損害賠償条項について知りたいと悩んでいませんか?
実際に損害賠償請求にまで至ることはないだろうと軽んじている会社のあるのではないでしょうか?
損害賠償条項とは、契約違反があった場合に備えて当事者が損害賠償の条件をあらかじめ定めておくものをいいます。
契約書に定められる一般的な損害賠償条項は以下のとおりです。
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
損害賠償については民法にも規定したものがあります(民法415条、416条)。
1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 略
※出典:民法 | e-Gov法令検索
万が一、契約違反があった場合、民法の規定が適用されてトラブルの解決が図られることになります。
しかし、民法の規定とは別に、契約書に損害賠償条項を定める意味は大きいものといえます。
損害賠償条項の法的意味は、契約上の責任を確認し、損害賠償の内容を契約に適したものへと修正できることにあります。
例えば、債務の履行に不安がある会社との取引について、賠償の範囲を「一切の損害」として広く設定することが考えられます。
民法の規定では損害の範囲にある程度制限がありますが、損害賠償条項を定めることで債務者の責任範囲を拡大し、取引におけるリスクを低減することができるのです。
これに対して、自社が債務を負う場合には、賠償の範囲を「直接の損害(通常の損害に限る)」として狭く設定することが考えられます。
一切の損害と規定した場合、自社の責任が不相当に拡大するおそれがあるので、責任の範囲を限定して債務不履行となった場合のリスクを抑えることができるのです。
ただし、損害賠償条項の内容が不適切だと、取引上のリスクを低減できず損害賠償条項が意味を為さないこともあります。
そのため、損害賠償条項を契約書に定める場合、契約に則して適切な内容を定めることが重要となります。
今回は、損害賠償条項とは何かを説明したうえで、損害賠償条項のレビューポイントについて解説していきます。
具体的な流れは以下のとおりです。
この記事を読めば、損害賠償条項についてよくわかるはずです。
目次
1章 損害賠償条項とは?契約書における法的意味2つ
損害賠償条項とは、契約違反があった場合に備えて当事者が損害賠償の条件をあらかじめ定めておくものをいいます。
損害賠償については民法にも規定があることから、契約書に損害賠償条項を定めない場合でも、民法の規定に基づいて損害賠償請求をすることができます。
しかし、民法の規定は画一的なルールを定めたものなので、個別の契約に適した内容にはなっていません。
そのため、損害賠償条項の法的意味を把握し、実情に即した内容へ修正していく必要があります。
損害賠償条項の法的意味は以下のものが挙げられます。
法的意味2:契約に合わせて内容を修正するため
それでは、法的意味ついて順番に説明していきます。
1-1 法的意味1:責任を明らかにするため
損害賠償条項の契約書における法的意味の1つ目は、責任を明らかにするためです。
損害賠償に関する規定は民法にもありますが、民法の規定がそのまま契約書に明記されるわけではありません。
契約書に記載のない事項は、当事者の認識に齟齬が生じやすく、トラブルへと発展するリスクがあります。
しかし、契約書を作成する場合、具体的な内容について当事者で合意することになります。
合意の際に、当事者の認識を擦り合わせることができ、損害賠償条項を定める場合にはトラブルのリスクを抑えることができるのです。
また、契約上の責任を確認的に定めておくことで、相手方に債務の履行を促すことも期待することができます。
そのため、契約書に損害賠償条項を定めることは、トラブルのリスクを低減し、取引を円滑にすることにも繋がります。
1-2 法的意味2:契約に合わせて内容を修正するため
損害賠償条項の契約書における法的意味の2つ目は、契約に合わせて内容を修正するためです。
民法にも損害賠償に関する規定はありますが、具体的な契約に則したものにはなっていません。
契約に適した条項がない場合、損害賠償請求できる範囲に違いが生じ、取引上のリスクが生じます。
例えば、実際に債務不履行となった場合に、特別損害について予測可能性がない場合には、その損害は債権者側が負担することになります。
しかし、民法の損害賠償規定は任意規定とされており、当事者の合意によってその内容を変更することができます。
損害の範囲などを契約当事者が合意することで、より実効的な内容へと修正することができるのです。
そのため、損害賠償条項を定める法的意味は、条項によってルールを修正することで、より実効的な内容を定められることにあります。
損害賠償の予定や違約金との違いは?
