労働審判は会社側に不利なのではないかと悩んでいませんか?
労働審判という制度に聞き覚えがない担当者の方もいるでしょう。
結論としては、労働審判は、必ずしも会社側に不利とは限りません。
手続きを有利に進めることができるかどうかは、「個々の事案の内容」と「申立てられた後の対応」にかかっています。
つまり、工夫次第で、会社側が有利に手続きを進めることができる可能性もあるのです。
ただし、会社側にとって、厳しい手続きであることは確かです。申し立てられた後の準備のスケジュールが非常にタイトであり、法律も手厚く労働者を保護しているためです。
そのため、会社側が労働審判を有利に進めるには、労働審判手続きについての深い経験やノウハウが重要となります。
事前の知識や準備なしに労働審判に対応しようとしても良い解決をすることはできません。
また、仮に会社側に不利な判断となってしまう場合であっても、可能な限り会社側のダメージを回避・軽減する必要があります。
この記事を通して、会社側が労働審判において不利とは限らないことや有利に進めるための方法を知っていただければと思います。
今回は、労働審判において会社側が有利に進める3つの方法を解説します。あわせてNG行動やダメージを回避・軽減する方法についても、紹介させていただきます。
具体的には以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、会社側が労働審判を申し立てられてしまった場合に有利に進めるためにはどうすればいいのかがよくわかるはずです。
目次
1章 労働審判は必ずしも会社側不利とは限らない!
労働審判は、必ずしも会社側不利とは限りません。
なぜなら、手続きを有利に進めることができるかどうかは、「個々の事案の内容」と「申立てられた後の対応」にかかっているためです。
労働審判とは、全3回までの期日で話し合いによる解決を目指す手続きです。話し合いによる解決が難しい場合には労働審判委員会により審判が下されます。
労働審判委員会は、双方から提出された主張書面と証拠を見て、当日当事者双方にヒアリングをしたうえで、いずれの主張が認められるかを実態に即して判断します。
そのうえで、まずは双方に対して裁判所の心証を前提に話し合いによる解決が可能かを確認されます。
そして、十分に話し合いによる解決を試みたものの折り合わないという場合には労働審判委員会が審判を下します。
会社だからという理由で一方的に不利に扱われることはありません。会社側の主張が認められることを説得的に示すことができれば、会社側に有利な心証を獲得できます。
例えば、解雇をしたら、不当解雇であるとして労働者側から労働審判を申し立てられたとします。
会社側が答弁書で具体的に業務ミスや業務指導等の解雇事由を基礎づける出来事を指摘することができ、それを裏付ける証拠もあれば、会社側に有利な判断がされることもあります。
そのため、工夫次第で、会社側が有利に手続きを進めることができる可能性もあるのです。
2章 労働審判が会社に厳しい2つの理由
労働審判は必ずしも会社側不利ではありませんが、会社側に厳しい手続きではあります。
その理由は以下の2つです。
理由2:法律が労働者を強く保護している
それでは、各理由について順番に説明していきます。
2-1 理由1:答弁書の提出期限が短い
労働審判が会社側に厳しい手続きである理由の1つ目は、答弁書の提出期限が短いことです。
労働審判は、申し立てが行われてから40日以内に第1回期日が行われることとなっております。
労働審判規則第13条(労働審判手続の第一回の期日の指定・法第十四条)
「労働審判官は、特別の事由がある場合を除き、労働審判手続の申立てがされた日から四十日以内の日に労働審判手続の第一回の期日を指定しなければならない。」
そして、裁判所は、答弁書の提出期限を第1回期日の1週間程度前に設定することが通常です。申立人が答弁書を読んで第1回期日までに準備する期間を設ける必要があるためです。
労働審判規則第14条(答弁書の提出期限)
1「労働審判官は、答弁書の提出をすべき期限を定めなければならない。」
2「前項の期限は、答弁書に記載された事項について申立人が前条の期日(以下「第一回期日」という。)までに準備をするのに必要な期間をおいたものでなければならない。」
裁判所から会社のもとに申立書や甲号証等一式が届けられるのは、申立人と裁判所との間で「補正手続」や「期日日程の調整」が行われた後なので、これに1週間程度を要します。
そうすると、会社のもとに申立書や甲号証等一式が届いてから、答弁書の提出期限まで1か月もないことが通常であり20日~30日しかありません。
そのため、労働審判手続きは答弁書の提出期限が短く、申し立てられた側(多くは会社側)にとって非常にタイトなスケジュールであるという意味において、厳しい手続きとなっています。
2-2 理由2:法律が労働者を強く保護している
労働審判が会社側に厳しい手続きである理由の2つ目は、法が労働者を強く保護しているためです。
雇用契約は労働者の生活の糧となるものであり、労働基準法や労働契約法は労働者の権利を厚く保護しています。
