期限の利益喪失条項とは?ない場合の問題点3つと例文(英語対応)【無料サンプル付き】

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

期限の利益喪失条項とは?ない場合の問題点2つと例文

悩み

期限の利益喪失条項について知りたいと悩んでいませんか

これまで取引先からの支払がされない可能性をあまり意識しておらず、大きな契約を締結しようとした際に困ってしまう企業もありますよね。

期限の利益喪失条項とは、一定の事由の発生によって履行期限を繰り上げる旨の規定をいいます。

例えば、契約書には以下のように規定されることがあります。

第●条(期限の利益の喪失)
 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

期限の利益喪失条項の目的は、債権回収の機会を確保することにあります。

というのも、契約締結後に相手方の財務状態が著しく悪化することもあり、履行期限を待っていたのでは債権を回収できないといったことが考えられるためです。

しかし、期限の利益喪失事由が不明確な場合、いかなる事由の発生によって効力を生じるのかが曖昧となり、いざというときに機能しないことがあります。

実は、契約書を締結する際にはトラブルになった際のことを疎かにしがちであり、実際に取引先からの支払いに不安が生じた際に期限の利益喪失条項がないことに困ることがあるのです

この記事を読んで期限の利益消失条項とは何かを理解し、契約書にどのように定めるべきか知っていただければと思います。

今回は、期限の利益喪失条項とは何かを説明したうえで、期限の利益喪失条項のレビューポイントについて解説していきます。

具体的には以下の流れで説明していきます。

この記事で分かること

この記事を読めば、期限の利益喪失条項についてよくわかるはずです。

目次

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1章 期限の利益喪失条項とは?民法上の根拠とともに解説

期限の利益喪失条項とは、一定の事由の発生によって履行期限を繰り上げる旨の規定をいいます。

債務者は、履行期限までは債務を履行しなくてもよいという期限の利益を有しています

しかし、期限の利益を失った場合には履行期限よりも前に債務を履行しなければならないのです。

期限の利益損失条項とは?

期限の利益喪失条項は売買契約や金銭消費貸借契約など、債務者の資産状態に影響されやすい契約で定められることがあります。

期限の利益喪失については民法137条が定めています。

民法第137条(期限の利益の喪失)
 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
(1) 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
(2) 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
(3) 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

実務では、これらの期限の利益喪失事由に加えて、契約に則した内容の事由を規定することが一般的です。

例えば、金銭消費貸借契約であれば、債務者が支払不能となった場合や資産状態が著しく悪化した場合などを加えることがあります。


2章 期限の利益喪失条項がない場合の問題点3つ|期限の利益喪失条項の目的

期限の利益喪失条項がなければ債権回収に支障を生じるおそれがあります

例えば、期限の利益喪失条項がない場合の問題点は、以下のとおりです。

問題点1:支払に不安が生じても債権を回収できない
問題点2:支払いに不安が生じても相殺ができない
問題点3:債務者の履行確保への動機付けが弱くなる

それでは各問題点について順番に解説していきます。

2-1 問題点1:支払に不安が生じても債権を回収できない

期限の利益喪失条項がない場合の問題点1個目は、支払に不安が生じても債権を回収できないことです。

なぜなら、履行期が到来するまでの間は、支払いを求めることができないためです。

取引においては、契約当初に予期できなかった事情によって、履行期を待っていたのでは債権の回収が危ぶまれることがあります。

例えば、履行期前に債務者の財産状態が著しく悪化した場合には、財産が散逸する前に回収を図る必要があります

期限の喪失条項がある場合には、当初合意した履行期が未到来であっても、期限の利益の喪失により、支払いを求めることができるようになります。

これに対して、期限の利益喪失条項がない場合、支払に不安が生じても債権を回収することができず、履行期まで待たざるを得ないという問題が生じます。

2-2 問題点2:支払いに不安が生じても相殺ができない

期限の利益喪失条項がない場合の問題点2個目は、支払いに不安が生じても相殺ができないことです。

当事者双方が互いに金銭債務を負っている場合があります。

例えば、X社とY社において、X社がY社に300万円の債務(履行期は令和5年9月1日)を負っており、Y社がX社に200万円の債務(履行期は令和5年4月1日)をっている場合において、X社の資力について4月1日時点で不安があったとします。