損害賠償条項・損害賠償の予定・違約金の違いは、証明の負担や請求できる金額にあります。
損害賠償条項とは、契約違反があった場合に備えて当事者が損害賠償の条件をあらかじめ定めておくものをいいます。
そのため、損害賠償条項の場合、基本的に合意した内容に拘束され、その内容によって違いを生じます。
契約書に損害賠償条項がない場合でも、民法に損害賠償規定があることから、民法に基づいて損害賠償請求することは可能となっています。
しかし、具体的な金額を定める損害賠償の予定や違約金とは異なり、損害賠償請求が認められるには損害の金額などを証明する必要があります。
また、請求できる金額は、損害賠償条項に定めた算定方法または民法に従った範囲で認められることになります。
損害賠償の予定とは、契約違反の場合における賠償金額を具体的に定めておくことをいいます。
損害賠償の予定がある場合、損害賠償条項とは異なり実際に発生した損害の金額などを問わず、定められた金額を支払うことになります。
そのため、損害賠償請求する場合に、具体的な損害の金額などを証明する必要がなく、損害賠償条項よりも証明の負担が軽くなっています。
違約金とは、契約違反の場合における賠償金額を具体的に定めておくものをいいます。
違約金は、違約罰ではなく損害賠償の予定として推定されます(民法420条3項)。
そのため、違約金を請求する場合、原則として損害賠償の予定と同じ扱いになり、損害金額の証明が不要となるので損害賠償条項よりも証明の負担は軽いといえます。
ただし、違約金の他に損害の賠償を請求したい場合、損害賠償の予定ではないと主張する者が証明しなければなりません。
違約罰として違約金を定めたい場合、条項を置くなどあらかじめ違約罰であることを明らかにしておくことが重要となります。
2章 損害賠償条項に必要な事項2つ
損害賠償条項は当事者間における損害賠償のルールを定めるものなので、必要な事項が欠けているとトラブルになるおそれがあります。
ここででは、損害賠償条項に必要な事項を解説していきます。
必要な事項2:損害の範囲
それでは、各事項について順番に説明していきます。
2-1 必要な事項1:損害賠償の条件
損害賠償条項に必要な事項1つ目は、損害賠償の条件です。
契約に違反した場合、相手方に責任が発生するには条件を満たしていなければなりません。
民法における損害賠償の条件は以下のとおりです(民法415条1項)。
・損害の発生
・債務不履行と損害の因果関係
・債務者の帰責性(故意過失)
そのため、損害賠償条項を定める場合、基本的にはこれらの条件に着目して定めていくことになります。
契約書の条件が不十分な場合、通常は民法の規定によって補充されるので、定めておきたい内容は明確にしておくことが重要となります。
2-2 必要な事項2:損害の範囲
損害賠償条項に必要な事項2つ目は、損害の範囲です。
損害の範囲は、債務不履行となった場合にトラブルが生じやすい事項なので、契約締結の段階で明確にしておくことが望ましいです。
損害の範囲において着目すべき事項は以下のとおりとなります。
・直接損害、間接損害
・賠償額の上限
・弁護士費用など
民法では、通常損害については当然に、特別損害については予見可能性がある場合に損害賠償の範囲に含まれるとしています(民法416条)。
他方で、民法は直接損害と間接損害について規定していないので、どのような場合に請求できるのかが明らかとなっていません。
賠償額の上限は、取引の金額によっては高額になることもあるので、思わぬ損害となるのを避けるために設けられることがあります。
弁護士費用について明文はありませんが、債務不履行の場合には損害賠償の範囲に含まれないと判断されやすい傾向にあります。
そのため、これらとは異なる損害の範囲を規定したい場合には、損害賠償条項で明らかにしておく必要があります。
3章 損害賠償条項の例文(サンプル付・英語対応)
損害賠償条項の例文は以下のとおりです。
【損害賠償条項(通常の条項)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
損害賠償条項を英文契約書に定める場合の例文は以下のとおりです。
【損害賠償条項(英語対応)】
Neither parties causes damage to the other party for breach of this agreement, they will be liable for compensate other party for damages.
