モンスター社員を訴えるには?従業員への損害賠償請求訴訟の判例6つ【書式付き】

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
WEBサイト制作等を行うリバティ・ベル株式会社の代表取締役も務める。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日

モンスター社員を訴えるには?従業員への損害賠償請求訴訟の判例6つ


モンスター社員を訴えることはできないかと悩んでいませんか

モンスター社員によって会社に損害が生じてしまっていて、対応に苦慮しているという経営者、人事の方も多いでしょう。

結論としては、会社側からモンスター社員を訴えることは可能です。

ただし、社員の損害賠償責任は判例上限定されており、また、社員を訴える場合にはいくつかの注意点があります。

安易にモンスター社員を訴えると思わぬ反撃を受けてしまうこともあります

そのため、モンスター社員を訴える場合には、判例の考え方に照らしその請求が認められるか見通しを立てたうえで、反撃されるリスクがないか等を検討したうえで行うべきです。

もしも、訴えが認められる可能性が高いとはいえず、逆に反撃を受けてしまうリスクがあるような場合には、業務改善指導や懲戒処分など別の方法により、会社の秩序を維持することが適切です

実際、会社側においても、顕在化していないだけで、潜在的には大きなリスクを抱えている場合があるのです。

この記事をとおして、モンスター社員を訴えようとする場合に会社側が知っておかなければいけないことを伝えていくことができればと思います。

今回は、モンスター社員を訴える際の考え方を説明したうえで、よくある訴訟類型4つと従業員への損害賠償請求訴訟の判例、注意点などを解説していきます。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、モンスター社員を訴えたいと考えた場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。

目次

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1章 モンスター社員を訴えることは可能|従業員に対する損害賠償請求訴訟

会社がモンスター社員を訴えることは可能です。

なぜなら、裁判を受ける権利は、労働者のみならず、会社にも保障されているためです。

訴訟を提起することは勿論、会社側から労働審判を申し立てることもできます

ただし、訴訟を提起した後、最終的に会社側の社員に対する損害賠償請求が認容されるケースは判例上制限されています

従業員に対する損害賠償請求の考え方

具体的には、労働者に故意または重大な過失がない場合には不法行為責任が否定されることがあります。

また、損害賠償請求が認められる場合にも、全額は認められず4分の1~2分の1に限定される傾向にあります。

ただし、故意によるような悪質な場合には、責任は制限されず損害全額の賠償が認められる傾向にあります。

~身元保証人を訴えることの可否~

労働者の入社時等に身元保証書を取得している場合には、身元保証人に対して労働者が負っている損害賠償責任を追及できる可能性があります

労働者に十分な支払い能力がない場合には、労働者だけではなく、身元保証人を訴えることも検討することになります。

ただし、身元保証期間は5年を超えることができず、また令和2年4月以降は極度額を定める必要もあります。

そのため、身元保証人を立ててもらう場合には、更新の手続や極度額の記載などを怠らないように注意が必要です


2章 モンスター社員を訴える場合によくある損害賠償請求訴訟の例5つ

モンスター社員を訴える場合によくある損害賠償請求訴訟の例としては以下の5つがあります。

例1:業務命令違反
例2:無断欠勤
例3:業務ミスや事故
例4:横領や詐欺
例5:引継義務違反

モンスター社員を訴える場合によくある損害賠償請求の例5つ

いずれのケースについても、会社側において、労働者の違法な態様や損害が発生していることを主張立証する必要があります。

そのため、訴訟を提起するにあたっては十分にエビデンスを残しておくことが大切です。

それでは、上記各ケースについて順番に説明していきます。

2-1 例1:業務命令違反

モンスター社員が業務命令違反をした場合には、これによって、生じた損害の賠償を請求することが考えられます。

なぜなら、業務命令違反が不法行為ないし債務不履行となりうるためです。

例えば、業務を命じたところ、そのような業務は行いたくないと理由もなく帰宅してしまったようなケースです。

業務を命じた証拠やそれを拒絶した証拠(メールや録音、顛末書等)、これによって、代替要員の手配に要した費用(移動費用、人件費等)の証拠、取引先等に賠償金や違約金を支払った証拠(請求書等)を集めておきましょう。