この場合には、Y社は、200万円の債務を履行してしまうと、自社は200万円の支払いをしたが、X社からは支払いをしてもらえなくなってしまうというリスクがあります。

そのため、Y社としては、自社がY社に有している300万円の債権のうちの200万円と、自社がY社に負っている200万円の債務を対等額で相殺したいと考えます。

しかし、未だに履行期が到来していないとなれば、Y社は相殺を主張できないことになります

そのため、期限の利益喪失条項を入れていないことによって、支払いに不安が生じても相殺できないという問題が生じます。

2-3 問題点3:債務者の履行確保への動機付けが弱くなる

期限の利益喪失条項がない場合の問題点3個目は、債務者の履行確保への動機付けが弱くなることです。

期限の利益喪失条項は、その存在によって間接的に履行を促すことができます

というのも、債務者は期限の利益を有しているので、これが失われると本来よりも早い時点で全額を支払わなければなりません。

このような事態を避けるため、債務者は債務の履行を怠らないよう強く意識するのです

しかし、期限の利益喪失条項がない場合、履行を意識するための動機付けが弱くなり、債権回収の機会を逃すリスクがあります

そのため、期限の利益喪失条項がない場合、債務者の履行確保への動機付けが弱くなるという問題点があります。

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3章 期限の利益喪失条項の例文2つ(英語対応)【無料サンプル付き】

期限の利益喪失条項は以下のように定められることがあります。

【例文:日本語の条項】
第●条(期限の利益の喪失)
 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
【例文:英語の条項】
Act.○(Acceleration)
If either party breaches any provision of this Agreement, upon written notice from the other party, whereupon the defaulting party shall become immediately due and payable regarding their obligations to the other party and must immediately fulfill those obligations.
(訳)
一方の当事者が本契約のいずれかの条項に違反した場合、他方当事者からの書面による通知により、違反当事者は他方当事者に対する義務に関して期限の利益を喪失し、直ちにその義務を履行しなければならない。

4章 期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由6つ

契約書に定めるべき期限の利益喪失事由は個々の契約毎に異なります

ここでは、期限の利益喪失事由として定められる一般的な内容について解説していきます。

期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由は以下のとおりです。

喪失事由1:契約上の義務違反
喪失事由2:支払不能
喪失事由3:第三者による差押え等
喪失事由4:破産手続開始等
喪失事由5:会社の解散等
喪失事由6:履行が困難となるおそれ

それでは各喪失事由について順番に解説していきます。

4-1 喪失事由1:契約上の義務違反(請求喪失事由)

期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由1個目は、契約上の義務違反です。

【例文‐契約上の義務違反】
当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

相手方が契約上の義務に違反した場合、当事者間の信頼関係に大きな影響を与えます

信頼関係が損なわれると、損失リスクを最小限に抑えるため債権者は迅速な債権回収を望むことが考えられます。

例えば、売買契約を分割払いとした場合、債務者からの支払が滞ると不払いの金額が大きくなります。

この場合に債権者が各履行期限まで待っていると、債権不回収のリスクが高まってしまうのです。

もっとも、契約違反には解消できるものもあり、当然喪失事由ではなく請求喪失事由として定められることが多い傾向にあります

そのため、契約上の義務違反は期限の利益喪失事由として定めるべきものといえます。

なお、当然喪失事由と請求喪失事由については、5-2で詳しく解説しています。

4-2 喪失事由2:支払不能(当然喪失事由)

期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由2個目は、支払不能です。

【例文‐支払不能】
 当事者の一方が次の各号のいずれかに該当する場合、何らの通知催告がなくても、相手方に対して負っている債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
(1) 支払停止若しくは支払不能の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
(2) (略)

相手方が支払不能となった場合、その後に債務の履行を期待することはできません

というのも、契約書に定める支払不能の意味は、一般的に現時点または将来において履行することができない状態をいうためです。

そのため、迅速に債権を回収することが求められ、支払不能は当然喪失事由として定めることが望ましいです。

4-3 喪失事由3:第三者による差押え等(当然喪失事由)

