不貞(不倫)慰謝料の求償権とは何か知りたいと悩んでいませんか?
求償権と聞いてもあまりピンときませんよね。
簡単に言うと、求償権というのは、あなたが支払うこととなった慰謝料の一部を不貞相手に負担するように求めてもらうことができる権利です。
例えば、あなたが慰謝料として200万円を支払った場合には、そのうち100万円を不貞相手に請求できるといったような場合があります。
もっとも、実際の事案では、不貞慰謝料の求償権はここまで単純ではありません。事案ごとに負担割合が異なり、5:5ではなく、6:4の場合もあるためです。
また、求償権は慰謝料の減額交渉の手段にもなることもあります。
不貞慰謝料の請求者が離婚していない場合には、不貞相手と経済的に一体となっていることが多いため、不貞相手に求償権を行使しないことを求めてくることがあります。
当然、あなたは求償権を行使することができないと負担額が大きくなってしまうので、その分支払う金額を減らすように求めるでしょう。
つまり、求償権のことをよくわからずに簡単に放棄してしまうと、必要以上に慰謝料を負担することになっていることがあるのです。
このように不貞慰謝料の問題は、不貞した者同士の求償権の問題と深く関連しています。
あなたにとって良い解決をしたいと考えた場合には、求償権について正しく理解することが大切です。
今回は、不貞慰謝料の求償権とは何かについて誰でもわかるように簡単に説明した後に、負担割合の判例相場と不行使(放棄)の合意について解説していきます。
具体的には以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、不貞慰謝料の求償権についてよく理解できるはずです。
目次
1章 不貞慰謝料請求における求償権とは
求償権とは、弁償または償還を求める権利のことをいいます。
分かりやすく言うと、求償権は、あなたが支払うことになった慰謝料の一部を、不貞相手に負担するよう求めることができるのです。
では、不貞慰謝料の場合にどのようにして求償権が発生するのか、簡単に見ていきましょう。
不貞行為は、不貞当事者の2人ですることから、共同不法行為(民法719条、709条、710条)としての性質を有しています。
共同不法行為は、不真正連帯債務となります。
不真性連帯債務も、連帯債務の一つなので、不貞当事者は2人で一つの慰謝料の支払い義務を負っていることになり、不貞当事者間ではそれぞれ割合に応じて負担することになります。
例えば、300万円の慰謝料を等しい割合で負担している場合、あなたが200万円を弁済すると、不貞相手に100万円分の求償権を行使できるでしょう。
注意が必要なのは、実際の事案では債務の負担割合が必ずしも等しい割合になるとはいえないことです。
~求償権は時効の影響を受ける?~
求償権も債権なので、時効の影響をうけます。
求償権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しなければ、時効によって消滅します(民法166条1項1号)。
実際の場面で考えてみると、あなたが債権者に弁済した時点から5年ということになるでしょう。
例えば、あなたが2022年10月に弁済したとすると、2027年10月までに求償権を行使しないと、時効によって消滅してしまうのです。
ただし、あなたが不貞相手に支払の催告や求償権に基づく請求をした場合、時効が5年で完成しないこともあります(民法147条以下)。
2章 不貞慰謝料の求償権の負担割合は6:4?3つの判例から相場を分析
判例は、不貞行為による婚姻関係破綻の主な責任は配偶者側にあり、不貞相手よりも配偶者の責任を重く判断しやすい傾向にあります。
そのため、不貞慰謝料の負担割合は、6:4(配偶者:相手)を基本として、個別の事情によって変動していくでしょう。
例えば、不貞慰謝料の負担割合に言及した以下の3つの裁判例があります。
ここでは、不貞慰謝料の負担割合について言及した判例をご紹介していきます。
判例2:7:3(配偶者:不貞相手)と判断した事例
判例3:9:1(配偶者:不貞相手)と判断した事例
それでは各判例について順番に説明していきます。
2-1 判例1:5:5(配偶者:不貞相手)と判断した事例
Xが、Xの配偶者Aと不貞相手のYが不貞行為をしていたことから、Yに対して慰謝料300万円を請求した事案について、
裁判所は、婚姻関係の破綻は専ら配偶者であるAの責任によるものであり、不貞相手Yの責任は副次的なものに過ぎないことから、200万円はAとYが連帯して負担し、Aは残りの100万円についても責任を負うとしています。
判例は以下のように説明しています。
