債権譲渡契約書について知りたいと悩んでいませんか?
民法改正等の影響から、条項をどのように定めるべきか迷ってしまいますよね。
債権譲渡契約書とは、譲渡人と譲受人の間で作成される債権譲渡に関する契約書をいいます。
債権譲渡契約書に入れるべき条項は、例えば以下のとおりです。
条項2:対抗要件
条項3:協力義務
条項4:譲渡債権の保証
条項5:合意管轄
条項6:協議条項
これらの条項は、譲渡後において安全に権利を行使するために重要とされています。
しかし、債権譲渡は民法改正によって変化している部分もあります。
実は、譲渡債権の状態次第では、債権を譲り受けた意味がなくなってしまうこともあるのです。
例えば、債権に債務者の取消権や解除権等の抗弁が発生していた場合、債権者は履行を受けられないことがあるのです。
この記事を通して、民法改正を踏まえた適切な債権譲渡契約書の定め方を知っていただければと思います。
今回は、債権譲渡契約書とは何かを解説したうえで、債権譲渡契約書に入れるべき条項を解説していきます。
具体的には、以下の流れで解説していきます。
この記事を読めば、債権譲渡契約書に定めるべき条項の内容がよくわかるはずです。
目次
1章 債権譲渡契約書のひな形【word形式】
2章 債権譲渡契約書とは?契約書の必要性
債権譲渡契約書とは、譲渡人と譲受人の間で作成される債権譲渡に関する契約書をいいます。
ここでいう債権譲渡は、譲渡人が有する債権をそのまま譲受人に移転することをいいます。
このように、債権譲渡は債務者が関与しないまま債権者の地位が変わるため、後にトラブルになることがあります。
例えば、譲渡人の側に債務不履行がある債権を譲り受けても、債務者は債務不履行を理由として、譲受人に対する債務の履行を拒むことができるのです。
そのため、債権譲渡契約書は、債権を行使できない等のトラブルになるリスクを減らすために重要とされています。
3章 債権譲渡契約書に入れるべき条項6つ|レビューポイント
譲り受けた債権を有効に行使するためには、契約書に入れておくべき条項があります。
債権譲渡契約書に入れるべき条項は以下の6つです。
条項2:対抗要件
条項3:協力義務
条項4:譲渡債権の保証
条項5:合意管轄
条項6:協議条項
それでは、各条項について順番に解説していきます。
3-1 条項1:債権譲渡の内容
債権譲渡契約書に入れるべき条項1つ目は、債権譲渡の内容です。
第●条(債権譲渡の内容)
1 甲は、乙に対し、令和●年●月●日、下記債権を代金●●円で譲渡し、乙はこれを譲り受けてその代金を支払うものとする。
記
甲を売主、●●(以下、「丙」とする。)を買主とする、令和●年●月●日付売買契約(以下、「原契約」という。)に基づき、甲が丙に対し有する金●●円の代金債権全額。
2 乙は、令和●年●月●日限り、甲の指定する口座に振り込み送金する方法により支払うものとする。なお、振り込み送金に関する費用は、乙の費用とする。
譲渡する債権は、他の債権と間違わないよう具体的に特定しておく必要があります。
例えば、譲渡債権は次のような事項から特定されます。
・債権の種類
・債権の発生原因/発生日
・債権額
・弁済期
債権譲渡が有償であれば、譲渡代金とその支払方法を定めることになります。
譲渡代金は、原契約の債権と同じ金額にする必要はなく、譲渡当事者が自由に定めることができます。
代金の支払に関する費用は、原則として債務者となる譲受人側が負担することになります(民法485条本文)。
3-2 条項2:対抗要件
債権譲渡契約書に入れるべき条項2つ目は、対抗要件です。
甲は、丙に対し、本契約締結後7日以内に遅滞なく確定日付のある証書により債権譲渡の通知をし、又は丙の承諾を得なければならない。通知又は承諾にかかる費用は、甲の負担とする。
1 甲は、乙と協力して、債権譲渡後直ちに、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に基づく債権譲渡登記手続を行うものとする。なお、登記手続の費用は甲の負担とする。
2 債権譲渡登記の存続期間は、令和●年●月●日から●年とする。
1(略)
2 甲は、乙に対し、前項に定める義務に違反したことにより乙が被った損害を、甲はその損害について負担する。
債権譲渡の対抗要件は、債務者に対するものと、第三者に対するものがあります。