期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由3個目は、第三者による差押え等です。

【例文‐第三者による差押え等】
 当事者の一方が次の各号のいずれかに該当する場合、何らの通知催告がなくても、相手方に対して負っている債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
(1) (略)
(2) 第三者による差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けたとき

第三者によって差押さえられた場合、債権回収の必要性が高まります

差押えをされるような状態になっている以上、債務を十分に履行するだけの責任財産が十分にないことがうかがわれます

また、債権者がこぞって、自己の債権を優先的に回収しようと動くので、履行期を待っていては、満足に回収できなくなるおそれがあります

そのため、第三者による差押えは当然喪失事由として定められることが多い傾向にあります。

ただし、消費貸借契約などでは預金債権以外が差押えられた場合について、差押え対象の重要度の違いから請求喪失事由として定めることがあります。

4-4 喪失事由4:破産手続開始等(当然喪失事由)

期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由4個目は、破産手続開始等です。

【例文‐破産手続開始等】
 当事者の一方が次の各号のいずれかに該当する場合、何らの通知催告がなくても、相手方に対して負っている債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
(1)~(2) (略)
(3) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき

民法上は、破産手続開始の決定があったときに期限の利益を喪失するとされています。

破産手続開始の決定がされた後は、債権者は破産手続によらなければ権利を行使することができなくなり、各債権者は平等に扱われます。

破産法第100条(破産債権の行使)
1 破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
2 (略)

これに対して、契約書では、破産手続開始の申立てから決定までの間に時間がかかる場合があることを踏まえれば、申立て時点で債権回収できることを定めておくことが望ましいです。

ここでいう破産債権とは、例えば代金債権や貸金債権などが挙げられます。

そのため、契約書では、破産手続開始の申立てを当然喪失事由として定めることが一般的です。

4-5 喪失事由5:会社の解散等(当然喪失事由)

期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由5個目は、会社の解散等です。

【例文‐会社の解散等】
 当事者の一方が次の各号のいずれかに該当する場合、何らの通知催告がなくても、相手方に対して負っている債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
(1)~(3) (略)
(4) 解散、会社合併、会社分割、株式交換、事業譲渡又は組織変更をしたとき

会社の組織について重大な変更があった場合、債務の履行能力に影響を生じることがあります。

そのため、会社の解散等は当然喪失事由として定めることが一般的とされています。

4-6 喪失事由6:履行が困難となるおそれ(当然喪失事由)

期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由6個目は、履行が困難となるおそれです。

【例文‐履行が困難となるおそれ】
 当事者の一方が次の各号のいずれかに該当する場合、何らの通知催告がなくても、相手方に対して負っている債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
(1)~(4) (略)
(5) その他、履行が困難になるおそれがあると認められるなど、前各号に準じる事態が生じたとき

契約締結の段階で債権回収のリスクが生じる場合をすべて想定して定めておくことはできません

そのため、あらかじめ定めた当然喪失事由と同程度の事態が生じた場合には、当然喪失事由にあたることを規定しておく必要があります。

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5章 期限の利益喪失条項のレビューポイント2つ

期限の利益喪失条項を十分に機能させるには、その内容を適切なものにしなければなりません

期限の利益喪失条項のレビューポイントは以下のとおりです。

レビューポイント1:期限の利益喪失事由の内容
レビューポイント2:期限の利益喪失の性質

それでは各レビューポイントについて順番に解説していきます。

5-1 レビューポイント1:期限の利益喪失事由の内容

期限の利益喪失条項のレビューポイント1個目は、期限の利益喪失事由の内容です。

【一般的な期限の利益喪失条項】
 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
【修正例‐詳細な期限の利益喪失条項】
1 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
2 当事者の一方が次の各号のいずれかに該当する場合、何らの通知催告がなくても、相手方に対して負っている債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
(1) 支払停止若しくは支払不能の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
(2) 第三者による差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けたとき
(3) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき
(4) 解散、会社合併、会社分割、株式交換、事業譲渡又は組織変更をしたとき
(5) その他、履行が困難になるおそれがあると認められるなど、前各号に準じる事態が生じたとき