(訳)
いずれの当事者も、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合、相手方に損害を賠償する責任を負うものとします。
4章 損害賠償条項のレビューポイント4つ
損害賠償条項は損害賠償におけるルールを定めることになるので、その内容によって責任や金額の程度に大きく影響してきます。
ここでは、損害賠償条項のレビューポイントを解説していきます。
レビューポイント2:損害の範囲
損害の範囲1:通常・特別損害
損害の範囲2:直接・間接損害
損害の範囲3:賠償額の上限
損害の範囲4:弁護士費用
レビューポイント3:損害賠償の期間
レビューポイント4:規定内容の合理性・公平性
それでは、各レビューポイントについて順番に説明していきます。
4-1 レビューポイント1:故意過失の範囲
損害賠償条項のレビューポイント1つ目は、故意過失の範囲です。
【損害賠償条項(通常の条項)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(故意過失の範囲を限定する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、故意又は重過失がある場合に限り、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(故意過失の範囲を拡大する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、故意又は過失の有無を問わず、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
損害賠償請求が認められるには、債務不履行が「債務者の責めに帰すべき事由」(民法415条1項)によるものといえる必要があります。
「債務者の責めに帰すべき事由」とは、債務者の故意過失または信義則上これと同視すべき事由をいうとされています。
契約書では、この債務者の故意過失に着目し、責任の範囲を定めることが一般的とされています。
債務者としては、責任の負担を軽減するために、故意又は重過失に限定することで責任範囲を狭めることが考えられます。
他方で、債権者としては、損害賠償請求できる可能性を広げるために、無過失責任とすることで債務者の責任範囲を拡大することが考えられます。
4-2 レビューポイント2:損害の範囲
損害賠償条項のレビューポイント2つ目は、損害の範囲です。
損害の範囲は賠償額に直接関わってくるので、慎重に確認することが重要となります。
主に、損害の範囲に影響する事項としては以下のものが挙げられます。
損害の範囲2:直接・間接損害
損害の範囲3:賠償額の上限
損害の範囲4:弁護士費用
それでは、損害の範囲について順番に解説していきます。
4-2-1 損害の範囲1:通常・特別損害
損害の範囲1つ目は、通常・特別損害です。
【損害賠償条項(通常の条項)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(損害の範囲を限定する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害(通常損害に限る)を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(損害の範囲を拡大する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その一切の損害を賠償する責任を負う。
通常損害とは、債務不履行から一般に生じるであろう損害をいうとされています。
通常損害にあたる場合、当然に損害賠償の範囲に含まれることになります(416条1項)。
例えば、製品販売をしている会社が、部品を仕入れるために契約を締結したところ、納期を過ぎても納品されなかったことから、他の会社から部品を調達したことを想定します。
他の会社から部品を調達した費用が通常損害にあたり、製品販売会社はこれを損害として請求することができます。
他方で、特別損害は、通常損害とは対を為す概念であって、特別の事情によって生じた損害のことを指します。
特別損害を請求する場合、債権者は自ら特別損害について当事者の予見可能性を主張立証しなければなりません(民法416条2項)。
例えば、不動産を転売目的で購入した後、不動産を転売する転売契約を締結したものの、不動産の引渡しがされなかったことから、転売利益を得られなかった場合を想定します。
この場合、転売利益が特別損害にあたり、当事者に予見可能性があったといえる場合には損害賠償請求できることになります。
通常損害と特別損害の区別は、専ら契約の性質や時々刻々の経済関係に左右され、その実益は予見可能性の証明の要否にあります。
そのため、債権者としては、証明の負担を軽減するために、通常損害と特別損害を区別せずに一切の損害として、損害の範囲を拡大することが考えられます。
他方で、債務者としては、賠償の負担を軽減するために、通常損害と特別損害を区別したうえで、通常損害に限定して損害の範囲を狭めることが考えられます。
4-2-2 損害の範囲2:直接・間接損害
損害の範囲2つ目は、直接・間接損害です。
