解雇した従業員から不当解雇の慰謝料を支払うように言われて困っていませんか?
企業として本当にそのようなお金を支払わなければいけないのかどうか疑問に感じている経営者の方や人事担当者の方もいますよね。
不当解雇の慰謝料とは、不当解雇によってその従業員に与えた精神的苦痛という損害を補填するための費用のことです。
一般的には、不当解雇であっても、直ちに、企業が慰謝料の支払い義務を負うわけではありません。
ただし、以下のような事案では不当解雇を理由とする慰謝料を肯定した判例があります。
・解雇予告に際して理由を説明せずに基本給も減額した事案
・労働者の行為が刑法に触れるなどの記載をされた事案
・パワハラを伴う事案
・うつ病を発症した事案
不当解雇において慰謝料が認められる場合の相場は50万円~100万円程度となっています。
不当解雇の慰謝料を防ぐためには、解雇をするための証拠や記録を残しておいたり、解雇の前に専門家に相談したりすることが大切です。
もしも、不当解雇として慰謝料を請求された場合には、見通しを踏まえたうえで、解雇の撤回、又は、客観的に合理的な解雇理由があることの反論を行っていきます。
実は、不当解雇の慰謝料については簡単には認められないことが多いので、企業としても本当に支払いをするべきかどうかということについては慎重に考える必要があります。
この記事を通して、企業の経営者や人事担当者の方に不当解雇に慰謝料についての実務上の考え方を知っていただければと思います。
今回は、不当解雇の慰謝料とは何かを説明したうえで、慰謝料が認められる事案3つと判例や慰謝料の相場金額を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、企業が不当解雇の慰謝料を請求された場合にどのように対応していけばいいのかがよくわかるはずです。
目次
1章 不当解雇の慰謝料とは?
不当解雇の慰謝料とは、不当解雇によってその従業員に与えた精神的苦痛という損害を補填するための費用のことです。
民法では、故意又は過失によって、他人の権利を侵害した場合には、これによって生じた損害を賠償しなければなりません。
これを不法行為責任といいます。
不法行為責任については、経済的な損害を与えた場合だけではなく、精神的な損害を与えた場合にも、成立します。
不法行為の責任の中でも精神的な損害についての賠償金のことを慰謝料といいます。
例えば、不当解雇についても、労働法上濫用として無効となるだけではなく、民法上の不法行為に該当する場合があります。
このように不当解雇が民法上の不法行為に該当する場合には、従業員に与えた精神的苦痛につき慰謝料が問題となることになります。
2章 企業は不当解雇で慰謝料を払う義務はある?
一般的には、不当解雇であっても、直ちに、企業が慰謝料の支払い義務を負うわけではありません。
なぜなら、不当解雇の慰謝料が認められるのは、解雇の無効が認められて、遡って賃金が支払われても、なお癒えないような精神的苦痛がある場合に限られるためです。
解雇が濫用として無効となる場合でも、不法行為には該当しないため慰謝料発生しないという事例も非常に多いのです。
例えば、不当解雇とされる事例でよくあるのが、従業員にも一定の落ち度があるものの、解雇するほどの合理性や相当性までは認められないとの事例です。
このように、企業側にも、一定の言い分があって、何らの根拠なく解雇したわけではないという場合には、慰謝料までは認められない傾向にあります。
そのため、企業が不当解雇で慰謝料支払い義務まで負うというのは、特別の事情があるような場合に限られます。
3章 不当解雇の慰謝料が認められる事案4つと判例
不当解雇の慰謝料が認められたケースとして、以下のような事案があります。
事案2:嫌がらせを伴う事案
事案3:犯罪者扱いした事案
事案4:強く勧誘して引き抜いた従業員をすぐに解雇した事案
以下では、これらの事案について、判例と一緒に説明していきます。
3-1 事案1:解雇の理由がほとんどない事案
不当解雇が認められたケースの1つ目は、解雇の理由がほとんどない事案です。
解雇について抽象的な主張しかできず、具体的なエピソードが出てこないような場合には、慰謝料が肯定されることがあります。
S社事件では、会社の主張する解雇理由の大半が事実に基づくものとは認められないとして、慰謝料15万円が肯定されました(東京地判平17.1.25労判890号42頁)。
3-2 事案2:嫌がらせを伴う事案
不当解雇が認められたケースの2つ目は、嫌がらせを伴う事案です。
解雇に際して、嫌がらせを伴う場合には、慰謝料が肯定されることがあります。
国際信販事件では、以下のような事実から不法行為責任が認められ、慰謝料150万円が肯定されました(東京地判平14.7.9労判836号104頁)。
・他の従業員から「永久に欠勤」と書かれる・侮辱的な発言を受けるなどされているのに防止措置を採らなかったこと
