「婚姻費用って何?」
「婚姻費用と養育費は違うの?」」
「別居中の生活費はどうしよう?」
婚姻費用がどのようなものかよくわからず悩んでいませんか?
養育費という言葉はよく耳にするものの、婚姻費用という言葉は聞きなれないという方も多いですよね。
簡単に言うと、婚姻費用とは、配偶者の一方が経済的に弱い他方の配偶者の生活費を分担するものです。
実は、婚姻中に別居をしている場合、夫から婚姻費用の支払いを受けることが可能なことが一般的です。
なぜなら、夫婦は互いが同等の水準の生活ができるよう、支えあう義務があるためです。
もっとも、夫にそれを伝えた場合であっても、スムーズに支払いをしてくれない場合も多くあるでしょう。
実際、私が日頃、離婚相談を受ける中でも、婚姻費用を支払ってもらうことができていない女性が多く存在します。
しかし、多くの事案では、弁護士が婚姻費用分担調停を申し立てると、夫側も素直に婚姻費用の支払いに応じてくる傾向にあります。
ただし、婚姻費用がどのようなものかをしっかりと理解していないと得られる金額が少なくなってしまうケースがあります。
この記事をとおして、婚姻費用の請求や、具体的な費用の算定に必要な知識と方法を知っていただければと思います。
今回は、婚姻費用とは何かを説明した上で、金額の算定方法や請求の手順について、誰でもわかりやすく解説していきます。
この記事を読めば、婚姻費用がどのようなものかよくわかるはずです。
目次
1章 婚姻費用とは?養育費との違い
婚姻費用と養育費の違いを知ることで、配偶者に対して請求可能なものはどのようなものなのかを知ることができます。
これによって、適切な手続きを選択することができるようになります。
1-1 婚姻費用とは?
婚姻費用とは、夫婦が共同して生活するために必要な一切の費用をいいます。
簡単に言うと、夫婦が互いに同水準の生活をすることができるよう、収入の多い方の配偶者が収入の少ない配偶者のために支払う金銭のことです。
婚姻費用に関する条文は民法に規定されているため、婚姻費用の支払いは法的に義務づけられています。
例えば、夫の年収が700万円、妻の年収が100万円の場合、夫が妻に対して金銭を支払います。
そのため、婚姻費用とは、夫婦が共同して生活するために必要な一切の費用をいいます。
1-2 婚姻費用と養育費の違い
婚姻費用と養育費はどのような点が異なるのでしょうか。
異なる点は下記の通りです。
違い1:婚姻費用には養育費が含まれている
違い2:婚姻費用は離婚・同居に戻る日まで払われる
違い3:取り決めるための手続きが異なる
違い4:収入が高い配偶者が収入の低い配偶者に支払う
違い5:養育費より高額になることが多い
順番に解説します。
1-3 婚姻費用には養育費が含まれている
婚姻費用には養育費が含まれています。
なぜなら、婚姻費用は夫婦が同程度の水準の生活をできるように支払われるものであり、支払われる生活費には子どもの生活費も含まれるためです。
そのため、婚姻費用には養育費が含まれている点で、子どものみの生活費である養育費と異なります。
1-4 婚姻費用は離婚・同居に戻る日まで払われる
婚姻費用は離婚もしくは同居に戻る日まで支払われることが原則です。
なぜなら、婚姻費用は夫婦が生計を別にしている時に支払われるものであるためです。
そのため、婚姻費用は離婚・同居に戻る日まで支払われることが原則である点で、子どもが成人するまでの間支払われる養育費と異なります。
1-5 取り決めるための手続きが異なる
婚姻費用を取り決める際には、一般的には婚姻費用分担調停を申し立てます。
なぜなら、婚姻費用について夫婦間の話し合いで取り決めることが難しいことが一般的であるため、裁判所の手続きを活用することが多いからです。
そのため、婚姻費用は婚姻費用分担調停で取り決めることが多い点で、養育費と異なります。
1-6 収入が高い配偶者が収入の低い配偶者に支払う
婚姻費用は、収入が高い配偶者が収入の低い配偶者に対して支払うことが原則です。
なぜなら、婚姻費用は夫婦が同程度の水準の生活をできるように支払われるものであるためです。