期限の利益喪失条項の目的は債権回収の機会を確保することにあります

期限の利益喪失事由は、債権回収の必要性が高いケースを想定して定めることになります。

修正例では債権回収が困難となる一般的な事由について定めています。

他にも以下のようなものが期限の利益喪失事由として挙げられることがあります。

【当然喪失事由】
・支払停止や支払不能
・手形若しくは小切手の不渡り
・第三者による差押えや仮差押え、仮処分、競売の申立て、公租公課の滞納処分
・破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立て
・組織再編行為
・資産や信用状態の重大な変化
・営業許可の取消や停止処分
・所在不明

【請求喪失事由】
・契約上の義務違反
・虚偽申告や表明保証違反
・担保権の失効

5-2 レビューポイント2:期限の利益喪失の性質(当然喪失、請求喪失)

期限の利益喪失条項のレビューポイント2個目は、期限の利益喪失の性質です。

【例1:当然喪失事由】
 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方に対して負っている債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。
【例2‐請求喪失事由】
 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

期限の利益喪失事由の性質としては、当然喪失事由と請求喪失事由があります。

当然喪失と請求喪失の違い

当然喪失事由とは、一定事由の発生によって直ちに期限の利益を喪失することをいいます。

例えば、契約違反の内容が重大で契約の継続が困難となるような場合には、当然喪失事由として定める必要性が高いです。

他方で、請求喪失事由とは、一定事由の発生後に債権者が請求した段階で期限の利益を喪失することをいいます。

例えば、軽微な契約上の義務違反や契約違反の状態を解消することができるものについては、請求喪失事由として定められることが一般的とされています。

期限の利益喪失事由をいずれの事由として定めるかは、定めた事由が発生した場合に迅速な債権回収が必要か、喪失事由解消の機会があるかという観点が重視されます。


6章 期限の利益喪失条項に関する判例

期限の利益喪失条項が有効だとしても、適切な場面で主張しなければ思わぬ不利益が生じるおそれがあります

期限の利益喪失条項に関する判例は以下のとおりです。

判例1:期限の利益喪失の主張が信義則に反しないとした事例
判例2:期限の利益喪失の主張が信義則に反し許されないとした事例

それでは各判例について順番に解説していきます。

6-1 判例1:期限の利益喪失の主張が信義則に反しないとした事例

期限の利益喪失特約が付されていた契約において、借主が一度支払いを怠ったものの、その後も貸主が弁済を受けていたことから、期限の利益喪失特約を主張することが信義則に反しないか問題となった事案について、

期限の利益喪失特約の内容は以下のとおりです。
元利金の支払を怠ったときは通知催告なくして当然に期限の利益を失い、残債務及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う

裁判所は、期限の利益喪失後に弁済を受けるかどうかは貸主の自由であるから、期限の利益喪失後に弁済を受領していたとしても、期限の利益喪失を主張することは信義則に反しないとしています。

判例は以下のように説明しています。

最高裁判所平成21年9月11日判例タイムズ1313号108頁
「金銭の借主が期限の利益を喪失した場合、貸主において、借主に対して元利金の一括弁済を求めるか、それとも元利金及び遅延損害金の一部弁済を受領し続けるかは、基本的に貸主が自由に決められることであるから、…期限の利益喪失の効果を主張しないものと思わせるような行為をしたということはできない。
そうすると…本件特約により期限の利益を喪失したと主張することが、信義則に反し許されないということはできないというべきである」

6-2 判例2:期限の利益喪失の主張が信義則に反し許されないとした事例

期限の利益喪失特約が付されていた契約において、借主が多少の遅れでは期限の利益が喪失されないと信じて経過利息によって支払を続けていた事案について、

期限の利益喪失特約の内容を以下のとおりです。
元利金の支払を遅延したときは当然に期限の利益を失い、残債務及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う