【債権譲渡の対抗要件】
債務者との関係では単なる通知で足りますが、第三者との関係では確定日付のある通知が要求されます。
そのため、無用なトラブルを避けるためにも、債権譲渡からなるべく短い期間に、確定日付のある通知を行うことを義務付けておくことが望ましいです。
他方で、債権譲渡登記制度を利用する場合は、譲渡人及び譲受人が申請する必要があるため、甲にも登記申請義務を課すことが重要です(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律8条2項)。
債権譲渡登記の存続期間は、譲渡債権の弁済期と調整する必要があり、弁済期前に存続期間が満了すると支払を受けられないおそれがあるため注意が必要です。
以上のように、通知や登記は債権譲渡において重要な意味を持つため、各義務の実効性を確保するため、損害賠償請求できる旨を定めておくことも考えられます。
3-3 条項3:協力義務
債権譲渡契約書に入れるべき条項3つ目は、協力義務です。
1 甲は、乙に対し、令和●年●月●日までに、権利行使に必要な書面を交付しなければならない。
2 甲は、乙の譲渡債権の権利の保全又は行使につき、乙が甲の協力を求めたときは、直ちに協力するものとする。
権利行使には、書面が必要となる場合があります。
例えば、原契約上の権利を主張する場合には、原契約の契約書が必要になることが考えられます。
また、譲渡後に譲渡人の協力が必要になる場合もあります。
例えば、債権回収等でトラブルになった際に、譲渡人の証言が重要になることが考えられます。
こうした事態に備え、譲渡人に必要な協力を求めることができるよう協力義務を定めることがあります。
3-4 条項4:譲渡債権の保証
債権譲渡契約書に入れるべき条項4つ目は、譲渡債権の保証です。
1 甲は、乙に対し、原契約に従い有効に執行可能であることを保証する。
2 甲は、乙に対し、丙が譲渡債権について何ら抗弁を有しないこと、及び丙から抗弁が主張されていないことを保証する。
3 乙は、前2項の保証が真実に反することが判明したときは、何らの催告をすることなく本契約を解除することができる。また、甲は、本契約解除によって乙が被った損害についても負担するものとする。
譲渡債権の保証は、トラブルが生じた際における譲渡人の責任を明らかにするものです。
特に、債権譲渡では譲渡債権に抗弁が付着していることもあり、譲受人が債権を回収できないというリスクがあります。
こうした事態を避けるため、譲渡人に債権の状態を保証させ、保証が真実でなかった場合に損害賠償請求できる旨を規定しておくことがあるのです。
この他、債権回収を確実にするために、借主の信用状態についても保証の対象にすることがあります。
3-5 条項5:合意管轄
債権譲渡契約書に入れるべき条項5つ目は、合意管轄です。
本契約に関連する訴訟については、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
合意管轄とは、当事者が法定管轄とは異なる管轄の定めをする旨の合意をいいます。
一般的には、特定の裁判所にのみ提訴を認める専属的合意管轄が定められやすいです。
ただし、債権譲渡における合意管轄はあくまでも譲渡当事者間での合意であり、譲渡人と譲受人との間で効力を持ちます。
そのため、債務者との関係では、民事訴訟法の規定又は原契約の合意管轄に従うことになるため注意が必要です(参考:東京高判平15.5.22)。
「金銭債権の弁済場所は、別段の意思表示なき限り、債権者の現時の住所である(民法484条)。そして、債権の弁済時までに債権者の住所変更があった場合、債権者の現時の住所とは、当初の住所ではなく弁済時の新住所とされるのと同様に、債権譲渡があった場合、その債権の履行場所は新債権者の住所地となると解される。
しかし、他方、本件の銀行取引に基づく訴訟については、…名古屋地方裁判所あるいは奈良地方裁判所を管轄裁判所とする旨の管轄の合意がある。このような管轄の合意は、…内容的にはその債権行使の条件として、その権利関係と不可分一体のものであり、いわば債権の属性をなすものである。そして、本件のような…譲渡の際には、それらの属性、内容はそのまま譲受人に引き継がれるべきものである。…そうすると、このような新債権者の住所地が債務の弁済場所とされ、このような義務履行地に基づいて管轄裁判所が決定されることは予想外の事態であり、それによって、債務者の被る不利益は多大なものがあると考えられる。それは、本件についても同様であるが、このような不利益を抗告人らが甘受すべき合理的理由は乏しい。