そのため、婚姻費用は、収入が高い配偶者が収入の低い配偶者に対して支払うことが原則である点で、子どもを養育費していない配偶者が子どもを養育している配偶者に対して支払う婚姻費用と異なります。
1-7 養育費より高額になることが多い
婚姻費用は養育費よりも高額になることが多いです。
なぜなら、婚姻費用には子どもの生活費(養育費)も含まれるためです。
そのため、婚姻費用が養育費よりも高額になりやすいという点で養育費と異なります。
2章 婚姻費用をもらうメリット
婚姻費用には、いくつかのメリットを受けることができます。
婚姻費用をもらうメリットを知ることで、離婚手続きをスムーズに進めていくことができます。
具体的には、婚姻費用には以下の2つのメリットがあります。
メリット1:生活を維持できる
メリット2:離婚交渉をしやすくなる
各メリットについて一緒に見ていきましょう。
2-1 メリット1:生活を維持できる
婚姻費用をもらうことができると、生活を維持しやすくなります。
なぜなら、婚姻費用をもらうことができると、毎月決まった金額を得られます。
もらった婚姻費用は、生活費に充てることが可能です。
婚姻費用を生活費に充てることで生活に一定の余裕ができ、生活を維持しやすくなります。
例えば、婚姻費用の支払いを受けていない場合には自身の預金・収入で生活を維持する必要がありますが、婚姻費用の支払いを受けている場合には婚姻費用も生活費に充てることができます。
そのため、婚姻費用をもらうことで生活を維持しやすくなるというメリットがあります。
2-2 メリット2:離婚交渉をしやすくなる
離婚を考えている場合、婚姻費用をもらうことで離婚に向けた交渉を行いやすくなります。
なぜなら、配偶者は、離婚をする日もしくは同居に戻る日までの間、生活費を毎月支払わなければならない状況に置かれるためです。
具体的には、例えば婚姻費用を月額10万円支払うよう取り決めがされた場合には、配偶者は1年間で120万円を支払わなければならなくなります。
つまり、離婚をしない場合には、期間が長引けば長引くほど、支払いをする婚姻費用の金額が大きくなってしまいます。
そのため、配偶者側としては、支払いを避けるために離婚を前向きに検討することも多いです。
図で表すと、以下のようになります。
そのため、婚姻費用をもらうことで離婚交渉をしやすくなるというメリットがあります。
3章 ケース別!婚姻費用を「もらえるケース」と「もらえないケース」
婚姻費用には、「もらえるケース」と「もらえないケース」があります。
ご自身が婚姻費用を請求したときに、婚姻費用をもらえるのかどうかということはとても大切なことです。
ここでは、よく問題になる以下の5つのケースについて解説します。
ケース1:同居中のケース
ケース2:別居後のケース
ケース3:離婚後のケース
ケース4:夫よりも自分の収入の方が高額なケース
ケース5:自分の行為が原因で夫婦関係が悪化したケース
図で表現すると以下の通りです。
具体的な内容について解説していきます。
3-1 ケース1:同居中のケース
同居中のケースは、原則として、婚姻費用をもらうことはできません。
なぜなら、婚姻費用は、原則としては別居をして生計を別にしている時に、双方が同程度の水準の生活をできるようにするために支払われるためです。
例えば、同居をしている場合には、配偶者が住居費や水道光熱費等の生活費を負担していることも多いです。
そのため、同居中のケースは、原則として、婚姻費用をもらうことはできません。
ただし、同居中であり、配偶者の収入が自身よりも多いにも関わらず生活費の支払いがないような場合には、婚姻費用を受け取ることができる場合もあります。
ただ、注意点としては、配偶者が住居費や光熱費等の生活費の負担をしている場合には、下記の婚姻費用算定表を利用して算出した金額が修正されることがあります。
3-2 ケース2:別居後のケース
別居後のケースでも、婚姻費用は請求することが可能です。
