予測される場合に、仲裁手続を利用することが考えられます。

2-1-3 メリット3:短期間での紛争解決が期待できる

仲裁条項のメリット3つ目は、短期間での紛争解決が期待できることです。

日本の裁判では三審制が採用されており、判決に不服がある場合には上訴をすることができます。

しかし、仲裁においては仲裁判断が最終的なものとされることが多く、上訴をすることはできません。

仲裁規則64条(仲裁判断の効力)
 仲裁判断は、終局的であり当事者を拘束する。

出典:JCAA‐仲裁規則

そのため、上訴がある裁判と比較して、仲裁手続は短期間で解決することが期待できます

ただし、事案が複雑な場合や協議が難航している場合には、仲裁手続が長引いてしまうこともあります

2-1-4 メリット4:強制執行が認められやすい

仲裁条項のメリット4つ目は、強制執行が認められやすいことです。

仲裁手続において下された判断には、裁判における判決と同様の効力が生じます。

仲裁法第45条(仲裁判断の承認)
 仲裁判断(仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わない。以下この章において同じ。)は、確定判決と同一の効力を有する。ただし、当該仲裁判断に基づく民事執行をするには、次条の規定による執行決定がなければならない。

そして、強制執行をするには国内外で異なる手続が必要となります。

日本国内の場合、仲裁法に基づき仲裁判断による強制執行をするためには、裁判所に対して執行決定の申立てを行うことになります(仲裁法46条)。

日本国外の場合でも、多くの国が仲裁判断による強制執行を認めています。

例えば、ニューヨーク条約については、アメリカ、イギリス、フランスなどの170ヶ国以上が条約に批准しています(締約国‐JCAA商事仲裁協会‐ニューヨーク条約)。

ニューヨーク条約に規定されている強制執行に関する条文は以下のとおりです。

ニューヨーク条約第3条(拘束力、執行力)
各締約国は、次の諸条に定める条件の下に、仲裁判断を拘束力のあるものとして承認し、かつ、その判断が援用される領域の手続規則に従って執行するものとする。この条約が適用される仲裁判断の承認又は執行については、内国仲裁判断の承認又は執行について、課せられるよりも実質的に厳重な条件又は高額の手数料若しくは課徴金を課してはならない。

