カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?企業が取るべき対策3つを解説

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著者情報 弁護士 籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所|神奈川県弁護士会所属 
取扱分野は、人事労務、一般企業法務、紛争解決等。
WEBサイト制作等を行うリバティ・ベル株式会社の代表取締役も務める。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン[連載]不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日

カスタマーハラスメントについて知りたいと悩んでいませんか?

カスタマーハラスメントによる被害を最小限にするためにも、適切な対策は押さえておきたいところです。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客による不当なクレームをいいます

例えば、カスタマーハラスメントには以下のようなものがあります。

・長時間、複数回に及ぶクレーム
・暴言や侮辱的な発言、ネット上での誹謗中傷
・謝罪、土下座などの過度な要求
・脅迫的な言動
・従業員へのわいせつ行為
・ストーカー行為など

このようにカスタマーハラスメントは、従業員に悪影響を与えるものが多くあります。

中には、法的問題が絡んでくることもあり、トラブルが大きくなりやすいデリケートな問題です

しかし、カスタマーハラスメントの法的責任は、顧客側だけでなく、企業側も責任を負うことがあります。

実は、企業は従業員が安全に働くことが出来るよう配慮すべき義務を負っており、これを怠れば従業員は企業に対して損害賠償請求できるとされているのです

この記事を通して、カスタマーハラスメントに対して企業が取るべき対策について知っていただければと思います。

今回は、カスタマーハラスメントとは何かを説明したうえで、具体的な対応手順と企業が取るべき対策について解説していきます。

具体的には、以下の流れで解説していきます。

この記事を読めば、カスタマーハラスメントへの適切な対策がよくわかるはずです。

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1章 カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?|厚生労働省の定義

カスタマーハラスメントとは、顧客による不当なクレームをいいます

厚生労働省は、カスタマーハラスメントの定義について以下のように説明しています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。
出典:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル|厚生労働省

カスタマーハラスメントの具体的な判断基準は以下の通りです。

ただし、これらの条件を満たした場合でも、顧客がすぐに要求を取り下げた場合にはカスタマーハラスメントにあたらないと判断される可能性があります


2章 カスタマーハラスメント(カスハラ)に関係する法律6つ

法律では、従業員等の権利を守るために様々な規定が置かれています。

カスタマーハラスメントに関係する法律は、以下の6つです。

法律1:労働契約法
法律2:労働施策総合推進法
法律3:民法
法律4:刑法
法律5:ストーカー規制法
法律6:軽犯罪法

それでは、各法律について順番に解説していきます。

2-1 法律1:労働契約法

カスタマーハラスメントに関係する法律1つ目は、労働契約法です

企業は、労働契約の義務として労働者の健康等に配慮すべき義務を負っており、一般的には安全配慮義務といわれます。

労働契約法5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

そのため、企業は安全配慮義務に基づいて、カスハラによって従業員の健康等の支障が生じないよう対応する必要があります

例えば、従業員がカスハラで精神の不調を訴えている場合、カウンセラーや医療機関に相談できるよう連携するといったこともあります。

企業が安全配慮義務を怠れば、従業員は債務不履行や不法行為等を理由として、企業に対し損害賠償請求をすることができます。

2-2 法律2:労働施策総合推進法

カスタマーハラスメントに関係する法律2つ目は、労働施策総合推進法です

労働施策総合推進法は、直接的にカスハラについて言及はしていません。

しかし、同法はパワハラ防止のために必要な措置を講ずべき義務を定めています

労働施策総合推進法30条の2
1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2~6 (略)

これを受けた厚生労働省の指針が、「顧客等からの著しい迷惑行為」として、カスハラの被害を防止するための取組みを求めています。

具体的には、以下のような取組みが求められています。

・相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・被害者への配慮のための取組み
・顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止する取組み

2-3 法律3:民法

カスタマーハラスメントに関係する法律3つ目は、民法です

カスハラに関係する民法上の権利は以下の通りです。

カスハラによって被害を受けた場合、従業員と企業は顧客に対して不法行為に基づく損害賠償請求できる場合があります。

また、企業は従業員に対して信義則上、安全配慮義務を負っています(民法1条2項、労働契約法3条4項)。

そのため、カスハラの際に企業がこの義務を怠れば債務不履行責任、不法行為や使用者責任を負うことがあります

2-4 法律4:刑法

カスタマーハラスメントに関係する法律4つ目は、刑法です

カスハラが刑法上の行為にあたれば、その行為は犯罪になる可能性があります。

例えば、カスハラでは以下の犯罪が問題になりやすいです。

2-5 法律5:ストーカー規制法

カスタマーハラスメントに関係する法律5つ目は、ストーカー規制法です

ストーカー規正法は、「つきまとい等」を規制しています(ストーカー規制法2条)。

「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、以下の行為をすることをいいます。

・つきまとい、待ち伏せ、押し掛けうろつき等
・監視していると告げる行為
・面会や交際の要求
・無言電話、拒否後の連続した電話、ファクシミリ、電子メール、SNSメッセージ、文書等
・汚物等の送付
・名誉を傷つける行為
・性的羞恥心の侵害
・GPS機器等を用いて位置情報を取得する行為
・GPS機器等を取り付ける行為等