なぜなら、婚姻費用は、原則としては別居をして生計を別にしている時に、双方が同程度の水準の生活をできるようにするために支払われるためです。
例えば、配偶者が自宅を出る形で別居をした場合であっても、自身が自宅を出る形で別居をした場合であっても、婚姻費用を請求することが可能です。
また、自身が自宅を出る形で別居を開始し、自身の実家で生活をしている場合でも婚姻費用を請求することが可能です。
なお、自身が別居をすることについて、配偶者から別居の許可を得たかどうかということは考慮されないことが一般的です。
そのため、別居をした場合には婚姻費用の請求を行うようにしましょう。
3-3 離婚後のケース
離婚後のケースでは、婚姻費用を請求することはできません。
なぜなら、婚姻費用は、原則としては別居をして生計を別にしている時に、双方が同程度の水準の生活をできるようにするために支払われるものであり、離婚をすることで支払いの義務がなくなるためです。
例えば、令和3年11月末日で離婚届を出したとしましょう。この場合には、令和3年12月1日以降についての婚姻費用を請求することはできなくなってしまうのです。
そのため、婚姻費用は、離婚後のケースでは請求することはできないのです。
ただし、離婚前にすでに婚姻費用を請求していた場合、請求時点から離婚時点までに発生した未払いの婚姻費用の支払いを受けることができる場合もあります。
3-4 夫よりも自分の収入の方が高額なケース
自分の収入が夫の収入よりも高額なケースでは、婚姻費用の支払いを受けることができないことが原則です。
なぜなら、婚姻費用は、夫婦が互いに自分と同等の生活をさせる義務(生活保持義務)に基づいて支払われるものであるためです。
つまり、婚姻費用は、収入の高い方が、収入の低い方に対して支払うものなのです。
例えば、妻の収入が700万円あり、夫に収入がない場合には、妻から夫に対して婚姻費用を支払うことで、妻と夫が同等の生活をすることができるようにします。
そのため、婚姻費用の支払いを受けることができないことが原則です。
なお、自身の収入が夫の収入よりも高額な場合には、夫から婚姻費用の請求をされた場合には、自身から夫に対して婚姻費用を支払わなければならない可能性もあります。
ただし、夫婦の間に子どもがいて、ご自身が子どもを養育しているような場合には、婚姻費用の支払いを受けられる場合もあります。
なぜなら、婚姻費用には養育費も含まれるためです。
例えば、夫の給与収入が500万円、妻の給与収入が600万円、妻が15歳以上の子ども2人を養育している場合、夫から妻に対して月額6~8万円の婚姻費用を支払います。
事前に双方の収入と、養育している子供の有無を確認した上で、下記の婚姻費用算定表に従って婚姻費用を計算するようにしましょう。
3-5 自分の行為が原因で夫婦関係が悪化したケース
自分の行動、具体的には不倫・浮気(不貞行為)やDV等によって夫婦関係が悪化した場合には、婚姻費用の支払いが受けられない場合があります。
なぜなら、自分の行動によって夫婦関係を悪化させた配偶者に対して婚姻費用を支払うことを認めると、もう一方の配偶者にとって公平性を欠く結果になるためです。
例えば、自分が不倫・浮気(不貞行為)をして一方的に自宅を出て別居を開始したような場合には、配偶者に対して婚姻費用の支払いを請求した場合であっても裁判所が認めないことがあります。
そのため、婚姻費用を請求した際に、配偶者から不倫・浮気があったこと等を主張され、それが事実だと証明された場合には、婚姻費用の支払いが受けられない場合があります。
ただし、自身が子どもを養育している場合には、子どもの養育費相当の金額の支払いを受けられる場合もあります。
なぜなら、婚姻費用には子ども養育費も含まれていますが、子どもの養育費の支払い義務は子どもを養育する親の不倫・浮気(不貞行為)やDV等の有無に影響を受けないためです。
そのため、配偶者から不倫・浮気があったこと等を主張された場合でも、子どもを養育している場合には少なくとも養育費相当の金額を支払うように反論しましょう。
4章 婚姻費用の計算方法