そのため、仲裁判断に執行力を認めている国は多く、必要な手続を踏めば強制執行は認められやすいといえます。

2-1-5 メリット5:仲裁者と仲裁地を指定することができる

仲裁条項のメリット5つ目は、仲裁者と仲裁地を指定することができることです。

裁判では、裁判官で中立的な立場から公正な判断を下すことになります。

しかし、裁判官はあくまでも法律の専門家であり、他分野にも精通しているとは限りません。

判断に専門分野の知識が必要な場合には、その分野に精通している者の判断に委ねることが適切な場面があるといえます。

また、仲裁では仲裁を行う国の法を準拠法として、仲裁判断を行うことが一般的とされています。

仲裁地の法は、仲裁判断の効力に影響を与えることもあるので、実情に則して仲裁地を選択することが望ましいです。

そのため、仲裁者と仲裁地を設定できることは、仲裁のメリットといえます。

2-2 デメリット3つ

仲裁条項を契約書に定めるデメリットとしては、以下の3つが挙げられます。

デメリット1:結果が公平になるとは限らない
デメリット2:費用が高くなるおそれがある
デメリット3:上訴ができない

それでは、各デメリットについて解説していきます。

2-2-1 デメリット1:結果が公平になるとは限らない

仲裁条項のデメリット1つ目は、結果が公平になるとは限らないことです。

仲裁は、専門的な知識が要求される分野で利用される傾向が高く、仲裁人には専門的知識を有していることが期待されます。

また、公平な結果を期待するには、中立的な仲裁人を選定しなければなりません

さらに、仲裁人に資格は不要とされていますが、仲裁を円滑に進めるには、仲裁の知識や経験を有していることが望ましいです。

このように、仲裁人に求められる資質は多く、その選定難易度は高いものとなっています。

そのため、適切な仲裁人を選定できなかった場合、結果に偏りが生じるおそれがあります。

2-2-2 デメリット2:費用が高くなるおそれがある

仲裁条項のデメリット2つ目は、費用が高くなるおそれがあることです。

仲裁規則に従った場合、仲裁費用の内訳としては以下のものが挙げられます。

・予納金(仲裁人の経費や報酬、管理料金等)
・代理人その他専門家の報酬及び経費のうち仲裁廷が合理的と認めるもの
・仲裁手続のための合理的な費用

出典:仲裁費用‐JCAA

仲裁では、当事者が仲裁人数を自由に決めることができ、一般的には1名とされることが多い傾向にあります。

しかし、紛争の規模や専門性の高さによって、仲裁人が3名とされることもあり、人数が増えるほど報酬金額は大きくなります

また、仲裁規則による仲裁の場合、仲裁人の報酬は時価単価で5万円とされています

仲裁規則第93条(タイム・チャージの原則)
1 仲裁人の報奨金は、時間単価に仲裁時間を掛けたタイム・チャージとする。
2 時価単価は5万円(消費税を含まない。)とする。
3 (略)

出典:JCAA‐仲裁規則

そのため、紛争が複雑で仲裁手続が長期化するおそれがある場合、仲裁費用が高額になることがあります。

2-2-3 デメリット3:上訴ができない

仲裁条項のデメリット3つ目は、上訴ができないことです。

仲裁規則に従う場合、仲裁の判断は最終的なものとして当事者を拘束します。

仲裁規則64条(仲裁判断の効力)
 仲裁判断は、終局的であり当事者を拘束する。

出典:JCAA‐仲裁規則

そのため、当事者は仲裁判断に不服があったとしても、上訴などによってその判断を争うことはできません。

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3章 仲裁条項の例【無料テンプレート・英文対応】

3-1 例1:仲裁機関を指定する場合

仲裁機関を指定する場合の仲裁条項の例は以下のとおりです。

第○条(仲裁)
1 本契約または本契約に関連して発生する全ての紛争、論争または意見の相違は、日本商事仲裁協会が行う仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
2 仲裁手続は、●●語で行われるものとする。
3 仲裁判断は、最終的なものであり、かつ、両当事者を拘束するものとする。
Act.○(Arbitration)
1 All disputes, controversies or differences arising out of or relating to this Agreement shall be resolved by arbitration conducted the Japan Commercial Arbitration Association. The place of arbitration shall be (name of city), and the number of arbitrators shall be (number of arbitrators).
2 The arbitration proceedings shall be conducted in the (select a language) language.
3 The award of the arbitration shall be final, and bind both the parties hereto.

3-2 例2:仲裁機関を用いずに任意の仲裁者を指定する場合

仲裁機関を用いずに任意の仲裁者を指定する場合の仲裁条項の例は、以下のとおりです。

第○条(仲裁)
1 本契約または本契約に関連して発生する全ての紛争、論争または意見の相違は、日本商事仲裁協会の仲裁規則に従ってなされる仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
2 仲裁判断は、最終的なものであり、かつ、両当事者を拘束するものとする。
Act.○(Arbitration)
1 All disputes, controversies or differences arising out of or relating to this Agreement shall be resolved by arbitration conducted in accordance with the Commercial Arbitration Rules of the Japan Commercial Arbitration Association. The place of arbitration shall be (name of city), and the number of arbitrators shall be (number of arbitrators).
2 The award of the arbitration shall be final, and bind both the parties hereto.
~仲裁機関とアドホック仲裁~

アドホック仲裁とは、仲裁機関に依存しない仲裁による紛争解決の一態様を指します。

アドホック仲裁は、仲裁規則に定めがない手続などを利用する場合に選択されることがあります。

というのも、仲裁機関を用いる場合、仲裁機関が定める仲裁規則の手続に従い仲裁手続が進行することになります。

仲裁規則の内容は一般的かつ詳細に定められており、手続の予測がしやすいことから、実務においては仲裁機関を用いることが多い傾向にあります。

しかし、仲裁規則に従うとその手続を遵守しなければならず、紛争解決までに一定の時間が必要となるためです。

そのため、当事者間のニーズに合わせて手続を簡略化するなど、独自の手続を利用したい場合には、アドホック仲裁を選択されることがあります

ただし、アドホック仲裁を選択する場合、紛争拡大を防止するために、その内容を詳細に定めておくことが重要となります。


4章 仲裁条項に定めるべき事項5つ

仲裁条項の効力を十分に発揮させるには、適切な内容が条項に定められている必要があります。

仲裁条項に定めるべき事項5つは以下のとおりです。

定めるべき事項1:仲裁人の人数
定めるべき事項2:仲裁地
定めるべき事項3:準拠する機関及びルール
定めるべき事項4:仲裁の効力
定めるべき事項5:仲裁で用いる言語