3-3 事案3:犯罪者扱いをした事案
不当解雇が認められたケースの3つ目は、犯罪者扱いをした事案です。
解雇に際して、人格を深く傷つけるような発言が伴う場合には、慰謝料が肯定されることがあります。
西尾家具工芸社事件では、以下のような事実から不法行為責任が認められ、慰謝料70万円が肯定されました(大阪地判平14.7.5労判833号36頁)。
・会社は自ら再建案を指示しておきながら、後日になってこれを否定し、取引先との取引停止や他の従業員の退職の原因ないし責任が全て労働者にあるとするなどしたこと
3-4 事案4:強く勧誘して引き抜いた従業員をすぐに解雇した事案
不当解雇が認められたケースの4つ目は、強く勧誘して引き抜いた従業員をすぐに解雇した事案です。
企業側が強く勧誘したことにより前職を退職したうえで入社した従業員をすぐに解雇する場合には、慰謝料が肯定されることがあります。
ニュース証券事件では、勧誘に応じて前の会社を退社して、会社に入社従業員を試用期間6か月のうち3か月で解雇したことにつき、性急にすぎ、突然の解雇で当該従業員と顧客の信頼関係が損なわれたとして、不法行為責任が認められ、慰謝料150万円が肯定されました(東京地判平成21年1月30日労判980号18頁)。
4章 不当解雇の慰謝料が認められる場合の相場は50万~100万円
不当解雇において慰謝料が認められる場合の相場は50万円~100万円程度となっています。
不当解雇の慰謝料についてはそもそも認められないケースが多いですが、認められたとしても数十万円程度となることが多いのです。
解雇の無効が認められる場合には、従業員としての地位は回復しますし、解雇を争っていた期間の賃金についても遡って請求できるため、経済的な損失は補填されるためです。
これに対して、解雇が無効と認められも、その従業員が事実上働くことが難しい心理状況となっている場合には、復職や賃金請求が難しい代わりに、慰謝料は上記相場より高くなりやすい傾向にあります。
その他、不当解雇の慰謝料金額の算定要素を列挙すると以下のとおりです。
②勤務内容、回数、期間
③労働者にも落ち度があるかどうか
④仮の地位を定める仮処分により、労働者が賃金の仮払いを受けることができているか、
⑤解雇が撤回されたか
⑥労働者が独身であるかどうか
⑦解雇により適応障害、うつ病等の精神疾患等が生じているかどうか
⑧使用者が解雇理由を明確に説明していたかどうか
⑨労働者の名誉棄損の程度
⑩嫌がらせ行為や減給行為の有無
⑪労働者が解雇後に再就職しているか、再就職に要した期間
⑫解雇後雇用契約上の権利を有する地位が確認できるまでの不安定な期間の長さ
5章 不当解雇の慰謝料を防ぐためにやっておきたい3つのこと
不当解雇の慰謝料を防ぐためには、やっておくべきことがあります。
慰謝料が認められるのは、故意や過失があり、悪質性が高いような場合に限定されるためです。
そのため、注意を怠らなければ、不当解雇として、慰謝料が発生することは防ぐことができます。
具体的には、不当解雇の慰謝料を防ぐためにやっておきたいこととしては、以下の3つがあります。
やっておきたいこと2:解雇の前に専門家に相談すること
やっておきたいこと3:面談や解雇時のやり取りを録音しておくこと
5-1 やっておきたいこと1:解雇をするための証拠や記録を残しておくこと
不当解雇の慰謝料を防ぐためにやっておきたいことの1つ目は、解雇するための証拠や記録を残しておくことです。
これは慰謝料防ぐためだけではなく、解雇が無効とされることを防ぐことにもつながります。
証拠や記録を残しておけば、解雇に客観的に合理的な理由があったとの主張や立証を行いやすくなります。
仮に、解雇が正当とは認定されなくても、何らの理由なく解雇したわけではなく、労働者にも落ち度があったとのことであれば、慰謝料までは認定されにくくなります。
5-2 やっておきたいこと2:解雇の前に専門家に相談すること
不当解雇の慰謝料を防ぐためにやっておきたいことの2つ目は、解雇の前に専門家に相談することです。
まず、専門家に相談することで、性急な解雇を防ぐことができ、適切な手順を踏むことが可能となります。
また、専門家に相談したうえで、その助言を踏まえて解雇をしたのかどうかというのは、過失の有無にかかわってきます。
仮に解雇が不当された場合でも、専門家の助言を踏まえて行ったという場合には、過失がないものとして不法行為責任が否定されないこともあるのです。
5-3 やっておきたいこと3:面談や解雇時のやり取りを録音しておくこと
不当解雇の慰謝料を防ぐためにやっておきたいことの3つ目は、面談や解雇時のやり取りを録音しておくことです。
不当解雇の慰謝料を請求される際によくあるのが面談や解雇時の発言などがハラスメントに該当すると指摘されることです。