婚姻費用の計算方法ともらえる期間婚姻費用を月額いくらもらえるのか、いつからいつまでもらえるのかということを知ることで、別居後の生活設計がしやすくなります。
以下のポイントに分けて解説します。
ポイント1:婚姻費用算定表による計算方法
ポイント2:算定例
ポイント3:婚姻費用をもらえる期間
4-1 婚姻費用算定表による計算方法
婚姻費用を算定する際には、裁判所の作成した「婚姻費用算定表」を使用しましょう。
使用する「婚姻費用算定表」は夫婦の間の子供の有無や人数によって異なるため、注意しましょう。
婚姻費用算定表は、以下のようなもので、裁判所のHPで確認することができます。
リンク:養育費算定表 | 裁判所 (courts.go.jp)
婚姻費用算定表の使用方法について解説します。
ステップ1:適切な算定表を選ぶ
ステップ2:義務者の収入と権利者の収入を確認する
ステップ3:婚姻費用の金額を確認する
4-1-1 ステップ1:適切な算定表を選ぶ
婚姻費用算定表を使用するステップ1は、算定表を選ぶことです。
婚姻費用算定表は、子どもの人数・年齢に応じて使用するものが異なります。
まずは、子どもの人数・年齢に応じて、婚姻費用を算定する際に使用する表を選びましょう。
4-1-2 ステップ2:義務者の年収と権利者の年収を確認する
婚姻費用算定表を使用するステップ1は、義務者の年収と権利者の年収を確認することです。
なぜなら、婚姻費用算定表には、縦軸に「義務者の年収」、横軸に「権利者の年収」という記載が存在しているためです。
「義務者」とは婚姻費用の支払いを行う者です。
これに対して、「権利者」とは婚姻費用の支払いを受ける者です。
婚姻費用算定表の年収は、給与所得者(会社員等)であれば「給与」の記載のある欄の数字を、自営業者であれば「自営」の記載のある欄の数字を利用します。
4-1-3 ステップ3:婚姻費用の金額を確認する
婚姻費用算定表を使用するステップ3は、婚姻費用の金額を確認することです。
「義務者の年収」と「権利者の年収」に従い、表を辿っていき交差する箇所の金額が婚姻費用の金額となります。
4-2 算定例
それでは、実際に具体例をいくつか見てみましょう。
以下の3つのパターンについて説明していきます。
パターン1:会社員の夫の年収が400万円、パートの妻の年収が100万円。妻が14歳以下の子を1人養育している場合
パターン2:自営業の夫の年収が800万円、パートの妻の年収が100万円。妻が14歳以下の子を1人養育している場合
パターン3:夫の会社から支払われている年収が500万円、副業として行っている自営業の年収が113万円、パートの妻の収入が100万円。夫婦の間に子はいない場合。
4-2-1 会社員の夫の年収が400万円、パートの妻の年収が100万円。妻が14歳以下の子を1人養育している場合
会社員の夫の年収が400万円、パートの妻の年収が100万円。妻が14歳以下の子を1人養育している場合について解説します。
義務者である夫と年収と権利者である妻の年収は、どちらも給与収入です。
収入のマスの交差点は「6~8万円」になります。
この金額が婚姻費用の目安です。
4-2-2 自営業の夫の年収が740万円、パートの妻の年収が100万円。妻が14歳以下の子を1人養育している場合
自営業の夫の年収が740万円、パートの妻の年収が100万円。妻が14歳以下の子を1人養育している場合について解説します。
義務者である夫の年収は自営業による収入、権利者である妻の年収は給与収入です。
収入のマスの交差点は「18~20万円」になります。
この金額が婚姻費用の目安です。
4-2-3 夫の会社から支払われている年収が500万円、副業として行っている自営業の年収が113万円、パートの妻の収入が100万円。夫婦の間に子はいない場合。
夫の会社から支払われている年収が500万円、副業として行っている自営業の年収が113万円、パートの妻の収入が100万円。夫婦の間に子はいない場合について解説します。
義務者である夫の自営業の年収を算定表で確認すると、給与収入に置き換えた場合には150万円になることがわかります。