2-2 例2:無断欠勤

モンスター社員が無断欠勤をした場合には、これによって、生じた損害の賠償を請求することが考えられます。

なぜなら、無断欠勤が不法行為ないし債務不履行となりうるためです。

例えば、何も連絡がなく出勤せず、その日行うはずだったプレゼンや顧客対応等ができなかったような場合です。

無断欠勤の証拠(出勤簿や安否確認のメール等、顛末書)、これによって、代替要員の手配に要した費用(移動費用、人件費等)の証拠、取引先等に賠償金や違約金を支払った証拠(請求書等)を集めておきましょう。

2-3 例3:業務ミスや事故

モンスター社員が業務ミスや事故を起こした場合には、これによって、生じた損害の賠償を請求することが考えられます。

なぜなら、業務ミスや事故が不法行為ないし債務不履行となりうるためです。

ただし、軽過失によるミスや事故の場合には、損害賠償請求まで行うことは適切ではないでしょう。

ミスや事故の原因につき労働者に大きな落ち度がある場合、わざと失敗しているような場合などの悪質な場合には、損害賠償の請求を検討します。

例えば、業務ミスや事故の証拠(顛末書や報告書、現場写真等)、当該事故によって会社機器が損傷した場合にはその被害額の証拠(修理の見積書等)、取引先に被害が生じた場合にはその被害額の証拠(請求書等)を集めておきましょう。

2-4 例4:横領や詐欺

モンスター社員が横領や詐欺をした場合には、これによって、生じた損害の賠償を請求することが考えられます。

なぜなら、不法行為に該当するためです。

例えば、会社に対して、交通費や経費を実際に生じた費用よりも多く申告していた場合、顧客からの受け取った金額の一部を着服していた場合などが典型です。

前者の事例では、当該労働者から経費等の請求がされた証拠(申告書等)、当該労働者に支払いや振り込みをした証拠(明細書等)などを集めるといいでしょう。

後者の事例では、当該労働者が顧客に請求した金額がわかる証拠(当該労働者が顧客に交付した請求書等)、当該労働者が会社に報告した売上金額の証拠(当該労働者が会社に提出した請求書等)、当該顧客から当該労働者が金銭を受け取った証拠(振込履歴、領収書等)を集めるといいでしょう。