解雇や残業代、雇い止め等の労働審判において問題となりやすいこれらの事項についても、労働基準法や労働契約法に規定された法律に則って判断が行われます。
例えば、日ごろから、これらの法律を意識せずに雇用を行っていたということになると、有利な判断を獲得することはできません。
また、日々、労働分野に関する判例はアップデートされており、労働者を保護する法理も蓄積されていっています。
そのため、会社側が有利な判断を獲得するためには、上記の労働基準法や労働契約法、判例の蓄積を踏まえたうえで、会社の主張に理由があることを説明する必要があり、その意味において、会社に厳しい手続きとなっています。
3章 労働審判で会社側不利になってしまうNG行動
労働審判においては、会社側が不利になってしまうNG行動があります。
とくに重大なNG行動は以下の2つです。
NG行動2:答弁書を提出しない
3-1 NG行動1:期日に出頭しない
労働審判における会社側のNG行動の1つ目は、期日に出頭しないことです。
期日に出頭しないと、労働者側の言い分のみをヒアリングされてしまい、これに対して会社側の言い分をヒアリングしてもらうことができません。
当日、労働者側が有利な事実のみを述べていても、それに対する反論ができないので、そのまま採用されてしまう可能性が高くなります。
また、期日に出頭しないこと自体が裁判所にとって悪印象を与えかねません。
そのため、期日に出頭しないと、不利な判断が下されてしまうことになります。
3-2 NG行動2:答弁書を提出しない
労働審判における会社側のNG行動の2つ目は、答弁書を提出しないことです。
労働審判委員会は、第1回期日の前に事前に提出された主張書面をもとに、おおまかな心証を形成しています。
答弁書を提出しないと、申立書に対して、会社側がどのような言い分を持っているのかが事前に全く分かりません。
また、通常、事実関係のヒアリングの時間は1時間程度ですが、その時間のみで必要な事実を余すことなく伝えることはほぼ不可能です。
そのため、答弁書を提出しないと、不利な判断が下されてしまうことになります。
4章 労働審判を会社側有利に進める3つの方法
会社側が労働審判を有利に進めるためには、申し立てをされた後の対応が重要となります。
最初に説明したように、工夫次第で、会社側が有利に手続きを進めることができる可能性もあります。
例えば、会社側が労働審判を有利に進めるためには、以下の3つ方法があります。
方法2:審判員にも分かりやすく説明する
方法3:労働審判経験の豊富な弁護士に依頼する
それでは、各方法について順番に説明していきます。
4-1 方法1:徹底した事前準備を心がける
労働審判を会社側が有利に進めるための方法の1つ目は、徹底した事前準備を心がけることです。
労働審判は、第1回期日の前の事前評議の段階でおおよその裁判所の心証が形成されます。
答弁書の段階で説得的な反論を行うことができれば、裁判所の心証も大きく会社側に傾くことになります。
具体的には、当該事案に即した会社側に有利な裁判例を前提に、事実関係を詳細かつ具体的に整理して、これらの主張を裏付ける客観的な証拠を用意することになります。これらの作業を中途半端に行うのではなく、徹底的に行うことになります。
答弁書の提出期限が間に合わない場合には、裁判所に対して期日を延期するように上申を行うことを検討しましょう。
労働者側が延期に同意すれば、答弁書の提出期限が延ばしてもらえる可能性があります。
仮に、労働者側が延期に同意しない場合には、申し立ての趣旨に対する反論や申し立てに対する認否にとどめ、会社側の主張は第2回期日以降におって主張するなどと記載する方法もあります。
労働審判の答弁書の作成方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
4-2 方法2:審判員にも分かりやすく説明する
労働審判を会社側が有利に進めるための方法の2つ目は、審判員にも分かりやすく説明することです。
労働審判委員会には裁判官以外にも、2名の審判員がいます。審判員は、労働事件に関して知見のある方ですが、法律の専門家ではありません。
そのため、複雑な事件だと、答弁書だけでは審判員に十分に趣旨が伝わらないことがあります。
十分に趣旨が伝わっていないと争点から外れた質問が行われてしまったり、実態に即した判断をしてもらえなかったりすることがあります。
そこで、例えば、時系列表を用意したり、パワーポイントで図を作成したりして、それを見れば誰でも理解できるように工夫して説明することも有用です。
4-3 方法3:労働審判経験の豊富な弁護士に依頼する
労働審判を会社側が有利に進めるための方法の3つ目は、労働審判経験の豊富な弁護士に依頼することです。
労働審判は、訴訟とは違った手続きであり、専門性の高い手続きです。
短期間で準備する必要があり、かつ、当日の臨機応変な対応、会社の主張をわかりやすく説明する能力が必要となります。
弁護士であれば誰でも良いというわけではなく、労働審判の経験が豊富で手続きを熟知している弁護士を選ぶことが大切となります。
例えば、顧問弁護士や紹介だからという理由だけで、労働審判の依頼をすることはおすすめできません。
5章 労働審判における会社側のダメージを回避・軽減する方法