録音がないと、水掛け論になりがちですし、ある発言だけを切り抜かれて不利な主張をされてしまうことがあります。
そのため、面談や解雇時のやり取りについては、録音しておくことで、慰謝料を請求された際に防御を図りやすくなります。
6章 企業が不当解雇の慰謝料を請求された場合の対処法
企業が不当解雇の慰謝料を請求された場合には、解雇の見通しを踏まえたうえで、適切に方針を立てる必要があります。
誤った対応をしてしまうと、企業としてのリスクも格段に大きくなってしまいます。
具体的には、企業が不当解雇の慰謝料を請求された場合には、以下の対処が考えられます。
対処法2:話し合いによる解決を提案する
対処法3:請求には応じられない旨を回答する
それでは、順番に説明していきます。
6-1 対処法1:解雇を撤回する
不当解雇の慰謝料を請求された場合の対処法の1つ目は、解雇を撤回することです。
明らかに解雇の理由がないようなケースで、当該従業員を復職させることができるような場合には、すぐに解雇の撤回を行うことが考えられます。
直ぐに解雇を撤回することによって、解雇の態様の悪質性も高いとは言いにくくなりますので、慰謝料が認められることを防ぎやすくなります。
また、解雇の撤回をした後は、従業員は働かなければ賃金を請求することができないため、働いていないのに後から遡って多額の賃金を請求されるリスクも防げます。
解雇の撤回については、以下の記事で詳しく解説しています。
6-2 対処法2:話し合いによる解決を提案する
不当解雇の慰謝料を請求された場合の対処法の2つ目は、話し合いによる解決を提案することです。
解雇を争われた場合に不当とされてしまう可能性が見込まれるようなケースで、かつ、解雇の撤回もできないという場合には、話し合いにより退職に応じてもらうことを検討しましょう。
その場合には、解決金という名目で一定程度金銭の支払いを提案することになります。
6-3 対処法3:請求には応じられない旨を回答する。
不当解雇の慰謝料を請求された場合の対処法の3つ目は、請求には応じられない旨を回答することです。
解雇が不当と認められる可能性が低いような場合には、端的に請求に応じられない旨を回答することになります。
7章 解雇の相談はリバティ・ベル法律事務所へ!
解雇の相談は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
解雇問題は専門性の高い分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
解雇を争われた場合の見通しを分析したうえで、事前に準備を行い、極力リスクを減らしたうえで、紛争が顕在化した場合には適切に対処していく必要があります。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨をはじめとした人事労務に力を入れており、圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
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8章 まとめ
以上のとおり、今回は、不当解雇の慰謝料とは何かを説明したうえで、慰謝料が認められる事案3つと判例や慰謝料の相場金額を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・不当解雇の慰謝料とは、不当解雇によってその従業員に与えた精神的苦痛という損害を補填するための費用のことです。
・一般的には、不当解雇であっても、直ちに、企業が慰謝料の支払い義務を負うわけではありません。
・不当解雇の慰謝料が認められたケースとして、以下のような事案があります。
事案1:解雇の理由がほとんどない事案
事案2:嫌がらせを伴う事案
事案3:犯罪者扱いした事案
事案4:強く勧誘して引き抜いた従業員をすぐに解雇した事案
・不当解雇において慰謝料が認められる場合の相場は50万円~100万円程度となっています。
・不当解雇の慰謝料を防ぐためにやっておきたいこととしては、以下の3つがあります。
やっておきたいこと1:解雇をするための証拠や記録を残しておくこと
やっておきたいこと2:解雇の前に専門家に相談すること
やっておきたいこと3:面談や解雇時のやり取りを録音しておくこと
・企業が不当解雇の慰謝料を請求された場合には、以下の対処が考えられます。
対処法1:解雇を撤回する
対処法2:話し合いによる解決を提案する
対処法3:請求には応じられない旨を回答する
この記事が不当解雇の慰謝料を請求されて困っている企業の経営者や人事担当者の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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