2-5 例5:引継義務違反

モンスター社員が引継ぎに応じない場合には、これによって、生じた損害の賠償を請求することが考えられます。

なぜなら、債務不履行となりうるためです。

例えば、労働者が2週間前の告知なく即日での退職を申し出て、どのような業務を行っていたか報告を求めても応じないような場合です。

また、業務中に作成したWORDデータやエクセルデータなどをすべて削除されてしまう場合もあります。

上記の対応にどの程度の人員を割いて何時間程度要したのかなどを記録しておくといいでしょう。

~違約金・損害賠償額の予定の禁止~

労働基準法は、労働契約の不履行について、違約金や損害賠償額の予定をすることを禁止しています(労働基準法16条)。

例えば、「次に業務ミスをした場合には、違約金10万円をもらい受ける」などの誓約書に労働者から署名押印をもらっても無効となります。

そのため、モンスター社員に対して損害賠償請求をしたいと考えた場合には、いくらの損害が生じたかについて、こまかくエビデンスを残しておかなければいけないのです。

~モンスター社員への損害賠償請求以外の訴訟類型~

モンスター社員への訴訟には、損害賠償請求以外にも、地位の不存在確認、貸金返還請求、社会保険料の徴収請求などもあります。

【地位の不存在確認】
地位の不存在確認を申し立てるのは、会社が労働者は退職したものと処理した後に、まだ社員であると主張されているような場合です。

この場合には、労働者は社員である以上、賃金を支払うようにと求めてきますので、期間が経過するにつれて請求されるリスクのある金額が増えていきます。

そのため、いつまで経っても労働者側から訴訟提起がないような場合には、会社側から訴訟提起をすることがあります。

例えば、モンスター社員に対する地位の不存在確認を行うのは以下のようなケースです。
ケース1:解雇した労働者から解雇の無効を主張されている
ケース2:退職届を出してきた労働者から撤回や取り消しの主張がされている
【貸金返還請求】
小規模な会社の場合、労働者から生活のためにお金を貸してほしいとお願いされて、数十万円~数百万円を貸し付けているということがあります。

そして、このような事案の多くは、労働者が働いている間は給与の一部を返済に充てて回収を図ることが多いですが、労働者が退職した後は回収が難しくなります。

そのため、労働者が退職するのを契機に会社側が貸していたお金を返済するように求めることによりトラブルとなり、訴訟に発展します。

この場合、従前、給与から天引きして回収を図っていた場合には、天引きが賃金全額払いの原則(労働基準法24条)、前借金の相殺禁止(労働基準法17条)に反しないか争点となり、従前回収した貸金についても争いとなります。

また、労働者が退職することを契機に支払期日が到来するような契約にしているケース、高額な利息を設定しているケースでは、公序良俗(民法90条)に反し金銭消費貸借契約自体が無効となり、貸付金については不法原因給付(民法708条)として回収不能になるリスクがあります。

【社会保険料等の徴収請求】
社会保険料の労働者負担分については、通常、給料から源泉することにより回収しますが、労働者が私傷病等により休職し給料が発生しないような場合には源泉が困難となります。

そのため、このような場合には、労働者に対して、社会保険料の労働者負担分を請求することになります。

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3章 会社の従業員への損害賠償請求訴訟の判例6つ

会社が従業員に対して損害賠償を請求した判例については、一定程度蓄積しています。

これらの判例を分析することで、現在の実務傾向が見えてきます。

具体的には、会社の従業員への損害賠償請求については、以下の6つの判例が重要です。

判例1:最判昭51.7.8民集30巻7号689号[茨木石炭商事事件]
判例2:福岡高那覇支判平13.12.6労判825号72頁[M運輸事件]
判例3:東京高判平14.5.23労判834号56頁[つばさ証券事件]
判例4:東京地判平成15.10.29労判867号46頁[N興業事件]
判例5:東京地判平15.12.12労判870号42頁[株式会社G事件]
判例6:大阪高判平10.5.29労判745号42頁[日本コンベンションサービス事件]

会社の社員に対する損害賠償請求の裁判例1会社の社員に対する損害賠償請求の裁判例2

それでは、各判例について順番に説明していきます。

3-1 判例1:最判昭51.7.8民集30巻7号689号[茨木石炭商事事件]

石油等の輸送や販売を行う会社が、従業員の起こした自動車事故につき、当該従業員に対して損害賠償を請求した事案です。

同判例は、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」と判示しました。

そして、以下の事情を考慮して、賠償を請求できる金額は4分の1が相当であるとしました。

・当該会社が業務用車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入していなかったこと
・事故は当該従業員が特命により臨時的に乗務中生じたものであったこと
・当該従業員の勤務成績は普通以上であったこと

3-2 判例2:福岡高那覇支判平13.12.6労判825号72頁[M運輸事件]

貨物自動車運送事業を営む会社が、従業員の起こした事故(クレーン車を運転中にクレーンのブームを所定の位置に伏せるのを怠ったため歩道橋に衝突させる事故)につき、当該従業員に損害賠償を請求した事案です。

当該判例は、以下の理由により会社の従業員に対する損害賠償請求は認められないとしました。

・本件事故について従業員に重過失があったとは認められないこと
・零細企業で赤字経営であったとしても、その業務内容、事故発生の危険性等にかんがみると、保険加入等による損害の分散措置を講じないで事故によって生じた損害を従業員の負担に帰せしめることは相当でないこと
・従業員が総損害額(169万6201円)の約24.7パーセントに当たる42万円を支払っていること