仲裁条項に定めるべき事項5つ

それでは、各事項について順番に解説していきます。

4-1 定めるべき事項1:仲裁人の人数

仲裁条項に定めるべき事項の1つ目は、仲裁人の人数です。

仲裁人の人数は、仲裁人の報酬金額などにも影響してくるので明らかにしておく必要があります。

仲裁人の人数は一般的に1名から3名とされており、それぞれのメリットとデメリットは以下のとおりです。

仲裁人の人数

4―2 定めるべき事項2:仲裁地

仲裁条項に定めるべき事項の2つ目は、仲裁地です。

仲裁地は、仲裁手続の言語や適用法、手続費用などに大きく影響してくるので、あらかじめ定めておく必要があります。

仲裁地を選択する際に考慮すべき事項は以下のとおりです。

・ニューヨーク条約加盟国かどうか(執行力との関係)
・仲裁法の内容
・仲裁地と裁判所の関係
・国際仲裁に関する裁判例の有無
・外国弁護士の代理が可能か

4-3 定めるべき事項3:準拠する機関及びルール

仲裁条項に定めるべき事項の3つ目は、準拠する機関及びルールです。

仲裁の方法としては、仲裁機関(JCAA)を利用する方法の他に、アドホック仲裁などのように当事者が任意に設定するものもあります。

そのため、トラブルを避けるために、いずれの方法によるのかを明らかにしておく必要があります。

また、アドホック仲裁を利用する場合、仲裁人を特定せずに、準拠する仲裁ルールを明らかにしておくことが望ましいです。

一般的には、日本商事仲裁協会(JCAA)が公開している仲裁規則を利用することが多い傾向にあります。

4-4 定めるべき事項4:仲裁の効力

仲裁条項に定めるべき事項の4つ目は、仲裁の効力です。

仲裁の効力を規定しておくことで、仲裁手続後における紛争の蒸返しを防止することができます

というのも、仲裁が最終的なものとして当事者を拘束するので、当事者は仲裁判断がされた後に訴訟を提起することができないのです。

そのため、法的安定性を確保するために、仲裁の効力を規定しておくことが望ましいです。

4-5 定めるべき事項5:仲裁で用いる言語

仲裁条項に定めるべき事項の5つ目は、仲裁で用いる言語です。

仲裁言語は、仲裁人の選定や仲裁手続の円滑さに影響してくる事項なので、早い時点で確定しておくことが望ましいです。

一般的には、日本国内であれば日本語が、日本国外では英語が用いられやすい傾向にあります

他方で、仲裁言語の指定がない場合には、仲裁人となる者が適切な言語を設定することがあります。

なお、いずれの場合でも、当事者が合意すれば、事後的に仲裁合意とは異なる仲裁言語を用いることもできます。

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5章 仲裁条項のレビューポイント4つ

仲裁条項をより実効的なものにするためには、内容に着目してレビューをする必要があります。

仲裁条項のレビューポイントは以下の4つです。

レビューポイント1:仲裁の手続
レビューポイント2:仲裁地
レビューポイント3:秘密保持
レビューポイント4:緊急仲裁

それでは、各レビューポイントについて解説していきます。

5-1 レビューポイント1:仲裁の手続

レビューポイントの1つ目は、仲裁の手続です。

【通常の条項】
1 本契約または本契約に関連して発生する全ての紛争、論争または意見の相違は、日本商事仲裁協会が行う仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
2 仲裁手続は、●●語で行われるものとする。
3 仲裁人によってされた仲裁判断は、最終的なものであり、かつ、両当事者を拘束するものとする。
【仲裁前に協議をする場合‐修正例】
1 本契約または本契約に関連して紛争が生じた場合、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、当該紛争の解決に努めるものとする
2 前項の協議を開始してから●●日を経過しても当該紛争が解決しない場合、日本商事協会が行う仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
3 (略)
仲裁手続としては、以下の事項を定めることが望ましいです。
・仲裁人の人数
・仲裁地
・仲裁機関と準拠すべきルール
・仲裁言語