以上のように…本案事件を抗告人らの住所を管轄する奈良地方裁判所に移送する必要があると認められる。」
3-6 条項6:協議条項
債権譲渡契約書に入れるべき条項6つ目は、協議条項です。
本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項については、甲及び乙は、信義誠実の精神に基づく協議の上、円満に解決するものとする。
誠実協議条項とは、当事者が予期していない事項について抽象的に紛争解決方法を規定するものです。
具体的な法的拘束力を持たないものの、信頼関係を前提とした取引関係にある日本では、交渉を円滑にできる等のメリットがあります。
ただし、誠実協議条項に契約書の内容を丸投げすると、トラブルになるリスクが高まるため注意が必要です。
協議条項については、以下の記事で詳しく解説しています。
4章 債権譲渡契約書作成の注意点2つ
債権譲渡後のトラブルが発生しないようにするため、債権譲渡契約書作成の際に注意すべき点があります。
債権譲渡契約書作成の注意点は以下の2つです。
注意点1:対抗要件を具備すること
注意点2:保証を受けること
それでは、各注意点について順番に解説していきます。
4-1 注意点1:対抗要件を具備すること
債権譲渡契約書作成の注意点1つ目は、対抗要件を具備することです。
債権は自由に譲渡できるとされており(民法466条1項)、同じ債権を二重に譲渡することもできます。
同じ債権を譲り受けた第三者との関係で紛争となりやすく、対抗要件を備えておく必要があるのです。
もっとも、債権譲渡の通知は、譲受人からはできないとされており、譲渡人が債務者に対してすることになります。
【第三者対抗要件とその優劣】
なお、債権譲渡登記は第三者対抗要件にすぎず、債務者に権利行使するためには別途通知が必要となります。
債権譲渡登記に関する通知交付は、民法の債権譲渡通知とは異なり、譲受人が債務者に対してすることもできるとされています(参考:法務省‐債権譲渡登記制度のご案内)。
4-2 注意点2:保証を受けること
債権譲渡契約書作成の注意点2つ目は、保証を受けることです。
債権譲渡では、譲渡債権に譲渡制限特約や抗弁等が付着していることで、トラブルになることがあります。
これらについては、民法改正があり以下のように定められています。
【債権譲渡と民法改正】
このように、一定の場合には債権を回収できないリスクがあるため、譲渡債権が有効に権利行使できることについて、譲渡人から保証を受けておく必要性があります。
5章 債権譲渡契約書に必要な印紙税/収入印紙
債権譲渡契約書は、「債権譲渡…に関する契約書」として15号文書に該当するため、印紙税が必要となります。
【債権譲渡契約書の印紙税】
(出典:国税庁‐印紙税額の一覧表)
6章 契約書の相談はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
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7章 まとめ
以上のとおり、今回は、債権譲渡契約書とは何かを解説したうえで、債権譲渡契約書に入れるべき条項を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・債権譲渡契約書とは、譲渡人と譲受人の間で作成される債権譲渡に関する契約書をいいます。
・債権譲渡契約書に入れるべき条項は以下の6つです。
条項1:債権譲渡の内容
条項2:対抗要件
条項3:協力義務
条項4:譲渡債権の保証
条項5:合意管轄
条項6:協議条項
・債権譲渡契約書作成の注意点は以下の2つです。
注意点1:対抗要件を具備すること
注意点2:保証を受けること
・債権譲渡契約書は15号文書に該当するため、印紙税がかかります。
この記事が、債権譲渡契約書について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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