「Xの慰謝料は300万円が相当であるところ、YとAの書く損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務の関係になるが、婚姻共同体の平和は第一次的に配偶者相互の守操義務、協力義務によって維持されるものであって、不貞行為又は婚姻関係破綻の主たる責任は不貞行為を働いた配偶者にあり、その不貞行為の相手方の責任は副次的なものにとどまると解される。」
「しかし…Aが、Xから慰謝料請求を受けていないにもかかわらず、副次的な責任しか追わないYが高額な慰謝料債務を負うとするのは公平とはいえない。これらの事情を考慮すると、Yは、慰謝料300万円のうち200万円の限度でAと連帯して賠償責任を負い、残余は主たる責任を負うAの個人責任に属すると解する」。
2-2 判例2:7:3(配偶者:不貞相手)と判断した事例
Xが、Xの配偶者Aと不貞相手Yが不貞行為をしていたことから、Aに対して慰謝料465万円を請求した事案について、
裁判所は、不貞に及んだ配偶者が第一次的な責任を負うべきだから、権利侵害の寄与度はAが7割、Yが3割と判断しています。
判例は、以下のように説明しています。
「不貞行為は、平穏な家庭生活を営むべき利益を侵害する不法行為であり、これは、不貞をされた配偶者からすると、不貞配偶者と第三者の共同不法行為であるというべきである。共同不法行為による損害賠償請求権は不真正連帯債務であり,賠償をした加害者は,他方の加害者に対し、損害への寄与の割合を超えた部分につき求償権が発生するというべきである。ただ、不貞行為による平穏な家庭生活の侵害は,不貞に及んだ配偶者が第一次的に責任を負うべきであり、損害への寄与は原則として不倫の相手方を上回るというべきである。」
「このような経緯等をふまえると…権利侵害に対する寄与度は、原告3割、被告7割と考えるのが相当である。」
2-3 判例3:9:1(配偶者:不貞相手)と判断した事例
Xが、Xの配偶者Aと不貞相手Yが不貞行為をしていたことから、AとYに慰謝料300万円を請求していた事案について、
裁判所は、不貞行為を積極的にしていたのは配偶者Aであり、不貞相手Yはあくまでも受動的に不貞行為をしていたにすぎないことから、負担割合はAが9割、Yが1割としています。
判例は以下のように説明しています。
「夫婦間の不貞行為又は婚姻破綻についての主たる責任は原則として不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものと解すべきであるから、慰謝料の算定に当たっても、この点を考慮することが相当である。」
「前提となる事実及び弁論の全趣旨を総合して判断すると、本件不貞行為は、専ら被告Y1が強引に開始し、主導的に継続させたものであり、被告は受動的であったと評価でき…本件に おいて認められる一切の事情を総合して慰謝料の額を検討すると、被告が原告に対して支払うべき慰謝料の額は、30万円をもって相当であるというべきである。」
3章 不貞慰謝料の求償権の不行使(放棄)の文例とその意味
不貞行為をした場合、相手方から求償権を行使しないように求められることがあります。
相手方と配偶者が離婚していない場合、経済的に一体の関係になっています。
不貞相手から配偶者に求償権を行使されてしまうと、自分が負担することと同じになってしまうためです。
そのため、あなたは求償権を放棄する代わりに、相手方に対して慰謝料を減額してもらえるように交渉することになるでしょう。
求償権を放棄するメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
・紛争の早期解決を図れる
・慰謝料の金額が低くなる
ただし、減額交渉をせずに求償権を放棄してしまうと、慰謝料を必要以上に負担してしまうおそれがあります。
そのため、求償権を放棄する前に、放棄の意味をしっかりと把握しておく必要があるでしょう。
求償権を放棄する場合、示談書に記載することになり、その文例は以下のようになるでしょう。
求償権を放棄する行為は、法律上は債務免除の意思表示にあたります(民法519条)。
つまり、放棄してしまうと、求償権を行使することができなくなってしまうのです。
~求償権の不行使(放棄)に違反したらどうなる?~
求償権の不行使に違反した場合、債務不履行として違約金を請求されるおそれがあります。
求償権が放棄される場合、示談書の中でされることになるでしょう。
この場合、示談書の内容は和解契約として、契約当事者を拘束します。
求償権の放棄は契約の内容となるので、これに違反して行使した場合、債務不履行となってしまうでしょう。
しかし、和解契約は、不貞相手(不倫当事者のいずれか)ではなく相手方と締結されます。
不貞相手に求償権を行使しても、支払うのは不貞相手となることから、相手方の損害というには難しい側面があります。