なぜなら、これらの手続事項は仲裁手続を進めていくうえで必要な事項であり、あらかじめ定めておくことでトラブルを防止し、手続の効率化を図ることができるためです。

これらの手続事項の他に、仲裁に至るための具体的な協議方法が定められることもあります。

仲裁前の協議は、仲裁を用いることが適切かを判断する期間にもなり、費用や時間などのコストを削減することにも繋がります

そのため、事案に応じで仲裁前の協議を入れるべきか検討してみてもいいでしょう。

5-2 レビューポイント2:仲裁地

レビューポイントの2つ目は、仲裁地です。

仲裁地の定めは、仲裁手続の言語や適用法、手続費用などに大きく影響してくるので、慎重に確認をする必要があります。

仲裁地の候補としては以下のものが挙げられます。

原告の所在地
被告の所在地
第三国の仲裁機関

仲裁地は、当事者が自由に設定することができます。

仲裁地を選択する際にチェックすべき事項としては、以下の4つが挙げられます。

・中立性
・適用法
・手続の内容
・アクセシビリティ

しかし、実際の交渉では、当事者双方がそれぞれ自国での仲裁が望ましいと考えやすい傾向にあります。

というのも、海外取引で用いられることの多い仲裁では、仲裁地を相手国の所在地にすると、費用の負担や手続面での対応に不安が残るためです。

そのため、交渉で仲裁地がまとまらない場合、当事者間の公平を確保するために、第三国に仲裁地が設定されることもあります

5-3 レビューポイント3:秘密保持

レビューポイントの3つ目は、秘密保持です。

【追加する条項例】
1 前条の仲裁に関連するすべての仲裁手続、含めてその結果について、当事者間及び関係者は秘密保持義務を負うものとする。当事者は、仲裁手続きに関する情報、証拠、証言、仲裁の決定および裁定を、次に掲げる場合を除き、第三者に開示しないものする。
(1) 当該情報の開示が、適用される法律や規制によって義務付けられている場合
(2) 当該情報の開示が、当事者が自身の権利を保護するために必要な場合
(3) 当該情報が、仲裁手続の当事者以外の関係者によって、すでに一般に公開されて
いる場合。
2 甲及び乙は、前項各号の開示を行う場合、開示が必要最小限にとどまるよう努めるものとし、また開示の範囲や内容について、事前に相手方に通知するものとする。

専門性の高い分野においては、開示することで会社の利益に影響を及ぼすおそれのある情報も存在します。

仲裁の手続は基本的に非公開で進行するので、公開で審理される裁判とは異なり、情報を開示することによるリスクは低いものとなっています。

しかし、非公開であっても、情報を開示することのリスクは依然として存在しており、漏洩によるリスクを少しでも抑えておく必要があります

そこで、情報を開示する仲裁関係者に対して、秘密保持義務を課すことが考えられます

秘密保持義務を課すことで、より安全に情報を開示することができ、効率的な手続の進行も期待することができます。

5-4 レビューポイント4:緊急仲裁

レビューポイントの4つ目は、緊急仲裁です。

【通常の条項】
1 本契約または本契約に関連して発生する全ての紛争、論争または意見の相違は、日本商事仲裁協会が行う仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
2 仲裁手続は、●●語で行われるものとする。
3 仲裁人によってされた仲裁判断は、最終的なものであり、かつ、両当事者を拘束するものとする。
【緊急仲裁を入れる場合‐修正例】
1 本契約または本契約に関連して発生する全ての紛争、論争または意見の相違は、日本商事仲裁協会が行う仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
2 仲裁手続は、●●語で行われるものとする。
3 仲裁人によってされた仲裁判断は、最終的なものであり、かつ、両当事者を拘束するものとする。
4 甲及び乙は、回復不能な損害又は重大な損害を避けるために、保全措置命令を求める緊急の必要があるときは、仲裁廷の成立前又は仲裁人が欠けている場合であっても、書面により、緊急仲裁人による保全措置命令を申し立てることができる。

情報漏洩などが明らかになった場合、仲裁後に執行していたのでは情報の拡散を抑えることができず、仲裁の目的を達成できないことがあります

このような事態を回避するために、緊急仲裁という制度があります。

緊急仲裁は、重大な損害を被るおそれがある場合、仲裁廷が成立前であっても暫定的な救済を与えるための制度です。

しかし、緊急仲裁は例外的なものであり、その要件は通常の仲裁よりも厳格なものになっています。

一般的には、緊急仲裁では以下のような要件を要求されることが多い傾向にあります。

・回復不能又は重大な損害を生じるおそれ
・保全措置を求める緊急の必要

もっとも、緊急仲裁が認められた場合でも、確実に執行できるわけではないので注意が必要となります。

というのも、日本の仲裁法では、緊急仲裁は最終的な判断ではなく、仲裁廷による最終判断が留保されていると解釈されているためです。


6章 仲裁条項に関するよくある質問3つ

仲裁条項に関するよくある質問は以下のとおりです。

質問1:仲裁手続中に訴訟を起こすことはできますか?
質問2:仲裁条項と裁判管轄は併記してもいいの?
質問3:仲裁条項が無効になる場合はあるの?