そのため、500万円に150万円を足した金額である650万円として扱います。
収入のマスの交差点は「8~10万円」になります。
この金額が婚姻費用の目安です。
4-3 婚姻費用をもらえる期間
婚姻費用は、通常、婚姻費用分担調停を申し立てた時点から離婚する時点まで支払ってもらうことができます。
なぜなら、婚姻費用は別居後、請求をした時点から支払われることが原則であるためです。
図にすると以下の通りになります。
つまり、別居の時期に合わせて婚姻費用を請求する手続きを行うことで、婚姻費用の支払い時期を延ばすことができます。
そのため、別居を開始した場合には、すぐに婚姻費用分担調停を申し立てるようにしましょう。
5章 婚姻費用の請求するためのおすすめ手順
ここでは、婚姻費用の請求をするためのおすすめの手順を紹介します。
手順1:別居する
手順2:婚姻費用の請求書を送付する
手順3:婚姻費用分担調停を申し立てる
手順4:(調停で取り決めができない場合は)婚姻費用分担審判を行う
図にすると以下の通りになります。
5-1 手順1:別居する
まずは別居を開始するようにしましょう。
なぜなら、婚姻費用を請求するためには、一般的には別居を開始する必要があるためです。
そのため、まずは別居を開始するようにしましょう。
5-2 手順2:婚姻費用の請求書を送付する
別居を開始した後、婚姻費用の請求書を送付するようにしましょう。
なぜなら、婚姻費用の支払い開始時期は、婚姻費用を請求した時期からになるためです。
具体的には、婚姻費用を請求する旨を明確に示した文書を内容証明郵便で郵送しましょう。
そのため、別居を開始した後、婚姻費用の請求書を送付するようにしましょう。
具体的には、以下のような内容の書面を送付します。
5-3 手順3:婚姻費用分担調停を申し立てる
別居の開始と合わせて、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てるようにしましょう。
婚姻費用の分担調停とは、家庭裁判所で婚姻費用について協議する手続きです。
夫婦で婚姻費用に関する合意ができないような場合であっても、調停員という第三者が間に入り、夫婦が婚姻費用について合意ができるようサポートをしてくれます。
婚姻費用の支払い開始時点は、実務上では、婚姻費用分担調停を申し立てた月になることが原則であるため、別居の開始と合わせて申し立てを行うようにしましょう。
なお、婚姻費用分担調停を申し立てた場合であっても、夫婦の間で婚姻費用を取り決めるまで数か月間掛かることが一般的です。
しかし、婚姻費用が決まった場合には、婚姻費用分担調停を申し立てた月から遡って計算した金額が支払われます。
そのため、別居の開始と合わせて、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てるようにしましょう。
5-4 手順4:(不調の場合は)婚姻費用分担審判を行う
婚姻費用分担調停を申し立てたものの、夫婦の間で婚姻費用の支払いや金額について合意ができない場合には、婚姻費用分担審判を行います。
婚姻費用分担審判とは、裁判所が、双方の主張を元に適切な婚姻費用を取り決める手続きです。
そのため、婚姻費用分担調停を申し立てたものの、夫婦の間で婚姻費用の支払いや金額について合意ができない場合には、婚姻費用分担審判で裁判所に適切な婚姻費用を取り決めてもらうことになります。
6章 婚姻費用のよくある質問5つ
ここでは、婚姻費用のよくある質問5つについて解説します。
婚姻費用について質問される内容で特に多いものを厳選しているため、婚姻費用に関する疑問が解消されるかもしれません。
質問1:取り決めた婚姻費用を相手が支払わない場合はどうすればいい?
質問2:婚姻費用を取り決めた後に収入が変わるとどうなる?
質問3:婚姻費用の使途は自由に決められる?
質問4:婚姻費用は別居した時にさかのぼって請求できる?
質問5:住宅ローンが残っている場合に婚姻費用に影響はある?