3-3 判例3:東京高判平14.5.23労判834号56頁[つばさ証券事件]

証券取引会社が、従業員が取引開始に先立って顧客に取引上のリスクを具体的に説明しなかったことを理由に顧客から請求された損害賠償に関して、同従業員に対して賠償を求めた事案です。

当該判例は、以下の理由により、当該従業員に重過失が認められず、会社の従業員に対する損害賠償請求は認められないとしました。

・顧客に行うべき説明について会社が研修や指導等を行ったことはないこと
・顧客が被った損害は主として株式の暴落によるものであり同従業員には予測しえなかったこと
・当時の株式相場は不安定でありワラントの売付時期の判断は極めて難しいものであったこと

3-4 判例4:東京地判平成15.10.29労判867号46頁[N興業事件]

各種機械設備の設計・製作・施工を業とする株式会社が、顧客に対する債権回収を業務内容の1つとする従業員に対して、その担当する顧客先に請求書を作成交付することを怠ったため、813万9675円が回収不能になったとして、損害賠償を請求した事案です。

当該判例は、以下の事情を考慮して、賠償を請求できる金額は4分の1が相当であるとしました。

・顧客先への請求書未提出が発生したのは、過重な労働環境にも一因があること
・債権回収不能額はそのすべてが当該従業員の担当する顧客先への請求書未提出と相当因果関係があるわけではないこと
・当該会社では以前にも同様の事件が起きているのに、再発防止のために適切な体制をとっているとはいい難いこと
・債権回収不能の事態が発生したのは当該従業員だけの責任ではなく、上司であるの監督責任でもあること
・顧客先から当該会社に対し請求書未提出について苦情の電話があったことを知っていたのに直接顧客先等への調査をせず、事案解明が遅れ損害の拡大に繋がったこと

3-5 判例5:東京地判平15.12.12労判870号42頁[ガリバーインターナショナル件]

中古自動車販売等を営む会社が、従業員が入金が全くない段階で顧客に対して次々と商品である車両を多数引き渡し、勤務先に車両15台の価格相当の損害を生じさせた行為について、損害賠償を請求した事案です。

当該判例は、以下の事情を考慮して、賠償を請求できる金額は2分の1が相当であるとしました。

・当該従業員は店長であるところ店長としての職務遂行に当たり重大な過失があったこと
・会社も売上至上主義ともいうべき指導を行っていたこと

3-6 判例6:大阪高判平10.5.29労判745号42頁[日本コンベンションサービス事件]

国際会議、学会、イベントの企画・運営を主たる業務とする会社が、従業員が在職中に競業会社の設立を準備した行為につき、誠実義務違反を理由に損害賠償を請求した事案です。

当該判例は、競業会社設立準備により業務を混乱させた幹部職員の行為につき、雇用契約上の誠実義務に違反するとして、不法行為の成立が認めました。

そして、損害について、当該会社の社会的、経済的信用が減少したこと認められるものの、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとしたうえで、民訴法248条により400万円が相当な損害であると認定しました。


4章 モンスター社員から会社が訴えられるケース3つ

会社がモンスター社員に対して損害賠償を請求する場合、逆に社員から反撃をされてしまうケースがあります。

会社側においても、顕在化していないだけで、潜在的には大きなリスクを抱えている場合があります。

例えば、社員側から反撃されるケースとしてよくある例は以下のとおりです。

反撃1:未払賃金請求
反撃2:地位確認請求
反撃3:損害賠償請求(休業損害・慰謝料)