裁判所は、借主の誤信を解くことなく、遅延損害金の利率で請求するために期限の利益喪失を主張することは、信義則に反し許されないとしています。

判例は以下のように説明しています。

最高裁判所平成21年9月11日最高裁判所裁判集民事231号495頁
「上告人は、被上告人が期限の利益を喪失していないと誤信していることを知りながら、この誤信を解くことなく、第5回目の支払期日の翌日以降約6年にわたり、被上告人が経過利息と誤信して支払った利息制限法所定の利息の制限利率を超える年29.8%の割合による金員等を受領し続けたにもかかわらず、被上告人から過払金の返還を求められるや、被上告人は第5回目の支払期日における支払が遅れたことにより既に期限の利益を喪失しており、その後に発生したのはすべて利息ではなく遅延損害金であったから、利息の制限利率ではなく遅延損害金の制限利率によって過払金の元本への充当計算をすべきであると主張するものであって、このような上告人の期限の利益喪失の主張は、誤信を招くような上告人の対応のために、期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきた被上告人の信頼を裏切るものであり、信義則に反し許されないものというべきである。」
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7章 【補足】民事上の和解と期限の利益喪失条項

民事上の和解において分割払いとされた場合、期限の利益喪失条項が定めることが一般的とされています

例えば和解条項には以下のように記載されることがあります。

【例:分割払いとした場合】
1 被告は、原告に対し、本件借受金債務として○○万円の支払義務があることを認める。
2 被告は、原告に対し、前項の金員を、次のとおり分割して、○○に持参又は振り込んで支払う。
(1) 令和○年○月○日限り○○万円
(2) 令和○年○月から同年○月まで毎月月末限り○万円ずつ
3 被告が前項の分割金の支払を怠り、その額が○○万円に達したときは、当然に同項の期限の利益を失う。

和解によって分割払いとされた場合には、支払が滞った場合のリスクが存在します

そのため、万が一、和解後に支払いが滞った場合には、すぐに債権全額の執行を行えるようにしておくべきです。

期限の利益喪失条項が入っていない場合には弁済期が到来している部分しか執行を行うことができません。

これに対して、期限の利益喪失条項を入れておけば、申立書に期限の利益喪失の自由を記載することにより、債権全額の執行を行うことができます

期限の利益喪失条項と債権執行手続きにおける請求債権目録の記載方法は、以下の裁判所のWEBサイトをご覧ください。

債権執行手続について(請求債権目録の書き方) | 裁判所 (courts.go.jp)


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9章 まとめ

以上のとおり、今回は、期限の利益喪失条項とは何かを説明したうえで、期限の利益喪失条項のレビューポイントについて解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

まとめ

・期限の利益喪失条項とは?民法上の根拠とともに解説

・期限の利益喪失条項がない場合の問題点は以下の2つです。
問題点1:支払に不安が生じても債権を回収できない
問題点2:債務者の履行確保への動機付けが弱くなる

・期限の利益喪失条項の例文は以下のとおりです。
第●条(期限の利益の喪失)
 当事者の一方が本契約に定める条項に違反した場合、相手方の書面による通知によって、相手方に対して負っている債務について期限の利益を喪失し、直ちに相手方に弁済しなければならない。

・期限の利益喪失条項に定めるべき期限の利益喪失事由は以下の6つです。
喪失事由1:契約上の義務違反
喪失事由2:支払不能
喪失事由3:第三者による差押え等
喪失事由4:破産手続開始等
喪失事由5:会社の解散等
喪失事由6:履行が困難となるおそれ

・期限の利益喪失条項のレビューポイントは以下の2つです。
レビューポイント1:喪失事由の内容
レビューポイント2:喪失の性質

・民事上の和解と期限の利益喪失条項
【例:分割払いとした場合】
1 被告は、原告に対し、本件借受金債務として○○万円の支払義務があることを認める。
2 被告は、原告に対し、前項の金員を、次のとおり分割して、○○に持参又は振り込んで支払う。
(1) 令和○年○月○日限り○○万円
(2) 令和○年○月から同年○月まで毎月月末限り○万円ずつ
3 被告が前項の分割金の支払を怠り、その額が○○万円に達したときは、当然に同項の期限の利益を失う。

この記事が期限の利益喪失条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

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