「つきまとい等」を繰り返し行うと、「ストーカー行為」(ストーカー規制法2条4項)として罰則の対象になります

ストーカー規制法18条
ストーカー行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

2-6 法律6:軽犯罪法

カスタマーハラスメントに関係する法律6つ目は、軽犯罪法です

軽犯罪法では、暴力的な言動で迷惑をかけた者を刑罰の対象としています。

軽犯罪法1条5号
公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者
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3章 カスタマーハラスメント(カスハラ)の事例|判例

カスタマーハラスメント(カスハラ)の事例は以下の2つです。

事例1:校長が教諭に謝罪を強要した事案
事例2:企業が有効な対策を取っていた事案

それでは、各事例について順番に解説していきます。

3-1 事例1:校長が教諭に謝罪を強要した事案

教諭が、児童の保護者から理不尽な言動を受けた際に、校長から保護者に謝罪するよう強要されたことから、国に対して損害賠償請求した事案について、

裁判所は校長の謝罪の強要は、その地位を利用した不当なものであり不法行為にあたるとしたうえで、国に対する損害賠償請求を認めています

判例は以下のように説明しています。

甲府地判平30.11.13
「客観的にみれば、…原告には謝罪すべき理由がないのであるから、…M校長は、本件児童の父と祖父の理不尽な要求に対し、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に行動したというほかない。そして、この行為は、原告に対し、職務上の優越性を背景とし、職務上の指導等として社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱したものであり、原告の自尊心を傷つけ、多大な精神的苦痛を与えたものといわざるを得ない。
 したがって、上記のM校長の言動は、原告に対するパワハラであり、不法行為をも構成するというべきである。」

3-2 事例2:企業が有効な対策を取っていた事案

従業員が、カスタマーハラスメントを受けたことから、入店拒否措置を取らなかった対応が企業の安全配慮義務に違反するものとして、企業に対して損害賠償請求した事案について、

裁判所は、企業は適時有効な措置を取っていたのであるから、直ちに入店拒否措置を取らなかったとしても安全配慮義務に違反しないとして、企業の不法行為責任を否定しています

判例は以下のように説明しています。

東京地判平30.11.2
「被告会社は、平成28年7月及び8月のトラブルの際は、原告の接客態度について指導する一方、被告Yへ謝罪するとともに、原告への退職要求に応じることなく、関係が修復されるよう双方に働きかけたり、原告に他店で1週間勤務させる等して2か月程度トラブルを鎮静化させた後、同年10月13日にトラブルが再発した際には、入店拒否措置の可能性を被告Yに伝え、その後被告Yは来店しなくなったことが認められる。このような被告会社の対応は、原告と被告Yとの間のトラブルを終息させるために考えられる策のうち穏便なものから順次実施し、その効果を上げていたと認められる。そうすると、この間、被告会社において、入店拒否措置という厳しい措置を早期に選択すべき義務はなかったと認められる。
…したがって、被告会社は、クレームに関する不法行為責任を負わない。」

4章 カスタマーハラスメント(カスハラ)の対応手順

カスハラが発生した場合、迅速に対応するには対応手順を押さえておくことが重要です

カスタマーハラスメントの対応手順は、以下の通りです。

手順1:事実関係の正確な確認と対応
手順2:従業員への配慮
手順3:再発防止措置
手順4:内部方針の見直し

それでは、各手順について順番に解説していきます。

4-1 手順1:事実関係の正確な確認と対応

カスタマーハラスメントの対応手順1つ目は、事実関係の正確な確認と対応です

カスハラが発生した場合、まずは自社に非があるかわからないため、限定的に謝罪をします

例えば、以下のようなフレーズで謝罪をすることが考えられます。

「ご不便をおかけして申し訳ございません。どのようなことでお困りか、具体的にお聞かせいただけますか?」
「お困りのことで、ご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません。この問題について、もう少し詳しく教えていただけますか?」