モンスター社員から会社が訴えられるケース3つ

それでは、これらについて順番に説明していきます。

4-1 反撃1:未払賃金請求

社員からの反撃の1つ目は、未払い賃金請求です。

これまでに根拠なく社員の給料を減額していた場合や十分に残業代を支給していなかった場合などには、社員側から未払賃金を請求されることがあります。

とくに残業代については時効の期間3年に延びたことにより、請求金額も数百万円単位となってしまうこともあります

そのため、未払い賃金につき反論をされるリスクがないか事前に十分検討しておきましょう。

4-2 反撃2:地位確認請求

社員からの反撃の2つ目は、地位確認請求です。

解雇した労働者に対して損害賠償を請求するようなケースでは、労働者側からも解雇が無効であるとして従業員としての地位の確認が求められることがあります。

とくに、従業員としての地位の確認が認められてしまうと、バックペイと言って後から遡って数か月~数年分の賃金を支払わなければならなくなるリスクがあります

そのため、解雇等を争われた場合にどの程度のリスクがあるのかを十分に検討したうえで、損害賠償まで請求しましょう。

不当解雇で訴えられた場合については、以下の記事で詳しく解説しています。

4-3 反撃3:損害賠償請求(休業損害・慰謝料)

社員からの反撃の3つ目は、損害賠償請求(休業損害・慰謝料)です。

労働者に対して無断欠勤による損害の賠償を請求した場合において、無断欠勤の理由が精神疾患にあり当該精神疾患が業務に起因するものであると反論されるような場合です。

精神疾患等業務起因性については簡単には認められない傾向にありますが、事前に労働者側の言い分と見通しを確認しておいた方がいいでしょう。

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5章 モンスター社員を訴える手順|従業員に損害賠償を請求する方法【書式付き】

会社がモンスター社員に損害賠償を請求する場合には、以下の手順をとることが通常です。

手順1:請求金額を記載した書面を交付する
手順2:通知書を交付する
手順3:労働審判又は訴訟を提起する

それでは、各手順について順番に説明していきます。

5-1 手順1:請求金額を記載した書面を交付する

従業員に損害賠償を請求する手順の1つ目は、請求金額を記載した書面を交付することです。

いきなり訴訟を提起するのではなく、まずは任意に支払いを求めることが穏当です。良好な職場環境を維持するためにもなるべく禍根を残さないよう方法により、支払いを促しましょう

他の従業員の目につかないように面談室において、書面の交付の際に請求の内容を説明して理解を求めるのがいいでしょう。

損害金のお振込みのお願い
損害金のお振込みのお願い

5-2 手順2:通知書を交付する

従業員に損害賠償を請求する手順の2つ目は、通知書を交付することです。

従業員が支払いを拒絶した場合、または、期日が過ぎて催促をしても振り込みをしない場合には、通知書を送付することを検討します。

振り込みを確認できない場合には、法的手続きを進める旨を記載して、任意の支払いを促すことが考えられます。

通知書(損害賠償請求)
通知書(損害賠償請求)

5-3 手順3:労働審判又は訴訟を提起する

従業員に損害賠償を請求する手順の3つ目は、労働審判又は訴訟を提起することです。

労働審判とは、全3回までの期日で話し合いによる解決を目指す手続きです。話し合いによる解決が難しい場合には労働審判委員会により審判が下されます。

訴訟とは、裁判所に判決を求める手続きです。1か月程度ごとにお互い主張書面や証拠を提出して、裁判所が請求の当否を判断します。


6章 モンスター社員を訴えることを考える際の注意点5つ

モンスター社員を訴える際には、いくつかの注意点があります。

安易な行動は、最終的に会社側のリスクとなり、不利益となります。

具体的には、モンスター社員を訴えることを考える際には、以下の5つの点に注意する必要があります。

注意点1:モンスター社員を訴えずに給与から控除することは原則NG
注意点2:モンスター社員を訴える以外にも改善指導や懲戒処分も検討する
注意点3:反訴を提起される可能性があることについても留意する
注意点4:スラップ訴訟にならないようにする
注意点5:損害賠償請求には時効がある