以上について、以下で解説していきます。
6-1 取り決めた婚姻費用を相手が支払わない場合はどうすればいい?
取り決めた婚姻費用を相手が支払わない場合には、どのような方法で取り決めたのかによって対応が異なってきます。
パターン1:口約束等で取り決めた
パターン2:公正証書で取り決めた
パターン3:婚姻費用分担調停・審判で取り決めた
6-1-1 パターン1
口約束等で取り決めた(パターン1)場合、相手が支払いをしなかった場合に支払いを強制することができません。
そのため、支払いをしなくなったことを理由に婚姻費用分担調停の申し立てを行い、改めて適切な婚姻費用を取り決める手続きをする必要があります。
6-1-2 パターン2
公正証書で取り決めた(パターン2)場合、相手が支払いをしなかった場合であっても、公正証書によって強制執行が可能な場合があります。
婚姻費用に関して取り決めた公正証書に執行認諾文言が存在し、送達証明書を有している場合には強制執行が可能です。
具体的には、公正証書に婚姻費用を月額いくら支払うのかということが明確に記載されていること・執行認諾文言(「債務者は,本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した」)という記載が存在することが必要です。
また、送達証明書とは、公正証書が相手に届いていることを証明する文書のことです。
送達証明書がない場合には、公証役場に対して送達証明申請を行って取得するようにしましょう。
上記の公正証書・送達証明書やその他必要書類を準備した上で、地方裁判所に対して、強制執行の申し立てを行います。強制執行を行うことで、相手の給与や財産から婚姻費用の支払いを受けることができます。
強制執行を行うことで、支払いを確保することが可能なことが多いです。
6-1-3 パターン3
婚姻費用分担調停・審判で取り決めた(パターン3)場合、相手が支払いをしなかった場合であっても、履行勧告や強制執行が可能です。
履行勧告とは、婚姻費用を取り決めた家庭裁判所が相手に対して、婚姻費用の支払いを行うように勧告する手続きをいいます。
具体的には、家庭裁判所に対して履行勧告を行うよう申し出ることで、家庭裁判所が相手に対して婚姻費用を支払うよう勧告を行う手続きです。
裁判所から相手に対して直接連絡がされるため、婚姻費用の支払い再開のきっかけになることも多いです。
ただし、履行勧告は、強制力がなく、また相手が従わない場合にも罰則はありません。
そのため、相手が履行勧告に従わない場合には、強制執行を検討する必要があります。
6-2 婚姻費用を取り決めた後に収入が変わるとどうなる?
婚姻費用を取り決めた後に、夫婦のどちらかの収入が大きく変化した場合であっても、原則としてすでに取り決めた婚姻費用を支払います。
夫婦の収入が変化したことを踏まえ、婚姻費用を改めて取り決めるためには、婚姻費用増額(減額)調停を申し立てる必要があります。
具体的には、婚姻費用を取り決めた後に、相手の収入が大きく上がったような場合(2割が目安ですが、事案によって異なります)には、婚姻費用算定表で改めて婚姻費用を計算し、増額の余地がある場合には婚姻費用増額調停を申し立てるようにしましょう。
また、相手が減収を主張して婚姻費用減額調停を申し立ててくる場合もあります。
このような場合には、どういった理由で減収したのかということを確認するようにしましょう。
過去の事例では、相手が意図的に婚姻費用の支払いを逃れるために仕事を退職したような場合に、婚姻費用の減額を認めなかった事例が存在します(福岡家裁審判平成18年1月18日)。
そのため、相手の減収の理由が婚姻費用の支払いを逃れることを目的としていることが疑われる場合には、そのことを主張するようにしましょう。
6-3 婚姻費用の使途は自由に決められる?