次に、適切に対応するため顧客のクレーム内容を記録し、対応方針を検討し実行することになります。

この場合、顧客への対応は1人で行わず、複数人で対応することが重要です

対応方針が決定したら、顧客に通知をして一応カスハラは解決ということになります。

4-2 手順2:従業員への配慮

カスタマーハラスメントの対応手順2つ目は、従業員への配慮です

カスハラは、従業員の精神面に甚大な影響を与えるため、従業員の精神面をケアする必要があります。

例えば、精神面をケアするために、産業医等に相談を依頼したり、医療機関への受診を行わせることがあります。

また、カスハラの中には暴力的な方もいるため、従業員が怪我をしないよう安全を確保することが必要な場合もあります

例えば、現場監督者が対応をしたり、弁護士や警察との連携を行い従業員の安全確保を行うことがあります。

4-3 手順3:再発防止措置

カスタマーハラスメントの対応手順3つ目は、再発防止措置です

カスハラが解決したら、同様の問題が生じないよう再発防止措置を取る必要があります。

再発防止措置としては、例えば以下のものがあります。

・報告書等による記録化
・従業員間での情報共有
・トラブルをマニュアルやガイドラインの形式でまとめる
・多発トラブルについては勉強会を行う

4-4 手順4:内部方針の見直し

カスタマーハラスメントの対応手順4つ目は、内部方針の見直しです

カスハラが発生すると、既存のマニュアルで対応できない部分が明らかになります。

そのため、対応できなかった部分を更新し、次に活かしていくことが重要です。

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5章 カスタマーハラスメント(カスハラ)に備えて企業が取るべき対策3つ

カスタマーハラスメントから従業員を守るためには、企業自らが対策を取ることが重要です

カスタマーハラスメントに備えて企業が取るべき対策は、以下の3つです。

対策1:カスハラ相談窓口を設置する
対策2:カスハラの対応方法を定める
対策3:カスハラ対応研修を実施する

それでは、各対策について順番に解説していきます。

5-1 対策1:カスハラ相談窓口を設置する

カスタマーハラスメントに備えて企業が取るべき対策1つ目は、カスハラ相談窓口を設置することです

カスハラを受けた従業員は、精神的に追い詰められやすい状況にあります。

企業がカスハラ相談窓口を設置することで、従業員の精神的負担が軽減され、快適な就業環境を作りやすくなります

また、こうした措置は従業員に安心感を与えやすく、業務活動にも良い影響が期待できます。

5-2 対策2:カスハラの対応方法を定める

カスタマーハラスメントに備えて企業が取るべき対策2つ目は、カスハラの対応方法を定めることです

カスハラが発生した場合、対応方法が定められていればスムーズな対応が期待できます。

例えば、以下の事項を定めておくといいでしょう。

・カスタマーハラスメントの定義
・報告プロセス(誰に報告するか)
・初期対応手順(謝罪の方法、顧客の主張の記録、対応方針の決定主体等)

そのため、カスハラ対応マニュアルやガイドライン等で、対応方法を明確にしていきましょう。

5-3 対策3:カスハラ対応研修を実施する

カスタマーハラスメントに備えて企業が取るべき対策3つ目は、カスハラに対応方法を定めることです

カスハラの対応方法を定めたとしても、顧客の主張に合わせた対応をするには、実践的な知識を身に付ける必要があります

そのため、企業がカスハラ対応研修を実施し、従業員のカスハラ対応知識を養うことが重要です。

例えば、過去のカスハラ対応事例等を踏まえて、ケーススタディ形式を用いるといったことが考えられます。


6章 カスタマーハラスメント(カスハラ)は弁護士に相談すべき場合もある

カスタマーハラスメントは、弁護士に相談すべき場合があります

弁護士に相談すべき場合としては、例えば以下のものが挙げられます。

・法的判断が曖昧な場合(不当なクレーム該当性、名誉棄損等)
・事態が重大な場合で訴訟に発展する可能性がある場合(従業員の精神疾患等)
・対応マニュアルやガイドライン等の作成
・弁護士にクレーム対応を任せたい場合

これらの場合には法的助言が必要になることが多く、弁護士との相談で迅速な解決が期待できるためです。

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7章 まとめ

以上の通り、今回は、カスタマーハラスメントとは何かを説明したうえで、具体的な対応手順と企業が取るべき対策について解説します。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

まとめ

・カスタマーハラスメントとは、顧客による不当なクレームをいいます。

・カスタマーハラスメント(カスハラ)に関係する法律6つ
法律1:労働契約法
法律2:労働施策総合推進法
法律3:民法
法律4:刑法
法律5:ストーカー規制法
法律6:軽犯罪法

・カスタマーハラスメント(カスハラ)の事例
事例1:校長が教諭に謝罪を強要した事案では、その地位を利用した不当なものであり不法行為にあたるとしたうえで、国に対する損害賠償請求を認めています。
事例2:企業が有効な対策を取っていた事案では、企業は適時有効な措置を取っていたことから、企業の不法行為責任を否定しています。

・カスタマーハラスメント(カスハラ)の対応手順は以下の4つです。
手順1:事実関係の正確な確認と対応
手順2:従業員への配慮
手順3:再発防止措置
手順4:内部方針の見直し

・カスタマーハラスメント(カスハラ)に備えて企業が取るべき対策は以下の3つです。
対策1:カスハラ相談窓口を設置する
対策2:カスハラの対応方法を定める
対策3:カスハラ対応研修を実施する
この記事が、カスタマーハラスメントについて知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

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