各注意点について順番に説明していきます。

6-1 注意点1:モンスター社員を訴えずに給与から控除することは原則NG

モンスター社員を訴えずに給与から控除することにより損害金を回収することは原則NGとなります。

なぜなら、労働基準法24条は賃金全額払いの原則を規定しており、賃金については全額労働者に渡さなければいけないとしているためです。

例えば、給料日に面談室などで労働者に対して給料全額を手渡した後に、その場で損害金額につき支払ってもらうなどの工夫が考えられます。

いずれも領収証や受領書などを作成し、お金の動きを形に残す必要があります。

6-2 注意点2:モンスター社員を訴える以外にも改善指導や懲戒処分も検討する

モンスター社員を訴える以外にも改善指導や懲戒処分を行う方が適切な場合があります。

損害賠償請求までは認められる可能性が低い場合、損害賠償請求をすると労働者から反撃をされてしまうリスクがある場合などです。

このような場合でも、会社としては何もせずに放置することは適切ではなく、会社秩序の維持等の観点から改善指導や懲戒処分を検討することになります。

6-3 注意点3:反訴を提起される可能性があることについても留意する

モンスター社員を訴える場合には、社員側からも反訴される可能性があることにも留意が必要です。

会社側から何もしなければ出てこなかった請求などがされることもあり、藪蛇になってしまいます。

とくに、請求する損害賠償金額以上の金額を支払うように命じられるリスクもあるので注意が必要です。

6-4 注意点4:スラップ訴訟にならないようにする

モンスター社員を訴える場合には、スラップ訴訟にならないように注意しましょう。

スラップ訴訟というのは、労働者の意見表明や行動を弾圧する目的で根拠なく高額な賠償請求を行うものです。

明らかに理由や証拠がないにもかかわらず、高額の賠償請求を行うと、スラップ訴訟であるとして、逆に会社側が賠償請求をされることがあります。

6-5 注意点5:損害賠償請求には時効がある

損害賠償請求には時効があります。

不法行為の時効は、損害および加害者を知ってから3年、または、不法行為の時から20年です(民法724条)。

債務不履行の時効は、原則として、権利を行使できる時から5年です(民法166条)。

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7章 モンスター社員への対応はリバティ・ベル法律事務所にお任せ

モンスター社員への対応は是非リバティ・ベル法律事務所にお任せください。

モンスター社員の問題は良好な職場環境や職場秩序を維持するために、状況に応じた適切な対応をする必要があります。

弁護士であれば誰でも良いというわけではなく、人事労務問題に力を入れている弁護士を探すことが重要となります。

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8章 まとめ

以上のとおり、今回は、モンスター社員を訴える際の考え方を説明したうえで、よくある訴訟類型4つと従業員への損害賠償請求訴訟の判例、注意点などを解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

まとめ

・会社は、社員に故意又は重大な過失がある場合には、当該社員に対して、損害賠償を請求することができます。ただし、故意ではなく重大な過失にとどまる場合には、損害金額は一定限度に制限される傾向にあり餡巣。

・モンスター社員を訴える場合によくある損害賠償請求訴訟の例としては以下の5つがあります。
例1:業務命令違反
例2:無断欠勤
例3:業務ミスや事故
例4:横領や詐欺
例5:引継義務違反

・社員側から反撃されるケースとしてよくある例は以下のとおりです。
反撃1:未払賃金請求
反撃2:地位確認請求
反撃3:損害賠償請求(休業損害・慰謝料)

・会社がモンスター社員に損害賠償を請求する場合には、以下の手順をとることが通常です。
手順1:請求金額を記載した書面を交付する
手順2:通知書を交付する
手順3:労働審判又は訴訟を提起する

・モンスター社員を訴えることを考える際には、以下の5つの点に注意する必要があります。
注意点1:モンスター社員を訴えずに給与から控除することは原則NG
注意点2:モンスター社員を訴える以外にも改善指導や懲戒処分も検討する
注意点3:反訴を提起される可能性があることについても留意する
注意点4:スラップ訴訟にならないようにする
注意点5:損害賠償請求には時効がある

この記事がモンスター社員を訴えたいと悩んでいる企業の経営者や担当者の方の役に立つことができれば幸いです。

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