労働審判において、不利な判断となりそうな場合には、可能な限り会社側のダメージを回避・軽減する必要があります。
なぜなら、不利な判断となることが明らかであるにもかかわらず、訴訟に移行してしまった場合には、会社が被るダメージは労働審判の数倍になってしまうこともあるためです。
例えば、解雇事件ですと、「バックペイ」といって、敗訴するまでの間の期間の賃金を後からさかのぼって支払うよう命じられます。
労働審判の段階では解雇から数か月程度しか経っていなくても、訴訟になれば数年がかりとなりますので、1年分を超える賃金の支払いを命じられてしまう可能性もあります。
そのため、会社側に不利な判断になると予想される場合には、ダメージを回避・軽減するために、和解による早期解決を目指すことになります。
つまり、事実関係のヒアリングの後に、労働審判委員会に対して、解決金の支払い自体には応じる意向があることを示すことになります。
ただし、和解といっても、適正な金額になるように、労働審判における審理の経過を踏まえて、訴訟に至った場合にどの程度のダメージとなるのか見通しを立てたうえで、提案を行います。
6章 労働審判の手続きに応じたくない場合は24条終了を求める
事実関係が複雑な事案、争点が多岐にわたる事案など、通常の訴訟手続きで十分に時間をかけて主張立証していきたい場合には、24条終了を求めるという方法もあります。
上記のように、労働審判手続きは必ずしも会社側不利というわけではありませんが、スケジュール的にも会社側に厳しい手続であるためです。
24条終了というのは、労働審判手続きを行うことが適当でない場合に、労働審判委員会では判断を行わずに労働審判事件を終了させ、訴訟に移行させるものです。
労働審判法第24条(労働審判をしない場合の労働審判事件の終了)
1「労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。」
審判が出た後に異議を出すことによっても訴訟に移行しますが、十分な主張立証ができないことにより不利な判断がされてしまったような場合は、訴訟に移行した後の裁判官の心証に予断が生じる可能性がないとは言い切れません。
そのため、上記のように、労働審判手続きにより解決することに不向きな事案については、24条終了を上申することを検討しましょう。
7章 労働審判についてはリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
労働審判対応は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
労働審判は専門性の高い手続であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
当日行われる事実関係のヒアリングの準備や対応、その後の見通しを踏まえたうえでの解決案の検討を短い期間で行う必要があります。
そのため、労働事件及び労働審判手続きについての、経験や知識の差が結果に大きく影響するのです。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や残業問題、雇い止め、ハラスメント問題をはじめとした人事労務に力を入れており、労働審判手続について圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
リバティ・ベル法律事務所は、全国対応・オンライン相談可能で、最短即日でこの分野に注力している弁護士と相談することが可能です。
相談料は1時間まで1万円(消費税別)となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
8章 まとめ
以上のとおり、今回は、労働審判において会社側が有利に進める3つの方法を解説したうえで、あわせてNG行動やダメージを回避・軽減する方法についても紹介しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・労働審判は、必ずしも会社側不利とは限りません。ただし、「答弁書の提出期限が厳しい」、「法律が労働者を強く保護している」という理由から、会社側に厳しい手続きではあります。
・労働審判においては、会社側が不利になってしまう重大なNG行動としては以下の2つがあります。
NG行動1:期日に出頭しない
NG行動2:答弁書を提出しない
・会社側が労働審判を有利に進めるためには、以下の3つ方法があります。
方法1:徹底した事前準備を心がける
方法2:審判員にも分かりやすく説明する
方法3:労働審判経験の豊富な弁護士に依頼する
・労働審判において、不利な判断となりそうな場合には、適正な金額による調停を目指すことにより、ダメージを回避・軽減しましょう。
・事実関係が複雑な事案、争点が多岐にわたる事案など、通常の訴訟手続きで十分に時間をかけて主張立証していきたい場合には、24条終了を求めるという方法もあります。
この記事が労働審判は会社側不利なのではないかと不安に感じている企業の助けになれb幸いです。
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