求償権を放棄する場合、示談書には放棄に加えて違約金条項が付されることが多いのです。
そのため、違約金条項がある場合に、求償権の放棄に違反して行使すると、債務不履行として違約金の請求をされてしまうおそれがあるでしょう。
4章 ケース別!不貞慰謝料の求償権が問題となった場合の対処法
求償権が問題となる場合、状況に合わせた適切な行動を取る必要があります。
ここでは、不貞慰謝料の求償権が問題となった場合の対処法を、ケース別に分かりやすく解説していきます。
ケース2:求償権の不行使(放棄)は求められないケース
ケース3:裁判を提起されたケース|訴訟告知をする
それでは順番に説明していきます。
4-1 ケース1:求償権の不行使(放棄)を求められるケース|減額交渉をする
不貞慰謝料の求償権が問題となるケースの1つ目は、求償権の不行使を求められるケースです。
不貞行為によって離婚していない場合、相手方と配偶者は経済的に一体の関係にあります。
配偶者に求償権を行使されてしまうと、相手方が支払っているのと変わりはないのです。
離婚していない場合は、相手方から求償権の不行使を求められることがあるでしょう。
この場合、単に求償権を放棄しただけでは、必要以上に慰謝料を負担することになってしまいます。
そのため、求償権の不行使を求められたケースでは、放棄に見合った金額になるよう慰謝料の減額交渉をしてくことになるでしょう。
例えば、300万円の慰謝料を6:4(配偶者:不貞相手)の割合で負担している場合、配偶者の負担である180万円部分を減額して、120万円になるよう交渉していくと考えられます。
他にも、300万円の慰謝料を7:3(配偶者:不貞相手)の割合で負担している場合、配偶者の負担である210万円部分を減額して、90万円になるよう交渉していくことになるでしょう。
4-2 ケース2:求償権の不行使(放棄)は求められないケース
不貞慰謝料の求償権が問題となるケースの2つ目は、求償権の不行使は求められないケースです。
不貞慰謝料では、求償権の不行使を特に求められないこともあります。
例えば、不貞行為によって離婚した場合、相手方は配偶者と不貞相手の双方に慰謝料を請求されることもあるでしょう。
この場合、相手方と配偶者は経済的に一体の関係にはないので、不貞相手が配偶者に求償権を行使しても相手方に問題は生じないのです。
そのため、求償権を行使していくことになりますが、いくつか注意点があり、それらの対処法について詳しく説明していきます。
具体的には、以下のような対処法があります。
対処法2:不貞相手と覚書を作成しておく
対処法3:三者間での示談を行う
それでは順番に解説していきます。
4-2-1 対処法1:不貞慰謝料を支払った後に求償権を行使する
不貞慰謝料の求償権が問題となった場合の対処法1つ目は、不貞慰謝料を支払った後に求償権を行使することです。
債務者の一方が慰謝料へ弁済をした場合、もう一方に負担分に応じた求償権を行使することができます(民法442条1項)。
しかし、求償権を行使する場合のリスクとして以下のものが挙げられます。
リスク2:労力がかかる
状況にもよりますが、負担割合が不明確な場合も少なくありません。
例えば、慰謝料を請求されたから直ちにその支払をした場合や、示談書に負担割合が定められていない場合などが挙げられるでしょう。
この場合に、求償権を行使しようとすると、一方から自分の負担分以上は支払わないと請求を争われてしまうこともあるのです。
また、求償権は一方に対して行使しますが、応じてくれない場合には訴訟を提起するなどかなりの労力がかかります。
そのため、少しでも負担を減らすために、他の対処法を踏まえた行動を取る必要があるでしょう。
4-2-2 対処法2:不貞相手と覚書を作成しておく
不貞慰謝料の求償権が問題となった場合の対処法2つ目は、不貞相手との覚書を作成しておくことです。
覚書とは、当事者同士が合意した内容を証明する文書のことをいいます。
覚書がある場合、後から求償権に関して合意した内容を証明することができるのです。
求償権の行使に際しては、負担割合が問題となることがあります。
不貞当事者同士で負担割合について口約束した場合でも、後から言った言わなかったというトラブルが起きることもあるのです。
そのため、不貞相手と負担割合について合意をした場合、必ず覚書を作成しておくようにしましょう。
4-2-3 対処法3:三者間での示談を行う
不貞慰謝料の求償権が問題となった場合の対処法3つ目は、三者間での示談を行うことです。
求償権を行使する対象は、相手方ではなく不貞相手となります。
相手方と2人だけで示談をしたうえで慰謝料を支払ったとしても、不貞相手はそのことを知りません。