婚姻費用の使途は自由に決めることができます。
なぜなら、婚姻費用は別居中に生じる生活費を負担するものであり、生活費には水道光熱費といった費用や、住居費、医療費、娯楽費等広く含まれるものであるためです。
例えば、婚姻費用の支払いを受けた場合、婚姻費用を光熱費等に費消しても、娯楽費等に費消しても問題がないということになります。
そのため、婚姻費用の使途は自由に決めることができます。
さらに、婚姻費用の支払いをしている相手から婚姻費用の使途について明らかにするよう求められることも多くあります。
しかし、そういった要求に応じなければいけないという法的根拠はなく、使途を明らかにする必要もありません。
6-4 婚姻費用は別居した時にさかのぼって請求できる?
婚姻費用は、別居した時に遡って請求することはできません。
なぜなら、婚姻費用の支払い開始時点は、婚姻費用を請求した時点であるためです。
婚姻費用分担調停の申し立てを行うことで、申し立てを行った月から支払いを受けることが可能です。
そのため、婚姻費用は請求をした時点まで遡って請求することは可能ですが、別居をした時に遡って請求することまではできません。
別居した時に遡って請求するためには、別居と合わせて婚姻費用を請求する必要があります。
6-5 住宅ローンが残っている場合に婚姻費用に影響はある?
婚姻費用の支払いを行っている人が住宅ローンの支払いを行っている住居に、婚姻費用の支払いを受けている人が居住している場合には、婚姻費用の支払い金額に影響があります。
なぜなら、婚姻費用には住居費(住居関連費)も含まれているためです。
婚姻費用の支払いを受けている人は、婚姻費用の支払いを行っている人が住宅ローンの負担をすることによって住居費(住居関連費)の負担をしなくてよくなります。
このような場合、そのままにすると婚姻費用の支払いを行っている人は住居費(住居関連費)を2重払いしていることになってしまいます。
このような場合には、年収からローン支払額を差し引いた金額を年収とみなしたり、婚姻費用に含まれている住居費(住居関連費)を婚姻費用から差し引いたりします。
例えば、婚姻費用の支払いを受ける側の年収が200万円以下の場合には、住居費(住居関連費)が2万2247円であるため、その金額を婚姻費用から差し引きます。
そのため、婚姻費用の支払いを行っている人が住宅ローンの支払いを行っている住居に婚姻費用の支払いを受けている人が居住している場合には、婚姻費用が減額される可能性があります。
7章 婚姻費用の相談はリバティ・ベル法律事務所へ
婚姻費用について不安がある方は、ぜひ、リバティ・ベル法律事務所にご相談ください。
婚姻費用の請求の方法等について、予め弁護士に相談しておくと安心です。
特に婚姻費用分担調停を申し立てる場合には、別居と合わせて婚姻費用分担調停を申し立てられるように、予め弁護士に相談するようにしましょう。
リバティ・ベル法律事務所では、離婚分野に注力しており、婚姻費用分担調停の進め方について内容について十分なノウハウを有しております。
初回相談は無料なので、お気軽にご相談ください。
8章 まとめ
以上のとおり、今回は、婚姻費用を請求するメリットや、婚姻費用の請求ができない可能性のあるケースについて説明したうえで、婚姻費用の請求方法や、金額の計算方法、申し立て時期に関する注意点について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・婚姻費用を請求するメリットは以下のとおりです。
メリット1:生活を維持できる
メリット2:離婚交渉をしやすくなる
・婚姻費用の請求ができない可能性のあるケースは以下のとおりです。
ケース1:同居中のケース
ケース2:離婚後のケース
ケース3:夫よりも自分の収入の方が高額なケース
ケース4:自分の行為が原因で夫婦関係が悪化したケース
・婚姻費用の計算方法は以下のとおりです。
ステップ1:裁判所のHPで家族構成にあった婚姻費用算定表を確認する。
ステップ2:夫婦のそれぞれの収入を確認する。
ステップ3:夫婦のそれぞれの収入のマス目が交差する点が婚姻費用の目安です。
・婚姻費用の起算点は、婚姻費用の請求を行った時点となることに注意しましょう。別居を開始した場合にはできる限り早期に婚姻費用分担調停の申し立てを行い、婚姻費用を請求するようにしましょう。
この記事が婚姻費用について悩んでいる方の助けになれば幸いです。
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