それでは、各質問について順番に解説していきます。

6-1 質問1:仲裁手続中に訴訟を起こすことはできますか?

仲裁手続と訴訟の提起
※仲裁条項が無効の場合を除く

仲裁手続中に訴訟を起こすことはできません

なぜなら、仲裁合意の対象となる訴えが提起された場合、申立てを却下しなければならないと仲裁法が定めているためです(仲裁法14)。

仲裁条項がある場合、仲裁手続前であっても、仲裁合意の効果として訴えが却下されることになります。

ただし、仲裁合意は私法上の契約なので、事情変更などによって不利益を受ける場合には解除することができることがあります。

仲裁手続後においては、仲裁判断が最終的なものとされていることから、これについて不服を申し立てることはできません。

6-2 質問2:仲裁条項と裁判管轄は併記してもいいの?

仲裁条項と裁判管轄は併記することができます

仲裁条項は仲裁合意にあたるので、仲裁合意の範囲を限定して特定の一部については裁判で争うといったこともできるためです。

しかし、紛争解決方法を複数記載する場合、当事者間で紛争解決手段の認識にズレが生じるおそれがあるので注意が必要です。

6-3 質問3:仲裁条項が無効になる場合はあるの?

仲裁条項は私法上の契約なので無効となることがあります

具体的には、以下の場合に仲裁合意の効力が問題となることがあります。

・契約自体が無効となる場合(取消し、解除等)
・仲裁条項が契約一般の有効要件を満たさない場合(確定性、適法性、社会的妥当性)
・事情変更によって当事者の一方が仲裁合意の存在によって不利益を受ける場合

なお、仲裁条項以外の条項について、その効力に問題がある場合でも、仲裁条項の効力に問題が生じるかは個別に判断する必要があります。

仲裁法13条6項
「仲裁合意を含む一の契約において、仲裁合意以外の契約条項が無効、取消しその他の事由により効力を有しないものとされる場合においても、仲裁合意は、当然には、その効力を妨げられない。」
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8章 まとめ

以上のとおり、今回は、仲裁条項とは何かを説明したうえで、仲裁条項のレビューポイントについて解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

まとめ

・仲裁条項とは、当事者が紛争解決を第三者の判断に委ねてその判断内容に従うことを、条項として規定したものをいいます。

・仲裁条項の契約書に定めるメリットは以下の5つです。
メリット1:非公開での解決が期待できる
メリット2:裁判所によらない解決が期待できる
メリット3:短期間での紛争解決が期待できる
メリット4:強制執行が認められやすい
メリット5:仲裁者と仲裁地を指定することができる

・デメリットは以下の3つです。
デメリット1:結果が公平になるとは限らない
デメリット2:費用が高くなるおそれがある
デメリット3:上訴ができない

・仲裁条項の例は以下のとおりです。
第○条(仲裁)
1 本契約または本契約に関連して発生する全ての紛争、論争または意見の相違は、日本商事仲裁協会が行う仲裁により、解決されるものとする。仲裁地は●●とし、仲裁人は●人とする。
2 仲裁手続は、●●語で行われるものとする。
3 仲裁判断は、最終的なものであり、かつ、両当事者を拘束するものとする。

・仲裁条項に定めるべき事項は以下の5つです。
定めるべき事項1:仲裁人の人数
定めるべき事項2:仲裁地
定めるべき事項3:準拠する機関及びルール
定めるべき事項4:仲裁の効力
定めるべき事項5:仲裁で用いる言語

・仲裁条項のレビューポイントは以下の3つです。
レビューポイント1:仲裁の手続
レビューポイント2:仲裁地
レビューポイント3:秘密保持
レビューポイント4:緊急仲裁

・仲裁条項に関するよくある質問は以下の3つです。
質問1:仲裁手続中に訴訟を起こすことはできますか?
質問2:仲裁条項と裁判管轄は併記してもいいの?
質問3:仲裁条項が無効になる場合はあるの?

この記事が、仲裁条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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