【損害賠償条項(通常の条項)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(損害の範囲を限定する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、直接生じた損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(損害の範囲を拡大する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その一切の損害を賠償する責任を負う。
直接損害とは、債務不履行から直接的に生じた損害のことをいいます。
例えば、製品事故が発生した場合における被害者への賠償金や、製品の修理費用などの金銭的支出を伴う損害が、直接損害にあたります。
他方で、間接損害とは、債務不履行から間接的に生じた損害のことをいいます。
例えば、ブランドイメージの低下など金銭的支出を伴わない無形の損害が、間接損害の典型例として挙げられます。
そのため、債権者としては、損害賠償の範囲を拡大するために、直接損害の他に間接損害まで含ませることが考えられます。
他方で、債務者としては、賠償の範囲を狭めるために、間接損害を除外して直接の損害に限定することが考えられます。
4-2-3 損害の範囲3:賠償額の上限
損害の範囲3つ目は、賠償額の上限です。
【損害賠償条項(通常の条項)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(賠償額の上限を設ける場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。ただし、損害賠償の上限は〇〇万円とし、損害賠償の金額は上限を超えないものとする。
【損害賠償条項(賠償額の上限を設けない場合)】
【修正なし】
実際の取引では、契約違反の内容によって賠償金額が大きなものになることがあります。
この場合に、賠償額の上限がなければ賠償金を全額支払わなければならず、多大な負担となってしまいます。
売買契約などの双務契約では、当事者双方が債務を負っているので、当事者双方は債務不履行による損害賠償請求をされる可能性があります。
そのため、多額の損害賠償請求をされるリスクがある双務契約の場合には、リスクを軽減するために賠償額の上限を設けることが考えられます。
しかし、贈与契約などのように、当事者の一方のみが債務を負う片務契約の場合、債権者側に債務はないので、債権者による債務不履行を観念することはできません。
そのため、片務契約の場合には、債権者は債務の履行を確保するために、賠償額に上限を設けないことが望ましいといえます。
他方で、片務契約の場合には、債務者は債務不履行によるリスクを軽減するために、賠償額の上限を設けることが望ましいでしょう。
4-2-4 損害の範囲4:弁護士費用
損害の範囲4つ目は、弁護士費用です。
【損害賠償条項(通常の条項)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(弁護士費用を損害から明確に除外する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害(弁護士費用を除く)を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(弁護士費用を損害に含ませる場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害(弁護士費用を含むがこれに限られない)を賠償する責任を負う。
債務不履行となった場合に損害賠償請求するには、法的な手続が必要となり、弁護士などに相談することが望ましい場面もあります。
しかし、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合、例外はあるものの、弁護士費用は損害の範囲に含まれないと判断されやすい傾向にあります。
判例は、弁護士費用を債務不履行に基づく損害賠償として請求した事案について、以下のように説明しています。
「民法四一九条によれば、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は、法律に別段の定めがある場合を除き、約定または法定の利率により、債権者はその損害の証明をする必要がないとされているが、その反面として、たとえそれ以上の損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものというべく、したがつて、債権者は、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対し弁護士費用その他の取立費用を請求することはできないと解するのが相当である。」
「契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり、侵害された権利利益の回復を求めるものではなく、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。また、契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して、契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。