不貞相手に求償権を行使しても、負担割合について争いがあるなどを理由に、支払を拒否されてしまう可能性があるのです。
そのため、示談をする場合は、相手方と不貞相手を含めた三者間ですることが望ましいのです。
4-3 ケース3:裁判を提起されたケース|訴訟告知をする
不貞慰謝料の求償権が問題となるケースの3つ目は、裁判を提起されたケースです。
相手方が慰謝料を請求する場合、不貞当事者の一方にだけ裁判を提起することがあります。
裁判に敗訴すると慰謝料を支払うことになりますが、この判決の効力は第三者である不貞当事者のもう一方には及びません。
つまり、慰謝料を支払った後に求償権を行使しようとしても、支払を拒否されてしまうことがあります。
最悪の場合、求償権を行使するために訴訟を提起しても、そこで敗訴してしまうこともあるのです。
ここで敗訴してしまうと、求償権を行使できなくなり、必要以上に慰謝料を負担することになりかねません。
対処法としては、相手方に慰謝料を請求された時点で、不貞当事者のもう一方に訴訟告知(民事訴訟法53条1項)をすることです。
訴訟告知をした場合、条件を満たせば慰謝料請求訴訟の判決が不貞当事者のもう一方にも及ぶようになります(民事訴訟法53条4項、46条柱書)。
そのため、両方の裁判で敗けるのを防ぐためにも、訴訟を提起された場合は不貞当事者のもう一方に訴訟告知をしましょう。
5章 不貞慰謝料を支払った後に求償権を行使する手順
求償権を行使するには必要な手順があります。
具体的には、以下の手順を踏む必要があります。
・事後通知
・通知書の送付
・交渉
・訴訟
求償権を行使する場合、まずは慰謝料の支払前に事前の通知をすることになります(民法433条1項)。
事前の通知をしないと、求償権が制限されてしまうおそれがあるためです。
例えば、あなたが慰謝料を支払う前に既に負担分が支払われていた場合、通知をしていないと求償権を行使することができないのです。
慰謝料を支払った後にも、求償権が制限されないために、支払の事後通知が必要となります(民法433条2項)。
事後通知の後は、求償権を行使する旨の通知書を不貞相手に送付することになるでしょう。
求償権の行使は、行使される者に対して直接するものとされているためです。
しかし、実際には支払うだけの金銭的余裕がなかったり、負担割合について問題となったりすることもあります。
この場合には、不貞相手と交渉して求償権の内容を明確にしておく必要があるでしょう。
交渉をしても不貞相手からの支払が期待できない場合は、訴訟を提起して求償権を行使することになります。
訴訟で勝訴すれば、求償権を行使して不貞相手の負担分を請求することができます。
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7章 まとめ
今回は、求償権とは何かについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・不貞慰謝料請求における求償権とは、あなたが支払うことになった慰謝料の一部を、不貞相手に負担するよう求めることができる権利をいいます。
・求償権は時効の影響を受け、あなたが債権者に弁済した時点から5年で時効消滅します。
・不貞慰謝料の求償権の負担割合は配偶者が重く判断されがちで、個別的事情を加味して決まります。
・不貞慰謝料の求償権の不行使(放棄)は、慰謝料の減額交渉の材料となり、放棄のメリットとしては以下のとおりです。
メリット1:求償権を拒否されるおそれを回避できる
メリット2:紛争の早期解決を図れる
メリット3:慰謝料の金額が低くなる
・求償権の不行使(放棄)に違反した場合、違約金を請求されることがある。
・ケース別!不貞慰謝料の求償権が問題となった場合の対処法は以下のとおりです。
ケース1:求償権の不行使(放棄)を求められるケース|減額交渉をする
ケース2:求償権の不行使(放棄)は求められないケース
対処法1:不貞慰謝料を支払った後に求償権を行使する
対処法2:不貞相手と覚書を作成しておく
対処法3:三者間での示談を行う
ケース3:裁判を提起されたケース|訴訟告知をする
・不貞慰謝料を支払った後に求償権を行使する手順は以下の通りです。
求償権の制限を受けないための事前通知
求償権の制限を受けないための事後通知
支払を求めるための通知書の送付
求償権の内容を明確にするための交渉
支払を求めるための訴訟の提起
この記事が、求償権とは何か知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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