…そうすると、土地の売買契約の買主は、上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。」
そのため、債権者としては、弁護士費用を損害の範囲に含ませたい場合、明文で追加することが望ましいといえます。
ただし、弁護士費用を定めたとしても、実際に請求できる金額には限度があり、全額請求できない場合もあることに注意が必要です。
他方で、債務者としては、損害の範囲を限定するために、特に記載せず又は明文で排除することが望ましいでしょう。
4-3 レビューポイント3:損害賠償の期間
損害賠償条項のレビューポイント3つ目は、損害賠償の期間です。
【損害賠償条項(通常の条項)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
【損害賠償条項(損害賠償の期間を制限する場合)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。ただし、損害賠償請求が可能な期間は、契約期間満了後1年間に限られる。
【損害賠償条項(損害賠償の期間を制限しない場合)】
【修正なし】
民法では、債務不履行に基づく損害賠償請求権は、5年で時効消滅するとされています。
1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 (略)
3 (略)
※出典:民法 | e-Gov法令検索
しかし、会社間の取引の場合、秘密保持契約などのように契約期間に制限が定められている場合があります。
そのため、契約期間の制限がある場合、契約期間の存続状況に合わせて、損害賠償請求の期間も制限されやすい傾向にあります。
他方で、時効の利益はあらかじめ放棄することはできないので、賠償期間を制限しない場合には特に記載しないことが望ましいです。
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
※出典:民法 | e-Gov法令検索
4-4 レビューポイント4:規定内容の合理性・公平性
損害賠償条項のレビューポイント4つ目は、規定内容の合理性・公平性です。
契約交渉では、一方の利益に偏った条項がある場合、他方は不利益を避けるために契約書全体を綿密にチェックします。
契約書のチェックは、法務部や弁護士などに依頼することになり相応の時間を要します。
取引を円滑に進めるためには、当事者双方にとって公平な内容とすることが重要といえます。
また、損害賠償条項は契約の一部なので、法律の適用を受け、内容によっては無効とされることもあります。
無効となった場合、民法の規定によって補充されることになり、損害賠償条項とは違う方法で損害が算定されるなど、予期せぬ不利益を被るおそれがあります。
そのため、損害賠償条項は、取引を円滑にし予期せぬ不利益を予防するために、当事者双方にとって合理性・公平性を有するものにすることが望ましいです。
5章 損害賠償条項が制限されるケース4つ
契約自由の原則から損害賠償条項の内容は自由に定められるものの、一定の制限が置かれています。
ここでは、損害賠償条項が制限されるケースを解説していきます。
ケース2:消費者保護法違反
ケース3:利息制限法違反
ケース4:労働基準法違反
それでは、各ケースについて順番に説明していきます。
5-1 ケース1:公序良俗違反
損害賠償条項が制限されるケース1つ目は、公序良俗違反・信義則違反の場合です。
民法は、公序良俗に反する取引は無効とする旨を定めています。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
※出典:民法 | e-Gov法令検索
損害賠償条項を定めるための契約は、法律行為として民法の適用を受けるので、公序良俗に反する場合は無効とされます。
例えば、以下のような条項は公序良俗に反すると判断されるおそれがあります。
【損害賠償条項(公序良俗違反のおそれがある例)】
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。ただし、甲については、債務不履行について重過失の場合でも、その責任を免除する。
重過失は、著しい注意義務違反とされており、一般的に少し注意すれば気づくことが容易な場合を指します。
上でみた規定は、甲を重過失まで免責するものとしており、責任を免除する範囲がかなり広範なものとなっています。
そのため、一方の利益に過度に偏っているので、社会的妥当性を欠き公序良俗違反と判断されるおそれがあります。
他にも、過度な金額を設定した損害賠償の予定なども、社会的妥当性を欠くと判断される傾向にあります。
しかし、損害賠償額の予定については、高額に設定することが債務の履行確保にも繋がるため、その金額は取引の実情に照らして実態的に判断することが重要となります。
5-2 ケース2:消費者保護法違反
損害賠償条項が制限されるケース2つ目は、消費者保護法違反の場合です。
消費者保護法は、以下に該当する条項を無効にする旨を定めています。
・解除に伴う消費者の損害賠償額を予定する条項(消費者契約法9条)
・消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)
会社が消費者と契約する場合には、損害賠償条項についても消費者契約法が適用され、同法に反する場合は無効とされます。
例えば、以下のような損害賠償条項は消費者契約法に反するおそれがあります。
【損害賠償条項(消費者保護法違反のおそれがある例)】
甲は、契約締結後において、いかなる理由であっても、乙による損害賠償請求には応じないものとする。
この規定は、乙による損害賠償請求権を制限して事業者甲の責任を実質的に免除しているので、事業者の損害賠償責任を免除する条項にあたるおそれがあります。
消費者保護法に反する場合、違反している部分が無効とされるので、条項の一部または全部が無効とされるリスクがあるので注意が必要です。
5-3 ケース3:利息制限法違反
損害賠償条項が制限されるケース3つ目は、利息制限法違反の場合です。
利息制限法は、金銭消費貸借における債務不履行について、賠償額の予定について上限を設けています。
1 金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
2 (略)
金銭消費貸借における損害賠償条項の中で、賠償額の予定を定める場合には利息制限法が適用され、上限を超える部分は無効とされます。
通常の金銭消費貸借における遅延損害金の上限は以下のとおりです。
例えば、以下のような条項は利息制限法に反し無効とされるおそれがあります。
【損害賠償条項(利息制限法違反のおそれがある例)】
1 甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
2 第1項による賠償金は、支払期日の翌日から完済に至るまで年30%の割合による遅延損害金を、相手方に支払うものとする。
この規定は、賠償金の元本に対する遅延損害金の割合が30%に設定されているので、貸した金額を問わず上限を超過してしまいます。
ただし、銀行などの営業者による金銭消費貸借の場合、一律20%までとなり、通常の金銭消費貸借とは上限が異なるので注意が必要となります。
1 第四条第一項の規定にかかわらず、営業的金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が年二割を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
2 (略)
5-4 ケース4:労働基準法違反
損害賠償条項が制限されるケース4つ目は、労働基準法違反の場合です。
労働基準法は、労働者の足止め防止の観点から、賠償の予定を禁止しています。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
労働契約を締結する場合、労働基準法の適用を受けることになり、損害賠償の予定をした場合には無効となるおそれがあります。
例えば、以下のような条項は賠償予定として、労働基準法に反し無効とされるおそれがあります。
【損害賠償条項(労働基準法違反のおそれがある例)】
使用者は、労働者に対して、雇用開始以降直ちに〇〇万円を支払うものとする。ただし、労働者が、雇用開始日から1年以内に、自発的に退職した場合、使用者が労働者に支払った〇〇万円を全額返還するものとする。
この規定は、労働者の退職の自由を制限し1年間会社に拘束するものなので、労働基準法に反するおそれがあります(東京地判平15.3.31)。
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7章 まとめ
以上のとおり、今回は、損害賠償条項とは何かを説明したうえで、損害賠償条項のレビューポイントについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・損害賠償条項とは、契約違反があった場合に備えて当事者が損害賠償の条件をあらかじめ定めておくものをいいます。
・損害賠償条項の契約書における法的意味は以下の2つです。
法定意味1:責任を明らかにするため
法的意味2:契約に合わせて内容を修正するため
・損害賠償条項に必要な事項は以下の2つです。
必要な事項1:損害賠償の条件
必要な事項2:損害の範囲
・損害賠償条項の例文は以下のとおりです。
甲または乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、その損害を賠償する責任を負う。
・損害賠償条項のレビューポイントは以下の4つです。
レビューポイント1:故意過失の範囲
レビューポイント2:損害の範囲
損害の範囲1:通常・特別損害
損害の範囲2:直接・間接損害
損害の範囲3:賠償額の上限
損害の範囲4:弁護士費用
レビューポイント3:損害賠償の期間
レビューポイント4:規定内容の合理性・公平性
・損害賠償条項が制限されるケースは以下の4つです。
ケース1:公序良俗違反の場合
ケース2:消費者保護法違反の場合
ケース3:利息制限法違反の場合
ケース4:労働基準法違反の場合
この記事が損害賠償条項について知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
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